STORY:01
「なぁ、ミヅキ
そろそろ『魔王になってやるー』とか言うのやめろよな」
「い・や・で・す!
絶対に魔王になってみせます!」
俺がいつものようにそう言うと、ミヅキは少しムッとした顔をこちらに向けた。
くそう、美形は何やっても似合うからムカつくんだ。
ちなみにミヅキは26歳の魔剣士(自称魔王)なわけだが、
これといって具体的に村を襲ったりしていないし、むしろ村の皆からは好かれている。
そもそも、何故「魔王になる」とか言い出したかというと、
二年前に俺がミヅキが大事にしていた金魚(リリィと言うらしい)を誤って排水溝に流してしまって、
それで一応誤ったもののミヅキは拗ねてしまって、いい加減呆れた態度をとると余計に拗ねて、
『もう良いですよ、魔王になってぎゃふんと言わせてやります!』とか言い出したことが始まりだ。
俺が「いい加減諦めろよ」と言うと、ミヅキは眉を八の字にした(本当に26歳かアンタ)
「嫌ですよ!
大体ね、クレイが私の大事な大事な金魚リリィちゃんを排水溝にっ・・・!
排水溝に流したから、いけないんです!」
よよよ、と泣き出してしまったミヅキを慰めるべくぽんぽん、と肩を叩くと、
ミヅキは「うわあぁあ」とか言って弱弱しく腕を振り払ってきた。
まず金魚を排水溝に流されたくらいで拗ねて「魔王になってやる」とか言い出すのがおかしいだろうが。
俺にどうしろって言うんだよ。
とか思いつつもここはミヅキの家だし、お邪魔させてもらっているわけで我侭も言えず、
とりあえず一緒に来ている幼馴染2人に視線を向けると、
レインとルイは我が物顔でテレビを見ていた。(かなりムカつく)
レインとルイは俺の幼馴染なわけだが、ミヅキの幼馴染でもある。
というか俺とミヅキとレインとルイは幼馴染なんだが。
(ちなみにレインとルイは兄弟、レインが兄でルイが弟だ)
「おいレイン、ルイ
一応ここ、ミヅキの家なんだから遠慮してやれよ」
「えー良いだろクレイー
第一、ミヅキがいつまでも拗ねてるのが悪いんだろ
しかもオレは関係ないしー?」
いやそれも正論だが。とレインに言い返すと、今度は弟のルイが素晴らしい笑顔を向けてきた。
「そうだよ、クレイ
クレイは遠慮しすぎなの。
あ、それとも何?僕に逆らうつもりなの?ふふふ」
「いやすいませんどうぞご自由にお使い下さい」
素晴らしく黒い笑顔を向けてきたので俺は冷や汗をだらだらと流しながら、(何故か)謝った。
・・・なんで俺が謝らないといけないんだ、と思いつつもチキンハートな俺は一緒にテレビを見ることにした。
するとミヅキは構ってもらえないのを寂しく思ったのか、
ちょこちょこと歩いてきた・・・かと思えばテレビの前に仁王立ちして勝ち誇った笑みを浮かべた。
「聞いてください皆さん!!
私はあなた達がここに来てくれず寂しさに明け暮れている間に素晴らしいものを発見したのです!」
コイツ何気に寂しかったのかよ、ていうか偉そうに言うんじゃねえよ。
と思いつつも心優しい俺は「どうしたんだよ」と返事を返すと、
ミヅキは何やら嬉しそうに「あは」と間抜けに笑ってポケットから何かを取り出そうとゴソゴソし始めた。
「ねぇ、これだけ大げさに言っておいて大したことなかったら僕、怒るよ?」
「(びくっ)」
真っ黒な(目の笑っていない)笑顔にびくりと怯えたようにミヅキは肩を震わせて、またゴソゴソし始めた。
「し、心配はご無用です!
それほどまでに凄いものなんですよ、今お見せしますから!!」
ちょっとどもりながら言うとミヅキは何かを手に握り締めて、
ぎゅっと握った拳を頭上につきあげた(恥ずかしくないのかいい年して)
「え、なになに!?
宝石とかーそういうのか何かか!?」
『だったら俺にくれ』、とばかりにレインが食いついた。
するとやっぱりミヅキは嬉しそうに「ふふふ」と笑った(ちょっと不気味だ)
「宝石よりも凄いものですよー!
さあ、『It is trip!』」
ミヅキが高々と叫んだと同時に、俺たちは光に包まれた。