表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/351

33

 猫を寮に連れ帰った私達は、とりあえず私の部屋に猫を連れ込み、クッションに寝かせた。

 レミリアが猫に必要そうなものを買い集めてくると慌てて部屋を飛び出して行き、ガイアスは明日から特殊科の授業があると言うことを直接王子達に伝えるために部屋を出て行った。学園内では緊急時を除き魔法での連絡が禁止されている為だ。

 他に怪我をしていないか私が猫を見ている間に、レイシスが自分の部屋から本を持ってきた。

「お嬢様。この鳥なんですが」

「ああ! さっきの小鳥だね」

 レイシスが開いた分厚い本には、あの猫をつついていた小鳥の絵が載っていた。恐らく図鑑なのだろうそれには、小鳥の特徴として、魔力を好み、日が出ている間は漏れでた魔力を食することがあると書かれている。ただ、とても臆病な性格で、夜目がきかない為に飛び回るのは昼間のみ、少しでも危険があると判断すればいくら魔力がそこにあろうとも近づかないらしく、人間や魔物が襲われる事はないらしい。魔力を食べるといっても、普段は木の実を好んで食べるようで、絶対魔力がなければいけないわけでもない為に執着は少ないようだ。

 そこでふと違和感を感じて首を捻る。

 なぜ、猫は襲われた?

「……お嬢様、あの鳥は確かに猫をつついていました。偶然ならよいのですが、もし魔力に惹かれてきたのであれば……」

「ちょ、ちょっと待って。この猫に、魔力があるってこと?」

 魔力がある動物は今のところ確認されているものは魔物のみだ。足が生えた真っ赤な大蛇だとか、角が三本ある狼だとか、伝えられるものや本に記されているものはそれは恐ろしい姿をしているのだが。

 金色の艶やかな毛に包まれた、どう見ても可愛らしいこの子は、まごうことなき猫である。

「え? え? なんで猫に魔力?」

「わかりません」

 偶然ならいいのですが、とレイシスが呟く。

 たまたまその美しい金色に惹かれて小鳥がやってきたとかそんな事だったらいい。だけど、もしこの猫が魔力を持っているとすれば……

「この国の魔物の基準は人間以外の生物で魔力を持ち、意思を持って行動する、触れることが可能な身体を持つもの……だったかしら?」

 つまり、触れることが出来ない精霊や、いくら魔力があっても植物は魔物とは言わない。もっとも、意思を持って動き回り人を捕食する植物は魔物に分類されるらしいが。

 猫はぐったりとしつつもクッションの上から身体を動かし、私の膝に乗るとすりすりとその頬を押し付けてきている。

「そう、ですね。どうされますか、お嬢様」

 普通であれば、これは騎士に差し出さねばならない。だがしかし、そうなるとこの猫は学者らの研究と称して、何をされるかなんて容易に想像がつく。だが私は、この金が見知った色に見えてしまい、躊躇った。

 レイシスも騎士に差し出すべきだとわかっているはず。だが、彼は明らかに迷っている。普段なら危険だからと間違いなく差し出そうとするのではと思い、レイシスの考えがわからず少し首を傾げたところで、それを見て彼は笑う。

「俺はもう一つ気になる事があります。仮定ですが」

「え、な、なぁに?」

「もちろんたまたまあの鳥がつついていただけで、この猫が普通の猫の可能性もあります。ただもしそれが違う場合、気になるのは、今まで知られていた魔物とは随分姿が違う事と、この王都の、しかも学園に紛れ込んでいるというのが不思議でならない。ここはこの国でも多くの上位魔法使いが多い土地です。魔物がいて彼らに気づかれない筈がない。そこで俺が思いついた可能性ですが」

「う、うん?」

「最初、俺はまったく猫の存在に気がつきませんでした。確かに鳥はいましたが、そこまで不思議な行動には見えなかったんです。でも、お嬢様はすぐに気がついた。そういった事は初めてではありません」

「うん……?」

 よくわからずにレイシスを見つめる。琥珀色の瞳が苦笑し細められた。

「精霊です。この猫は桜の木の中にいました。知っていますか、精霊は動物と仲がいい。それこそ、魔力を与え身を守る術を与えるくらいに」

「……え」

 レイシスからもたらされる情報は私の知らないものだった。そもそも、精霊に関しての文献は非常に少ない。何しろ精霊を認識できるのはエルフィだけ。そしてエルフィは精霊の秘密を語りたがらない人が多いのだ。

 そして、遺伝が多いエルフィは、親から子ですら精霊の情報を与える事は少ない。せいぜい仲良くなれるよう見つけ方を教えるくらいで、私も母と精霊と話したことを伝える事はしないのだ。

「でも、私、そんなの聞いた事なかったわ」

「まずお嬢様は緑のエルフィだ。植物の精霊たちは動物より植物に魔力を与えるのでは? よく、芽吹いたまだ小さな芽を大きく育てたりしているでしょう」

「あっ」

 レイシスの指摘にはっとする。そうだ、植物の精霊たちは私が与えた魔力を使い、花を大きくしたり弱い芽を強くしたりしている。

 それは、魔力をその植物に与えているからに他ならない。

「実はあの水晶玉での検査の後、お嬢様の魔力を奪った精霊の行動を不思議に思って調べていたんです。さすが国内最大の学園でした。図書館には、わずかながらも閲覧可能な精霊の文献がありましたよ。といってもほんの数ページしか記載されていないものがほとんどでしたが。その中に、水の精霊は海の生き物に魔力を与え鳥から身を守らせる事があると書いてありました」

「本当!?」

 たとえ数ページでもぜひその文献はチェックしたほうがいいだろう。目を輝かせた私に、レイシスは今度ご案内します、と笑う。

「つまり、精霊がこの猫に何かをしてほしくて魔力を与えた……とか?」

「少し現実味がない話かもしれないのでなんともいえませんが。でも俺はこの猫、以前も見ましたからね」

「え?」

「あの日、お嬢様が逃げた精霊を追って窓を開けた時に。飛び出したのは、この猫でしょう」

 そうレイシスが言った時、私の膝にいた猫がびくりと揺れた。えっ、とレイシスと二人で顔を見合わせ、再び猫に視線を戻す。猫は、顔を隠して小さくなっていた。

「……いやここまでわかりやすいとちょっとどうなのかしら」

「……精霊、いるんでしょうか、ここに。お嬢様が見えない、植物の精霊以外の何かが」

 部屋を見回してみるが、結局のところわからない。

 どうしようかと顔を見合わせていると、ガイアスが帰宅する。

「おーい全員に伝えてきたぞー……ってあれ、どうしたんだ?」

 きょとんとしているガイアスに、私達は半信半疑ながらの推理を説明したのだった。




「おっはよーう!」

 元気に部屋の扉を開け放ったガイアスに続いて私とレイシスも部屋に足を踏み入れる。ここは特殊科専用の屋敷だ。

 先生に言われた通り朝食を終えてすぐ集まったのだが、私達の後に王子とルセナが来て全員揃ったもののまだ先生が来ていない。思い思いの椅子に腰掛け、先生を待つ。

 ちなみに猫は部屋でレミリアが見てくれているのでここにはいない。あの猫について、私はまだどうすべきかと悩んでいた。


 昨日ガイアスにあの猫の事を話した時、彼から出された結論はとてもあっさりしたものだった。

「なら、まず猫の魔力検査してみたらいいじゃん?」

 と。

 まず、本当に魔力があるのかどうか確かめないと意味がないだろうという、とても真っ当な意見だった。


 といっても私達のように水晶に魔力を送るだなんて、猫にできるわけがない。そもそも魔力を操れるなら小鳥に魔力を食われたりしない。あるならば、の話だが。

 まず私達が試したのは、私の能力で精霊に尋ねることだった。これでほぼ決定的な事実が出た。精霊に、この猫は魔力を持っていると思うか、と尋ねた際、にゃあと鳴いた猫を見て精霊は笑い周囲を飛び回り遊ぼうと声をかけたのだ。

 私の質問に対する答えは、「秘密」という言葉と笑顔。これでこの猫は魔物ではないだろうという推測する。

 精霊は、魔物に捕食される側と言われている。これはエルフィでなくても知る事実だ。故に北の魔物の蔓延る深い森は、精霊すら住もうとしない死の森とも言われている。

 その精霊が、猫に遊ぼうと声をかけているのだ。魔物である可能性はとても低くなったと見ていいだろう。

 それでガイアスが提案したのは、入学の際の試験で私達が魔力を調べられていた、魔力眼鏡という魔道具。

 魔物の可能性が少ないのなら借りて調べてみればいいという事だったが、しかし魔物でないと説明する事もできなければ、魔力眼鏡はその辺りに売ってるものでも貸し出ししているものでもない。あれは魔道具科の新作だという話であったし、私達の魔力を測定できずに作り直しを余儀なくされているという話だ。

 魔力を帯びた珍しい猫なんて、魔物じゃないとしても調査したい人間はいくらでもいるだろうし、精霊が絡んでいるなら尚更である。

 

 ガイアスは、王子に頼んだらなんとかしてくれるんじゃないかと言ったが、その意見は私とレイシスが反対した。さすがに、王子にお願いするというのは大変難しいものがある。いくら同じ科で、身分関係なく同じ生徒であると校則が謳っていようが、王子はさすがにね……

 さてどうするか、と悩んでいると、フォルが不思議そうに私を覗き込んだ。

「どうしたの、アイラ」

「え、いや、ううん。なんでも……」

「あーーーっ!?」

 私がフォルに顔を向けた瞬間、ガイアスが叫び、レイシスがソファから飛び上がる。

 何かと思って視線を向ければ、そこに、金色の毛。

「ちょ! どうしてここにいるの!」

「ってかこいつどこから入った!」

 私とガイアスも慌てて立ち上がって、テーブルの上にどや顔(に見えただけだが)でたたずむ猫を捕まえる。あっさり私の腕に収まった猫はにゃあと鳴いて私に頬を摺り寄せてきた。

「お前らの猫か」

 王子がじっと猫を見つめて問う。

 私達の猫といえばそのような、そうでないような。どうするべきか悩む私の前で、王子が低い声を出した。


「その猫から、離れろ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ