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鷹vsヒヨコ


 桃香さんに頭を撫でられながら、僕は再びブレスに触れた。


(バカ! 速攻で貧乏だとばらしてどうするんじゃ! ド貧乏の癖に金持ちのフリをするというのは大事なファクターなんじゃぞ! まぁいい、それよりお前、一体何をしでかしたんじゃ? 桃香のお前に対する好感度が滅茶苦茶なことになってるぞ)


(滅茶苦茶って何が?)


(原作通りの展開なら、桃香は今、お前を苦手だと思っているはずなのじゃ。それなのに、お前を『守るべき対象』として見ている。これ以上取り返しの付かないことになる前に、さっさと嫌われてしまえ)


(嫌われるなんて無理だよ……。桃香さん、僕のことを親友って言ってくれたんだよ)


(言っておくがな、その世界にいる人間たちは、全て、『ピーチマジック』の世界の登場人物じゃ。通行人やクラスメイトに至るまで全員がな。紙の上の存在に嫌われようが、痛痒などなかろう)


(そ、それもそうか……な?)


 休憩時間となり、先生がそそくさと教室を出て行った。


 よし。桃香さんに嫌われるために悪役らしい行動を取るぞ。その前に……。


「これ、お納めください」


 両手の上に二百円乗せて、時代劇の悪代官が将軍様に賄賂を献上するようなイメージでお金を返却した。


 サイフの中には二百円しか入ってなかった。ぎりぎりだったけど足りてよかったよ。


「いいって言ったでしょ?」


「受け取ってくれないと困るんだ」


「どうして?」

 桃香さんが不思議そうに目を瞬かせた。


「だ、だって、私は、桃香さんのことなんか嫌いなんだから!」


 桃香さんを指差して、背後にババーンと書き文字でも出そうな勢いで僕は言い放った。


 実に悪役だ! 初めて僕、悪役っぽい行動が取れたぞ!


 きっと桃香さんは瞳を潤ませて泣き出してしまうんだ。そして屋上に行って『伊織 大和』とフラグを立ててくる。

 伊織君、まだ屋上に居るよな? 不良なんだしきっと居るに違いない。多分。


 桃香さんを泣かせるのは心が痛むけど、これで、全てが仕切りなおしだ! 




「ふぅん?」





 桃香さんが体を僕の席に向けた。


 長くて肉感的な曲線の足を組んで、机に右肘をついて顎を乗せ、左肱を椅子の背も垂れに乗せて、下からねめつけるように僕を見た。






「どれぐらい、嫌い?」

「うそですじょうだんですいまのはきかなかったことにしてくださいごめんなさい」






 お、オーラが! どす黒いオーラが桃香さんの体中から発せられている!!

 密度が濃くて桃香さんの姿さえ隠してしまうぐらいのオーラなのに、猛禽のような眼光だけがオーラの底でギンギンに光ってた!! こわい、この人超怖い!


 なぜだ! 僕、ちゃんといじめたじゃないか! 雑魚が覇王に向かっていくようなこの絶望感は何!?


 桃香さんは鷹だ! もしくは鷲だ、グリフォンだ! 僕みたいなヒヨコが勝てる相手じゃない!



 僕は椅子に座りなおし、ちょっとだけ、桃香さんとは逆の方に体を傾けてうな垂れて震える。額に冷や汗を浮かべながら。


「もう、そんな冗談やめてよ! ショックすぎて泣いちゃうかと思っちゃったじゃない! はい、これ、さっきいらないって言ったでしょ?」


 桃香さんは唇を尖らせつつ怒った顔をして、震える僕の手に二百円を乗せてきた。

 ななな泣いちゃうなんてひどい大嘘だ。むしろ僕が泣きそうになりましたよ桃香さんが怖くて!


 僕が二百円受け取ったのを確認して、桃香さんは笑った。


 一番最初に見た、目尻の下がった綺麗で柔らかな笑顔で。


「嫌いなんて、二度と言わないでね」


 コワイヨー……。


 そっとブレスに触れる。


(神様、僕は一体どうしたらいいのでしょうか……)


(どうもこうも、私にも予測不可能じゃよ……。学校が終わったらすぐに連絡してこい。一旦作戦会議じゃ)



――――☆



 長かった学校での時間がようやく終わって、僕は終了の挨拶と同時に立ち上がった。


「これから部活の勧誘を見に行かない?」

 桃香さんが誘ってくれたんだけど、僕は首を振った。


「ごめん、友達に呼ばれてるからすぐ帰らないと駄目なんだ。それに……事情があって部活はできないから」

「そうなの?」


「うん。じゃあ、明日」


 手を振って、教室から出る。


「ちょっと待って、下まで一緒に行こう」

 って桃香さんが言ってくれて、じゃあ、待とうかなって立ち止まった。その瞬間、僕の平衡感覚がおかしくなった。


 体が宙に浮いていた。景色が学校じゃなく、桜子の部屋になってる! 履いてた上履きも無くなっていた。


「うわ!? 何!? どうなったの」


「このバカチンが!!」


 畳まれた布団の上に落ちると同時に、ぼか、と頭を殴られて余りの痛みに蹲ってしまった。


「な、なにすんだよぉ……!」


 神様が湯気を吹き上げる勢いで激怒していた。


「何から何までぶち壊して、これからどうするつもりじゃ! お前、やる気あるのか!?」


「やる気はあっても、正直、無理です……」


 ばた、と布団の上に倒れこむ。


 神様はふぅと溜息を吐いてから小さな腕を組んだ。


「何から何までは言いすぎた。いくつかのフラグは立てているからな。まぁ、百点中、十五点はくれてやろう」


 見事な赤点ですね。


「しかし桃香の動きが予測不可能じゃ……。本当ならお前は保健室で、空と……」

「空君と?」


 神様は首を振って言葉を切った。


「まぁいい。さあ、一階に行け。新たなイベント開始じゃ」



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