(伊織 大和)
(伊織 大和)
チビで何の警戒心も無くて自分は男だという中二病を患った女、桜子さん。
自分が生まれ変わったって言う漫画の設定までちゃんと作って、おれがついた、『おれも前世は女でしたから』なんて言葉にあっさり騙されるぐらいの馬鹿正直っぷりだ。
でも。
『駄目だ大和君!暴力振るわず普通に生きたいって言ったのは大和君だろ! 僕が傍にいるときは僕が絶対止めるから、二人で頑張ろう!』
おれが暴力を振るおうとすると、本気で止めると宣言してくれた女。
最初は面白いおもちゃぐらいの感覚でいた気がする。
でも、駅で傷をつけた顔を見たとき頭の中が一気に沸騰した。
鞄を投げ捨て眼鏡を外して、桜子さんを傷つけたやつをボコボコにしてやるつもりだった。
結局、空でもシン先輩でもキリヲでもなかったけど、殴られた相手をおれに話してくれることはなかった。
そして、空と桜子だけで見回りに行って怪我をして帰ってきた日。
桜子が男だという話は全然信じてなかったんだけど、中身が男だと言い切るなら、喧嘩に負けたのは恥ずかしいだろうと思ってバイクでおれの秘密の場所まで連れて行った。
桜子はベンチの上で踊るみたいに回っていた。
それがすげー、可愛くて、やっぱりおれは桜子が好きなんだって、性欲だけでもないし、飽きないあほっぽいからだけじゃなくて、ちゃんと好きなんだと実感した。
だから運命の神様とか言い出した時には驚いた。
それを告白の断りの言葉にしてることに。
少なくともキリヲは本気だった。
なのに、そんないい加減な理由で断ったことに青ざめてしまった。
桜子はまちがっても警戒心がないだけで軽い女じゃない。
前にここが『ピーチマジック』という漫画の世界だと聞いたことがある。
単に桜子さんが振られればそれでいいという話だったはずなのに、どうやらここで四人相手にエッチして桃香をいじめないと滅びる世界だったようだ。
じゃああん時やっとけばよかった、と思ったのは当然の話だ。
桃香は笑って言った。
そんなことで滅びるなら滅ぼしていいじゃない! と。
確かにな。桜子さん泣かしてまで、……つか、桜子さん他の男に渡してまで存続させるぐらいなら、ぶっ壊した方がましだ。




