(神崎 シン)
(神崎 シン)
足音の細工をしてドアの外に座り込んでから、俺は笑いそうになってしまった。
初めて会った時、姫抱きじゃなくて赤ちゃんを抱くような体勢で車内を進んだ。
もちろんケツをわしづかみにする体勢だ。
姫抱きにしたら混雑した車内で色んな人を蹴り飛ばしてしまうから、という結構合理的な判断だったんだけど、ケツを触られてるのに桜子ちゃんは無反応だった。
そして、保健室に連れて行ったとき、いきなりパンツ見せていきなり救急箱投げて来た桜子ちゃんを思い出してくく、と少し笑い声が出た。慌てて自分の口を封じる。
あの時、彼女は誰かと話している風だった。
きっと、運命の女神様とやらと話していたのだろう。
エッチなことしなきゃならないと知ってパニックになったに違いない。
これであの怪文書の謎も解けたな。
『葉月桃香ちゃんは冷泉院桜子にいいじめられている。冷泉院桜子は無抵抗な女の子をいじめる悪人』
彼女なりに必死に自分を悪者にしようと頑張っていたということか。
どう考えても答えが出なかったからようやくすっきりできた。
しかしどんだけ不器用なんだあの子は。
いい子が悪に振り切れようとするとああなるのか。
しかし相手が桃香とはな。子猫がライオンと戦うようなものじゃないか。
桃香は身長が女子にしては高く、165センチはある。比べ桜子ちゃんは145あるかないか。あの怪文書が広まったところで信じた人が何人いたのか。いっそ統計をとりたくなるな。
一瞬で忘れ去られそうだし。
けど、あんな大泣きするぐらい不慣れなことを頑張ってたんだな。アル中親父の世話まで頑張って。
もう少し早く気が付けいてやればよかった。
気が付けたはずなのになぁ。
生徒会長やったのはあんな子を減らすためだったってのに、自分の力不足が歯がゆい。




