最強キャラ、薬王寺さん!
「キリヲ……? 桜子になんかしたんですかあんた」
キリヲ君と同時に部室に入った途端、大和君が喧嘩を売ってきた。
「何もされてないよ。新曲聞いてただけ……う」
空君が僕の体にのしかかってくる。
「ボクも聞きたかった。仲間外れ良くない」
「桃香さんにもCDあげてるからそっちできけるよ」
キリヲ君の突っ込みに空君も反論できなかったようで、ブスっと半目になる。
「おはひょー」
桃香さんが登校してきた。なぜか片手にセールスマンっぽい人の首根っこを掴んで。
「こいつ私に痴漢してきたのよ。学校の警備員に渡そうと思って」
「ここまで引きずってきたの!?」
「当たり前じゃない。こういう奴は見世物にするぐらいで丁度いいの」
現代版市中引き回しの刑!
慌てて警備員が二人駆け付けて、男を連れて行ったんだけど男は冤罪だーと力なく呟いていた。
「え、冤罪? 大丈夫桃香さん、冤罪だったら逆に訴えられるよ」
「心配しないで空気くん。触られた途端右手の骨をボキ♡とやったから」
「過剰防衛!」
「桃香に痴漢する、無謀。右手だけで済んでラッキー」
いえいえここまで引きずって来てますからね?
シン先輩が現れ、パンパン、と手を叩く。
「おはよーみんな。なんか桃香がやらかしたみたいだけど、みんなは知らぬ存ぜぬで通せよ。下手したら警察来るし」
「完璧に傷害事件だもんね……」
「ところで、桜子ちゃん電車かえた? お兄さん、電車中探したけど見つけきれなかったよ」
「今日はキリヲ君に車で送ってもらったんです」
シン先輩も含め、全員から返事があった。
「へー」「ふーん」「むー」「そっかー」
な、なんか皆の返事が不機嫌だぞ。
そ、そっか、好感度が高すぎてこうなってるのか。
「今度からは僕が送るから任せてください」
「えー、空気君ライブがあるとかで朝早かったり夜遅かったりするじゃない。桜子の送り迎えは私に任せて」
「う……わかった、迎えに行けないときは桃香さんに連絡するから」
「だいたい抜け駆けが過ぎますよ。車なんて。これだから金持ちは」
大和君が唇をとがらせ気味に言う。
「オレはできることをしてるだけだから」
「それがムカツクっつってんすよ」
大和君に蹴られて、なぜ!? と困惑しているキリヲくんを横に、僕はパソコンを起動させて今週の目標や抱負を打ち込んでいった。キリヲくんは朝からレコーディングが入っているらしく、慌ただしく学校を抜けて行った。そんな日まで送り迎えしてくれなくてもよかったんだけどなぁ。ちょっと罪悪感。
目標と抱負は先輩たちが残してくれた資料があるから楽なんだよなー。新しいフォーマットに丸写しするだけで済むし。
よし、かんりょっと。
みんなそれぞれの仕事が終わったみたいで、ほぼ同時に腰を上げる。
生徒会補佐部だけど、クラスへの遅刻は許されないんだ。
ちょっとぐらい遅れても許してくれていいのに。
ちなみに生徒会の人たちは遅れても大丈夫なのが悲しい。
「桜子」
空君に呼ばれて、「なに?」と返す。
と、突然僕のブラウンのリボンを取られた。
躊躇なく半分切って自分の頭にツーサイドアップを作る。
「もー、切っちゃ駄目だよ。予備持ってきてるから先に言って」
「そうだったの? ごめん、さくら」
意外にも素直に謝ってきた。
同じブラウンのリボンで空君もツーサイドアップを作って教室に入ろうとしたら。
「きえええええええ!!!!」
「うわあああ!?」
薬王寺さんが攻めてきた!
「その髪型はワタシと桜子だけのもの。真似しないで!」
ビシッと空君に指を突きつけている。
「真似してるのはそっち」
べ、舌を出して僕の後ろに隠れた。
「桜子、桜子の親友はワタシだけだよね?」
いやちょっと親友どころか友達もご遠慮したい。毎朝奇声を上げられたらこっちの心臓が持たないよ。
「桜子?」
「あの、ええと、」
「さくらこおおおおお!!!」
「うわああああ!」
今度は僕を追いかけてきて全身全霊で逃げるしかなかった。
運よく担任の先生に会えて、すかさず後ろに隠れたけど。
薬王寺さんは苦々し気な顔をして教室へ戻っていった。
「また薬王寺に絡まれたのか」
「……はい」
「余り刺激しないでくれよ。難しい生徒なんだから」
「難しいのは知ってます! そっから先の対処法を教えてください!」
「対処法は無いな」
「一秒もあけず諦めないでください!」
「お前から話しかけるのをやめるとか。もし話しかけられたら席を離れるとか」
「それ余計火に油だとおもいますが」
先生との会話は何一つ役に立たなかった。
「桜子はワタシのもの、桜子はワタシのもの」
僕の机にカッターで刻んでいる。
「せ、先生!」
「そ、それじゃーホームルームを始めるぞー筆記用具はしまいなさい」
先生にまるっと無視されてしまった。




