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嫌われよう作戦第三弾【好きなものをけなす】

 今日のテーマは、「僕自身が嫌われること」だ。

 うん。最初からそうすれば良かったんだ。回りくどいこと考えてないで、僕がとことん四人に嫌われればいいんだ!


 例えば……そう、好きなもの、頑張ってるものをとことんけなすのだ!


 大和君の勉強だったり、キリヲ君のアイドル活動だったり。

 好きなものをバカにされたら誰だって嫌だし――――傷つく。

 すぐに愛想をつかされるだろう。

 好きだといってくれた人を傷つけるのは心苦しいけどこれも世界のためだ。

 自分を納得させて、僕は電車を下りた。

 いつもと同じ通学路だ。

 今日も、シン先輩とは会わなかった。

 シン先輩は副会長である大和君に教えなければならないことが色々とあるらしく、最近は随分早めに登校しているのだそうだ。

 生徒会長って大変なんだな。


「桜子ー」

 駅の階段を下りていると、桃香さんが手を振って僕を迎えてくれた。

 あれ? 今日はキリヲ君は居ないんだ。


「おっはよー。桜子」

「おはよう!」

 キリヲ君は? 聞こうとしたのと同時に、「桃香ちゃん、桜子ちゃん」とキリヲ君の声がした。


 見覚えのある車の助手席からキリヲ君が手招きしていた。

「学校に送るから乗って」

 わ、ありがたい。

 これまた見覚えある強面の運転手さんにお礼をいいつつ、後部座席に乗り込む。


「これ、あげる」


 車が走り出すと、キリヲ君が封筒を僕に差し出してきた。

 封蝋が押されたお洒落な封筒だ。


「何?」

「ライブのチケット。再来週の土曜日にアカデミーホールでやるんだ。よかったら二人で見に来てよ」


 ライブ!? すごい、僕、ライブって行ったことないから行ってみたいな!

 団扇とか売ってたりするのかな? クラスメイトがステージで歌ってるなんて想像できない! 楽しみだ!



 は!!



 そうだ、ここでけなすんだ!

 なんて言おう?

 キリヲ君の舞台なんか見てもつまんなーい?

 でも、観に行きたいからチケット没収されたら悲しいぞ。

 どうし――「うーん。どうしようかな。私、小鳥遊君のグループ興味ないし。桜子は?」


 あっけらかんと言い放った桃香さんに、僕は絶句した。


 ぬおおお! 桃香さん! ヒロインがなんて暴言を!

 それは、僕の台詞ですよ!

 桃香さんがけなしちゃ駄目だあああ!


「行く行く! 絶対行くよありがとう!! 桃香さん、素直にならなきゃ駄目だよキリヲ君のグループのファンなんでしょう!?」

「は?」

 物凄く不思議そうな顔をした桃香さんの口を掌で封じる。

 ムームー呻く桃香さんの声を封じるため、僕は狭い車内で大声で話を続けた。


「グッズ、売ってるかな? 団扇持って応援するのやってみたかったんだー! キラキラ光るペンみたいなのもテレビで観て憧れてて」

 テンション高く続けると、怖そうな運転手さんが笑顔でキリヲ君に言った。

「キリヲ様、パンフレットをプレゼントしてはいかがですか?」

「え? パンフレット!?」


 そんなのもあるんだ!?

「み、見たいです!」

 身を乗り出すと、キリヲ君はダッシュボードから取り出して僕に手渡してくれた。

「どうぞ」

「ありがとう!」


 パンフレットの表紙は全体的に白くてシンプルなデザインだ。

 表紙に写ってるのはキリヲ君も入れて男性ばっかり十人。キリヲ君が一番歳下っぽいな。


 前、人気投票で最下位だった……みたいなことをキリヲ君が言ってたけど、こうやって見る限りキリヲ君が一番かっこいい。これで最下位?

 トークが壊滅的に駄目とか、歌が救いようも無いぐらい下手だったりするのかな。


 よし、この話題を持ち出そう。

 人気投票最下位なんて他人から言われたくない話題だろう。

 キリヲ君のグループけなすのを桃香さんに先にやられてしまったから、キリヲ君単体をけなして評価を下げる作戦だ。

 というか、このままじゃ桃香さんだけが悪役になってしまう。何としてでも挽回しなくては。


「キリヲ君、人気投票で一番下って言ってたよね」

「あぁ、あの、インチキ投票ですか」

 答えてくれたのは運転手さんだ。


「インチキ?」

「剣崎さん、インチキだって証拠はないよ」

 キリヲ君が困ったみたいに笑う。

「ですがインチキだとしか思えませんよ。キリヲ様はグッズ売り上げもグループ内一位なのに最下位だなんて」

 丁度校舎前に付いてしまい、僕たちは車から降りた。

 運転手さんにお礼を言って車を見送る。


「小鳥遊君のグループの人気選挙、特別番組でやってたよね。あれ、やらせだったの?」

「違うよ! 滅多な事言わないでくれないかな、変な噂広まったら困るから」

 登校時、人も多い中でさっくりとヤラセ発言した桃香さんを、キリヲ君が必死に否定する。


「ヤラセって噂はあるよねー。キリヲ君が一番人気無いって信じられないしー」


 九文さんが唐突に会話に割り込んできた。丁度登校してきたところだったようだ。肩にぶつかるみたいにくっつかれたキリヲ君がそっと引き剥がす。

「オレの実力だよ」

「絶対票操作されてると思うんだよね。キリヲ君ってグループで一番年下だししょっちゅうメンバーにいじられてるし、芸暦も一番短いからキリヲ君がトップだったら他のメンバーの面子丸潰れだもん」

 引き剥がされたと言うのに、またくっついて言って下からキリヲ君の顔を覗きこむ。

 キリヲ君、いつも女の子に囲まれてるし、相手するの大変そうだなあ。


 僕は九文さん苦手だから桃香さんの影に隠れてやり過ごさせてもらおう。


 九文さんに気配を悟られないようにコソコソと教室に入る。九文さんは僕にも桃香さんにも目もくれず、キリヲ君だけに話しかけてたから緊張する必要なかったな。

 キリヲ君はカバンを置くと、さっさと教室から逃げ去ってしまった。


 生徒会補佐部会の一員になったってことを利用して、生徒会室を避難所のように利用しているそうなのだ。

 近いうちに、桃香さんもそこへ通わせて、二人きりの時間を作る事で親密度を上げさせたいな。


「さくらこー、ほんとに小鳥遊君のライブ行くのー? アイドルのライブなんて疲れるばっかりだよー」

 桃香さんが机に上半身を倒して文句を言い始める。

 これは由々しき問題だぞ。

 いくらなんでもキリヲ君に興味が無さ過ぎる。恋愛どころの騒ぎじゃない。


「ライブ観に行けばきっと桃香さんも感動するよ! クラスメイトがステージに立つんだよ、応援しようよ!」

「私、演歌しか聞かないもん。日本人の心だよね演歌。ちゃらちゃらしたポップスなんて興味無い」



 君、本当に少女マンガのヒロイン? 僕そろそろ怒ってもいいかな?



 こぶしのきいた声で演歌歌いはじめた桃香さんに悲しくなってしまい、僕は顔を両手で覆って俯くことしかできなかった。



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