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モブ君、悪役女に転生する  作者: イヌスキ
 むだばなし
24/71

(お昼休み、桜子が逃げた後の教室での出来事)

 北原、南原、東原の女子三人組は教室から逃げて行った桜子の後姿を見送ってから、困った顔を見合わせた。

 冷泉院桜子が髪を見せびらかす予定だった、エクステを話題にしていた女子達だ。


 この三人は中学校が同じで、高校でも同じクラスになれたという運の良い仲良しグループだ。


 冷泉院桜子はこの三人を敵に回してから、じわりじわりと教室に居場所が無くなるという展開になっていくはずだったのだが。

 桜子が空腹のせいで全く違う絡み方をしてしまったので、また、緩やかにストーリーに変化が訪れていた。


「ニンジンしか食べて無いって……ちょっと酷くない?」

 南原が心配げな声を出す。


「あの子、超ちっちゃいよね……。ひょっとして、栄養不足だったりするのかな」

「うわ、ありえる!」


 東原が掌に収まりそうな小さなお弁当箱に箸を下ろしながら言った。

 ダイエット中なので野菜ばかりが目立つお弁当だ。


 食べたいけど我慢することはあっても、食べ物が無いなんてのは生まれてから一度も経験したことが無い。



 お腹減ったと訴える桜子の声は、まるで、居なくなった母猫を呼ぶ弱り果てた子猫のような、力無くか弱い声だった。

 目尻を下げ唇を振るわせ、大きな瞳を揺らして涙を零す姿に胸が痛んだ。


「あの子、このままじゃ倒れちゃうんじゃないかな……アタシ、明日、お弁当作ってこようっと」

 北原が決心したように頷く。


「じゃあ、アタシも作ってくる!」

「アタシもー。三人でローテーしよっか」

「お、俺もローテーに入っていいかな」

 楽しそうに話す三人に、隣で机を寄せていた男子が手を上げて加わった。

「俺、弁当自分で作ってるから、一人分作るのも二人分作るのも変わんないし」

 その隣の男子もまた、話しに加わろうと身を乗り出す。

「オレもオレも! どうせなら冷泉院さんを誘って皆で飯食わねえ?」

「いいねー」


 桜子に弁当を作ってこようと盛り上がった話しに、


「いらないわ」

「いらないよ」


 女子の声と男子の声で横槍が入った。


 葉月桃香と、小鳥遊キリヲだ。


 ぎくりとするぐらい冷たい声に、話をしていた女子と男子が笑顔を凍らせて恐る恐る振り返る。


「お弁当は私が作ってくるから、必要無いわ」

「お弁当はオレが用意するから、必要無いよ」


 打ち合わせでもしていたのかと突っ込みたくなるハモリ具合で二人が同時に答えた。

 声は冷たかったが、二人とも人好きのする優しい笑顔をしていた。恐らく、見た目だけを取り繕っているのだろうが、内心では二人とも同じことを思っているに違いない。――「桜子に余計なちょっかいをかけるな」と――。


「小鳥遊君も作ってこなくていいよ。私に任せて。私、桜子の友達だから」

「桜子はオレの兄弟を助けてくれた大切な恩人なんだ。オレに任せて欲しいな」


 きっぱりと宣言するキリヲに桃香が不愉快そうに答えた。


「小鳥遊君……芸能人だって自覚ある? 小鳥遊君みたいな人が特別扱いしたら、桜子が女子にいじめられちゃうよ」

「大丈夫! 絶対そんなことは無いように、この学校にいるファンクラブの人に話してあるから」

「口約束なんて当てにならないわ。誓約書でも書かせるなら話は別だけど」

「誓約書……? 例えばどんな?」

「そうね。もし桜子をいじめたら、頭の天辺から首の辺りまで縦に裂く……とか」

「怖い!!」


 (あーも、うっせぇなぁ……)


 机の前で騒がれて、伊織大和は弁当を包み直して教室を出た。

 窓の外の空は快晴だ。こんな日は屋上で食べるのも良いかと、大和は階段に足を向けたのだった。



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