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ある子猫の回想  作者: 東風
7/24

0歳(冬の巻)

ようやく大晦日まで来ました。

チビにとって初めての年越しです。

 きれいな緑色だった木の葉も黄色や赤に変わって、やがて木から落ちて秋も終わり、寒い冬になりました。

 この冬初めての雪が降ったかと思うと、次の朝には辺り一面真っ白になり、やがて日が昇るとその雪もいつの間にか消えていました。


 そんなことが何度か繰り返され、その内降った雪が無くならない日が続くようになります。

 毎日、外には新しい雪が積もって、それが車や人に踏み固められます。

 そしてまたその上に雪が積もって、だんだん家や道の周りに雪の壁が出来ていきました。

 僕は時々外に出ていましたが、雪の上を歩いていると足が冷たくて痛くなってくるので、あまり外にいることが出来なくなりました。


 マサさんがトモさんにしていた話では、病院に入院しているハチ伯父さんは、しばらくの間、かなり危ない状態だったようです。

 全然ご飯が食べられなくて、すっかり痩せてしまったと言っていました。

 それでも、時間は掛かりましたが、何とか食べられるようになって、無事に家に帰って来ました。


 ハチ伯父さんが入院している間、クロ伯父さんはマックスお父さんやトマト伯父さんにさんざん怒られたので、ハチ伯父さんが病院から帰ってきてもいきなり後ろから襲うようなことはしませんでした。

 それでも、ハチ伯父さんはクロ伯父さんに近寄ろうとはしなくなり、一匹で襲われることのない棚の上に上がっていることが多くなりました。

 ご飯も前よりは食べなくなって、イッちゃんはとても心配しています。


 そんな事はありましたが、僕の待っていたクリスマスがやっとやってきました。

 イッちゃんとノンちゃんは前の日からケーキを作ったり、きれいなお菓子を作って準備を始めました。

 トモさんも部屋を片付けたり掃除をしたりしていました。


 この日はマサさんもイッちゃん達もいつもより早く家に帰ってきて、前の日から用意していたケーキや美味しそうな食べ物を、沢山テーブルの上に並べます。

 小さいけど、きれいに光るクリスマスツリーもテーブルの上に飾られて、色々な色の灯りがチカチカと瞬いています。

 全部の準備が出来るとノンちゃんがケーキに飾ってあるロウソクに火を付けて、マサさんが部屋の灯りを消しました。

 ロウソクの火はとても暖かそうで、ゆらゆらと揺れている火に照らされて、みんなの影も揺れているようでした。


 この後、マサさんがケーキを切ったり、トモさんが食べ物を分けたりして、みんなで楽しく食べました。

 僕も、一皿分の食べ物を貰って、早速食べてみました。

 本当に色々な種類の食べ物が沢山あって、とっても美味しかったからすぐに全部食べてしまいました。

 当然、食べ終わったらマサさんの側に移動です。

 マサさんの隣に座って、マサさんの膝に前足をちょこんと乗せ、もっと下さいのアピールをすると、いつも通りマサさんが僕をじっと見て、自分の食べているものを分けてくれます。

 食べ終わってもっと欲しいとお願いしますが、僕が立ったままだとマサさんは


「お座り」


 というので、慌ててすぐにお座りに戻ります。

 そんなふうに僕がマサさんからご飯を分けて貰っていると、トマト伯父さんもマックスお父さんもみんな、それぞれの飼い主さんの側に行っておねだりをはじめました。

 トモさん達も仕方ないなといいながら、みんなに食べ物を分けてくれます。

 みんなニコニコして、とってもあった感じがして、こんな日がもっとあったらいいのにと思いました。


 そして、クリスマスも終わり、今度はお正月が来るそうです。

 マサさん達はお正月が来る前に終わらせなければと、休みを利用して少しずつ掃除を始めました。


「今年は引っ越したばかりだから、それほど大掃除に時間を掛けなくても良いので助かるよ。」


「そうね。台所の換気扇とトイレにお風呂場を重点的にやれば、後は普通のお掃除で十分だから、楽だわ。」


「ところで、お正月のお飾りはどうする?」


「別にいらないんじゃない。めんどくさいし。」


 最近になって気がつきましたが、マサさん達の口癖は「めんどくさい。」です。

 掃除や洗濯、お買い物まで始める前には「めんどくさい。」が出ます。

 そんなことを言っても、結局やってしまうので、大抵のことは問題ないようなのですが、時々本当に面倒くさいのか、掃除なんかをやらないことがあります。

 この時の話でも、お正月飾りというものは無しになりました。


 明日はお正月という日。

 マサさんは朝から台所で大忙しです。

 煮染めというものを作るのだと、野菜や肉なんかを沢山切って、大きな鍋でお料理をしています。

 お鍋から良い匂いがしてきた頃、


「このまましばらく煮込んで、その後は汁気を飛ばしていけばできあがりだな。」


 と言って、今度は別のものを切り始めました。

 マサさんの独り言を聞いていると、切っているのはカマボコや伊達巻き、ハムや焼き豚など、お節料理というものを切っては見たことのない入れ物にきれいに並べていきます。

 それが一段落すると、次はお雑煮の準備だそうです。

 それにしても、お正月の準備とは色々大変なんですね。

 結局マサさんは、お昼近くまで掛かって準備をしていましたが、トモさんがようやく起きてきて、マサさんにお願いしたので、続けてお昼の準備もすることになっていました。


「今日は色々忙しいから、お昼は簡単なものにするけど、トモは食べられるか?」


「まだいいわ。もう少ししたら食べられると思うから。」


「わかった。それじゃあトモの分はおかゆを作っておくから、後でちゃんと食べるんだよ。」


 結局、今日は簡単なものにすると言って、野菜炒めを作り始めます。

 隣の火には別に小さめのお鍋が火に掛けられて、野菜炒め用から少し分けて置いた野菜を煮込み始めます。

 どうやら野菜炒めを作りながらおかゆも作っているようです。

 しばらくして出来上がった野菜炒めは、お皿を4人分用意して盛りつけて完成です。

 おかゆの方は弱火にしてもう少し煮込むようです。


 マサさんは別にプラスチックのお皿をテーブルに持ってきて、野菜炒めを冷ましながらお皿に分けてくれました。

 そのお皿を自分の横に置くと、


「チビ、食べて良いよ!」


 と、言います。

 僕のお皿には、自分の分の肉を沢山分けてくれるので、マサさんの野菜炒めは肉抜きになってしまいました。

 僕はマサさんに有り難うと思いながら、一生懸命食べるのでした。


 この後もマサさんは掃除をしたり、お正月の準備をしたりと忙しそうでしたが、夜になって夕食が終わり、お風呂に入った後、いつもは早く寝てしまうマサさんが遅くまで起きていて、テレビを見たり、イッちゃん達と遊んだりしています。

 そして、しばらくするとまた台所に立って、今度はおそばを作り始めました。

 年越しそばという物だそうで、これを食べると何か良いことがあるそうです。

 出来たおそばは僕にも分けてくれてみんなで一緒に食べました。


 食べ終わった頃、マサさんが窓を開けると、どこからか「ゴーン、ゴーン・・・」という音が聞こえてきました。

 マサさんがイッちゃん達に


「除夜の鐘が聞こえるよ。」


 と言うと、イッちゃん達も窓の側に行って、その音を聞いていました。

 それから、みんなで炬燵に座ると、


「明けまして、おめでとうございます。」


 と言いました。

 僕も良く解らなかったけど、アヤお母さんやマックスお父さん達に言いました。


「明けまして、おめでとう!」

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