0歳(夏から秋の巻)
いよいよお引越しの始まりです。
子猫の視点から見たお引越しのドタバタをご覧ください。
しばらくとても暑い日が続き、その後何度かものすごい風が吹いたり沢山の雨が降りました。
伯父さんたちは毎日のように外に遊びに出ては、夕方になると帰ってきます。
時々、夜になってからみんなそろって出かけますが、アヤお母さんに聞くと近くの公園で猫集会があって、みんなでそれに参加しているのだそうです。
いったいどんなことを話しているのでしょうか?
聞いてみたけれど、アヤお母さんも伯父さん達も話してくれませんでした。子供の聞くことではないそうです。
そんな日々が過ぎて、気がつくといつのまにか暑い夏もようやく過ぎ、秋というものになってきたのだとアヤお母さんから聞きました。
だんだん涼しくなってきて、空の青さが薄くなってきた頃、家主さんから新しい家のほうが出来上がったという連絡が来て、とうとう引越しが始まりました。
「やれやれ、とうとう引越しが始まるんだね。この家とももう少しでさようならだね。」
アヤお母さんがため息混じりにいいました。小さいときに貰われて来てからずっとこの家に住んでいたのですから、いろいろな思い出もあるのでしょう。
少し寂しそうなアヤお母さんでしたが、ミミお母さんはどちらかというと嬉しそうです。
「今度の家は、どんな所なのかしら?楽しみだわ!」
伯父さん達も新しい家に興味があるのか、楽しみにしているようですが、僕にはよくわかりません。
僕にはマサさんたちがいてくれれば十分に感じられます。
そうこうしている内に、マサさんは仕事の休みを利用したり、毎日仕事から帰ってきてからのわずかな時間を利用して、こちらの家からあちらの家へと沢山の荷物を運んでいます。
軽いものは手で何度も往復して持って運び、手で持てないような重いものは、車に積んで運んだり、台車というものを使ったりして、大汗をかきながら働いています。
トモさんもマサさんの手助けをして荷物を運んだり、運び出された家具の後を掃除したりと、大忙しです。
イッちゃん、ノンちゃんやユキくんは仕事や学校があるので、毎日お手伝いをすることは出来ませんでした。
それでも自分の休みのときは朝から頑張って、自分たちの荷物を運んだり、自分達の部屋の掃除をしたりしてお手伝いをしています。
僕は、こんなに忙しいマサさんを見たのは初めてでした。
毎日仕事をしていて、せっかくの休みなのに、朝から晩まで荷物を運んだり、いらなくなったものを車に積んでどこかに持って行ったり、運んだ跡のはやを掃除したりで、一休みするのはお昼の時間くらいしかありません。
こんなに忙しいと、さすがに僕たちはあまりかまって貰えませんでした。
全然遊んでくれないので、時々マサさんの足下にじゃれついて甘えてみてら、気づかれないまま、踏まれそうになって慌てて逃げ出すくらいでした。
ご飯は朝晩、イッちゃんやノンちゃんにしっかりと貰えましたが、マサさんに遊んでもらえるような暇は全然ありません。
ようやく一日が終わり、夕方になって晩ご飯が終わる頃に、やっとマサさんもゆっくり出来たので、膝の上に乗って甘えることは出来ましたから、それで我慢することにしました。
どんどん家具や色々なものがなくなっていく家の中で、僕たち猫はまだお引っ越しをしないで、みんなで集まって遊んでいました。
夜のご飯のときだけ、新しい家の方にも連れて行って貰うのですが、新しい家のほうはまだ片付いていないため、遊ぶのも邪魔になるし、お昼寝する所もありませんでしたから、ほかの時間はまえの家に戻されていました。
まえの家の、家具の無くなった部屋の中を見渡すと、床も畳も家具が置いてあった隅の方はカビだらけで、ひどい所は畳もその下の板も腐って抜けてしまい、床の下が見える所までありました。
イッちゃん達の部屋も、壁がカビだらけになっているだけじゃなく、部屋の真ん中の畳がへこんでしまい、そこに乗るとフワフワとして、試しにマサさんが乗ったら穴が開きそうでした。
そんな家具が無くなって、寒々としてきた部屋の中では、伯父さんたちに遊んで貰ったり、朝ご飯を食べたりしていましたが、この頃になると、なぜかマックスお父さんがとても怒りやすくなって、怖くてそばに寄ることが出来ませんでした。
夜になってみんなで固まって寝ているときも、一匹だけ離れ、隣の部屋の押し入れに入って寝ています。
一体どうしたのだろうと、トマト伯父さんやアヤお母さんが話していましたが、何でなのかは全然判りませんでした。
「猫は家に付くって言うから、他の家に移りたくないのかな?」
と、マサさんが言っていましたが、時々外に出てもすぐに帰ってきて、また押し入れの中に入ってしまいます。
そんなこんなの毎日が過ぎ、とうとう引っ越しもすっかり終わって、全部の家具が無くなった家から新しい家に僕たちも引っ越すことになりました。
アヤお母さんやミミお母さんはすぐに新しい家になれて、自分の居場所を決めていましたが、伯父さんたちはなかなか落ち着かないみたいで、家に入ったり出たりを繰り返していました。
そして、マックスお父さんは新しい家に連れてこられても、すぐに戻って行ってしまい、古い家の押し入れから動こうとしませんでした。
灯りもなくて寒い部屋の中、一匹だけで何を考えていたのでしょう?
一度、僕は怖いのを我慢して近づき、マックスお父さんに聞きましたが、マックスお父さんは何も言ってくれませんでした。
引越しが済んで何日か経つと、家主さんが古い家を解体するために調べに来ました。
マックスお父さんは、家主さんが来ると外に出て、家主さんが帰ると戻って押入れに入っていましたが、やがて何日か過ぎて、大きな怪物のような車が来て家を壊し始めると、とうとう諦めたのか新しい家に入って寝るようになりました。
やっぱりマックスお父さんは古い家に最後まで残って、あの家を守っていたのでしょう。
新しい家に来ても一人で寝ることの多いマックスお父さんは、どこか寂しそうでした。
引越しが終わって、でもまだ落ち着かなくて・・・・。
次回も続きます。
よろしくお願いします。