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ある子猫の回想  作者: 東風
16/24

1歳(冬の巻)

少し短いですが、投下します。

 秋の終わり頃、マサさんが具合が悪くなって検査入院しましたが、その最中に起きた心肺停止の為に本格的な入院になってしまってから1ヶ月が過ぎました。


 トモさんの話では入院中は特に発作などは起きず、体調に変わりはなかったようです。

 ただ、心肺停止のときに看護師さん達がしてくれた心臓マッサージで胸の骨が2カ所折れてしまい、それが痛くて起き上がる事や寝返りを打つ事も大変で、笑っても咳をしても痛くてたまらず困っているそうです。


 家の方ではトモさん達もこの1ヶ月、特に変わった事はありませんでした。

 トモさんはいつも通りの毎日で、イッちゃん達も毎日仕事や学校の行き帰りです。

 僕たち猫はといえば、あたりの気配が日に日に秋の終わりを感じさせてくるころ、春と同じように伯父さん達は伯母さん達を追いかけ回しては、トモさん達に怒られています。


 伯母さん達とは普段いる部屋が別になっているのですが、クロ伯父さんやハチ伯父さんは、毎日のように伯母さん達の部屋のドアの隙間から中をのぞいて、伯母さん達に出てくるように誘いを掛けます。

 ドアには開けられないように鍵がかかっているので、いくら誘っても出てくる事は出来ないのですが、あきらめる事もなく大きな声で鳴いているので、トモさん達に「五月蠅い!!」と怒られる事になります。

 もっとも伯母さん達も伯父さん達の誘いに乗りそうな素振りをしていますし、その上、ドアの鍵が弱いのか、ドアをがたがた動かしていると時々外れる事があって、こちらの部屋に出てきた伯母さん達を伯父さん達が追いかけ回す事になります。


 僕は色気なんてさっぱりわからないので、相変わらず食い気一杯に、毎日出されるご飯を全部平らげ、トモさんやイッちゃん達からもご飯を分けてもらっています。

 なぜか、身長はまったく伸びないのに横幅がどんどん大きくなって、最近は狭いところに入りにくくなってしまいました。

 伯父さん達からは猫らしくないぞと言われますが、マサさんが無事とわかってから、ますますご飯がおいしく感じられて、食べ始めると止まらなくなるのです。

 別に、この家にネズミ(本物の方)が出る事もないので、狭いところまで追いかける必要もないのですから問題ないと思いますが、高いところに上がるのが苦手になってきたのは、ちょっとまずいかなとも思います。



 トモさんの話では、マサさんは特に異常がないので11月に入ったらずぐに帰ってこられるということです。

 いったい、あの夜の騒ぎは何だったのでしょうか?

 どちらにしても、僕が寂しく思うのももう少しの辛抱でしょう。


 この1ヶ月間、僕は寂しくなるとテレビの台に上がっては、電話に入っているマサさんの声を聞いていました。

 電話の中のマサさんはいつも同じ事しか言いませんが、優しい声を聞いていると安心出来て、また少し元気になりました。


 時々、僕も外に出してもらえますが、最近、家の周りで他の家の猫を見なくなりました。

 前は、結構周りの家にも猫がいて、伯父さん達と喧嘩をしたりもしましたが、気の良い猫もいたので色々と教えて貰ったりもしたものでした。

 斜め前の家には真っ白なお姉さん猫がいて、いつも綺麗だなと思ったりしましたが、その猫にも全然あっていません。

 いったいどこに行ってしまったのでしょうか?



 やがて、11月に入って夏の暑さが嘘のように涼しくなった頃、マサさんが帰ってきました。

 マサさんは検査の為に病院に行ったとき、自分の車に乗っていきましたが、そのまま入院になってしまったので車は駐車場に置きっぱなしになっていました。

 そこで、家に車がないのは不便だというトモさんの意見から、マサさんの他に一人だけ車の免許を持っているノンちゃんがマサさんの車を持ってきて使うことになりました。

 おかげで家の方は色々便利になったのですが、マサさんが退院するときになって帰ってくる足がありません。

 そこで、今日はノンちゃんがマサさんを迎えに行く事になったのです。


 家の前に止まった車からマサさんが降りてきて、玄関のドアを開けます。

 一ヶ月半ぶりに帰ってきたマサさんは元気そうでしたが、顔からお腹まですっかり痩せてしまいました。

 でも、「ただいま!」という声は変わっていません。

 僕は嬉しくて、すぐに玄関まで迎えに走って行きました。

 そうすると、マサさんは僕を笑いながら持ち上げて、しっかりと胸にだっこしてくれます。


「チビ!!お出迎えご苦労様。でも、ずいぶんと重くなったな!」


 と、言われてしまいました。

 トモさんは、


「ずっと帰ってこなかったから、忘れてしまったかと思ったけど、さすがにチビだわ。」


 と言いました。

 僕がマサさんを忘れるなんてあるはずがありません。

 僕はいつもマサさんの座るところまでだっこされて行き、座ったマサさんの膝の上でそのまま丸まって、マサさんに喉の下や背中をなでてもらって、マサさん成分を補給しました。

 マサさんがやっと帰ってきてくれた。これでもう大丈夫。

 僕は安心して、そのまま眠ってしまいました。


 マサさんは退院したと言ってもまだ本調子ではないので、1週間くらいは家でのんびりするそうです。

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