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ある子猫の回想  作者: 東風
15/24

1歳(秋から冬の巻)

マサさんの心臓が止まってからのお話です。

チビも心配でご飯がのどを通らないようです。

 9月の終わりにマサさんが入院して、退院間際に心臓が止まって死にそうになりました。

 突然掛かってきた夜中の電話から始まった大騒ぎは、その日の夕方まで掛かってようやく一段落しましたが、まだ、安心できるほどではないようです。


 僕は、マサさんの心臓が止まったと聞いてから、何をしていたか良く覚えていません。

 アヤお婆ちゃんが僕を励ましてくれましたが、心配で心配でたまらなくて、ご飯を食べていないことも忘れていた位でした。


 トモさん達がみんなで家を飛び出して言ってから、どれ位の時間がたったのでしょう。

 電気の点いていない薄暗い家の中で、マサさんの座る場所に蹲っていた僕が次に気がついたのはイッちゃん達姉弟が帰ってきたときでした。

 イッちゃん達姉弟3人はお昼前に帰ってきて、僕のご飯を出してくれながら、マサさんがもう大丈夫だと教えてくれました。

 でもイッちゃん達の顔色はあまり良くありません。やっぱりマサさんの具合はあまり良くないのではないでしょうか。


 その後、お昼も大分過ぎてから帰ってきたトモさんがイッちゃん達と話していることを聞いて、マサさんに何があったのか大体判りました。

 でも、トモさんにも本当にもう大丈夫なのか判らないようなので僕の心配は終わりませんでした。


「どうも、先週一週間かけて検査したことが発作の引き金になってしまったみたいね。」


 とトモさんが言いました。


「どういうことなの?」


「木曜日に最後の検査があったでしょう。私たちも手術室の前に行って待機していたときね。

 あの時の検査では、手首の血管を切ってカテーテルという管を血管を通して心臓まで入れたの。そのカテーテルから何種類かの薬を入れて心臓に狭心症の症状を起こしさせるものだったんだって。

 そうして起こさせた症状と、マサさんが倒れた時の症状と比較して、同じ症状が出るか確認したかったみたいなの。

 そうすれば心臓のどの部分で、どんな条件から狭心症が起こっているか判るはずだったんだけど、結局なにも判らないままで検査が終わったのよ。


 でも、検査とはいっても実際に狭心症と同じ症状を起こさせるんだから、心臓にかなり負担をかけてしまって、それまで少し調子が悪い位だった心臓が本当に狭心症の症状を起こしてしまったらしの。

 検査の前後は、ずっと血管を拡張する薬を点滴で投与していたから問題はなかったんだけど、検査で期待した症状も確認できなかったから狭心症についてはもう大丈夫だろうと、土曜日の夕方に点滴をおしまいにしたのね。

 でも、検査で狭心症の症状を起こし始めていた心臓は、その点滴で血管の収縮を抑えて狭心症の発作が起こらないようにしていたのに、薬をやめたてしまったから血管の収縮が始まって、明け方に狭心症の発作を起こしたらしいわ。」


「検査が引き金になったって、あの病院の先生、大丈夫なの?」


「まあ、大丈夫かどうかは判らないけれど、入院している間に発作が起こってくれたのが不幸中の幸いだったとしか言えないわね。

 もしも退院してから家で発作が起きていたら多分間に合わなくて助からなかったと思うわ。

 それに、たまたまマサさんが何かを感じて、発作の少し前に目を覚ましたのも良かったのよ。寝たまま発作が起きていたら看護師さんを呼ぶことが出来なかったから、多分そのままお終いになっていたでしょうから。」


「怖いね。お父さんも運が良いんだか悪いんだか判らないけど、この後はもう大丈夫なのかな?」


「先生の話では安全のために1ヶ月間入院して様子を見るそうだから、その間、何があっても大丈夫だと思うけど、休んでいる間の仕事とかどうなるのか、そっちの方が心配よ。」


 色々と心配の種が尽きないみたいですが、マサさんがしばらく帰ってこられないのは確かなようなので、その間はみんなで力を合わせて頑張ろうと言うことになりました。

 僕は、トモさんの話から、マサさんがどうやら大丈夫だと感じられたので、ほっとして、今度は猛烈にお腹がすいてきました。

 早速、トモさんにご飯をおねだりして、お腹いっぱいになるとマサさんの座る場所で丸まって寝てしまいました。


 次の日は昨日の大騒ぎが嘘のように、朝から普通通りの生活が始まりました。

 いつもと違ってマサさんがいませんが、それも1週間前からの事ですからもう慣れているのでしょう。

 一応、マサさんの方は大丈夫と言うことなので、ユキくんは学校に行き、イッちゃん達はそれぞれの仕事に出かけます。

 トモさんはみんなが出かけてから起きてきて、家の中のことを少しずつ片付けていきます。


 僕はトモさんから朝ご飯を貰って、その後はマサさんのいつも座るところに丸まって寝ます。

 時々、マックスお父さんやトマト叔父さんたちが来て、僕を慰めてくれますが、やっぱり寂しくて元気が出ません。

 トモさんは家の中のことを終えると、大抵の時間はテーブルの所で寝転んでテレビを見ています。

 トモさんの周りにはトマト叔父さんが寝ているか、クロ叔父さんが近くにいないときはハチ叔父さんやネズミ伯父さんが寝ています。


 お昼を過ぎるとトモさんは夕御飯の準備をしてから出かけて行きます。

 そのまま、夕方になると普通、家に帰ってくるのはユキくんが最初で、その後イッちゃんが帰ってきます。

 ノンちゃんは仕事の始まる時間が決まっていないので、早く帰ってきたり夜遅くなったりします。


 マサさんが入院してから発作が起きるまでは、みんなはほとんどお見舞いに行きませんでしたが、発作が起きてからは毎日のようにお見舞いに行きます。

 ノンちゃんの帰りが遅い時は、イッちゃんが仕事の帰りに直接マサさんのお見舞いに行きますが、ノンちゃんが早く帰っている時はイッちゃんは一度家に帰ってきてからノンちゃんと一緒にお見舞いに行きます。

 イッちゃんやノンちゃんはほとんど毎日お見舞いに行きますが、トモさんは3日に1回位お見舞いに行っているようで、他の日はどこかに出かけて昼過ぎから夜遅くまで帰ってきません。

 この家の人たちの中で不思議なのはユキくんです。

 学校から帰ってくると家でテレビを見たり、ゲームをしたり時々ですが勉強もしていますが、マサさんのお見舞いに行く様子がありません。

 発作が起きた時にみんなと病院に行ったきりで、他のみんながお見舞いに行ってもマイペースで家にいます。何ででしょう?

 僕は会いに行きたいけれど、誰にも連れて行ってもらえなくて悲しく思いますが、ユキくんは違うのでしょうか?



 マサさんが入院してから2週間が過ぎた頃、僕はある発見をしました。

 トモさん達が使う電話に、マサさんの声が入っていたのです。

 この電話はテレビのある棚の上に置いてありますが、その棚の上にあがる為に時々その傍を通ります。

 この時も僕は棚の上に上がろうと思って電話の傍を通ったのですが、偶然、電話のボタンを足で押してしまったのです。

 そうしたら突然マサさんの声が聞こえてきたので吃驚しました。

 何が起きたのか判らなかったのですが、落ち着いて聞いていると、電話から聞こえてくることに気がついたのです。


 どのボタンを押したらマサさんの声が聞こえるか判った僕は、寂しくなると電話のボタンを押してマサさんの声を聞くようになりました。

 そうしたら、トモさんから、「チビは、ビ○ターの犬みたいだね」と言われました。

 イッちゃん達から「何の話?」と聞かれたトモさんが、


「昔、ビ○ターという会社に犬が首を傾けて蓄音機を聞いているマークがあったの。良く覚えていないけれど、帰ってこない御主人様の声がレコードに入っていて、それを聞いているんだとか言われていたわね。」


 と言いました。


「確かに、そっくりだね。やっぱりチビは犬だったんだ。」


 そんな風にみんなに言われましたが、そんなことはちっとも気になりません。

 トモさん達は僕が聞くので、電話に入っているマサさんの声を消さないでそのままにしておいてくれました。

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