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ある子猫の回想  作者: 東風
14/24

1歳(秋の巻)

またまた、大騒ぎが発生しました。

チビも心配事が絶えません。それでも日々成長していきます。

 ユキくんの長い夏休みも終わって、もう9月も半ばを過ぎて季節的には秋になろうとしています。

 今年の暑さはいつもより酷くて、沢山の人が具合が悪くなって大変だったとテレビの人が話していました。


 マサさんが梅雨が終わってから作ってくれた遊び場は、色々事情があって当初の予定より小さい物になってしまいましたが、それでも初めに作った物よりしっかりとした作りです。

 多少の雨が降っても大丈夫だし、結構日陰が出来て風通しも良いので、お昼寝するのに最適です。


 今日も仕事が終わったマサさんが帰ってきて、いつもの場所に座ると、早速僕もマサさんの膝の上に乗って丸まりました。

 そうすると、マサさんは僕の頭や首筋を撫でてくれて、それが気持ちよくて眠ってしまうこともあります。

 でもすぐにトモさんが、マサさんの前にあるテーブルにご飯を並べてくれるので、とても寝ていられません。

 今日も美味しそうな匂いがしますね。もうちょっとしたら膝から降りてお座りをしましょう。


「トモさん、今日も暑かったけれど体の調子はどうだい?」


 マサさんがトモさんに聞いています。


「あんまり暑かったから気分が悪くなりそうだったけれど、まだ大丈夫よ。それにしても今年は本当に暑いわね。」


「いつまでこの暑さが続くのかな。そろそろ涼しくなって欲しいよ。」


「ほんとうね。マサさんも無理しないでね。」


「ああ。無理はしないつもりだよ。それじゃ、頂きます。」


 マサさんとトモさんの会話が終わり、マサさんのご飯が始まりました。それでは僕も膝から降りて、お座りしましょう。


「チビ。いつも通りだな。ちょっと待ってろよ。」


 そういって、マサさんはおかずの焼いた魚を分けてくれます。

 ちゃんと、冷ましてからくれるので、すぐに食べることができます。

 とても美味しかったのであっという間になくなってしまい、すぐに前足をマサさんの膝に乗せて御代わりをおねだりしてしまいました。

 こんな風に、いつもご飯の時間が過ぎていきます。



 そんな毎日を過ごして9月も終わりになるころに、やっと朝晩涼しい日が来るようになりました。

 それでもまだ日中は暑い日が続いています。 


 ある日、暑い暑いと言いながらお昼ご飯を食べ終わったトモさんと今日は仕事がお休みだったノンちゃんがテレビを見ながらお話をしていると、突然電話が鳴り出しました。

 いつもは留守番電話にしていて、誰からの電話か解らないと電話を取らないトモさんが、何かを感じたのかすぐに電話に出ます。

 なにか話をしている内に慌てだしたトモさんでしたが、電話が終わると少し青い顔をしてノンちゃんに言いました。


「お父さんが倒れたって。いま、ドクターヘリで大きな病院に運ばれたから、来られますかって言われたけど、あの病院は山を一つ越えた遠くにあるからとても行けないのよ。しかたないから、会社の人に付添をお願いしたの。」


「えっ?お父さん倒れたの?大丈夫なの?」


「意識はしっかりしているけど、どうも心臓のせいで倒れたんじゃないかと心配なので、大きな病院で見て貰うことになったらしいわ。見て貰った後のことはまだ解らないらしいけど。」


 そんな話が聞こえたので、僕も心配になりました。

 その後、夕方になってイッちゃんやユキくんが帰ってきて、その話を聞いてみんな心配していましたが、特に連絡もないのでどうしようもありません。

 でも、暗くなる頃、いつも通りマサさんが車で帰ってきたので、みんなほっと一安心です。


「朝、一人で書類を作っていたら急に気分が悪くなってね。椅子に座っていられなくなって床に寝転んだんだけど、体中から汗が噴き吹き出してきて、そのまま動けなくなったんだ。

 倒れた場所がちょうど入り口から影になっていたから、後から出勤してきた人たちには見えなくて、声も出せなかったから見つけて貰うのに時間がかかってまいったよ。」


「でも、大丈夫なの?」


「中央病院までドクターヘリで連れて行かれて、色々検査をしたけど結局原因は分からなかったんだ。もしかしたら狭心症かもしれないって言われたけど、検査結果には特に異常もないから帰って良いって言われてね。すぐに帰ってきたよ。」


「その病院、大丈夫なの?後で悪くなったりしないよね?」


「どうだろう。丁度、明後日にいつもの通院があるから、主治医の先生に今日有ったことを相談してみるよ。検査記録も全部貰ってきたから、それを見て貰えば何か解るかもしれないしね。」


 そして、マサさんは次の日はいつも通り仕事に行きました。

 僕は大丈夫なのかと心配していましたが、いつもの時間に帰ってくるとマサさんがトモさんに言いました。


「明日は予定通り仕事は休んで病院に行って来るから。」


「朝からいくの?」


「ああ。予約は朝一番になっているからね。一昨日倒れたことも先生に相談しようと思っているから。」


 マサさんは一昨日、会社で倒れたているので、トモさんもとても心配なのですね。


「特に問題はないと思うけど、検査結果を見て貰って相談したりするから時間はかかるかもしれないね。」


 そう言って、次の日、朝からマサさんは近くにある、このあたりでは一番大きな病院に出かけていきました。


 僕はマサさんが出かけてからしばらく寝ていましたが、電話の音で目を覚ましました。

 電話はマサさんからで、病院の先生が話をしたいのでトモさんにすぐに来て欲しいといっているそうです。

 トモさんは電話を切ると急いで用意をして出かけていきました。


 それからしばらくしてマサさんはトモさんと一緒に帰ってきましたが、何やら忙しそうです。


「このまま検査入院なんて参ったよ。」


「10日間なんでしょ?やっぱり倒れた原因ははっきりさせてもらったほうが安心できるから、その方が良いわよ。」


 と、二人で話しながら、色々準備をしています。

 夏前にトモさんが入院しているので、準備する物はそろっているから簡単にすみました。

 準備が出来ると、マサさんが買い物袋を出してきて、


「トモさん。チビのご飯はこの中に買ってあるから、入院中は僕の代わりにチビにあげてね。チビもトモさんの言うことをちゃんと聞くんだよ。」


 そう言ってマサさんは僕の頭を撫でてから自分の車で病院に行きました。


 それからは毎日トモさんからご飯を貰いましたが、やっぱりマサさんが居ないと寂しくなります。

 いつもマサさんが座っている場所に丸まって寝ていると、イッちゃんやノンちゃんがかまってくれますが、それでも早く帰ってこないかなと思ってしまいます。


 それから何日かたって、トモさん達が、


「お父さんは明後日には退院だから、もうすぐ帰ってくるからね。」


 といっていくれました。

 僕は、マサさんがやっと帰ってくるのでとても嬉しくて、いつもよりご飯も美味しく感じました。



 次の日、まだお日様も顔を出さない暗い時間に電話が鳴り出しました。

 みんな寝ているので誰も出なかったから、電話はしばらく鳴った後切れてしまいましたが、今度は隣の部屋で寝ているイッちゃんの電話が鳴り出しました。

 どうやら寝ぼけながら電話に出たイッちゃんが、電話から漏れる声を聞いていっぺんで目が覚めたのか飛び起きました。

 すぐに隣に寝ているノンちゃんを起こします。


「ノンちゃん!起きて起きて!!お父さんが死んじゃう!!」


 その声に、僕がビックリしていると、ノンちゃんも起きたようで、


「お父さんが死んじゃうって?お母さんは起こしたの?」


 と聞きました。


「これから!」


 とイッちゃんは言いながら、部屋から飛び出し、トモさんとユキくんを起こしました。


「お母さん。いま、病院の看護師さんから電話で、お父さんの心臓が止まったって。すぐに来て下さいって!」


 それからは家中大騒ぎになり、トモさんは半分泣きながら急いで服を着て、その間にノンちゃんが電話で車を呼んだりします。

 準備が出来た頃には車も来ていて、みんなが飛び出していきました。

 マサさんの心臓が止まったって、どういう事なのでしょう?

 聞きたくても答えてくれる人は誰も居ません。

 僕は思わず泣いてしまいそうでした。


 そのまま不安な夜が明けて、お日様が昇っても誰も帰ってきませんでした。

 マサさんはどうなったのでしょうか。

 僕は心配で心配で溜まりませんでしたが、アヤお母さんは、


「心配しなくても大丈夫だよ。マサさんはこれくらいじゃ死なないから。きっと無事に帰ってくるよ。」


 と言ってくれました。


 それから、また大分経って、もうすぐお昼になる頃、イッちゃん達3人が帰ってきました。

 僕はマサさんがどうなったのか聞きたくて、ノンちゃんの側に行きました。


「チビ、お父さんは大丈夫だよ。さっきやっと目が覚めて、話も出来るようになったから安心して良いってお医者さんが行っていたからね。でも、しばらくは入院していないと駄目なんだって。寂しいだろうけど我慢してね。」


 マサさんは大丈夫でした。僕はほっとしましたが、しばらく帰ってこられないと聞くと、とても寂しく思いました。


 イッちゃん達に遅い朝ご飯を貰って、少しお昼寝をした後、やっとトモさんが帰ってきました。

 そして、トモさん達が話しているのを聞いて、何があったのか解りました。


 元々、マサさんはこの前仕事場で倒れたことで心臓が悪いのではないかと検査することになったのです。

 その検査は1週間かかりましたが、結局悪いところは見つけられず、お医者さんは今まで飲んでいた高血圧のお薬を別の薬に変えて様子を見ることにしたのだそうです。

 そして、ずっとしていた血管を広げる為の点滴を土曜日の朝から少しずつ減らして、夕方にはおしまいにしました。

 後は飲み薬だけで様子を見ることになり、そのまま予定通り月曜日に退院ということになったのです。


 ところが、日曜日の明け方、突然マサさんの胸が何かに刺されたように痛くなって、すぐに看護師さんを呼んで処置をして貰ったけれど、どうしようもなくそのまま心臓も肺も止まってしまったのでした。

 その頃にトモさん達が呼ばれたのですが、トモさん達が病院に着いた頃には、マサさんはもう息をしていなくて、看護師さん達が色々な機械を使ったり、心臓マッサージをしたりしていたそうです。


 幸い、トモさん達が病院に着いて少しした頃、マサさんの心臓が動き出して、何とか生き返ったと言うことですが、本当に危なかったんだと思いました。

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