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ある子猫の回想  作者: 東風
13/24

1歳(夏から秋の巻)

ようやく梅雨が終わって、猫たちの遊び場が作られます。

でも暑い夏のために、結構厳しい状況ですね。

 なかなか梅雨が終わらなくて、毎日じめじめとして冷たい雨が降っていますが、トモさんが入院してから3日が経ちました。


 マサさんは毎日、トモさんのお見舞いで仕事帰りに病院に寄って来ます。

 生憎と病院が家から遠いので、お見舞いをしてからマサさんが家に帰ってくると、晩ご飯の時間よりも大分遅くなってしまいます。

 だからぼくのご飯もどうしても遅れてしまうんです。


 トモさんが入院しているのですから、マサさんがお見舞いに行くのは当然ですが、晩ご飯が遅くなってお腹が減るのはどうしようもありません。

 晩御飯の時間にはイッちゃん達が少しずつおかずを分けてくれますが、やっぱりマサさんのくれるご飯が待ち遠しくなります。


 そんな、お腹が減って仕方がない毎日が4日過ぎた夜になって、いつも通りトモさんのお見舞いに行って帰りの遅くなったマサさんが、トモさんを連れて帰ってきました。

 明日は手術だというのに、これにはイッちゃん達も吃驚しています。


「トモさんがお医者さんを信用できないって、手術をやめて帰ってきちゃったんだ。」


 と、マサさんが言います。


 その後、マサさんとトモさんがイッちゃん達に話すのを聞いていると、トモさんが入院前にお医者さんの言っていた、


「手術は全身麻酔で行います。煙草を吸っている人は痰が絡みやすいので、麻酔をすると痰が絡んで息が出来なくなることがあるから、手術前に1ヶ月間は禁煙すること。禁煙できないと手術は出来ませんから。」


 と言っていたことを守れなくて、家ではいつも通りに、病院でもかくれてタバコを吸っていたらしいのです。

 それで、今日になって明日の手術の為に手術前検査をした後、トモさんがお医者さんにその事を話したら、何人かのお医者さん達で話し合って、


「禁煙できなかったのは困りましたが、大丈夫でしょう。それに予約が詰まっていて、明日出来ないとまた半年位先になってしまいますから、頑張って予定通りに手術をしましょう。」


 と言うことになったんだそうです。

 でも、それを聞いたトモさんが、


「1ヶ月間禁煙しないと危険だから手術できないと言った。それなのに、禁煙していないのに手術するのはおかしい。」


 と言い始めて、結局お医者さんを信用できないということになったのだそうです。

 仕方ないのですぐに担当のお医者さんと相談して、手術はしないで薬だけで治すことになったので、その場で退院してきたということです。


「たしかに薬だけで治す事は出来るらしいけれど、とても時間がかかるし、本当に直るかどうかも判らないから、本当は手術したほうが早くて確実に直るんだけど、トモさんにも困ったもんだよ。」


 と、マサさんが溜め息混じりにこぼしていました。


 本当は近くの薬屋さんでお薬を貰わないと行けないのだそうですが、この日は帰ってきたのが遅かったので薬屋さんに行けませんでした。

 その為、次の日朝からマサさんが薬屋さんに行ってトモさんの薬を貰って来ましたが、その量を見て吃驚しました。

 こんなに沢山の薬を飲まなければならないなんて、とても僕には無理です。

 これから毎日、こんなに沢山の薬を飲み続けて、直るかどうか判らないのと、少し位無理をしてでも手術をして、もっと早く楽になるのとどちらが良いのでしょうね?


 それから少しして長かった梅雨も終わりが来ました。

 じめじめした雨の毎日が終わったと思ったら、すぐに蝉の声がうるさい、暑い夏が来ます。


 マサさんやイッちゃん達はいつも通りの毎日で、仕事や学校に行っています。

 トモさんも今まで通り朝ゆっくり起きると、洗濯や掃除といった家の中のことをやったり、適当にご飯を食べながらきちんとお薬を飲んでいます。


 お薬のおかげか、体の具合も大分良いようで、顔色も前のような真っ白ではなく、ちゃんと血の色がしています。

 ただ、暑いのは苦手なトモさんですから(寒いのも苦手だそうですが)、台所の窓を全開にして、その上扇風機もかけて、何とか頑張っています。

 そして、マサさんは梅雨の前に予定していた、僕たちの遊び場作りを始めるのでした。


 梅雨の間、ぬかるんでいた遊び場の地面も、夏の暑さですっかり乾いてかちかちになっています。

 そんなあるお休みの日、朝から出かけていたマサさんが車に沢山物を積んで帰ってきました。

 今の遊び場を作る時に使ったのと同じような管と大きな板や変な形の物がたくさんあります。

 結構重そうなのですが、マサさん一人で大丈夫なのでしょうか?


 僕がお手伝いすることは出来ないので見ているだけでしたが、結局マサさん一人で車から降ろすと、全部遊び場まで運んで、そのまま遊び場を作り始めました。

 今までの遊び場を一度壊して、地面に打ち込んであった管の高さをきれいに揃えると、同ような管だけど、打ち込んだ物よりすごく長い管を変な形の物でつないでいきます。

 その後、短い管を横に何本も渡して縦の管につないで、マサさんが乗ってもびくともしない位頑丈な枠を作りました。


 それから、マサさんはその枠に合うように、大きな板を切って枠の上にのせると、枠に捕まりながらしっかりと留めて屋根を作りました。

 後は、枠の周りを丈夫な網で囲って、枠のあちこちに高さの違う棚を作っておしまいにしました。


 此処までで丸一日かかっていますから、お昼に少し休んだだけのマサさんはかなり疲れたと思います。

 僕はのんびりとお昼寝をしながら見ているだけだったので楽な物でしたが、マサさんは汗をかきながら仕事をして、終わった頃にはすっかり息切れしていました。

 それにしても、イッちゃん達は別としてユキくんは工作が好きで、木を削ったりして色々作っていますが、こんな時は全然手伝いません。

 何でなのかは判りませんが、ユキくんがお手伝いしてくれたら、マサさんももっと楽が出来ただろうと思います。


 ようやく起き上がってご飯を食べ始めたマサさんに、トモさんが聞きました。


「猫たちの遊び場はこれでできあがりなの?」


「本当はもっと大きくするつもりだったんだけど、予定より材料費がかかりすぎたのと、体力的に限界だから、これ以上の拡張は秋にするよ。」


「残念ね。縦の大きさは倍位になったけど、横の大きさは前と変わらないから、やっぱり中で走り回るのは難しいわよ。」


「それでも、これで居間の窓を開けっ放しにしても大丈夫になったから、風通しも良くなって涼しくなると思うよ。」


 前の遊び場は、クロ叔父さんたちが頑張って、網の下の方に穴を開けたり、柱と家の壁の間に隙間を作ったりして抜け出せるようになっていました。

 でも、今度はマサさんがしっかりと作り直したので、前のように抜け出せる穴はもう作れないので脱走することは出来ません。

 網の目もすごく小さいので虫も入ってくる心配もないので一杯に窓を開けられますから、夜になって涼しい風が入ってきます。

 これならトモさんも大分楽でしょう。


「明日は地面を手直しして、雨が降ってもぬかるまないようにするからね。」


 マサさんは、明日も頑張るようです。



 結局、2日掛かりで僕たちの遊び場は完成しました。

 天井が高くなったので、途中の棚を使って追いかけっこも出来るし、棚の上でお昼寝することも出来ます。

 地面もすっかり直されて、雨が溜まらないようになり、草も植えられました。


 こうして僕たちの遊び場が新しくなったのですが、マサさんの疲れが大変です。

 出来上がった後、しばらく横になって、息を荒くしていました。

 僕が前足をおでこに当ててみると、すごく暑くなっています。

 ちょっと心配になりましたが、外が暗くなる頃には元気になったのか、起きて晩ご飯を食べていました。


 マックスお父さん達も出来上がった遊び場が気に入ったようで、窓から外に出ては棚の上に上がったりして遊んでいます。

 クロ伯父さんやハチ伯父さんは、前の遊び場にあった抜け穴を探していますが、しっかりと作り直してしまったので、何処にもありません。

 あわよくば抜けだそうと思っていたのでしょうが、残念でした。

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