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ある子猫の回想  作者: 東風
12/24

1歳(夏の巻)

梅雨って嫌だな~というお話です。


 季節が春から夏に近づいて、吹く風も南風に変わってきました。

 そんな南風に混じって時々西から吹く風に乗って、近くの公園から漂ってきていた桜の花の香りが葉っぱの香りに変わる頃、また長い雨の季節がやってきました。

 僕にとっては2度目の梅雨です。

 去年の梅雨の頃は、まだ家の外の事が良く解らなくて外に出て遊ぶ事もなかったから、降っている雨を家の中から見ているだけでした。

 でも、外で遊ぶことを覚えた今は、梅雨の長雨が目一杯うっとうしいと感じられます。


 僕はよく覚えていないのですが、アヤお母さんがいうには去年の梅雨より今年のほうが、沢山雨が降っているそうです。

 その上、風も強い日が多いので、せっかくマサさんに作って貰った居間の外の遊び場は、梅雨に入ってから、家の屋根から落ちてくる雨の滴と横殴りに降り込んでくる雨で、とても遊べるところではなくなってしまいました。

 何しろこの遊び場には屋根がないので、網で囲まれているだけのほとんど外と変わらない状態です。

 地面はマサさんが頑張って芝生を敷いてくれたのですが、それも毎日の雨で水浸しになり、歩こうと思うとお腹のあたりまで水につかってしまうので、とても外に出る事が出来ません。

 だから毎日、こうして窓から外を眺めるだけの日が続いています。


「やっぱり、このままじゃ駄目ね。せっかく作ったけど全然遊び場にならないわ。」


「まさか此処まで雨が酷くなるとは思わなかったな。水捌けについても計算違いだったよ。でも、梅雨が終わってくれない事には作り直す事も出来ないし、雨がやむ頃にはもともと本格的な物に作り替える予定だったから、結局新しく作り直すことになるんだよな。雨がやむまで遊べない事になるから、猫たちのストレスも溜まる一方だろうけど。」


 こうして外に出られなくなった今、唯一の救いは、マサさんが居間に作ってくれたキャットタワーです。

 トマト伯父さんたちもこのタワーを使って走り回って、追いかけっこをしたり、隠れん坊をしたりして気晴らしをしています。

 キャットタワーから上がれる書棚の上は、今ではハチ伯父さんの避難場所になっているので、クロ伯父さんは絶対に近づかないようにマックスお父さんにきつく言われていました。

 そのおかげで、ハチ伯父さんはゆっくり寝る事だけは出来るようですが、欲求不満になっているクロ伯父さんは、ハチ伯父さんに手出しできない分をネズミ叔父さんに向けるので、今度はネズミ叔父さんが大変です。


 クロ伯父さんに苛められて2回目の家出をしたネズミ叔父さんは、わずか2週間位で戻ってきました。

 家出中は食べるものも余り無かったようで、帰ってきた時は大分痩せていました。

 戻って来てからはご飯を食べては、居間の書棚の反対側にある大きなテレビ台の上に避難しています。

 でも、出来るだけ静かに過ごすために避難しているのですが、ここはクロ伯父さんがいつも使っている寝場所のすぐ近くなのです。

 うかうか寝ているといつクロ伯父さんがかかってくるか判らないので、ネズミ叔父さんはあまり落ち着いて寝ていることも出来ないようです。

 この分では、またネズミ叔父さんが家出するのではないでしょうか。


 そんなストレスが溜まる毎日が続いて、トマト伯父さんもマックスお父さんも、いいかげん我慢できなくなってきたようで、トモさんの足下に纏わり付いては、玄関に行ってトモさんをじっと見るようになりました。

 イッちゃん達が外に出ると時は、そうっと足下に近づいておいて、ドアを開ける瞬間に足下をすり抜けて脱走しようとしたりもします。

 そんな事がしばらく続くとトモさんもあきらめたのか、雨が降っていてもかまわずに、夜になると2匹ずつ外に出すようになりました。


 春が過ぎてもトモさんの体の具合は相変わらず良くならいので、時々マサさんといっしょに病院に行っていますが、ある日、マサさんがイッちゃん達にトモさんが今度手術をする事になったと話していました。

 その為にトモさんはしばらく煙草をやめないといけないのだそうです。

 でも、トモさんは煙草をやめられそうにありません。

 マサさんはとても困って、煙が出る火を付けない煙草の様な物を買ってきたり、煙草をやめられる薬を買ってきたりしましたが、あまり効き目はないようでした。


 やがて、梅雨が終わろうとしているある日、とうとうトモさんの入院する日が来ました。

 マサさんが入院に必要な物を色々揃えて車に乗せています。

 トモさんは自分の支度を済ませると、炬燵の上にノンちゃん宛のメモを置きました。

 この時にはもうイッちゃん達はそれぞれ学校や仕事に出かけていたので、今日の晩ご飯はレンジや冷蔵庫に入っているから、温めて食べるようにと書いておいたそうです。

 お見送りは僕たち猫だけですが、トマト伯父さんはトモさんがしばらく帰ってこないことを知っていたので、出かけるトモさんの足下に体をすりつけて、無事に帰ってきて下さいと伝えています。


「トマト、ちょっと行ってくるからね。大人しくしているんですよ。」


 と言って、トモさんはマサさんの車に乗って出発しました。

 猫しか居なくなった家の中では、みんな思い思いの場所で寝転んだり、ご飯を食べたりして時間をつぶします。

 流石に、今日はクロ伯父さんもネズミ叔父さんにかまいません。

 トマト伯父さんはトモさんが行ってしまって少し寂しそうです。

 テレビも止まって雨の音しかしない家の中は、少し薄暗くて時間が経つのがとても遅く感じられました。


 やがて、どれ位時間が経ったのか、ユキくんが学校から帰ってきました。


「ただいま!」


 と言って家に入ってきたユキくんでしたが、すぐに誰も居ないことに気がついたようです。

 背負った荷物を自分の机に置くと、居間の電気を付けて炬燵の上にあるおやつを食べながらテレビを見始めます。

 それから少しして、今度はイッちゃんが帰ってきて、その後はノンちゃんが帰ってきました。

 もう外はすっかり暗くなって、雨の音は少し小さくなってきましたが、降り止む気配もありません。


 ノンちゃんとイッちゃんがトモさんのメモを見て晩ご飯の準備を始めました。

 クロ伯父さんとハチ伯父さんがイッちゃん達の足下に纏わり付いて、何か貰えないかと聞いています。

 僕のご飯はマサさんが帰って来てからになるので、寝ているところから動きません。

 イッちゃん達3人がご飯を食べ始めて、その周りでトマト伯父さんやマックスお父さんがイッちゃん達からおかずを貰います。

 僕もお腹がすいてきたなと思ったころ、マサさんが帰ってきました。


「ただいま。」


「お帰りなさい。どうだった?」


「明日から2~3日は検査で、手術は週末になるんだって。手術後3週間位は入院だから、1ヶ月は入院することになるよ。問題は煙草をやめられなかったことだけど、お医者さんがどう判断するかだね。」


 そんな話をマサさんとイッちゃんでしています。

 どうやら、煙草のことで手術できるか判らないみたいですけど、手術するとしたらずいぶんと長い入院になりそうです。

 その頃、ノンちゃんはご飯を食べるのを一旦お休みして、マサさんの晩ご飯の用意をして、ユキくんはテレビを見ながらご飯を食べていました。ユキくんはいつもマイペースです。

 マサさんが僕のご飯の準備をしてくれて、一緒に「いただきます」をしました。

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