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ある子猫の回想  作者: 東風
10/24

1歳(春の巻)

チビもようやく1歳になりました。

おめでとうと言われ喜んでいましたが、大変な問題が起きてしまいます。

さてどうなりますか・・・

 長くて寒い冬も終わりが近づいているようです。

 毎日毎日降り続いていた雪が、だんだんと降らなくなってきたと思ったら、灰色の空からきれいなお日様が顔を出すようになりました。


 寒さが厳しかった2月が終わって、積もっていた雪もだんだん溶けてきました。

 3月に入って少しした頃、アヤお母さんが言いました。


「あの大きな地震から1年が経ったんだね。」


「アヤお母さん。大きな地震ってなに?」


「お前にも話した事があったでしょう?お前が産まれる少し前に、地震という地面が揺れる事があったのよ。それはそれは大きな地震で、人間ばかりか猫も犬も、牛や馬まで沢山死んでしまったの。お前が産まれてからも、時々揺れる事があったでしょう。あの揺れがもっと大きくて永津続いたのよ。覚えていない?」


「そういえば、良く揺れていたね。大変だったんだね。」


「本当に大変だったわ。何日も電気が消えて真っ暗で、ストーブも点かないから寒くてね。何より、ご飯が無くなってしまってマサさん達が自分が食べる分を分けてくれたの。お前が産まれていたら、もっと大変だったでしょうね。」


 たしかに、ご飯がないなんて僕にとってはそれ以上嫌な事はありません。

 でも、そんなに沢山の猫や犬が死んだなんて、とっても怖いと思いました。

 そして、僕が産まれる前で本当に良かったと思いました。


 それから、毎日だんだん暖かくなって、気がついたら地面が見えて草も生えてきています。

 やっと春がやってきたのです。


 僕が生まれた日が来て、やっと1歳になりました。

 体は産まれたときに比べるとずっと大きくなりました。

 それでも、マックスお父さんや伯父さんたちと並べてみればとっても小さくて、マサさんには


「大きくなってと言っても、縦には伸びなかったな。主にお腹周りばかり大きくなって、下半身太り?やっぱりチビはウサギだよな。」


 と言われました。


「それでも、早いものでもう1歳になったんだな。初めは小さすぎて、とても生きていけないと思ったけど。お祝いに今日は特別なご飯を出してあげるからな。待っていろよ。」


 そう言って、いつも食べているものと違うご飯をお皿に沢山出してくれました。

 お祝いのご飯はとっても美味しくて、こんなに美味しいご飯をお腹いっぱい食べられるなんて、まるで夢のようでした。

 アヤお母さん達からもお目出度うといわれ、イッちゃん達からもおやつを貰って、僕の誕生日はとっても良い日でした。


 新年早々入院したトモさんは、輸血で具合も良くなって無事に退院してからも、起きる時間や寝る時間に変わりありません。

 マサさんがどんなに文句を言っても、早く寝ることはありませんでした。

 そして、遅い時間に起き出すと、毎日、その時間に家にいたイッちゃんかノンちゃんにお手伝いして貰いながら、部屋の掃除やご飯の支度をしています。

 体の方はマサさんが心配したように、また、だんだんと具合が悪くなっているようですが、お医者さんから貰った薬を飲んでいるので前ほどには悪くはないようです。


 一度出て行ったネズミ叔父さんは、何日かして帰ってきたものの相変わらずクロ伯父さんに喧嘩を仕掛けられて、あっちこっち怪我だらけです。

 おかげで、見た目はすっかりボロ雑巾になってしまい、暗い雰囲気を撒き散らしています。

 マックスお父さんは乱暴になったクロ伯父さんを叱っていますが、クロ伯父さんはちっともやめようとしません。

 時々、マックスお父さんにまで掛かっていく事もあり、そのたびにマックスお父さんに返り討ちにあってはネズミ叔父さんで憂さ晴らししています。


 雪が溶けて、だんだん暖かくなって来ると、僕たちも外に出る事が多くなってきました。

 マサさんが作ってくれた猫専用の出入り口があるおかげで、トモさん達にお願いしなくてもいつでも外に出る事が出来ます。

 トマト伯父さんなんか一回外に出ると、2~3日位、帰ってこない日があるくらいです。

 その度にトモさんが心配しますが、何日かするとふらっと帰ってきて、ご飯を食べて寝てしまいます。

 一体何をやっているのか判りませんが、マックスお父さんも出かける事があるので、きっと外に面白いところがあるのでしょう。


 そんな感じで、しばらくのんびりした日々が続いていたと思ったら、また大家さんから電話が来ました。

 受けたトモさんは驚いていましたが、この時はどんな話だったのかは判りませんでした。

 この話は、夕方になってマサさんが仕事から帰ってきた時、トモさんが話してくれてようやく判りました。


「昼間、大家さんから電話があって、近所から苦情が出ているから猫を外に出さないようにって言うのよ。何とかしないと、部屋を出て言ってもらうって言うんだけど、どうしよう?」


「猫を外に出すなって?犬を放し飼いにしている訳じゃあるまいに、猫が外を歩いて何が悪いって言うんだ?大体近所からの苦情って何なんだ?」


「なんか、猫が庭に入ってくるのがだめだとか、色々言われているらしいんだけど。」


「他にも猫を飼っている家が有るよね?そっちにも同じことを言っているのかな?大体何処の家がそんなことを言っているんだ?」


「ちょっと判らないけど、多分後ろの家だと思うよ。なんか猫が嫌いみたいだから。でも、出すなと言われたのに、それを無視して出していたら、ここから追い出されるよね?」


「元々、猫を飼うことが気に入らないようだったから、難癖付けてでも追い出したいような感じだね。無視すると間違いなくそうなるような気がするよ。仕方ない、ここはしばらく猫に我慢て貰うしかないのかな。」


「ストレスが溜まるでしょうね。喧嘩がひどくならないと良いんだけど。」


 そんなとんでもない話でした。

 それから少しすると、また大家さんから電話があって、猫専用出入り口も外すように言われたため、僕たちは自由に外に出る事が出来なくなり、家の中だけで遊ぶ事になりました。


 初めのうちはトマト伯父さんたちも何で外に出してくれないのか判らず、戸惑っていましたが、しばらくするとだんだん苛々してきて、少しずつ喧嘩が増えてきました。

 何しろ、そんなに広くない居間と台所に6匹の雄猫が居るし、せまい方の部屋にも4匹の雌猫が居るのです。

 どうしてもお互いの居場所が重なってしまうので、近づきすぎては睨み合いや怒鳴り合いになることもあって、ネズミ叔父さんとハチ伯父さんは巻き込まれないように出来るだけ高いところに避難して、降りてこないようにしています。


 トモさんはそんな僕たちを見ているのが辛くなってきたのか、少しすると周りの家の目を気にしながら、夜1匹ずつ交代で外に出してくれるようになりました。

 それでも、先に出た猫が帰ってこないと出られないので、出られる時間が不規則になり、どうしても苛ついてしまいます。

 クロ伯父さんのネズミ叔父さん虐めはどんどん酷くなって、ある日外に出して貰ったネズミ叔父さんは、また、帰ってこなくなりました。


「だめだわ。このままじゃストレスで猫たちが大変な事になるわよ。」


「何とかして、外に出られるようにだけはしてあげないといけないな。」


「ちょっと考えたんだけど、居間の窓の外に、猫が遊べるスペースを作れないかしら?外の空気に触れられるだけでも気分転換になると思うんだけど。」


「出来ない事はないけど、ちょっと、時間とお金が掛かるよ。俺一人で作るのも大変だし。一応考えてみるけど本当にやってみるかい?」


 ある日、そんな話をマサさんとトモさんがしていました。

 そして、トモさんに頼まれたマサさんは、次の休みの日から居間の窓の表に出て、色々始めたかと思うと、部屋の中に戻ってきては紙に何かを書いています。

 何枚も何枚も絵のような物を書いて、時々どこかに出かけては、また紙に何かを書くといった事を続けていました。


 その間も、こちらの部屋では雄同士で唸り合い、隣の部屋では雌同士でどったんばったんと大騒ぎが起こり始めています。

 トモさんは、いつの間にか夜に2匹ずつ猫を外に出すようになり、いつ大家さんに文句を言われるかと、ビクビクしています。

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