僕はトイレに恋をした
それは突然の出来事だった。
昼寝をして夕方目が覚めた俺はトイレへ行った。
そこで水を流すためバーへと手をかけた途端身体に衝撃が走ったのだ。
俺は、その時 その瞬間にトイレに恋をした。
最初は勘違いだと思った。
いくら何でも、それは無いと自分で自分を小馬鹿にした。
だが同時に「俺はトイレに惹かれてる」とも強く感じたのだ。
俺は悩んだ。
いくら何でもトイレは無いだろと。
事実、他のトイレを見ても何も感じない。
だが、家のトイレだけは違う。
その清潔さを現す白いボディー。
寒くなると自動で尻を温めてくれる気配り。
狭い便所で堂々と君臨する猛々しさ。
そう、全てが完璧だったのだ。ただ一点 トイレだ という事を除けば。
そうこうしている内に時は過ぎ大学進学に伴い俺は一人暮らしをする事になった。
トイレと離れ離れになる寂しさと共にトイレへの気持ちから解放されるという気持ちもあった。
3月下旬、俺は長年過ごした家を トイレの元を離れた。
新しい家はワンルームながらも綺麗で心地好かった。
そして、トイレにも特別な感情を抱く事は無かった。
そうして一ヶ月が過ぎた。
段々とトイレの事を忘れ大学生活を満喫していた。
その日は春にしては異例の寒さを記録していた。
寒さに弱い俺は腹を壊しトイレへ駆け込んだ。
トイレに座った途端に安堵感が溢れる。
だが、その時気づいたのだ。
このトイレは俺の尻を温めてくれない。
その瞬間しばらく忘れていた実家のトイレの事を思い出し一滴の涙を零した。
その週末、俺は実家へ帰る事にした。
家族への寂しさは無かったが想い人に会えない寂しさを思い出してしまったから。
実家につくと家族への挨拶も程々に俺はトイレへ駆け込んだ。
久しぶりだな。今日俺の気持ちを伝えに来たよ。
そう心で呟く。
そして俺はトイレに全ての想いをぶつけた。
答えてくれないのは知っている。
だが想いを伝えたという満足感はあった。
熱くなる目頭を意識しながらトイレを出ようとすると独りでにトイレの水が流れ出した。
驚き振り返る。
その時触れたトイレは温もりで溢れていた。
あぁ…そういうことか。
俺は全てを悟った。
その悟りは間違った物だ。
だが俺は決心した。
自分の想いは曲げたくない
これが俺の生き様だ。
自分は何をしてるんだろうか。
そればかり考えて書いていた。
反省はしてるが後悔はしていない。