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マックとニックとくーちゃんと

作者: nianiania

「ここはどこ??」

 クマのぬいぐるみのニックが目を覚ますと見たがない景色が広がっていました。

 ニックは自分の手が動くことに気が付きました。そして、足も動かせることに気が付きました。

 クマのニックには可愛がってくれた友達のマックがいました。ニックという名前もマックがつけてくれたのです。ニックとマックはいつも一緒。ニックはマックが生まれた時の事も知っています。名無しのぬいぐるみに名前をつけえくれたのはマックでした。

「ニック、宜しくね。」

 あのニックの笑顔は、昨日のことのように覚えていました。しかし、ニックが今いるのはどうみてもマックの部屋ではありませんでした。隣には大きな壊れた冷蔵庫、その隣には汚れて破れたソファとクッション。そしてニックの目の前には割れた鏡がありました。その鏡にはうっすら汚れて、足が破けたぬいぐるみが写っていました。

「あんな所にも捨てられたぬいぐるみがいる。 可愛そうにボロボロだ。」

 ニックはゆっくり立ち上がるとその可愛そうなぬいぐるみもニックに気が付いて近づいてきました。

 一歩、一歩、二人の距離は縮まっていきます。二人の距離がなくなった瞬間、ニックは思わず下を向いてしまいました。そう、そのぼろぼろなぬいぐるみは鏡に映ったニック自身だったのです。ここに一人ぽっちなこと。マックがいないこと。大好きなマックに捨てられたこと。そして、何より今このタイミングで自分が動けるようになったこと、全てが悲しくなってきました。

「マック、何してるのだろう。」

 ニックはそう思った瞬間に体がうずうずしてきました。もしかしたら、この動けるニックを見たらマックはまた一緒にあそんでくれるかもしれない。ニックは急いでマックの部屋に向かいます。しかし、部屋からほとんど出たことのないニックにはこの大きな大きな道は果てしなく続く迷路のようでした。ニックはほつれた足を支えながら、ゆっくりと歩きだしました。一歩、また一歩ニックは必死で足を動かしました。まだ、慣れないからか思うように足は動きません。それでもニックの思いはただ一つでした。何が何でももう一度マックに会うこと。

 しばらく歩いてると、ニックは不安になりました。そう、迷路は前だけでなく後ろにも続いてることに気が付いたのです。この迷路に間違えていたらマックには会うことが出来なくなってしまいます。

 ニックはただ、その場に立ち止まることしか出来ませんでした。

 すると、どこかからか子供の声が聞こえてきました。ニックはその声に導かれるように、足が動きました。

 子供に着いて行くと、目の前には見たことのある風景が広がっていました。たくさんの子供たちが走り回り、笑っています。

「ここ、マックと一緒に来た。」

 ゆらゆら揺れるブランコに一緒に乗った記憶が、ニックの脳裏を横切りました。

「もしかしたらマックはここに来るかもしれない。」

 ニックはベンチの下で、マックを探し始めました。

気が付くとあたりは真っ暗になっていました。ニックは、マックのいない真っ暗な公園で怖くて動けなくなりました。

「そういえばマックも真っ暗が大嫌いだったな。」

 それは、マックが初めて一人で寝る日の事でした。

「おやすみなさい。」

 マックのお母さんとお父さんはそう言うと、電気を消して部屋を出て行きました。

 すると暗くなった瞬間、マックは僕をギュッと抱きしめて言ったのを鮮明に思い出しました。

「ニック、僕は真っ暗が怖いんだ。 何かあったら僕を守ってくれる?」

 その言葉を思い出すと、ニックはマックの事が心配でたまらなくなりました。

「きっと、怖がってる。 きっと、僕を待ってる。 だから、僕は動けるようになったんだ。」

 ニックは自分を励ましながら、真っ暗な公園を歩き始めました。真っ暗な道路は、歩いても歩いても闇しか見えません。

「やっぱりダメなのかな。」

 何度も諦めかけたニックを、それ以上に何度も奮い立たせたのはマックのあの笑顔でした。

「だめだ、僕がマックを助けるなきゃ。」

 初めて動かした手、足。初めて感じた痛み、辛さ。初めて感じた生きること。人形だったニックには到底考えられなかった事がいま、全て自分に起きていました。

「動けることって、こんなにも辛かったの?」

ニックはふと自分がなんで動けるようになったのか不安を感じました。今までは、ただマックへの思いから希望しかなかった気持ちが、今は動けることが怖くなったのです。

 遠くでは犬がうぉーん、うぉーんと鳴いてるのが聞こえてきました。

「もう、嫌だ。暗いし、痛いし、僕は結局は捨てられたただのくまの人形なんだ。」

 そう言うと、ニックはその場にしゃがみ込みました。そのまま真っ暗な道の真ん中で、ニックはそっと目をつむりました。

 ふと、気が付くとニックの目の前は明るくなっていました。ニックはゴロンと横になったまま、瞼の明るさだけを感じていました。ただ、目を開けるのは怖くて仕方がなかったのです。

 もしかしたら、目の前には大きな犬がいるかもしれない。もしかしたら、誰かの大きな足が僕を踏みつけるかもしれない。もしかしたら、マックがいるかもしれない。もしかしたら、マックは僕を呼んでるかもしれない。そう思った瞬間、ニックは思わず目を開けました。もちろん目の前には誰もいません。ニックは大きくため息をつきました。

「あれ? くまちゃんがおちてる。」

 後ろから女の子の声が聞こえました。目の前の女の子はニコニコしながらマックを見つめました。

「あっ。 足けがしてるね。家で直してあげる。」

 そう言うと、ニックを優しく抱っこしました。ニックは戸惑いながらも、ただそのぬくもりからは逃げられませんでした。女の子はニックにずっと話しかけてました。

 ニックは女の子の腕の中で見慣れた風景に驚きました。そう、女の子の家の近くがマックの家だったのです。

「マックに会える。」

 ニックの中で、その思いはドンドンと膨らんできました。

「くまちゃん、着いたよ。」

 女の子はそう言うと、玄関を思い切り開けました。

「ただいま、ママー。」

 パタパタと走りながら、女の子はお母さんを探しました。

「おかえり。 あら?その子は?」

 女の子のママはそう言うと、ニックを指さしました。

「これね、迷子みたいなの。 でも、あんよ痛そうでしょ? 治してあげたいの。」

「そうね、ちょっと待っててね。」

 女の子のママはそう言うと大きな裁縫道具を持ってきました。

「ほら、貸してごらんなさい。」

 女の子のママは手を差し伸べて言いました。

「ママ、この子は私が治してあげたいの。 ダメ?」

 女の子のママはその言葉に驚いた様子でしたがすぐに、大きな裁縫道具を女の子に渡しました。

「そんなこと言うの初めてね。 そんなにくまちゃんが好きなの?」

「うん!このくまちゃんなんか寂しそうだったからね、私がいっぱい抱きしめてあげたかったの。」

 ニックはその言葉に胸がイッパイになりました。

 女の子は大きな裁縫道具と、小さなニックを大切に持ちながら椅子に腰かけました。

「痛かったらごめんね。」

 そう言うと、針と糸を取り出し慣れない手つきでニックの足を縫い始めました。ニックはそんな女の子の目をずっと見ていました。

「出来た!!。」

 女の子が大きな声で叫びました。気が付くと辺りはもう真っ暗になっています。

 ニックは変わらずずっと女の子の目を見つめていました。

「くまちゃん、鏡はこちらです。」

 女の子は大きな鏡の前にニックを座らせました。

「ごねんね、ちょっと?じゃないかな。 かなり?曲がっちゃったの。 ママに頼めば良かったね。」

 そういうと女の子はニックを優しくさすりました。

 みんなが寝静まった夜中、ニックは女の子のベットの中で考えていました。

「マックに会いに行かなきゃ、ダメ。」

 何度も、何度もニックは自分に言い聞かせました。

「おはよう、くまちゃん。」

 女の子はそう言うと、手を伸ばしました。

女の子は布団をめくりあげ、大きな声で呼びました。

「あれ? あれ? くまちゃん、くまちゃん。」

 その頃、ニックは必死で走っていました。そう、ニックはマックの家に向かっていたのです。

 ニックは玄関に着くと、上を見上げました。

「ニック・・・?」

すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえました。

 ニックはゆっくりと振り返ると、マックは目を大きく開いてニックを見つめていました。

「マック。 僕話せるようになったんだ。 僕、どうしてもマックに会いたかったんだ。」

 マックはただ無言でニックを見ていました。その目は少し寂しげでもありました。ニックはそんなマックにただ話しかけ続けました。

 マックはゆっくりと口を開きました。

「ニック、本当にご・・。」

「マック、僕といてくれてありがとう。 僕マックに会えて幸せだった。 これが言いたかったんだ。 僕ね、もうマックといられなくなったんだ。 ごめんね。」

「ニック・・。」

「僕、もう行かなきゃ。 マック、バイバイ。」

 そう言うと、ニックはマックに背を向け思い切り走り出しました。

「ただいま。」

 ニックはそう言うと、女の子のベットのそっと潜り込みました。

「くまちゃん、くまちゃん。」

 女の子はまだニックを探していました。

 女の子はベットの中で隠れていたニックをようやく見つけると、思い切り抱きしめました。

「見つけた! そうだ!あなたの名前はくーちゃんね。くまのくーちゃん! 私の名前はみいな。 宜しくね。」 


   

 






 

  


 


 

 




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