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【食欲不振】-第八話-

 夕方になっても灯りの点かない部屋

 

 母は、わたしが寝ていると思っていたのだろう。

 一度も覗きに来る事もなく、家事をしているようだった。


 ベッドの上に座ったまま、考えても、考えても、答えなど、でるはずもないのに考え込む。


『わたしは誰の子なんだろう?』

『この人達は、どうしてわたしを引き取ったんだろう?』

『一生騙され続けるのだろうか?』


 頭の中でグチャグチャになった考えが一人歩きして勝手に捨て子だと決め付けていた。


 どれくらいたったのだろう?母が部屋のドアを開けた


「なぁに? 起きてたの? 真っ暗にして何してるの?」


「……かんけいないじゃん……」


「えっ? なに? 聞こえないよ」


「関係ない! って言ってんだよ!」


「何も怒鳴らなくてもいいでしょーが! ご飯だよ!」


「いらない!」


「あっ、そう! じゃー勝手にしなさい!」


 ブツブツ言いながらドアを閉め、母は階段をドンドンと大きな音をたてて降りていった。


『もう、信じられない! わたしに家族なんてないんじゃない!』

『あたしの本当のお母さんって、どんな人だろう……』


『あっ! でも、前にお母さん言ってたな! 歳をとってからできた子供だから…って』


 それで『養女』になってるのかもしれないと思ったわたしは少しだけ気持ちが楽になった。

 けど、お腹はすかない。

 お風呂に入ろうと階段を降りると、皆が夕飯を済ませた後だった。


「ほらー! お腹すいたでしょ! 早く食べなさい」


「すいてないよ! お風呂に入るの!」


「本当にいらないの? 片付けちゃうからね」


 わたしは無言のまま通り過ぎ、お風呂に入った。

 お風呂から出て、部屋へ行こうとした時に、母に呼び止められ、正史から電話があった事を聞いた。


『なんてタイミングいいんだろ』

『やっぱり! わたしを救ってくれるのは正史だ』


 早く話しがしたくて、急いで部屋へ行き電話をした。


「もしもし」


「おう!風呂入ってたのか?」


「うん……」


「あれ? 元気ねーじゃん」


「んー……何だか家にいるのがつまんない」


「ばーか! みんな一緒だよ! 美女だけじゃねーよ」


「そうかなぁー……」


「そうだよ! オレだって家に居たってつまんねーぞ」


「正史さー保険証ってみたことある?」


「保険証? ねーよ! 急に保険証って何だよ? 何かあったのか?」


「ん? なんでもない!」


「なんだよー へんな美女!」


「あはは! 今日はさー歯医者に行ったのよ。それで聞いてみた」


「それだけ?」


「そっ! それだけ」

「それより夏休みもうすぐじゃん! 正史は毎日、部活あるよね?」


「あー! 三年引退だもんな! あるだろうなー」


「お弁当つくってあげようか?」


「マジでー! でも、いいよ! 美女んちだって大変じゃん!」


「毎日って言ってないよー! た・ま・に」


「ヤッター! 俺、ヤル気になってきたー! 毎日の部活楽しみだなー」


「あはは! じゃー明日、学校でね」


「おう! 明日な!」


「あっ! 正史は、わたしのこと好き?」


「なっ…なんだよ…いきなり…わかってるだろ!」


「今日は、ちゃんと言って! 聞きたいの〜」


「……好きに決まってんだろ! じゃーな!」


 この電話で、わたしは救われた。

 正史は何も知らないし、わたしも言うつもりはなかった。

 いつもと同じように、わたしと話すために電話をくれ、わたしのことを好きだと言ってくれて、わたしの存在する意味を与えてくれた人


 その夜は、いつもより何十倍も正史のことを考えながら布団に入った。


 

 次の日の朝、目覚めると、昨日の嫌な気持ちではなく、学校での事ばかりが頭に思い浮かび直ぐにでも家を出たい気持ちになっていた。


 いつものように身支度を整え学校へ向かう


「あれ! 今朝も食べないで行くのか?」


「いらない!」


 お腹など空いていない。

 それより一分でも、一秒でも早く学校へ行きたかった。


 教室へ入り友達の顔を見ると気分爽快!


「おはよー! 美女きのう顔色悪かったけど大丈夫?」


「うん! へいきー」


 奈美が心配して駆け寄ってきてくれた。『友達っていいなー』改めてそう思った。

 授業も四時間目が終わり、給食の時間になった。


 昨夜も、今朝も食べていないのに、食欲がない。

 食べたくないばかりではなく、食べ物が目の前にあるのが気持ち悪い。

 胃液が上がる感覚があり、ハンカチで押さえていた。


「どうしたの? 気持ち悪いの?」 


「うん」


 隣の席の子が先生に伝えに行くと、こちらに目をやり先生が近づいてきた。


「夢乃、大丈夫か? 保健室で少し休むか?」


「そうしたい」


「そうか! 大丈夫か? 一人で行けるか?」


 すると後ろの方の席から、奈美が立ち上がり近づいてきた。


「先生! あたしが連れていく」


「そうか! じゃー頼んだよ」


 奈美は、わたしを支えるようにして保健室まで着いてきてくれた。

 保健室へ行き、ベッドに横になる。

 先生がいなかったので、職員室まで迎えに行ってくれた。


「奈美! ありがとう。もう大丈夫! 給食食べちゃって」


「でもさ……」


 すると保健の先生が


「大丈夫よ! 後は先生がついてるし、ありがとう」


 その後は、熱を計りながら、先生にいろいろ聞かれた。

 いつから気持ち悪いのか?

 食欲はあるのか?


「熱はないみたいね。風邪かしらねー?」

「早退する?」


「えっ! 早退はしない!」


「そうー、大丈夫?」


「少し横になってれば大丈夫です」


 その時、チラッと頭の中に昨日の事が思い出された。


「ねー先生ー」


「どうしたの?」


「戸籍ってあるじゃん! あれってさー、歳をとった人の子供って、養女になるの?」


「えーっ! ならないよー! 子供は子供だもの」

「長女とか次女とかってなるのよ」

「養女とか養子っていうのは、また別なのよ」

「どうしてそんなこと聞くの?」


「ん? なんでもないよ。そんなドラマ見たからさ」


 すると、また吐き気がして、トイレに駆け込んだ。


『やっぱり! やっぱり! あたしは拾われた子なんだ』


 昨日より激しい嫌悪感!絶望感!暫くトイレから出られなくなった。

 保健の先生がトイレまできて、声をかけてくれた。


「夢乃さん! 酷そうだから今日は帰ったほうがいいわよ」


「いやです! もう少し様子みます」


 すると保健の先生がトイレから離れていく足音が聞こえた。


 落ち着いてきてから保健室へ帰ると、担任がいた。


「夢乃……今日はおかしいぞ!」

「保健の先生から聞いたけど、家に帰らないって……何かあるのか?」


「やだなー! 先生までそんなこと言って〜」

「なんにもないよ! 正史と帰りたいだけ」


「なんだよぉ〜! それだけで残りたいのか?」

「あはは! お前達はまったく!」

「でも、冗談が言えるなら大丈夫だな!」


 そう言って担任は教室へ戻っていった。


 わたしと、正史の付き合いは、先生達も知っていた。

 そんな状況は、二人にとって、照れ臭いような、嬉しいような


 昼休みになり、正史が保健室に来た。担任が教えてくれたらしい。


「美女! 大丈夫かよ! 俺は大丈夫だから、家に帰れよ」


「うん……違うの……」


 その時、正史に話したかった。

 でも、保健の先生も聞いてるし、うつむいたまま涙がでてしまった。


「こらぁ! 正史! 女の子泣かすの10年早いぞ」

「正史は言い方がキツイんだよ」

 

 保健の先生に軽く注意を受けてしまった正史


「おれ? 美女ごめんな! そんなつもりじゃねーよ」


 わたしは、『わかってる』って言いたかった。

 でも、何か言葉を発したら、正史に全て言いたくなってしまう。

 胸を借りて泣きたくなってしまう。

 そんな思いでいっぱいで、布団を被ったまま何も言ってあげられなかった。


「さー! 正史も、教室帰って! 夢乃さん、少し休ませてあげなさいよ」


「う……うん……」

「美女! 帰りに寄るからな! ごめんな」


 そう言うと正史は行ってしまった。

 わたしの心の中は、自分の事なんかより、正史への申し訳なさで一杯だった。


 そんな事のあとだし、正史を放課後まで待つ事が、恥ずかしくなってしまい、午後の授業中に、早退をする事を決めて、一人で家へ帰る事にした。


 帰りの足取りは重く、でも、家に帰っても誰もいない。

 少しホッとして自分の部屋へ行き、ベッドに横になった。


――プルルルル…プルルルル…


 ウトウトしてしまったのか、電話の音で目が覚めた。


「はい、夢乃です」


「もしもし! 美女か?」


「あれ? 正史? どうしたの? 部活は?」


「これからだよ! 学校の公衆電話からだよ」


「そっかぁ! ごめんね、待てなくて」


「はぁー! よかったー! 美女に嫌われたのかと思ってたから」


「あはは! そんなわけないでしょ!」


「よし! これで安心して部活に専念できる!」

「あっ! ちゃんと寝てろよな! 夜、電話するよ」


「うん。頑張ってね! ありがとう」


 電話を切り、そのまま横になり、またウトウト眠ってしまった。

 母に起こされるまでぐっすりと



  


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