【疑問】-第七話-
恐怖の電話の事も、記憶が薄らいできていた。
部活、友人との遊び、オシャレ、恋愛、と興味ある事に毎日が楽しく、忙しかった。
その中でも、朝シャンには力いれてたかな。
朝起きると、まず一番初めにシャンプーをする。
香のいいシャンプーを探し、丁寧に洗髪。
その後は、部屋に戻り、髪に、オキシドールをスプレーで吹きかけながら、ドライヤーを使ってブローする。
髪の毛を茶色くしたいが、染める事ができない中学時代、先生に気付かれないように自然に色がぬけるように、オキシドールを使うのが流行っていた。
それから急いで制服に着替え、朝食はとらずに、両親と顔も合わせることなく、出かける。
自転車通には、ヘルメットを着用しなくてはならないという校則があったが、校門の少し手前までは着用せずに行く。
せっかく洗ってブローしたのにクシャクシャになってしまうのが嫌だったから。
こうして、何より一番気を使った髪、パーマや色の変化に、先生より早く気付くのが先輩達だ!
「ちょっと! あいつら髪の毛茶色いんじゃないの?!」
「あれって……ドライヤー焼けじゃないだろ?」
「一年のくせに生意気なんだよ!」
すれ違う時に、聞こえるように大きな声で注意される。
酷いときには、部室に呼び出され、トイレに呼び出され、文句を言われる。
シメ!ってやつだ。
わたしは、その頃、姉の存在もあったため、そんなに酷い事をされてはいないが、友人の中には、スカートを切られたり、自転車のタイヤの空気をぬかれたりと、我慢に耐えられないような事をされていた。
たぶん、その頃も家では、いろんな事があったはずだ。
けど……不思議と何も憶えていない……
わたしの記憶が、学校生活で、経験した事が大半を占めている。
うちでの記憶が無いのは
それが原因でなのか?
その後に起こった事が、衝撃すぎたからなのか?
それは今でもよく憶えていない。
衝撃の事実……
それは、中学二年の夏休み前からの私の疑問から始まった。
学校の歯科検診で虫歯が発見されたわたしは、歯医者へ通う事になった。
自転車で10分くらいの所の歯医者へ友人『奈美』と行く事になったわたしは、初めて保険証を親から預かった。
友達と待ち合わせをして、予約した時間に合わせて自転車を走らせる。
話しをしながらギリギリに受付に行き、奈美は診察券を渡し、わたしは保険証を渡して待つこと二〜三分
「夢乃さーん! 夢乃美女さん」
「あれ? 早くない?」
友達と顔を見合わせ、慌てて立って受付へ向かう
「夢乃ですけど……」
「あっ! 夢乃さん初めてですよね?」
「はい、そうです」
「じゃぁ、この問診表に記入してくださいね」
「はい」
なんだ!呼ばれたけど診察じゃないのか!
早く終わって、友達と遊ぶ時間が増えると思っていたのにガッカリ。
そんな事を考えながら記入し、受付の人に渡すと
「じゃぁ、これ、保険証お返ししますね」
「順番で呼ぶから、待合室でお待ちくださいね」
と、保険証を返された。
それを受け取り、待合室へ戻ると
「早い! もう終わったの?」
「違うー! 何か問診表みたいの書いただけ」
「なんだぁ!」
そう言ってるうちに奈美が先に呼ばれた。
話し相手がいなくなったわたしは、何気に手にしてる保険証に目をやりドキッとした
『えっ! この保険証……おかしい……どうして、わたしが養女になってるの……』
全ての音が耳から入らなくなり、目に映るのも養女という文字だけになっていた。
心臓は誰かにギューっと掴まれたように痛いような苦しいような感覚
肩をポンと誰かに叩かれ驚いた。
奈美だった。
「何してるの? さっきから呼んでるよ」
「あっ! うん……」
「まさか! 治療がコワイとか? 顔が真っ青だよ」
「ちっ……違うよ!」
急いで立って、診察室へ行く。
それからも頭の中には、養女という文字だけがグルグルと……
『養女ってなに? わたしは捨て子だったの? もらわれた子なの?』
治療途中に気持ちが悪くなったのを医者が気付いた。
「夢乃さん、大丈夫? 顔色悪いけど気持ち悪い?」
「はい……少し……」
「そうか……治療初めてだからな。今日はここまでにしておこう」
そう言って椅子を起こしてくれた。
その後は、よく憶えてないが、奈美とは遊ばず、一人で家に帰った。
正史に電話しようかと、悩み、考え、何度も受話器を持っては、置いて……と繰り返した。
そんな事言うのが恥ずかしい気がして、
今日見てしまったものは秘密にしておこう
両親にも気付かないふりをしていよう
誰にも言えない……わたしの中に封印してしまおう
そう、思ってしまった事が原因で、わたしの体までおかしくしてしまうとは、この時は考えもしていなかった