異世界転生とか無理なので、とりあえず寝かせてほしい
朝から眠くて眠くてぼんやりしながら、歩行者優先の横断歩道を渡った瞬間、猛スピードの車に私は跳ねられた。
「というわけで、貴女には別の世界に転生してもらいます」
「というわけ、じゃないわ」
一瞬のうちに、一面真っ白な空間に立っていた私は、ああ、死んだなと立ちつくしていたところ、突然現れた神様に異世界転生するよう言われた。
転生先はとある小説をベースにした世界なのだが、どうしても話が小説のように進まないらしい。
「何人か送ってはみたんだけどね~。揃いも揃って失敗するんだよ。何でわかんないのかな~。ヘタクソめが〜!」
神様は不思議がっているが、当事者と見てるだけ人間の違いが分かっていない。
私はスポーツ観戦で野次を飛ばしたりクイズ番組で答えられなかった人を馬鹿にする人達を思い出して不快になった。
「で、次は君に任せることにした!」
「断ったら?」
「魂が輪廻転生から外れて消滅するね」
「消滅……大歓迎だけど」
「え? 人生やり直したくないの?」
そう、異世界転生だの転移だので人生をやり直すなんて、結局は心が元気な人間がすることなのだ。
私はやり直す位なら、完全なる死という形で消滅したい。
もしも現実世界でやり直したとしても、私が私のままなら、人生を最善の方向に持っていける気がしない。もう何もかもに疲れていたのだ。
ただ自殺したりはこわいから、とりあえず生きていただけだ。
「消滅したいので、転生は無しで」
「困る困る!とりあえず頑張って!」
「ちょっ!」
パンッ!と神様が手を打った瞬間に目の前がぐにゃぐにゃに歪み始めて気持ち悪くて目を閉じた。
◆
「うううう……」
目を開けると、そこは薄暗くて埃っぽい物置小屋っぽいところだった。
視界がはっきりし、自分の服や腕や脚を見て息を飲む。
めちゃくちゃ細い。
骨と皮みたいな体は、動こうとしてもついてこない。
何が起きているのかわからない。
元ネタの小説も知らないし、状況を把握しないといけない。
しんどい。
面倒くさい。
……で、
話を聞かないアイツ。
ムカつく。
◆
「それで? 状況を把握したと同時に首吊って戻って来たと。なにその最速記録」
神様がふてくされている。
ひとまず得た情報は、
名前は、ルナマリア。
早くに母親が亡くなり、父親が再婚。
その義母と義妹になる連れ子の娘は魔女だった。
そして、ルナマリアは実は聖女だった。
そのことに気付いた義母は、父親を洗脳し、聖女の力を奪い自分の娘に与えていた。
魔女の力で美貌を、聖女の力で名誉を得た義妹は妃候補として第一王子の婚約者になった。
そして力を奪われたルナマリアは不治の病での療養として閉じ込められていたのである。力を奪われたとはいえ殺されていないのは、聖女の力はルナマリアの身体で生成されるため、殺すわけにはいかないからということだった。
なら、それなりに栄養与えて養ってあげてくださいよ。
カスカスでしたわ。
「見事に詰んでたんだけど?」
「そっから、大逆転してほしいんだよ!ハラハラドキドキしたいわけ!なのに、なんなの、やる前から戻ってくるとか〜」
神様は一方的に言葉を続ける。
「特別に聖女とは別に加護を付けるからさ!そういうのがあればクリア出来そう?!」
「……その前に聞くけど、神様ってさ、他にも居るの?」
「居るよー。作ったのは僕だけど、この世界の話は何柱かが見ててね。君の前世でいう配信みたいな感じかな」
「上下関係とかは?」
「あるよー。もしかして、僕より上位の神様からチートを貰いたいとか?それはちょっと流石に怒られるから。ごめんねぇ」
「今も見られてるの?」
「見てるよー。配信っぽくコメント欄とかあるよ。ホラ」
神様が指を空中で滑らせると、まさに配信動画のようなコメントが流れ始める。
『最短死亡記録www』
『草を生やす加護ならあげられるけどwww』
『何貰うの~?』
ここで私は畳み掛ける。
再挑戦なんてたまったもんじゃない。
「私、思うんですけど、私より、この神様本人が行けばいいと思いません?」
どこを見ればいいかわからないから、流れゆくコメント欄に向かって提案する。
「ホラ、ちょっと違うけど、転生特典に女神本人を連れてった小説があった記憶があって。そんな感じで、タイトルはそうだなー。~詰んでる聖女に転生した神様。チートで大逆転してざまぁします~みたいな」
『イイネwww』
『もう人間じゃやれることやってるし、退屈してたとこだし』
「待って!待って!それは無理!」
焦る神様を置き去りに、コメント欄は盛り上がる。
『コイツより、上の神、見てるー?』
『はーいwwwオマケで草を生やす加護も付けとくねーwww』
『wwwwww』
「そんな!やめっ……」
続けて叫び出しかけたところで、神様もコメント欄も消えた。
草を生やす神様に、ルナマリアに転生させられたのだろう。
よし、と小さくガッツポーズ。
「あれ?」
見ると自分の拳が透けていた。
足先も透けている。
「もしかして、消滅かな」
転生を断ったことになるのか。
まあ、いいや。
朝から、眠くて眠くて……死んでしまうほど眠くて。
死んでるはずなのに、ここに来てからも、ずっと眠くて仕方なかった。
立ってるのも、面倒臭くなったから、その場に寝転んだ。
「はー……眠い…………寝たら消滅するのかねぇ……………」
そして、意識は途絶えた。
◆
「あの馬鹿神、この魂が保護対象だと知らずに無茶させやがって。消滅寸前で保護できて良かった」
「彼女が最速で諦めて戻ってきたのが良かったですね。ちょっとでも頑張ってたら本来の体ではない器ごと消滅してましたよ」
「さて、消滅まで時間がない。さっさと癒しの輪廻に乗せるぞ」
「次は、良い主にたくさん甘やかされて愛される人生で、のんびりと魂の充電を──おやすみなさい」
そんな会話を知ることなく、私の魂は次の人生に送られていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
当方が、毎日毎日、眠くて眠くて……
そこから生まれたお話でした。
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※同シリーズ作品『監禁されてるけど、猫がいるのでわりと平気です』と世界観・登場人物が繋がっています。




