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『八咫の楔(やたのくさび)』 ー揺れないー  作者: fudo_akira


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7/8

八咫の楔 ― 日本の未来に楔を打つ

大きな事件なんてなくても、人の心は静かに変わっていく。

気づけば、昨日まで当たり前だったものが、今日は少しだけ遠い。

忙しさに紛れて見ないふりをしてきた違和感が、ふと輪郭を持つ瞬間がある。

この物語は、その“気づき”の手前で揺れる女性たちの話だ。

誰にも言えない心の温度を、そっと思い出すように読んでほしい。

深根会の本部は、

夜になると、

まるで世界から切り離されたように静かだった。

廊下の照明は半分だけ点いていて、

その薄い光が床に長い影を落としていた。

不動は、

会議室の中央に立っていた。

机の上には、

農業、医療、介護、技術、人口、経済……

すべての揺れを示す資料が積み重なっていた。

たくまは、

その資料の山を見つめていた。

どれも重く、

どれも避けられない現実だった。

九条玲子が、

ゆっくりと会議室に入ってきた。

彼女は、

三人の間に流れる空気を読み取り、

何も言わずに椅子に腰を下ろした。

しばらく沈黙が続いた。

その沈黙は、

誰かを責めるためのものではなく、

誰かを守るための沈黙だった。

不動が、

静かに口を開いた。

「……国の根が折れかけている」

たくまは、

その言葉にわずかに息を呑んだ。

不動は続けた。

「農業は乾いた黄色。

医療は深い青。

技術は淡い灰。

高齢化は冷たい青。

どれも揺れている。

どれも折れかけている」

九条は、

机の上の資料にそっと手を置いた。

「でも、

まだ折れてはいないわ」

その声は、

静かで、

けれど確かな強さを持っていた。

不動は頷いた。

「だから、

深根会は“楔”を打つ」

たくまは、

その言葉の意味を測るように

ゆっくりと息を吸った。

「……楔」

不動は、

窓の外の街を見つめた。

「自給できるものは自給する。

人が苦しむ仕事はロボットに任せる。

人間は“人間にしかできないこと”に集中する」

たくまは、

その言葉を胸の奥で転がした。

「……人間にしかできないこと」

不動は頷いた。

「誰かを思い出すこと。

誰かを支えること。

誰かと生きること。

それは、人間にしかできない」

九条が、

たくまの方を向いた。

「あなた、

“選べない”って言ってたわね」

たくまは、

視線を落とした。

九条は続けた。

「選べないままでもいいのよ。

大人はみんな、

選べなかったものを抱えて生きてる」

たくまは、

その言葉に静かに息を吸った。

九条は、

机の上の資料を指先で押さえた。

「でもね。

あなたが立ち止まった場所。

そこに、

あなたの“楔”があるのよ」

たくまは、

胸の奥に沈んでいた重さが

静かに形を変えるのを感じた。

「……僕は、

何をすればいいんでしょう」

不動は、

たくまの目をまっすぐ見た。

「立ち止まり、

揺れを拾い、

折れそうな場所に手を添える。

それが、

深根会の楔だ」

たくまは、

ゆっくりと頷いた。


■ 夜の街にて

会議が終わり、

不動はひとりで屋上に出た。

冬の夜風が、

コートの裾を静かに揺らした。

街の灯りは、

遠くで瞬いていた。

その光は、

彼の視界では 淡い緑 に見えていた。

希望の色。

不動は、

その光を見つめながら呟いた。

「国力とは、

人が“生きたい”と思える国の力だ」

その言葉は、

夜の空気に溶けていった。

たくまが、

屋上の扉を静かに開けた。

「……進むべき道は分かりません」

不動は振り返らなかった。

代わりに、

街の光を見つめたまま言った。

「進むべき道は、

誰にも分からない」

たくまは、

不動の隣に立った。

「でも、

進んではいけない道だけは分かる気がします」

不動は、

その言葉にわずかに頷いた。

「それで十分だ」

二人は、

しばらく街の光を見つめていた。

揺れは続いている。

けれど、

その揺れの中に

確かな“未来の実”が芽吹いていた。

深根会は、

その実を守るために動く。

そして、

次の世代へ静かに託す。


大人になると、恋も別れも、声を荒げずに静かに終わっていく。

その静けさの中で、自分だけが取り残されたように感じることもある。

けれど、痛みの正体に気づいた瞬間から、人は少しずつ前に進める。

ユキの物語は、誰かの過去の記憶と重なるかもしれない。

読み終えたあなたの心に、そっと寄り添う余韻が残っていたら嬉しい。

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