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『八咫の楔(やたのくさび)』 ー揺れないー  作者: fudo_akira


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4/8

八咫の楔 ― ロボットの揺れ

大きな事件なんてなくても、人の心は静かに変わっていく。

気づけば、昨日まで当たり前だったものが、今日は少しだけ遠い。

忙しさに紛れて見ないふりをしてきた違和感が、ふと輪郭を持つ瞬間がある。

この物語は、その“気づき”の手前で揺れる女性たちの話だ。

誰にも言えない心の温度を、そっと思い出すように読んでほしい。

工業地帯の空は、

冬の夕暮れにしては明るすぎた。

白い煙がゆっくりと上がり、

その向こうで、

ロボットアームが規則正しく動いていた。

たくまは、

工場の見学通路に立ち、

ガラス越しにその動きを見つめていた。

アームは迷いがなかった。

同じ角度、同じ速度、同じ音。

人間の手では到底できない精度だった。

隣に立つ工場長の男性が、

静かに言った。

「……人が足りないんです。

だから、こうするしかない」

その声には、

言い訳の響きはなかった。

ただ、

長い時間をかけて諦めに近づいた人間の声だった。

たくまは、

ロボットアームの動きを目で追いながら言った。

「人を減らすためじゃなくて、

人がいないから……ですか」

工場長は頷いた。

「若い人は来ない。

中堅は辞める。

残った人間で回すには、

もう限界なんです」

たくまは、

その言葉を胸の奥で転がした。

ロボットが仕事を奪うのではない。

人がいなくなった場所に、

静かに入り込んでいるだけだった。

工場長は続けた。

「ロボットは文句を言わない。

休まない。

でも……

人間の代わりにはならないんですよ」

たくまは、

その言葉にわずかに目を伏せた。

「どうしてですか」

工場長は、

ガラス越しにロボットを見つめた。

「人間は、

“誰かのために”働ける。

ロボットには、それがない」

たくまは、

その言葉を胸の奥に沈めた。


■ 不動の“濁りのない色”

深根会の会議室では、

不動がロボット産業の資料を読み込んでいた。

数字の並びは、

彼の視界では “透明に近い色” をしていた。

揺れの色ではない。

濁りもない。

ただ、

静かにそこにあるだけの色だった。

たくまが戻ってくると、

不動は資料から目を離した。

「……ロボットには、

濁りがない」

たくまは、

工場で見た光景を思い出しながら頷いた。

「ええ。

あれは……

敵じゃないと思いました」

不動は、

その言葉にわずかに目を細めた。

「ロボットは、

人間の“代わり”ではない。

人間の“枝”になれる」

たくまは、

その言葉をゆっくりと飲み込んだ。

「枝……ですか」

不動は頷いた。

「人が苦しむ仕事を、

人が壊れてしまう仕事を、

代わりに担う“枝”だ」

たくまは、

工場長の言葉を思い出した。

――人間は、“誰かのために”働ける。

ロボットにはそれがない。

けれど、

人間が壊れないために支えることはできる。

たくまは、

静かに言った。

「……ロボットは、

人間の“弱さ”を守るためにあるのかもしれません」

不動は、

その言葉に反応するように

わずかに頷いた。

「弱さを守れるのは、

強さではない。

仕組みだ」

たくまは、

その言葉を胸に刻んだ。


■ 技術流出の影

ROOT-LINEに、

技術担当の枝から新しい報告が届いた。

『国内のロボット技術者が、

次々と海外企業に移籍しています。

待遇ではなく、

“未来が見えない”ことが理由のようです』

たくまは、

その文章を読み、

胸の奥がわずかに痛んだ。

未来が見えない。

その言葉は、

彼自身にも向けられているようだった。

不動は、

その報告を読みながら言った。

「技術は、

人がいなければ残らない」

たくまは、

その言葉に息を呑んだ。

「……人がいなくなると、

技術も消えるんですね」

不動は頷いた。

「技術は“人の記憶”だ。

人がいなくなれば、

記憶も消える」

たくまは、

工場で見たロボットアームの動きを思い出した。

迷いのない動き。

正確な角度。

同じ速度。

けれど、

そこに“人の記憶”がなければ、

ただの鉄の塊だ。

たくまは、

静かに言った。

「……ロボットを守るには、

人を守らないといけないんですね」

不動は、

その言葉にゆっくりと頷いた。

「人を守るには、

仕組みを変えなければならない」

たくまは、

その言葉の重さを理解するまで

少し時間が必要だった。


■ 第三幕・前半の終わり

不動は、

窓の外の工業地帯の光を見つめた。

その光は、

揺れていなかった。

濁ってもいなかった。

ただ、

静かにそこにあった。

たくまは、

その光を見ながら思った。

――人間は、

壊れやすい。

だからこそ、

支える仕組みが必要なのだと。

不動は、

静かに言った。

「ロボットは、

人間の未来を奪わない。

人間の未来を“支える”」

たくまは、

その言葉にゆっくりと頷いた。

揺れは続いている。

けれど、

その揺れの中に

“新しい枝”が見え始めていた。


技術開発センターの会議室は、

白い壁とガラスだけで構成されたような、

無機質な空間だった。

たくまは、

技術者の退職理由が並ぶファイルを

黙ってめくっていた。

「待遇ではなく、未来が見えない」

「技術が残らない場所にいたくない」

「自分の手で作ったものが、誰のためになるのか分からない」

どの文章にも、

怒りはなかった。

ただ、

静かな諦めだけがあった。

不動は、

その文章を横から覗き込み、

わずかに眉を寄せた。

「……色がない」

たくまは顔を上げた。

「色が、ない?」

不動は頷いた。

「怒りも、悲しみも、迷いもない。

ただ、空白だ」

たくまは、

その言葉を胸の奥で転がした。

空白。

何も残っていない場所。

選ぶことすらできなかった人たちの、

最後に行き着く場所。

たくまは、

ページを閉じた。

その動作は、

何かを弔うように静かだった。


■ 技術流出の核心

技術担当の枝・佐伯が、

会議室に入ってきた。

40代前半。

白衣の袖を少しだけまくり、

髪を後ろで束ねていた。

彼女は、

机の上に一枚の資料を置いた。

「……これが、

技術流出の核心です」

不動は資料を手に取り、

視界に広がる色を読み取った。

そこには、

淡い灰色 が広がっていた。

怒りの赤でも、

恐怖の青でもない。

ただ、

“疲れ切った人間の色”だった。

佐伯は言った。

「技術者たちは、

自分の技術が“誰のためになるのか”

分からなくなっているんです」

たくまは、

その言葉にわずかに息を呑んだ。

佐伯は続けた。

「ロボットを作ることは、

人を減らすことだと思われている。

でも本当は……

人を守るための技術なんです」

不動は、

その言葉に静かに頷いた。

「技術は、

人の弱さを支えるためにある」

佐伯は、

その言葉にわずかに目を伏せた。

「でも、

それを理解してくれる人が減っているんです。

だから……

技術者は、

自分の居場所を失っていく」

たくまは、

その言葉を胸の奥で受け止めた。

居場所を失う。

その痛みは、

彼自身も知っていた。


■ ロボットと人間の境界

不動は、

資料を机に置き、

ゆっくりと立ち上がった。

「ロボットは、

人間の仕事を奪わない」

たくまは、

その言葉の続きを待った。

不動は、

窓の外の工業地帯を見つめながら言った。

「ロボットは、

人間が“壊れないため”に存在する」

たくまは、

その言葉に静かに息を吸った。

「……壊れないため」

不動は頷いた。

「人間は、

壊れやすい。

だからこそ、

支える仕組みが必要なんだ」

たくまは、

工場長の言葉を思い出した。

――人間は、“誰かのために”働ける。

ロボットにはそれがない。

けれど、

人間が壊れないように支えることはできる。

たくまは、

静かに言った。

「ロボットは、

人間の“弱さ”を守るためにあるんですね」

不動は、

その言葉にゆっくりと頷いた。

「弱さを守れるのは、

強さではない。

仕組みだ」

その言葉は、

たくまの胸に深く沈んだ。


■ 不動の色の変化

不動は、

ロボット産業のニュースを再び開いた。

文字の色が、

先ほどの透明から、

淡い緑 に変わっていた。

たくまは気づいた。

「……色が、変わった?」

不動は頷いた。

「希望の色だ」

たくまは、

その言葉にわずかに目を見開いた。

「希望……?」

不動は、

窓の外の光を見つめた。

「ロボットは、

人間の未来を奪わない。

人間の未来を“支える”」

たくまは、

その言葉を胸の奥で噛みしめた。

揺れは続いている。

けれど、

その揺れの中に

“新しい枝”が見え始めていた。


■ 第三幕の終わり

佐伯は、

机の上の資料をそっと閉じた。

「……技術は、

人がいなければ残らない。

でも、

人が壊れないように支える技術なら、

未来に残せるはずです」

不動は、

その言葉に静かに頷いた。

たくまは、

胸の奥に沈んでいた重さが

少しだけ形を変えるのを感じた。

ロボットは敵ではない。

人間の弱さを守るための、

“新しい枝”だった。




大人になると、恋も別れも、声を荒げずに静かに終わっていく。

その静けさの中で、自分だけが取り残されたように感じることもある。

けれど、痛みの正体に気づいた瞬間から、人は少しずつ前に進める。

ユキの物語は、誰かの過去の記憶と重なるかもしれない。

読み終えたあなたの心に、そっと寄り添う余韻が残っていたら嬉しい。

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