表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『八咫の楔(やたのくさび)』 ー揺れないー  作者: fudo_akira


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/8

八咫の楔 -特別編- 根のゆらぎ、未来の芽

大きな事件なんてなくても、人の心は静かに変わっていく。

気づけば、昨日まで当たり前だったものが、今日は少しだけ遠い。

忙しさに紛れて見ないふりをしてきた違和感が、ふと輪郭を持つ瞬間がある。

この物語は、その“気づき”の手前で揺れる女性たちの話だ。

誰にも言えない心の温度を、そっと思い出すように読んでほしい。

深夜の東京は、冬の冷気をまといながらも、どこか湿った匂いを漂わせていた。

不動はビルの屋上に立ち、街の光を見下ろしていた。

その光は、いつもより“沈んだ黒”を帯びている。

胸の奥に、微かな痛みが走る。

触覚共感覚が反応している証拠だった。

「……また、歪みが始まっている」


不動は深く息を吸い、スマホを取り出す。

深根会のグループLINE〈ROOT-LINE〉には、枝たちからの報告が静かに積み重なっていた。

「農業データ、今年の収穫予測が急に下方修正されました」

「介護施設の事故件数、過去最高です」

「医療人材の海外流出、前年比で倍増」

「美容医療のデータが海外サーバーに転送されている可能性あり」

「食品価格、来月も値上げラッシュ」

どれも単体では“事件”ではない。

しかし、不動の視界には、それらの情報が 色の濁り となって重なっていく。

農業は乾いた黄色。

医療は冷たい青。

人材流出は薄い灰色。

物価高は赤黒い波紋。

それらが、街の上空でゆっくりと混ざり合い、

“国の根が腐り始めている色” を形作っていた。

不動は眉を寄せた。

「これは……誰かが誘導している色だ」


その瞬間、ROOT-LINEに新しい通知が届く。

『枝・たくま:農業データの流れに“嫌な感じ”があります。

前にも似た揺れを見た気がします。立ち止まった方がいいかもしれません』

不動は画面を見つめ、静かに頷いた。

たくまの“初動感覚”は、深根会の中でも最も信頼されている。

彼は未来を見通すわけではない。

ただ、「進んではいけない道」 を本能的に察知する。

その能力は、不動の医学的共感覚とは違う。

不動が“歪みの色”を読むなら、

たくまは“入口の違和感”で立ち止まる。

二人の能力は、深根会の循環の中で噛み合っていた。

不動は返信を打つ。

『たくま、その揺れは大きい。

農業だけじゃない。医療も、介護も、技術も……全部が同じ方向に傾いている』

既読がつく。

『了解です。

……不動さん、これ、国の根が折れる前兆じゃないですか?』

不動は、夜風に吹かれながら目を閉じた。

「ああ。

このままでは、日本は“自分の暮らしを自分で支えられない国”になる」


その言葉は、深根会の隊長クラスの女性・ 九条玲子 の言葉を思い出させた。

彼女は、深根会の中でも最も経験値が高く、

枝たちから“姉御”と呼ばれている存在だ。

不動は、数日前の会議を思い返す。

九条は、枝の若いメンバーたちを前に、

静かに、しかし強い眼差しで語った。

「やりたいことが見つからない?

そんなの、生きてるのに死んでるのと同じよ」


若い枝たちは息を呑んだ。

九条は続ける。

「自分の好きなことが誰かの役に立つと思えない?

それは視野が狭いだけ。

世界は広いの。あなたの“好き”が必要な場所なんて、いくらでもあるわ」


その声は、厳しさよりも温かさが勝っていた。

「孤独に生まれたなんて嘘よ。

あなたにはお父さんもお母さんもいたでしょう?

じゃあ、死ぬときはどうしたいの。

本当に一人でいいの?」


若い枝が震える声で答えた。

「……分かりません」

九条は微笑んだ。

「一人で生きるのは否定しないわ。

気を使わないし、楽だもの。

でもね――

誰かと一緒にいられるって、

気持ちが寄り添えるって、

とても暖かいのよ」


そして、深根会の本質を語った。

「私たちが守っているのは、

その“暖かい日常”なの。

誰かが誰かと一緒にいられる世界を、

続けていくために働いているのよ」


不動は、その言葉を胸に刻んでいた。

今まさに、

その“暖かい日常”が静かに侵食されようとしている。

不動はスマホを握りしめ、

ROOT-LINEに新たな指示を送った。

『全枝へ。

国の根が揺れている。

農業・医療・介護・技術・経済……

すべての揺れを統合する。

深根会として動く準備を』

既読が次々とつく。

深根会の静かな戦いが、

いよいよ“国家の根”へと踏み込もうとしていた。


大人になると、恋も別れも、声を荒げずに静かに終わっていく。

その静けさの中で、自分だけが取り残されたように感じることもある。

けれど、痛みの正体に気づいた瞬間から、人は少しずつ前に進める。

ユキの物語は、誰かの過去の記憶と重なるかもしれない。

読み終えたあなたの心に、そっと寄り添う余韻が残っていたら嬉しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ