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アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第二歌 刺青の青年は泳ぎ渇く
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第一楽章 教えて!テミス先生 ~魔物ってなぁに?~

細部を変更しました。


猪との距離 100m→250m

猪の大きさ 体長20m→全長20m

4月22日 プルガトルム北東部  


 雲一つない青空の下、一台の馬車が止まっている。

 馬車が歩く道の遥か前方には兎の群れ。……否、兎に似た姿の単眼の魔物の群れが、道を塞ぐように歩いている。数は20を超える程度だろうか。

 そんな群れに届くことのない男の声が、遠くから聞こえてきた。


静寂の火炎(ベルファイア)!」


 声の主はテミス・レターナー。魔法使いだ。

彼の魔法杖から放たれた音のしない静かな火球が、前方の魔物に気づかれることなく着弾した。


「——よし、命中!」


 火球を被弾した魔物たちは、なぜ自分たちが燃えているのか理解するまでもなく、一匹残らず灰になって消滅した。


「昨日は牛の二足歩行型、今日は兎っと。やっぱり北東部は魔物が少ないね」


 魔物の取り残しがいないか確認するため、アルバ達は馬車を降りて火球の着弾点まで歩いてきていた。

 アルバ達がペダンマデラを出発してから二日、彼らは既に魔物に二回遭遇していた。


「二回ともテミスの魔法だけで斃してるし、対魔物戦は魔法使いに任せるに限るな」


「……」


「でも、遠くの相手に正確に魔法を当てるの難しいんだよね。もっと上手くやれるといいんだけどなぁ」


 テミスはやや自虐的にそう話した後、三人は周囲の安全確認を終え、馬車に戻った。

 彼らが戻ってすぐ、御者は費やした時間の穴埋めのため、馬車を速く走らせた。



「ねぇ、『魔物』ってどうやって生まれるの?」


 休憩がてらの昼食を終え、馬車が歩き出した頃、カイヤは唐突に話題を切り出した。


(あたし)、初等学校までしか行ってないから、魔物についての学が少ないのよ。正教に引き取られてからは再度教育を受けさせてもらったんだけど、魔物のことは習わなかったし。だから、なんであんなに見た目がキモイやつしかいないのか、分かんないのよね」


 プルガトルムにおいて、義務教育とされているのは初等学校までである。12歳で初等学校を卒業し、そこから中等学校、学院と続くが、進路は本人の意思に委ねられている。


「え~とそうだな。話すと長くなるんだが」


「じゃあ、僕が授業をしてあげよう!」


「……いや、授業とかそんな大それたことはいらな——」


 カイヤの言葉を遮るように、テミスは勢いよく立ち上がる。


「名付けて、『教えて! テミス先生』のコーナー!」


 今にもラッパが鳴りだしそうな叫びだったが、馬車内は静まり返っていた。


「……」


「……諦めろカイヤ。こいつはそういうやつだ」


「オンオフが激しいって、人のこと言えないんじゃないの?」


「では生徒諸君。授業を始めます!」


「はーーい」


「……はーい。……なんか恥ずかしいわね……」


 テミスはうんうんと頷き、馬車内に大きな紙を広げて、授業を始めたのだった。




「まず初めに。実は魔物の発生原因は、完全に解明されていないんだ。だから、それを前提に授業をします」


「あ、解明されてないんだ」


「うん。まず、魔物の基本情報をおさらいするよ。魔物の定義は『各地に発生する、生命体を害する化け物』とされているよ。姿形は多種多様で、狼や鳥のような動物の姿もあれば、複数の顔を浮かべる犬。数は少ないけど、二足歩行型の豚や牛、武器を持ってる、もしくは肉体の一部分を武器そのものとする魔物もいるんだ」


「で、さっきの兎は単眼だったと。眼って顔の中心にあるとあんなに不気味なんだって、初めて知ったわ」


「魔物には生殖能力が無いから繁殖はしないんだけど、食欲と睡眠欲は持ち合わせているから、動植物の捕食や、寝床や食料確保のために村を襲うなど行う、迷惑な奴らなんだ。……ここまでで何か質問はありますか~?」


「「ないでーす」」


「ならよろしい。じゃあ次に、魔物の発生原因について話しますね~」


 少し先生のような声の出し方をしながら、テミスは話を続けた。


「実は、魔物の発生原因は『マナ』にあると言われているよ。この世界の空気中には『マナ』っていう極小の微粒子があるよね。つまり、『マナ』は僕たち人間を含めた、呼吸によって生命活動を行う、全ての生物の体内にも存在してるってことになるんだ」


「それは知ってる。だから私たち人間は魔法を使用できるんだよね?」


「そう。また、全ての生物は死亡した際に、微量にマナが体内に残ることが推測されているんだ。この死体に残ったマナのことを、『マナの残滓(ざんし)』と言います」


 カイヤは頷きながら話を聞き、アルバはそんなカイヤを眺めている。


「そして、『生物の死体に遺った『マナの残滓(ざんし)』が、ある一か所に集まり凝縮され、生物としての形を成すことで生まれる』、というのが、魔物の発生原因の現在有力な説なんだ。


「なーるほど」


「その説をより強固にしているのが、魔物の容姿や特徴なんだ。魔物は犬とか豚とかの色んな生物の姿に似た姿形が多いよね。その理由が、元となった生物の死体に遺ったマナの残滓を軸として、形を成したからなんじゃないか、と言われているんだ」


「つまり、さっき倒した魔物は『兎』に似てたから、さっきの魔物は兎の死体に遺ったマナの残滓を軸に、形を成したってこと?」


「そういうことになるね。カイヤさんすごい!」


「なんでそんな子ども扱いなの?」


「カイヤ、どうどう」


 子ども扱いに納得いかず拳を振り上げたカイヤを抑えながら、アルバが話を繋げた。


「だけど、そこで疑問となってくるのが、『なぜ人間の姿に寄った魔物がいないのか?』なんだ」


「っ確かに! 正教に保管されてる魔物表には、二足歩行型の魔物は少なからずいたけど、人間の姿に寄った魔物は載ってなかった!」


 カイヤは掌をポンッと叩いた。


「人の顔みたいのが張り付いた犬の姿や、豚の顔をした二足歩行型の魔物とかはいるが、人間の姿に寄った、二足歩行の魔物は発生していないんだ」


「あ~。確かに、そいつらとか昨日の牛の二足歩行型は少なからずいるけど……」


「人類が生態系の頂点に立ってから千年以上経つけど、その歴史の中で、一番死んだ数が多いのが人間だ。それなのに、人間の姿に寄った魔物がいないというのは、考えてみればおかしいことなんだよ」


「……もしやアルバって、頭良い?」


「良いも何も、元々アルバは歴史学者を志望してたからね」


「ええ⁉ そうなの⁉」


「うん。アルバの親父さんは学院の先生をやってて、兄のセイバさんは学院の生物学科の生徒。アルバ自身は運動なんか殆どしてなくて、本ばっかり読んでたよ」


「それで今、勇者やってるんだ……。アルバって、凄い人だったんだ……」


「……話を続けるぞ」


 アルバは軽い咳をして、二人を話に戻らせた。


「で、だ。それで学者たちは『人間の死体だけは『マナの残滓(ざんし)』が無い、もしくは極端に少ないのではないか』、と考えたんだ。人間という生物を特別扱いするようなもんだが、それが一番納得のいく理由だったんだ。……だが、戦争が終わった後、この考えに問題が起きた」


「問題?」


「人間の姿に寄った魔物が増えたんだよ。しかも、見たことのない姿のやつが」


「その話は僕から——」


「俺が一昨日戦ったのは、最近発見された、白肌の二足歩行型の魔物だ。顔が無くて、左腕が大きい武器の形、体長は俺より大きいくらい。顔が無いとはいえ、まさしく『人間』のような姿をした魔物だった」


 テミスは話題の主軸を自分に戻そうとするが、アルバは想像以上にヒートアップしていた。


「その問題を受け、一部の学者は『魔人族』の死体に目を付けた。戦争後は、人間の死体と魔人族の死体の数が多かったんだ。特に、北西部の砂漠地帯と『地獄の門』付近の南部では大規模な戦闘があったから、『今回の人型の魔物発生の原因は、魔人族の死体にある』ってのが、一部の学者たちの推測だ」


「でも、死亡者数は人間の方が圧倒的に多かったんだよね……。だから、魔人族の死体のみが理由だとは考えにくいって、反対してる学者もいるんだ」


「ちなみに、反対してる学者の推測は、『人間が多く死んだときのみ、人間の姿に寄った魔物が発生するんじゃないか』というものだ。人間のマナの保有量が他生物より少ないからこそ、こういう時に発生するっていう」


「話がややこしくなってきたわね……」


「……でも、戦争後に人間に寄った魔物が多く発生したっていう記録が無いんだよねぇ……」


「『一つ』だけ似た記録があったけど、あれは確証のない記録だしな……」


「……」


 カイヤは考えることを放棄したのか、上の空になりかけていた。


「俺の推測だが、おそらく人間族と魔人族は生物学的分類が似通ってる。一人当たりのマナ保有量の差異があるとはいえ、俺たちの祖先は同じだと考えていいだろう。……だから、今回は魔人族の死体も相まって、より人間に寄った魔物が発生したんじゃないかっていうのが、俺の推測だ」


「……僕たちと魔人族は、一体どういう関係性なんだろうね……」


「どうなんだろうな。『妖精族』の奴らに聞いたことあるけど、誰も知らなかった」


「……なんだか、魔物の授業が魔人族の授業になってきたわよ」


 正気を取り戻したカイヤは、話が切り替わったことに気付いたようだ。


「……もうこの話は終わりにするか。カイヤはもう飽きてるし、気分が陰鬱になる」


「飽きてないわよ⁉」


「話ってか、この授業を始めたのは僕だけどね⁉」


 その時、馬車が急に足を止めた。


「御三方、前方に魔物と思しき影が」


「ッ‼」


御者が三人にそう告げると、アルバは馬車の外を確認した。


「……いたぞ。前方に一匹」


 馬車から前方250メートルほどに、巨大な影が映っている。


「あれは……豚の魔物かな?」


「いや……イノシシじゃない?」


 アルバに続いて、テミスとカイヤも外に顔を出した。

 それは、イノシシの魔物だった。全長20メートルぐらいだろうか。巨大なイノシシは立派な双牙を携えて道に跨り、馬車を視線に捉えていた。


「……かなり強敵の予感がするな。よし、俺が先陣を切る。テミスは御者さんを避難させて、その後馬車から俺の援護。カイヤは馬車の中で待機で」


「いや、私も戦う。今から着替えるから、それまで待ってて」


「でも……カイヤって戦えるの?」


「それは後のお楽しみ。……覗いたら殺すわよ?」


「覗かないって!」


 カイヤは荷物置きへ向かい、テミスは御者を避難させる。アルバは剣の鞘を抜き、馬車の前に立って眼前の魔物を見据えた。






「港まであと数時間、旅の一旦の締めには、丁度いいだろ?」

次回は戦闘回です。

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