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アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第二歌 刺青の青年は泳ぎ渇く
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前奏 どうしようもなく自由な

 泳いでいる。

 俺は一人で泳いでいる。

 真っ青な海の中を、何不自由なく泳いでいる。


 手を伸ばした先には魚の群れが渦巻きながら泳ぎ、手を握ると群れの中から一匹の魚が手の平に入り込んでくる。

 その迷い子を口の中に放り込んで、骨や内臓ごと喰らいつくす。

 その直後、魚の群れに巨大な魚が突進してきた。

 巨大魚は群れの中の何体かを喰らい、海の底へ泳いでいった。

 陣形を乱された魚の群れは即座に元に戻り、まるで何事もなかったかのように、渦巻くように泳いでいる。


 ……ああ、こいつらはこんなに理不尽にあったとしても、同じことを繰り返すんだな。


 そんな風に考えながらも、俺は気楽に泳いでいる。

 どんな巨大魚も、毒針を持つクラゲも、吸盤で標的に貼り付くタコも、俺に対して何もしない。

 いや、何もできないといった方が正しいか……。

 

 息継ぎのために海から顔を上げると、白鳥の群れが俺の上でアーチを作っている。

 白鳥の群れなんて滅多に見られないのに、どうしてこうもタイミングがよいのか。

 そして、海が大きな波音を立てると、先ほど魚の群れを壊した巨大魚が海の上を飛び跳ねた。

 白いアーチは一斉に飛び散ったが、巨大魚は代わりの役割を担うため、俺の上にもう一度気休めのアーチを作った。

 巨大魚が海に落ち、気休めの時間は終わりを告げる。

 激しい水飛沫が顔中に勢いよくかかり、俺は再び海中に引き戻された。

 だが、それに不快さを一切感じることはなく、却って爽やかな感覚に襲われた。


 

 ああ、なんて眩しい日々だろうか。

 

 俺は、自由だ。

 

 俺はなんでも手に入れられる。なんでもすることができる。

 俺の行く手を阻むものはなく、誰であれ俺に手出しはしない。


 そんな幸福に浸りながら、俺は今日も、相も変わらず泳ぐのだ。




 それに『終わり』が来ることを、知っているのに—————。

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