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アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第一歌 旅立ちのペダンマデラ
7/15

間奏曲 12月30日の目覚め

 プルガトルム西部に位置する、とある農村。

 ワインの生産地でもあるこの農村では、先月ワインの収穫を終え、四方4国や正都などへの販売の時期に移っていた。

 人々は朝早くから起床し、販売するワインの荷造りや販売量の計算などを行っている。

 だが、その中でただ一人、家のベッドの上で横たわっている少女がいた。


「う~~ん。どうすればいいんだろう」

 

 少女は何か考え事をしているようで、もうかれこれ1時間もベッドの上から動けずにいる。


「私、あいつとほとんど関わりなかったしなぁ」


 横に流した銀色の髪をいじりながら、両足をもぞもぞさせていた。


「カイヤ~! そろそろ起きてきなさ~い!」


 そう外から話しかけるのは、少女の年の離れた姉であった。


「う~~ん。でも蔑ろにしたくはないし。かといってOKする気にもなれないし」


 しかし、少女には言葉が聞こえておらず、まだ髪をいじりながら横たわっている。

 しばらくして家のドアが開かれ、とんでもない足音が家中に響き渡った。


「カ~イ~ヤ~! おりゃあ!」


 少女の姉は思いっきり部屋のドアを開けて、少女に圧し掛かってきた。


「いっっっっった!! ちょっとお姉ちゃん! ノックくらいしてよ!」


「いいえしません~。私はそういう人なんです~。どぉ~れ、髪をいじってやろう。いじいじ~」


「ちょっマジでやめて! 今大事なこと考えてるから!」


 少女は圧し掛かって髪をいじる姉を押しのけて、鼻息をあげながらファイティングポーズを取る。


「もう、いい加減起きて荷造り手伝わないと、またお父さんに叱られるよ~。」


「あ~もう分かったから。すぐ着替えて外行くから、お姉ちゃんは先に外行ってて」


「え、なんで? 別にここで待ってればいいじゃん。外いる必要ある?」


「プ・ラ・イ・バ・シー!」


 少女は姉を部屋から追い出して、息を整えた後着替え始めた。


「ああもう。なんでこんなに節操がないんだか。あれで結婚してて子供いるなんてマジ? 私の将来が心配になるわ」


 姉への嫌みを独りで語りながら、少女は着替えを終える。

 ベッドの上で考えていたことのもやもやは、その時すでに頭から抜けていた。

 少女は部屋のドアを開けて、階段を下りていく。足音が響きやすい階段を下りるごとに、少女の気が楽になっていく。

 いつの間にか玄関の前に辿り着き、外に出ようとした時、ふと一人の『男子』の顔がよぎった。


「……まぁ、もう少しだけ、考えてみようかな」


 そう呟いて、彼女は玄関のドアを開けた。

 その瞬間……少女の視界は、白い世界に包み込まれた。


「………………え?」

 

 混じりけのない、白。それは、白色の巨大な存在が眼の前に現れたかのような、真っ白な視界だった。

 その状況を、14歳の少女が理解できるはずもなく……。



『——————————————』



 少女は少女の家と共に、遠くへ吹き飛ばされていった。






正教騎士団ゲイルスゲグルによる調査報告


 12月30日10時頃、プルガトルムにて『大蜘蛛(おおぐも)』出現。西部地域の一部を徘徊する。

 『大蜘蛛(おおぐも)』の徘徊ルートに入っていた全9つの村は全焼し、また徘徊ルートの9割が焼け野原となり、農作物、家畜、その他全て焼失。被害総額は現在計測中である。

 12月30日14時頃、『大蜘蛛(おおぐも)』姿を消す。、行方は未だ分かっておらず、何らかの方法で魔人族の世界に帰還したと推測される。

 また、被害を受けた地域で生活していた人々は遺体もしくは意識不明の状態で発見。

 人々の遺体には足に押しつぶされた形跡や、体の一部ないしは全身を焼かれた形跡が確認された。

 また、生存者は一人のみである。

 目撃した商人の男性曰く、『大蜘蛛(おおぐも)』の体長はおよそ100メートルを超えている。

 非常に大きい足で歩行しており、また腹部は巨大な『砲門』のような形をしており、そこから光線のような何かを発射していたようだ。

 魔法が使われた痕跡が残っていないため、光線のようなもの何かは特殊な原理によって生成されたものと推測される。

 また、『大蜘蛛(おおぐも)』の足跡には非常に小さい「鉱石」のような物質が発見された。



生存者リスト

「カイヤ・ディアル」生年月日:1282年4月2日 性別:女性

 吹き飛ばされた家屋の瓦礫の中に埋もれ、意識不明の重症の状態で救助。

 意識回復後に質問を行ったところ、当時、外に出るために玄関のドアを開けたところ、突然目の前が真っ白になったが、その後のことは覚えていないという。

 光線による衝撃波に巻き込まれ、自身の家と共に吹き飛ばされたと推測される。

 また、彼女の親族の遺体は回収できておらず、遺体は完全に焼失したと推測される。


 彼女は今後、修道院で孤児として預かるとする。

 しかし、精神的ショックによる何らかの発作や障害が起きることを避けるため、彼女の境遇に関する情報は正教の重役の者のみ知ることとし、他信徒や他孤児の者たちには秘匿するように。


以上


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