表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第一歌 旅立ちのペダンマデラ
6/15

第四楽章 旅立ち

ピザ屋『アルレッキーノ』 


 正都ペダンマデラの市街地の一角に立つ、開店一年目のピザ屋。新しさを感じさせないシックな内装が施された店内は、今日も大勢の客で埋め尽くされている。

 そんな店内のテーブル席で、三人は昼食を取っていた。


「そういえばカイヤさ——」


「呼び捨てでいいよ。敬語も禁止。私たち同世代みたいだし、そういうのは教皇様たちの前だけにしましょう?」

 

 テーブルにはブルスケッタが6切れと、生ハムとサラミの盛り合わせが置かれている。


「わかった。じゃ話を戻すけど、お前旅の同行を持ちかけた時、テミスに対してわざと良い子の振りしてただろ?」


「げ、バレてた?」


「え、そうなの?」


「だよな。多分出会った時に『あ、このくせ毛のやつ私に惚れたな?』とか考えたんだろ。途中でテミスに上目遣いした時に、『あっ、こいつ』って思ったわ」


「……じゃあ僕の目の前にいた可憐で清楚な人は、最初からいなかったってこと?」


 彼らの話に水を差すように、テーブルにピザが届く。アルバは店員にお辞儀をして、話の輪に戻る。


「そういうこと。カイヤも、仲良くしてくれるのは嬉しいけど、あんまこいつをからかうなよな。昔っから初心な奴だし」


「いや、僕もうこいつと仲良くなれる気がしないんだけど……」


「はいはい。あ、このピザめっちゃ美味しい!」


 カイヤの唐突な言葉によって、会話の的はテミスからテーブルのピザに向いた。


「っ! 確かにこのロマーナピザ美味しいな。トマトソースと塩味の強いアンチョビがよく合ってる。ピザ生地は味付けされてるし、こりゃ他のピザも美味しいぞ」


 今後を心配するテミスには目もくれず、二人はロマーナピザとブルスケッタをテミスの分まで平らげた。

 食べ終えたアルバとカイヤは目配せをして、互いに料理のメニューに標準を合わせた。

 テミスを除け者にしたまま、二人は食を通じて分かり合うことが出来たようだ。


「あの……僕の分——」


「「すいませ~ん! マルゲリータ追加で!」」

 


 昼食を終え大聖堂に戻るついでに、三人は各々に必要なものを買いに行った。

 アルバは模様が入った黒色のインナーと、それに重ねる白色の羽織を購入し、その場で着替えを終えた。

 テミスは家から魔法を使うための杖を持ってきて、杖に着ける装飾品と、小さいナイフを一つ購入した。


「やっぱ杖くらいは派手にしないとね。ナイフはほら、なんかおしゃれじゃん」


 カイヤは行きつけの店で、分厚い靴を購入した。靴の詳細は二人に教えなかった。


「何に使うかはお楽しみに」


 そんな買い物を済ませ、三人は軽快な足取りで大聖堂に戻った。



 大聖堂に着いたところ、騎士姿の背の高い男が彼らを待ち構えていた。


「アルバ・カーネイズ殿、少しよろしいでしょうか」


 どうやらアルバに大事な話があるようで、アルバは騎士と共に大聖堂の中へ歩いて行った。


「……ねぇカイヤ。なんで僕とお前だけ、外で待たされてるの?」


 カイヤとテミスの二人は、大聖堂前の広場前で待機を命じられていた。


「仕方ありません。アルバ様は勇者なので、大事な話があるのでしょう」


 カイヤは既にベールを被っており、先ほどの姿勢と言葉遣いに正している。


「……ずっとこの状態ならいいのにな……ってグホァ⁉」


「テミス様、何か言いましたか?」


 脇腹に肘打ちを喰らったテミスは、脇腹を押さえながら悶えている。


「……あの~カイヤさん、貴女ってもしや、力強かったりします?」


「いいえテミス様、(わたくし)はか弱いシスターですことよオホホホ」


 わざとらしい言葉遣いのカイヤと、横で悶えているテミス。

 そんなやりとりを繰り返すこと数十分後、二人は大聖堂内へ呼び出されたのだった。



「こちらは旅の準備を終わらせました。金銭や生活の必需品などの荷物を乗せた馬車は、すでに正門前に待機中です。また、訓練させた『伝書鳩』も馬車に乗せています。こちらとの連絡は『伝書鳩』か各地の信徒の者たちを通して行いますので、何かあった場合はすぐに連絡してください」


「了解しました。何から何までありがとうございます」


 テミスのその言葉に続いて、三人はエルルーン教皇に深々と頭を下げた。


「……では、最後に忠告を」


「忠告?」


 テミスが首を傾げる。


「昼食前に『大蜘蛛おおぐも』の話をしましたが、貴方たちはそれ以外の脅威と相対するでしょう。勇者セイバ率いる勇者軍が地獄の門を通った後、この世界に突如現れた、強力な魔人族たちを」


 真剣な面持ちで、彼女はその魔人族たちを口にする。

「水上王国メストリアを一日で降伏させた『あらし』、我々正教と『砂漠王国アマルナ』の連合軍と交戦した、魔人族軍の司令官『伯爵はくしゃく』、樹海地帯全域に現れた『よる』、山脈地帯に現れた『八人の騎士はちにんのきし』、そして『大蜘蛛おおぐも』……。勇者セイバが『地獄の門』を開けるのを待っていたかのように突然現れた、強力な魔人族たち……」


「「「……。」」」


「貴方たちは、彼らと相対しなければいけません。……世界を救うために、その若い命を使わなければいけません。だから、どうかご無事で。……いってらっしゃいませ」


 三人はもう一度深々と頭を下げ、大聖堂を後にしていく。

 初めての旅立ちに、テミスは少し浮足立ち、カイヤは神妙な面持ちで歩いている。

 だが、アルバは二人が合流してから大聖堂の広場を抜けるまで、一言も声を発することがなかった。

 そして、彼の幼馴染であるテミスは、その些細な異変に気付けるほど、賢くはなかった。

 


正都ペダンマデラ 正門前


 昼にアルバとテミスが再会を果たした正門前には、一台の馬車が止められている。

 アルバが騎乗していたバルキリーという名の馬は、すでにエトルブール村に返されていたようだった。

 三人は馬車に乗り込み、正教信徒の御者が馬車を走らせた。

 目的地は、プルガトルム東部に位置する『ガルーダ海』その港。


「初めて馬車に乗ったけど、意外と風を浴びるんだね~」


「え? あんた乗ったことないんだ。もっとバンバン乗って色々観光しまくってんのかと思ってた」


「……一体テミスは僕にどんなイメージを持ってるの? うちの両親は正教の騎士団に所属してたから、そんな時間なかったよ」


 アルバとテミスは横に並んで座り、反対側にはカイヤが肘をかけて座っている。


「そうなんだ~。アルバはどうなの?」


「俺は一人で馬に乗ってたぞ。よく兄と『セプテム』まで馬を駆けて遊んでた。ほら、あそこに見える大樹のとこまで『競争だ!』って言って」


 アルバが指さした先にあるのは、『セプテム』という名の大きな丘だ。かなり傾斜のある丘の頂上には、一本の大樹が添えられている。大樹の横には古びた椅子が立てられ、椅子に座れば壮大な丘陵の景色をゆっくり一望できる。


「……懐かしいな」


 セプテムを眺めながら、アルバは昔を懐かしむ。その刹那。



「……ッ! あっつッ!」



 急に声を荒げたアルバは、炎を振り払うように左腕を動かした。


「うわ! どうしたのアルバ?」


 驚きながらも心配するテミスだったが、アルバは左腕を押さえながら、冷や汗をかいていた。


「……ちょっと、幻覚?を見た……」


「……大丈夫? 馬車止めてもらう?」


 修道服の彼女は、普段とは違う優しい声をアルバにかけた。


「大丈夫だ。心配かけてすまん……」


 そう二人を安心させるアルバだったが、彼の瞳は左腕の包帯に向いていた。

 包帯の下には、炎のような形の刻印が一つ。


「……何だったんだ? 今の……」


 二人には聞こえないほどの小さな声で、アルバはそう呟いた。

 


 馬車は風に揺られ、馬たちは不調なく歩を進めている。

 旅の始まりには似合わない、邪悪な影を映して———。


これにて、第一歌終了です。

第二歌に入る前に、幕間を投稿します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ