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アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第一歌 旅立ちのペダンマデラ
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第二楽章 戦争、呪い、勇者

前回の会話から続きます。

「お久しぶりです、『エルルーン教皇』。今日はまだビール飲んでいないですよね?」


「ご心配なく。あなた方を見送った後、たっぷり飲ませていただきます」


「それでもまだ早い時間だと思うんですが……」


 そうテミスが口を挟むと、エルルーン教皇と呼ばれたビール好きの女性は軽く咳をして、閑話を終わらせる。


「失礼しました。早速ですが、本題に入りましょう。少々長くなりますが、よろしいですね?」



 空は雲模様を見せ、太陽は陰る。大聖堂内は薄暗くなり、重い空気に包みこまれる。

 エルルーン教皇は、殴り書きにされた大きな紙を広げて話し始めた。


「『正教』を成立させた、偉大なる王にして我らの神『ロマルス』の生誕から1295年が経過した頃、プルガトルム最南端に位置する『地獄の門』が開かれ、そこからやってきた『魔人族』と、我々『人間族』の戦争が始まりました」

 

 アルバとテミスはその場に膝をついて、エルルーン教皇の話を静かに聞いている。


 『正教』——この正都ペダンマデラを聖地とし、管理・運営などを行う宗教。

 プルガトルムにおいて、初めて大国を成立させた偉大なる王——『ロマルス』によって成立し、彼を神として崇める、世界中に信徒が存在する宗教である。

 プルガトルムの暦はロムルスの生誕以前と以後で分かれており、生誕以前は『明暦』もしくは『先史』、生誕以後は『暁歴』と名付けられている。


 今日は、暁歴1300年4月20日である。


「開戦から半年間、我々人間族は防戦一方を強いられました。しかし、『勇者セイバ』の台頭と、彼が武器とした『聖剣』の力により、我々は状況を巻き返しました。そして、彼率いる勇者軍は地獄の門を開け、魔人族の世界に侵攻しました」

 エルルーン教皇は続ける。


「しかし、それと同時に、魔人族の強者たちがプルガトルムに現れ、各地に甚大な被害をもたらしました」

 

 その言葉を聞いたテミスは、首元のペンダントを強く握りしめる。


「そして、暁歴1296年12月30日。勇者セイバは『魔王』と呼ばれる存在に敗北したと伝えられました。また、勇者軍の者たちは一人も帰っては来ず、戦争は終結しました」

 

 彼女が淡々と話すその言葉に、アルバはあの言葉を思い出す。


『勇者セイバは、魔王に敗れた』


 その短い言葉は、一体どれだけの人間の心を砕き、絶望させたのだろうか。

 

「そして、魔王は我々人間族に『刻印の呪い』をもたらしました。刻印が浮かんだ者は数年後に死亡し、傷つけた者は悍ましい魔物に変身するという呪い。この情報は、魔王の側近を名乗る『山羊頭の魔人族』から伝えられた情報ではありますが、現在刻印が浮かんだ者の数は人間族全体の『4割』を上回っていると推定されています」


「……そして、お二人の友人であるフレイゴール・ヌアロは、我々正教が確認した中で初めての変身者となり、我々の騎士団が討伐しました」

 

 フレイゴールは、正教が抱える騎士団によって苦しみから解放されたようだが、アルバはそれを聞いても何一つ表情を変えることはなく、ただ静かに話を聞いている。


「この一件から、私たちは『刻印の呪い』によって変身した魔物を『センザ・メオス』と命名しました」


「『センザ・メオス』……ですか」

 

 その名前に意図はないが、正教は耳に残る名前を命名したようだ。


「『センザ・メオス』になるのを防ぐため、我々は刻印がある者たちに包帯や装飾、装備などで刻印を隠させ不意の怪我による事故を減らすようにと、『4各国』と各村々に指示しています。それによって、刻印がない者たちへの不安を煽らないよう努めています」


 アルバが泊まっていたエトルブール村の宿屋でも、多くの人々が包帯などで刻印を隠していた。どんなに小さな村でも、指示はしっかりと届いていたようだ。


「ですが、この呪いが厄介なのは、いつ死ぬのか、どの位の確率で、どんな理由で化け物に変身するのか、治療法はあるのかが一切分からないところです。そのこともあり、人々はいつまでも不安を拭うことが出来ずにいます」


「また、他の問題も発生しています。戦争が終結してから三年間、我々は『他者への献身』の信念の下、戦争後は戦争で行き場を失った者にペダンマデラでの居住権と仕事を与え、また、孤児となった子どもたちを大聖堂で匿って教育を施してきました」

 

 孤児の問題はかなり深刻だ。

 孤児となった子どもたちの数は、戦争前と戦争後とでは大きく差が開いている。理由は解らないが、魔人族の者たちが基本的に子どもを手にかけることをしなかったからだ。

 しかし、その影響で孤児が増えたと捉えることもできるだろう。


「しかし、それらもただのその場しのぎにしかなっていません。『刻印の呪い』という不安の種がある以上、我々人間族に真の幸福が訪れることはないでしょう」


 長々と書かれた文字を読み終えた彼女は、紙を閉じて深呼吸をする。


「『刻印の呪い』の解呪。そのためには、誰かが『魔人族の世界』に行き、魔王と対峙する他ないのでしょう……」


 彼女は慈悲に満ちた視線を一人の少年に向ける。


「……だからこそ、あなたは行くのですね。アルバ・カーネイズ」


大聖堂には光が差し込み、アルバの影を映し出す。


「アルバ・カーネイズ。極北の地『妖精領地アムネリア』に逃れ、安寧を約束されながらも、世界を救うと誓ったあなたが」








「勇者『セイバ・カーネイズ』の『弟』である、あなたが」


ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

主人公のことを書くためだけに、なぜこんなにも文字が必要なのでしょうか……。

最初に素性を全部明記した方が、読者の方々に興味を持たれるものなのか、分からないことだらけで勉強になります。


あと、前回大聖堂の構造を少しだけ記述したのですが、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂に赴いた時に撮った写真を下になんとか書いています。

間違った部分などがあった場合は、逐一訂正していきたいと思います。

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