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アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第三歌 悪の目覚め、憤怒の刃
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第四楽章 白百合と赤薔薇 3

書くのが遅い(´;ω;`)

結界内部 渓谷


 クロッセルの部下が一人、魔法使いたる女の結界に閉じ込められた、アルバと三人の魔人。

 彼らが足を踏んでいるのは、草葉と血に彩られた村の中ではない。

 そこは、青天の下に乱れる、黄土の渓谷だった。


 広大な渓谷を駆けるアルバ、追いかける二人の魔人、標高200メートルは下らない高台に立ち、状況を俯瞰するクロッセル。

 戦闘が始まっておよそ5分、彼らの戦闘は変化の兆しを見せずにいた。


「……」


 逃走を続けながら、戦況の変え方を模索するアルバ。

 風を推進力とすることで凄まじい速度で絶え間なく走り続け、全身に纏わせた風は魔人たちから放たれる魔法の回避に助力する。

 落石・魔法・剣を避け続け、羽織に黄砂一つ被せぬままアルバは走る。体力切れを狙った作戦を組んだものの、追いかけてくる二人の魔人にその兆しは見えず、親玉であるクロッセルは未だ動きを見せない。もしこのままの状況が続けるのなら、やがて魔人側が疲弊してくるだろう。

 だが——


 ——あぁめんどくせぇ‼


 逃げることに飽きたか痺れを切らしたか、アルバは走る速度を急激に遅めた。

 それを吉と見たのか、追いかけていた二人の魔人は相槌を打つ。無言の同調をきめた二人は、アルバを仕留めるため挟み込むように近づく作戦を取った。


「仕留めるぞ!」


 作戦が始まり、双方向から猛スピードでアルバに追いつこうとスピードを上げる。

 やがて距離は極限まで近づき、二人はアルバを射程に捉えた。


「今だ!」


 対極から同時に剣を届けんとした、その瞬間——


 アルバは急に足を止め、旋風の剣を大地に突き刺した。


「なッ⁉」


 気づいた頃にはもう遅い。


 ——はぁぁぁあ!


 全身から力を吐き出すかの如く、高らかに技の名を叫んだ。

 その名は——



「——『解き放つ風刃(フラカン)』——‼」



 妖精が作りし旋風の剣。その剣身から解き放たれるは、無数の巨大な風の刃。

 最大半径20メートルまで届く刃たちは大地を裂きながら、魔人の肉を切り刻まんと襲い掛かる。

 そして、刃たちから逃れる術を、誘い込まれた魔人たちは持ち合わせていない。


「「……がッ!」」


 風の刃が彼らの体を深く斬りつけ吹き飛ばす。やがて分厚い岩壁に叩きつけられた二人は、痛みに悶えながら地に伏せた。

 しかし、戦いは序章を過ぎたばかり。

 アルバは剣を引き抜き、クロッセルがいる高台に目を向けた。

 しかし、高台にクロッセルの姿はなかった。

 

——どこだ?


 疑問に思い、周囲に視線を巡らせたその時——



招雷(しょうらい)



 アルバの頭上に、影が落ちた。

 雷を纏った、槍と共に。


「!」


 槍が直撃せんとしたその時、アルバは旋風の剣を頭上で構え、槍を受け止めた。

 影の主は、高台で俯瞰していたクロッセルだ。


「……ッ!」


「チッ!」


 妖精の剣と魔人の槍、人間ならざる生命が作り上げた得物が激突する。

 アルバの足下、刃の痕が遺る大地に更なる亀裂が入り崩壊の兆しを見せたところで、アルバは雷の槍を弾いて後退し、クロッセルと対面した。


「風、か」


 槍を構えながら、クロッセルは小さく問いかける。


「勇者セイバは()を使っていたが……、兄に似せなかったのか?」


「生憎、炎はてんでダメでな。 期待していたのなら申し訳ない」


 構えを解き、意味のない謝罪を吐くアルバ。


「謝る必要はない。俺たちにとって炎は()()の象徴だが、風はそうでもない。よって、貴様に敗北することはない」


「はッ、初手で窓から投げ落とされておいて、随分な自信だなぁ‼」


 無意識に強い口調で言葉を返す。それに気づいたのか、アルバは軽く咳をして口調を正した。


「ところで、こっちからも一つ質問いいか?」


「……手短に済ませろ」


 クロッセルは構えを解き、アルバの問いを聞き受ける。


「結界魔法って、術者の『心象風景』が結界内に否が応でも再現されてしまうって聞いたことがあるんだが……、てことは、この渓谷がお前の部下の心の中のイメージってことになるよな?」


「……そうだが、何か?」


「いやなに、アクセサリーの一つもない渓谷が心象風景って、めちゃくちゃつまんない奴だなと思っただけだ。お前たちの娯楽が如何に少なくつまらないのか、多少は分かった気がするよ」


 左腕を遊ばせながらそう言い終えた時、クロッセルが急速に接近しアルバに槍を突き刺すため突進してきた。間一髪で槍を回避したアルバは回避の動きに続くように、旋風の剣で槍を地面に叩きつけた。


「俺の部下を愚弄するな」


「怒るなよ。ただの感想だろ?」

 

 静かな怒りに満ちた言葉を吐くクロッセルだったが、アルバはそれを冷笑した。


「ならば口を閉ざしてもらおうか‼」


 啖呵を切ると同時に、魔人と勇者は剣と槍の白兵戦を繰り広げた。

 剣が槍を捌き、槍が剣を捌く。剣を避け、槍を避け、拳を払い、蹴りを防ぐ。岩壁や崖下に移動しつつ、白兵戦を貫く二人。彼らの一挙手一投足にはまるで隙が無く、たとえ先ほど吹き飛ばされた二人が駆けつけたとしても、邪魔者にしかならないだろう。


 戦闘が動きを見せる。クロッセルの槍を持つ手がアルバの左腕を掠めた後、アルバがカウンターで肘打ちを食らわせた。


「ぐむッ……!」


 言葉を漏らしたことに気を留めることなく、アルバが続けて蹴りを放とうとしたその瞬間——

 アルバの頭上に、雷が落とされた。


「何ッ⁉」

 寸でで風を吹かせたことで雷を回避したアルバだったが、間髪入れずにクロッセルの槍が迫る。


「……ッ!」


 槍を回避し、更に距離を取るアルバ。しかし——


「!」


 再び彼の下に落雷が降りかかり、微かに雷を食らってしまった。


「……ちッ!」


 炸裂する痺れと痛みを堪えながら、アルバは風を更に吹かして走り出した。


 クロッセルが追いかけて来ているが、風を推進力にするアルバとの距離は次第に開いていく。

 しかし、どんなに距離が開いたとしてもアルバの頭上に落雷は降りかかる。アルバは雷を察知した瞬間に風を増加させることで、三、四回目の落雷を回避した。


 ——これ周期的に来てるな。……10秒くらいか?


 黄土の渓谷を駆けながら、思考を続けるアルバ。


 ——5……,6……,7……ッ!。


 察知した瞬間、五回目の落雷を回避した。


 ——8秒かッ!


 五回目になって、アルバは周期を理解する。風を減らして走る速度を落としたが、六回目の落雷を楽々と回避することに成功した。


 ——どんなに速度を上げても、落雷は必ず俺の下に落ちてくる。まるで俺が、()()()にでもなったみたいだ……。


 七回目の落雷を回避するアルバ。


 ——違和感を探れ。小さな出来事、小さな変化を……。


 そして、八回目の落雷を回避した瞬間、アルバの視線に何かが入った。


「——これか‼」


 それは、確かに()()()めいたものだった。


 ——それが分かれば、やり方は出来ているッ!


 意を決する。アルバは逃げることを辞め、クロッセルの下へと走り出した。



 ◇



「くそッ、追いつけないか」


 落雷に襲われるアルバを追いかけるクロッセルだったが、彼との距離を縮めることが出来ずにいた。

 クロッセルはアルバの位置を完全に理解している。しかし彼の雷に身体能力を向上させる効果はなく、彼は敵に追いつく術を持ち合わせていなかった。

 だが、十一回目の落雷が落ちた後、クロッセルに好機が訪れる。


「——!」


 クロッセルの視界に、向かってくるアルバが割り込んできた。


「向かってくるかッ!」

 

 アルバの位置は見なくても分かる。しかし、こうも都合が良いのならここで仕留めるべきだと判断し、クロッセルは迫るアルバを迎え撃つ。

 だが、その時——



「……追駆の旋風(エエカトル)‼」



 刹那——アルバの旋風の剣から放たれたのは、豹を象った七つの旋風。

 豹たちは大地を蹴り上げながら、異なる方向からクロッセルに牙を向ける。彼らが大地を蹴る度に地面の黄砂を振り撒かれ、クロッセルの見る世界を黄砂で染め上げた。


「……!」


 アルバの姿が黄砂に溶ける。


 ——だが見えずとも、貴様の位置は分かっているッ!


 十二回目の落雷が落ちる。しかし、敵は未だ自身に向かって来ている。

 クロッセルはそのまま、アルバより早く迫りくる五体の豹を迎え入れた。


 ——落雷が落ちた瞬間に穿つ‼


 牙を向ける五体の豹を捌きながら、その時を待つ。そして、落雷まで残り1秒になった瞬間、アルバの走る角度が若干変化した。


 ——そこだッ‼


 その僅かな変化に気づいた瞬間——


「せやァ————‼」


 クロッセルは圧倒的スピードで、雷の槍をアルバの心臓に突き穿った。


 しかし——


「な————!」


 空を穿ったような感覚が走る。

 槍が穿ったのはアルバではなく——


 包帯を咥えた、六体目の豹だった。


 ——何だとッ⁉


 穿たれ、役目を全うした白き豹は、細い雄叫びと共に消失した。


「まさかッ——」


 それがブラフだと気づき、視線を巡らせたその瞬間——



「——『旋風一刃(ヴァーユ)』——‼」



 宙を舞うのは、七体目の豹に乗る、豹が如きアルバ・カーネイズ。

 彼の剣から放たれた、魔物を裂く一筋の風刃が、クロッセルへと襲い掛かった。


「がッ————!」


 防御は間に合わない。空から放たれた風刃は甲冑を切り裂き、クロッセルを遥か遠くの岩壁に勢いよく叩きつけた。


 勝敗は、決した。



 ◇



 戦いは終わり、アルバは岩壁の傍にいるクロッセルを見下ろしていた。

 対するクロッセルは槍を支えに膝をつき、渇いた口から血を垂れ流していた。

 旋風一刃(ヴァーユ)がぶつかる寸前、クロッセルはマナによる肉体強化を施した。そのおかげか、槍による防御は間に合わなかったものの、間一髪で致命傷を免れていた。


「俺に落雷が来るようになったの、お前の手が()()を掠めてからだよな?」


 膝をつくクロッセルに視線を落としたまま、アルバはありもしない方向に親指を向けた。


「触れたものに電気をマーキングして周期的に落雷を落とす、か。……小癪だな」


「……そうかも、しれないな……」


 クロッセルは息を切らしながら、悔しさを込めた言葉を吐き出した。


 アルバの見解は正しい。

 クロッセルの魔法『招雷(しょうらい)』は、自身の手が触れている対象に雷を呼び寄せる魔法である。

 その効果の一つ『(いん)』は、一度手で触れた対象に静電気をマーキングし、8秒に一度の間隔で対象に落雷を落とすことが出来る。

 また、術者はマーキングした対象の位置を把握できる。クロッセルはアルバの包帯に静電気をマーキングしたことによってアルバの位置を把握していたが、仕組みに気づいたアルバはその効果を逆手に取り、豹を象らせた『追駆の旋風(エエカトル)』の内の一つに包帯を咥えさせたことで、自身の位置を誤認させたのだ。


「落雷の周期をずらされてたら、俺は対応できずにやられてたのにな」


 自身の作戦が功を制したおかげか、アルバは安堵していた。


「はッ、ははははは——ッ」


 安堵に割り込むように、クロッセルが突如笑い出した。


「……何がおかしい?」


「……そうか、そうだったのか……」


「おい、何を——」


「貴様、人を殺したことはあるか?」


「…………何だと?」


 アルバの体がぴくッ、と動く。


「やはり、ないか」

 確信めいた言葉に続けて言葉を紡ぐ。


「戦士は、人を、生命を殺すものだ。……思考を巡らせ、策を講じ、標的を迅速に、効率的に殺すために、その身と生を捧げるのが戦士だ」


「俺が……戦士ではないと?」


「恐らく……勇者という大層な肩書きは、戦士という枠組みの中の——ゴフッ‼ ……僅かな者だけが、得られるものなのだろう」


 吐血するも、敗者は気にすることなく言葉を紡ぐ。


「だが貴様はどうだ? 戦士であれば、俺の部下を吹き飛ばした後、一人でも確実に殺すために追い打ちをかけるだろう。なのに貴様は真っ先に俺を警戒して立ち止まり、見事俺の攻撃を受けきった」


「それは、それが最善だと——」


「今だって……そうだ。こんな説教を聞く耳を持たず、否応なしに俺を斬り殺すのが戦士の道理だ。……だが貴様はこうしている。それはお前に……()()()という選択肢が無いということに他、ならない」


「……」


「そんな者が戦士だと——『勇者』だと言えるのか?」


「だが——ッ!」

 言葉が詰まる。

 クロッセルは、真っ先に殺しにかかることが戦士の()()()()だと承知している。

 アルバはそれに同意できない。迷いなく人を殺す行為が、戦士から零れた『勇者』という存在に許されるのか、分からない。


「貴様には『覚悟』が欠けている。()()()の役を担う、戦士という枠組みに収まる『覚悟』が」


 反論を返せない。


「それは侮辱だ。全ての戦士、そして……我ら魔人族を殺し続けた『勇者セイバ』への侮辱だ」


「黙れ」


 叫ばれた兄の名に、口が勝手に反応する。


「貴様は勇者ではない。戦士ですらない。誇大な使命に溺れ殺しを恐れる、……臆病者(おくびょうもの)だ」


「——なら、今ここで勇者になればいいだけだろう⁉」


 そう言葉を吐き捨て、剣を構える。


 その瞬間——


 青空が、砕けた。


「「⁉」」


 二人が驚くのも無理はない。雲一つない青空に亀裂が入り、殻が割れたように崩壊しているのだ。

 それだけではない。空間に黒い壁が現れたと思えば、すぐさま上辺から割れ始めた。


「結界が、砕けただと⁉」


 ——トリナがやられたのか⁉


 クロッセルはこの光景を知っている。それは、彼の部下であるトリナの結界魔法が解け、結界が崩壊する際の光景だった。

 黄土の渓谷は一瞬で消え去り、泣き出しそうな空と緑に彩られたエトルブール村が表出した。



 帰還したアルバの両目に、本来の世界が映し出される。

 

 そして——



「——————は?」



 剥き出しの()()が、嗤っていた。



 ◇



「はッ——、はッ——、はッ————」


 馬車を襲った魔人を斃したカイヤは、息を切らしながら村へと走っていた。

 右腕に咲いた一輪の白い花は既に枯れ落ち、右腕の回復が完了したことを伝えている。しかし、それは肉体が回復しただけに過ぎない。


 カイヤの『回復魔法(リライズ)』は精神の感覚に作用しない。風邪で熱を出した際、熱が下がっても風邪の疲れが残るように、症状による負荷を全て取り除くことはできない。

 一度立ち止まり、疲労回復のため深呼吸しようとも考えたが、彼女にそんな暇はない。


『こっちは三人だから——』


 仲間の言葉がよぎる。三人を相手に、魔法を振るい続けるテミスの言葉が。

 テミスはきっと苦戦している、すぐさま援護に向かわなければとカイヤは考える。


 ——何とかなってればいいんだけ……どッ‼


 足を止めることなく、からくも村へと辿り着く。

 村の門を通り抜け、村内を見渡すカイヤ。



「——————え?」



 その瞳に映ったのは——




 赤面に墜ちた、青色の薔薇だった。


頭に起こした戦闘の描写を文字で書くのって、なんでこんなに難しいんでしょうか。

実力不足を感じます。


次回『散るは青薔薇』

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