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前奏曲 4月20日の目覚め

少し修正しました。

 また、同じ夢を見ている。


 

 湖の底へ、仰向けの姿勢で沈んでいく夢。

 湖の中はとても静かで、魚の一匹もいやしない。

 俺の身体だけが静かに沈んでいく、数えきれないほど見た夢だ。

 

 そんな夢ではつまらないので、俺はいつも誰かの顔を思い浮かべようと思考する。

 まぁ、その「誰か」はいつも同じ人だけど。

 その人の顔が思い浮かぼうとしたその時、俺の左腕から勢いよく炎が上がる。水の中でも炎が上がるということが、これが夢である確固たる証拠だ。


 ……火元はおそらく『刻印』だろう。

 それは「あの時」に浮かび上がった、死の宣告と言うべき呪い。

 燃え上がった炎は俺の思考と身体を燃やす。炎はやがて全身を回って、俺の身体を完膚なきまでに焼き尽くしていく。

 

 やがて湖の底に辿り着くと、炎は一瞬にして水に消えた。

 そして、焼き尽くされた俺の姿は、およそ「人間」の姿をしていなかった。

 肉体は黒く染まり、禍々しい形を形成している。両手両足の指は三本に減るが、どの指も太く鋭い。目視はできないが、背中から何かが複数生えた感覚がある。

 ……恐らく、人間の顔でもないのだろう。


「この姿はなんなのだろう。この姿に、何の意味があるのだろう」


 そう考えている内に夢から覚めて、考えていることを忘れる。

 そしてまた同じ夢を見て、思い出して、また忘れる。

 それをずっと、繰り返している。三年前の「あの時」から、繰り返している……。




『だが、それももう終わる————』


 ◇


プルガトルム北部 エトルブール村 下宿屋


「はっ!」


 小さな窓から差し込む太陽の光を浴びながら、俺は目を覚ます。

 木造の天井が俺の起床を見届け、軋む音を立てる。


「また、あの夢か。」

 

 そう呟いて、俺はすぐに洗面台に向かう。

 洗面台の前に立ち、設置された鏡に映る男を凝視する。

 男の髪は赤黒く、後ろ髪を少し伸ばしている。

 グレー色の虹彩を備えた瞳と長いまつ毛に、少し中性的な印象を思わせる顔つき。

 身長176センチの17歳が鍛え上げた筋肉を張り付けるように、袖のない黒色のインナーが着られている。

 その男の名はアルバ・カーネイズ——世界を救う旅を、始めようとしている男だ。


 頭から水を被り、弛んだ顔と赤黒い髪を洗い流す。

 濡れると同時に口内に入り込む水が、俺の心を洗い流す。

 ここの水はとても美味しい。『アムネリア』で飲む水も美味しいが、この水はそれに勝るとも劣らない。この村の土地と宿の主人、双方の努力の結晶といえよう。

 一通り洗い終え、タオルで水気を拭き取っていると、左前腕を覆う黒い『刻印』が目に入った。


「……やっぱり消えないよな、これ。」

 

 そう呟いてすぐに歯磨きをして、俺は宿を出る準備に入る。

 少し伸びた後ろ髪を束ね、束ねた髪で小さな三つ編みを作る。

 袖のない黒のインナーと黒のズボンの上から、腰下までの長さの赤いマントを着る。

 干していた包帯を左前腕に巻きつけ、机の上に置かれたピアスを左耳に付ける。

 最後に、ドアの前に立て掛けた全長110センチ程の両手剣を腰に差して、準備は完了した。


「よし、行くか」


 

 階段を降りると、一階では多くの人々が朝飯を食べている。この宿の一階は食堂になっており、毎日村の人達がここに集まり、食事や団欒を楽しんでいるようだ。

 そんな彼らの中に、包帯や腕当てをしている者たちが複数いるのを見かけた。

 ……やっぱり隠すよなと考えながら、俺は宿の主人の前に立ち、宿泊料を払った。


「20ユーロ丁度だね。昨夜はぐっすり眠れたかい?」


「ええ、とてもぐっすり。ここの夕食が美味しかったおかげですね」

 

 宿の主人は五十代前半ながらも、若々しく気品に満ちた女性だった。


「アルバさん、朝食は食べなくて大丈夫?」


「大丈夫です。昼までには『ペダンマデラ』に着きたいので」


 正都ペダンマデラ。俺の目的地であり、旅の始まりの地だ。


「そうだ。ご主人、朝食の代わりと言っては何ですが、馬を一頭貸していただけませんか? ペダンマデラに着いたら、ここに返すように手配しますので」


「分かりました。直ぐに用意いたしまっ」

 

 突如、宿のドアが思い切り開かれ、一人の男が飛び出してきた。


「村の前に『魔物』が出た! 数は4体、白肌の二足歩行型だ!」

 

その言葉を聞いた宿内の人々に緊張が走る。

『魔物』——世界各地に「ある要因」で発生する、生命体を害する化け物の類。

 姿形は多種多様で、狼や鳥のような動物の姿もあれば、複数の顔を浮かべる犬、二足歩行で武器を持つ、もしくは腕を武器そのものとする人型の姿もある。

 魔物は生殖能力をもたないが、食欲と睡眠欲を持ち合わせており、動植物の捕食や、村を襲い寝床や食料を確保するなど、非常に厄介な奴らだ。

 おそらく、魔物は食事の匂いを嗅ぎつけやってきたのだろう。この村は壁で囲まれているため比較的安全だが、村の出入り口である門を破壊されれば、村内の被害は免れない。


「俺が向かいます! 皆さんは安全なところに避難してください!」

 

 俺はそう叫び、外に向かって走り出すと、主人が瞬時に俺を呼び止めた。


「アルバさん! 魔物を斃して無事に帰ってきたら、馬の賃金まけてあげるよ!」

 

 俺はその言葉に笑みをこぼしながら、再び走り出した。


 ◇


 宿から飛び出してすぐ、門が破壊される音が響き、4体の魔物が視界に入る。

 純白の肌を晒し、体長は180センチほどの細身で顔には大きい口以外なく、左腕が武器のように大きく発達している。

 魔物たちは俺に未だ気づいておらず、ゆっくりと村の中へ歩いていく。

 奴らを視界に入れた俺は十分な距離まで走って近づき、大樹が彫られた剣の鞘を抜く。

 そして、走るのを辞めると同時に剣を魔物の頭部に力ずくで投げつけた。


「うおおおお゙お゙お゙お゙らぁ!」


 勢いよく投げられた剣は、魔物たちの内の1体の頭部に鈍い音を立てて突き刺さった。

 魔物は声を上げることもなく、血を噴き出しながら仰向けに倒れ伏し、灰になって消滅した。


「まずは1体目!」


 俺は剣を取り戻すために再度走り出す。


「「「カァァァァァァッ!!」」」

 

 俺に気づいた残りの3体の魔物たちは、甲高い鳴き声を同時に響かせた。

 その時にはすでに、俺は突き刺さった剣目掛けて大きくジャンプしていた。

 着地して剣を無理やり引き抜き、村の門を潜り外に出て距離を取る。

 魔物たちは俺に食事の邪魔をされたと認識し、酷く苛立ちを見せている。

 奴らは前方10メートルの位置。このまま突っ込んでくるかもしれない。

 おそらく、奴らと正面から戦うのは得策じゃない。数は一対三とこちらが不利。さらにあの右腕はそうとう重さがある。剣を交えてしまえば、かなり苦戦するだろう。

 

 ならば……一撃で奴らを葬るしかない。

 俺はそう決めると、奴らとの距離を保ちながら少しずつ後退し、奴らを村の外へと誘導する。

 後退する間は剣に自身の力を込め続け、渾身の一撃を放つ用意をする。

 幸運なことに、奴らはただ突っ込むだけの脳無しではないそうで、俺の誘導に従い少しずつ前進し、村の外へと歩いていく。

 その状況は数十秒程続き、奴らを村からかなりの距離を取らせることに成功した。

 そして、俺は咄嗟に足を止め非常に低い姿勢を取り、剣を斜め後ろに構えて奴らの攻撃を歓迎する。


「ふーーーーーーーーーっ」

 

 息を吐いたその時、剣は風を強く吹かし、吹かされた風は螺旋状に剣を覆う。

 数秒の後、歓迎を受けた魔物たちは示し合わせたかのように、三方向から俺目掛けて左腕を振り下ろしに急接近する。

 そして、奴らが届かんとするその瞬間、俺は剣を薙ぎ払い、剣を覆った風を斬撃として解き放つ!

 薙ぎ払う剣の名は『旋風の剣カエサル』——妖精領地アムネリアで鍛造された、螺旋を穿つ風の剣!


「——『旋風一刃ヴァーユ』——ッ!」


 薙ぎ払われた剣から放たれた、一筋の旋風。

 それは、凄まじい音を立てて大気を切り裂き、村の壁にぶつかることで消滅した。

 そして、襲いかかった魔物たちの胴体を、二つに切り裂いた。

 切り裂かれ、とめどない血しぶきを上げる魔物たち。

 奴らは甲高い声を弱弱しく吐きながら。灰になって消滅した。


 旋風のカエサルは未だ風を吹かし、マントと足元の草花を力強く揺らしている。

 この心地よい終わり方を迎えた戦闘が、旅の初陣となった。


 ◇


「じゃあご主人、この馬を借りていきますね」


 戦闘を終え、避難した村人全員の無事を確認した俺は、この村から出ようとしていた。

 俺は先ほど宿の主人とした約束通り、宿の主人からバルキリーという名の、白く美しい馬を安く借りた。

 バルキリーに上機嫌に騎乗しようとしたその時、宿の主人が俺を呼び止めた。


「ちょっと待って。貴方朝食を取っていないでしょう? これ、ガーリックトースト。朝焼きすぎちゃって余ってたから、持っていっておくれ」


 そう言ったにもかかわらず、彼女から受け取ったガーリックトーストはとても温かった。

 彼女は朝食を食べずに戦った俺のために、急いで焼いてくれたのだろう。


「わざわざありがとうございます。このお返しは、また宿に泊まりに来た時に」

 

 優しい嘘をくれた彼女にそう感謝を告げて、俺は馬を駆けだした。


 ◇


 馬は俺の心配を一切していないのか、全速力でペダンマデラへの道を駆けている。

 馬上から見た丘陵の景色は、名状しがたい美しさで満ちている。

 俺はそれに目を奪われながらも、馬に切り走られた風から「戦争」を思い起こす。



『地獄の門』——決して開かないあの世の入り口と知られていた、謎多き巨大な扉。

 それが突如開かれ、角と長い耳を持つ人型生命体『魔人族』が姿を表し、俺たち『人間族』との戦争が始まった。

 開戦から半年は魔人族が進軍を強め、人間族には敗北の兆しが立ち始めていた。


 しかし、『聖剣』を携えた男——勇者セイバが台頭したことで戦況はひっくり返る。

 勇者セイバ率いる勇者軍は地獄の門を開き、魔人族の世界に進入。彼らに甚大な被害を与えた。

 人間族と魔人族、互いに大損害を負う凄惨な戦争は、一年半の歳月を重ねた。

 そして、勇者セイバの魔王への敗北と、彼が所有していた『聖剣』の所在不明を以て、この戦争は終結した。

 人間族は絶望の淵に飲まれ、魔人族は戦争の終結に安堵した。


 そして、魔王は世界に『刻印の呪い』をもたらした。

『刻印の呪い』——身体に刻印が浮かんだ者は数年で死に至るという、いわば死の宣告。

 加えて、この刻印を無闇に傷つけてしまえば、悍ましい魔物に変容してしまう場合がある。

 そうなってしまえば、もう二度と人の姿には戻れない。理性も感情も失くし、ただ破壊をもたらす存在に成り果て、やがて絶命する。

 刻印のない者は刻印が浮かぶことに怯え、刻印がある者は服や装飾で刻印を隠し、不安の伝播を防ごうとしながらも、迫りくる死に怯え続けている。


 聖剣は行方を晦まし、地獄の門は再び閉ざされている。

 魔人族の一部の者たちは、新たな戦争に備えるためにこの世界に駐在している。


『プルガトルム』——それが人間族の世界の名前。

 4つの地帯に4つの国、一つの正都と妖精の領地アムネリアに彩られ、『地獄の門』によって分かたれた、二つある世界の内の一つ。




 ……だからこそ、俺が世界を救わなければならない。






 ■■■・■■■■■の■たる、アルバ・カーネイズが。

初めまして。

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます。

初めて小説を書かせていただいた、母なる父と申します。

初めてのことに戸惑いながらも、ようやく1話を完成させたことに安堵しています。

ここまで書くことができたのは、ひとえに本やゲーム、アニメに携わる方々、読者の皆様のおかげでございます。


さて、この作品について少しお話したいと思います。

この作品は、以前ゲーム企画書を作っていた時に考えた物語を、文字で表現してみようと試みたものです。

ガバガバな設定が目立つ予感がしますが、すでにプロットは出来上がっております。

とても長い物語になるため先が思いやられますが、どうしても書きたいキャラクターがいるので、なんとしても書き進めたいと思います。

拙い文章の物語になるかもしれませんが、暇な時に読んで下さると幸いです。


最後に一言を添えて、また次回お会いしましょう。


ハーレムは、ないです。


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