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アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第三歌 悪の目覚め、憤怒の刃
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前奏 独白

 これは、ただの独白。

 隠し事に慣れた僕の、声に出せない独り言。


 僕の両親は、正教の騎士団(ゲイルスゲグル)に所属に所属する騎士で、とても厳格な人達だった。

 両親は僕に優しかったけど、六歳の頃に魔法の才能を見出してからは、僕に厳しく当たることが増えた。

 魔法が中々上達しなかったり、テストの点数や体育の成績が悪かったりした時はいつも怒鳴り声を挙げて、近所のおばちゃんに「うるさい」って苦情が入るほどだった。

 怒鳴られた後には、いつもそのおばちゃんから美味しい飴玉をもらっていた。多分、おばちゃんがいなかったら僕は魔法を放棄していたかもしれない。


 それでも、僕が良い方向に向かうことはなかった。

 頭は良くならなかったし、容量がいいわけでもなかったし、そもそも運動が嫌いだった。

 その理由の一つは、僕に友達がいなかったから。

 人付き合いが上手くなくて、友達を作ることが出来ないから、誰かに頼るって選択肢が生まれずただ一人で事に当たるしかなくて、どうしようもなかったんだ。


 でも、僕は二人に出会った。


 僕が九歳になった年のクラス替えで、僕はアルバとフレイと同じクラスになった。

 当時のアルバは優等生で、フレイは悪ガキだった。

 やんちゃ小僧として悪名高かったフレイは、クラス成立当初から問題児としてその地位を確立していた。

 遊んだ拍子に窓ガラスを割ってしまったり、テストの解答欄を全部空欄で提出したり、休憩時間中に家に帰ったり……、子供が考える児戯の殆どは、既にやり尽くしていたかもしれない。

 クラスのみんなにちょっかいをかけるなんてザラだったから、みんなフレイに迷惑を感じてたけど、フレイに物申すことはできなかった。


 アルバだけを除いて。


 初めてアルバとフレイが接触したのは、フレイが宿題を忘れた日のこと。

 僕とアルバの席は間を挟んだ隣同士で、フレイは僕の机の上に座っていた。

 そして、フレイは成績が良い優等生だったアルバに「宿題を写させろ」と強要した。

 けど、アルバはフレイにこう言った。


「今俺にブルスケッタをくれるなら、写させてやるよ」


 初等学生の僕たちにとって、それは「無理」と同じ意味の言葉だった。

 その言葉にムカついたフレイはアルバを殴った。

 アルバはすかさず殴り返して、やがて喧嘩にまで発展した。

 クラス中が大騒ぎになって、先生が止めに入ったことで喧嘩は収まったけど、その頃には何故か二人は仲良くなっていた。


 ——いいなぁ。


 喧嘩が原因とは言え、多少の付き合いで仲良くなる二人を、僕は羨んでしまった。


「……テミス君」


「……えっ僕⁉」


 近くで喧嘩を見ていた僕に、アルバは話しかけてきた。


「なんか悪いし、学校終わったら一緒にブルスケッタを食べに行こうよ」


「……うん、分かった……」


 僕が始業式の日の自己紹介で「ブルスケッタが好き」と言ったことを、アルバは覚えていた。酷い現場を近くで見た僕を、アルバは気遣ってくれたのだ。

 その時、僕は初めてこう思ったんだ。


『この子と、友達になりたい』


 そして、僕とアルバは友達になった。


 次の日、アルバに諭されたのか、フレイはクラスのみんな一人一人にこれまでの迷惑を謝った。そして、謝る順番が回ってきた時に、僕は勇気を出してこう言った。


「僕と……友達になってくれるなら、……いいよ」


 フレイはそれを了承し、僕ら三人の関係は始まった。


 アルバは怒ると口調が荒くなるけど、生真面目で優しい奴。

 フレイはやんちゃで問題ばかり起こすけど、面白くて根は良い奴。

 人付き合いが苦手でダメな僕にとって、二人は親友と呼べる存在だった。


 アルバが勉強を教えてくれるようになって、僕の成績は少しずつ伸びていった。

 フレイと外で遊ぶようになって、運動が好きになった。

 二人と遊ぶ時間を作るために、魔法の勉強を頑張った。

 両親も、そんな僕に厳しく当たることが少なくなった。


 晴れの日は外で遊んだ。

 雨の日はアルバの家で本を読んだ。

 雪の日はクラスのみんなを呼んで雪合戦した。

 雷降る日は、机の下に隠れて怯えていた。

 なんて楽しい日々なのだろう。なんて鮮やかな日々なのだろう。

 こんな生活が、こんな関係が、大人になるまでずっと続くんだと思っていた。


 そんな生活は、『勇者セイバ』の敗北によって終わりを告げた。


 アルバは妖精族の計らいで、母親と共に妖精領地(アムネリア)に避難してしまった。

 僕の両親は家に帰ってこなくなった。

 フレイは『センザ・メオス』に変身して、遺体も残さずに死んでしまった。

 僕らに残されたのは、ここまで築き上げた関係だけになった。


 ……でも、僕は恐らく気づいている。

 フレイがどうして、『デモ』の参加者だけを食い殺したのか。

 それが何のために行われたものか、知っているから。


 でも、その理由を口にすることはできない。

 怖くて口に出せない。

 アルバは気づいているかもしれないけれど、それでも僕にはできない。

 僕の気持ちと共に、一通の手紙に書き連ねてはみたけど、これをアルバに渡せる日は多分来ない。

 だってそうだろう? 

 少しでも口にしてしまったら、手紙を渡してしまったら。

 八年も築き上げた僕たちの関係さえも、終わってしまう気がするから。

 アルバが僕から遠のいてしまう気がするから。

 フレイの様に、僕の目の前からいなくなってしまう気がするから。



 ……でも、もしかしたら、

 僕たちの関係は、既に終わってしまったのかもしれない。




 アルバの『お父さん』が殺された、あの時に——。


次回『魔王軍エインヘアル』

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