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アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第二歌 刺青の青年は泳ぎ渇く
17/22

第九楽章 兆し

現在


「『嵐』と交わした誓約の件、把握いたしました。それでは最後に一つだけ、質問してもよろしいでしょうか?」


「『聖剣』の件か?」


「……オルクレスから既に聞いておりましたか」


「あの『地獄の門』を開けるために、『聖剣』を探しておるそうだな」


「はい。……国王陛下と司祭様方は、『聖剣』について何かご存知でしょうか?」


「……申し訳ないが、我に心当たりのある情報はない」


「私たちも同じです」


「……そうですか」


 ——くそッ、お偉いさんたちも知らないか。


 国王達に見えないように、アルバは床を向いて舌打ちをした。


 ——いや、そもそも兄さんが『向こう側』に持ってて失ったんだから、この世界にある可能性は限りなく低い。


 ——だが、今の段階では『聖剣』を掲げる以外に『向こう側』に行ける方法は解っていない。だから闇雲だったとしても、プルガトルム中を探し回らなきゃならない。


 ——ならばどうする。どうすれば闇雲にならずに『聖剣』の在処に辿り着ける? 


「……魔人族——」


「アルバ様、少々よろしいでしょうか?」


 一人思考にふけるアルバに声をかけたのは、司祭の一人であるヤウルだった。


「あ、はい。お願いします」


 アルバは顔を上げ、ヤウルの言葉に耳を傾けた。


「『聖剣』とは関係ないかもしれませんが、勇者様方には『アマルナ王国』へ赴いてほしいのです」


「北西の『パラゴ砂漠』にある、アマルナ王国ですか?」


「ええ。我々メストリアとアマルナは同盟国なのですが、先日アマルナ王国から『砂漠に魔人族の集団の姿があった』との報告を受けたのです」


「……ッ!」


「また、最近魔物が頻繁に発生してるとも報告されていることから、勇者様方にはアマルナ王国の問題の解決に助力して頂きたいのです。『聖剣』とは関係ない申し出かもしれませんが……」


「いえッ、大いに関係ありますとも!」


 アルバは声を張り上げてそう答えた。


 ——そうだ! 魔人族の奴らに直接聞けばいいんだ! 兄さんは『向こう側』で魔人族と戦闘したんだから、奴らは俺たちよりも『聖剣』の情報を知ってるはずだ! 奴らとの戦闘は避けられないだろうが、闇雲に探すより断然マシだ!


「……どうしたのアルバ?」


「では、我々は、今からアマルナ王国へと赴いてまいります!」


「ありがとうございます。こちらは『勇者アルバ様方がアマルナに助力するため来訪する』という言伝をアマルナ王国に出しておきますので、是非よろしくお願いいたします」


「……ねぇカイヤ」


 テミスは隣で膝をつくカイヤに、目の前のアルバに聞こえない程度の小声で話しかける。


「何よ」


「何か、とんとん拍子で今後の方針が決まってくんだけど、……これって大丈夫なやつ?」


「……多分、『聖剣』の在処を魔人族に直接聞こうって思いついたんでしょ」


「……なるほど」


「あたしはアルバに賛成よ。魔人族が情報を吐かないなら殴って吐かせればいいし」


「別のものを吐いちゃうと思うんだけど……、まぁ大丈夫かな」


 話の展開についてこれなかったテミスだったが、カイヤとの小声のやり取りでアルバの方針に納得したようだ。


「それと、アマルナ王国へと旅立つにあたって、出来れば御国から食料と金銭を支援して頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「既にこちらで用意しておる。オルクレスの船に積んでおるので、後で確認するがよい」


「ありがとうございます、国王陛下、司祭様方」


 アルバは膝をついた姿勢で深々と頭を下げた後、テミスとカイヤを立ち上がらせて、もう一度深々とお辞儀をしてオメオトル神殿を去っていった。


 次の行き先は、プルガトルム北西部『パラゴ砂漠』。そこに坐する、太陽に祝福された王国。





メストル島 港


 オメオトル神殿から立ち去ったアルバ、テミス、カイヤ、オルクレスの四名は、オルクレスの妻たちに別れを告げ、メストル島を離れようとしていた。

 オルクレスは自分が所有する船を貸してくれるそうで、前回乗った帆船よりも速度が出るということだった。


「これでメストリア王国とはお別れか」


「もう砂糖菓子を貰わなくて済むのは嬉しいけど、いいところだったね」


「トラテナさんとティトーラさんと話せたし、いい出会いが出来たわ」


「オルクレスも色々ありがとうな。無事お子さんが産まれたら手紙でも寄こしてくれ」


 三人は世話になった者たちと美しい都市に思いを馳せた。


「……? 儂とはお別れせんぞ?」


「……は?」


 それに水を差すように差し込まれた、突然の一言。


「……どういうこと?」


「儂、お前達に付いて行くことにした」


「「は⁉」」


「昨日国王に『一か月だけ行かせてくれ!』、ってお願いしたら了承してもらえたんじゃ。司祭の奴らも了承してくれたし、昨日の夜に二人も納得してくれたんじゃ」


「ええ……」


「……」


 ——何か目的があるってわけじゃなさそうね……。


「一か月ってことは、6月にはここに戻ってるってこと?」


「おお、ティトーラの出産の件もあるしの」


「……まぁそれならいいんじゃない?」


「いやいやいや、着いて行って何するの⁉ 武器も持ってないのに⁉」


 妙に納得しているカイヤだったが、テミスは反対していた。


「魔物の危険だってあるし、もし何かあったらどうするの⁉」


「大丈夫じゃ。こんなこともあろうかと、船の中に『鎌』を用意しといたんじゃ。訓練の経験は皆無じゃが、まぁ大丈夫じゃろ」


「……アルバ、どうする?」


「……トラテナさんとティトーラさんは本当に納得してるんだな?」


「『楽しんできてね』って言われたぞ」


「……ならいいだろう」


「しゃっ」


 旅の同行を許可されたオルクレスは、軽い足取りで船の中へと向かっていく。

 そんな彼の体に、アルバは違和感を覚えた。


「……? おいオルクレス。その首元のチョーカーどうした?」


 オルクレスの首には、見覚えのないチョーカーが着けられていた。


「ああこれか? 昨日トラテナが儂の首を思い切り掴んだじゃろ? それが痕になってしもうて、鏡で見たら偉くダサくての。試しにチョーカーを着けてみたんじゃが……、これが思いの外似合っとる気がするんじゃ」


「そういうことか。まぁ今のままだと上半身裸のただの変態だし、いいんじゃないか?」


「じゃろ! やっぱアルバは解ってる男じゃの~」


 上機嫌のまま、オルクレスは一足先に船に乗っていった。


 ——チョーカーだけ着けてるのって、もっと変態に見えない?


 カイヤはそれを口にしようとしたが、指摘するほどでもないため言い留まった。


「……アルバ、本当にいいの?」


「……オルクレスには基本的に馬車のお守をさせて、戦闘に参加させないなら大丈夫だろ」


「アルバに同じ」


「……わかった」


 テミスはようやく納得したようで、深く頷いた。


「じゃあ船に乗り込もう。ふかふかのベッドが僕たちを待っている!」


 こうして一時的ではあるが、旅のメンバーは『四人』となった。





4月30日 ガルーダ海沿岸 港


 2日かけてルーダ海を渡りきり、アルバ達は無事にガルーダ海沿岸の港へと到着した。

 悪天候になることはなく、行きの船旅で遭遇した『センザ・メオス』と接触することもなく、アルバ達は非常に安全な航海を楽しむことが出来たのだった。

 港には船旅の前に乗っていた馬車とその御者が待機しており、アルバ達の帰りをずっと待っていた。

 アルバ達は御者に挨拶を済ませ、馬車に乗り込んで腰かけた。


「では、出発しますね」


 御者の掛け声の下、馬車は大地を駆けだした。


「ここからアマルナ王国までは、どのくらいかかるんじゃ?」


「さぁ、六日くらいはかかるんじゃない?」


「げぇ、そんなにか」


「正都ペダンマデラからメストリアまでは五日かかったし、そのくらいは覚悟していた方がいいかもな」


「むむむ……」


『……』


「まぁお金と食料はいっぱい貰ったし、困ることはないだろ」


『…………』


「旅は基本『我慢』よ」


『…………、………し』


「……ん?」


 アルバ達の会話に挟まるように、何かが聞こえてきた。


『……し……し、…………』


「誰か話してるか?」


「いや、話してないけど」


「儂も。……確かに何か聞こえるのう」


『……しも……、………し』


「……アルバ、ちょっとそっち寄るね」


「おお」


 カイヤはアルバの左側に歩み寄り、アルバに耳を傾けた。


『……し……、も……し……!』


 所々掻き消えた、張り上げられた声。


「なんか、女の子の声が聞こえ——」



『もしもし‼』



「「⁉」」


 アルバとカイヤはその身を震わす声に体を浮かせて驚いた。

 声の発信源は、アルバの左耳に着けられた青色のピアスだった。


『もしもし‼ アルバ聞こえる⁉』


「その声……まさか『シャナ』か⁉」


『そう私! もう、やっと繋がったよ!』


 張りのある女性の声は、アルバの知り合いが発したものだった。


「……アルバ、この声……誰?」


「⁇」


「?」


 テミスとオルクレスは、かつてない謎の事態に疑問符を隠せない。


「……あ」


『何かあった時に伝えられるようにって、『妖精族』の族長の娘から貰ったんだ』


カイヤは帆船でアルバから聞いたあの言葉を思い出した。


「もしかして……、妖精族の、女の子?」


「ああそう。この前話したや——」


『えッ女の声がする⁉』


「おい急に声を荒げるな!」


『アルバいつの間に女作ってんの⁉ シャナに何の断りも入れず⁉』


「いやただの旅の仲間だよ!」


『ハッどうだか! どうせ可愛い子だからポックリいかれたんでしょ‼』


「んなワケなぇよッ! ……てかお前関係ないだろ⁉」


『うるさい! シャナが不快に思った時点で関係あるの!』


「んなバカな……」


「……ねぇ二人とも、これってあたしのせい?」


「うん」


「じゃな」


 カイヤが声を発したせいで、三人はアルバと顔も知らない妖精の痴話喧嘩に巻き込まれてしまい、二人の痴話喧嘩は数分にも及んだ。

 その後、アルバがシャナを褒める言葉を数回告げたおかげで、シャナは機嫌を取り戻したようだった。



「それよりもシャナ。要件は何だ?」


『そうだった! 女の声のせいで言いたいこと忘れてた!』


「わざわざ『風言』を使って知らせに来たってことは、まさかアムネリア(そっち)で何かあったのか?」


『違う!』


「なら、どうして?」


『……アルバッ、私たちの所出てから寄った村あるでしょ⁉』


 それは、アルバが正都ペダンマデラに向かう途中で泊まった『エトルブール村』だ。


「ああ、確かにあるが。……それがどうかしたか?」




『その村にッ、魔人族の部隊が向かってる‼』



 それは、兆し——。

 そして、始まり——。

第二歌完結です

予定より長くなってしまい、申し訳ないです。

次歌は投稿が遅くなることが増えますが、しっかり書いていきます。


第三歌タイトル 『悪の目覚め、憤怒の刃』

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