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アルター・エゴ~勇者の弟、世界を救う旅に出る~  作者: 母なる父
第二歌 刺青の青年は泳ぎ渇く
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第五楽章 かくも美しき刺青

かなり遅れての更新です。

 また、同じ夢を見ている。



 湖の底へ、仰向けの姿勢で沈んでいく夢。


 ……いや、今回は海の底か。


 現実と夢が混ざっているのか、瞳に映る海の中は、いつもよりも少し綺麗だった。

 でも、夢の内容は変わったりしないだろう。このまま俺は沈んでいって、刻印から炎が上がるのだ。


 ……ほら、やっぱり燃えた。このまま俺の身体がどんどん燃えていって、海の底に辿り着いた頃には、真っ黒に焼き焦げた俺の出来上がりだ。

 そう思っていたが、どうやらいつもよりゆっくり沈んでいるみたいだ。

 体感いつもより2倍程の時間を費やして、俺はやっと海の底へ辿り着いた。炎が消えて、真っ黒焦げになった俺の姿を見てみると……俺の姿は、現実の姿と変わっていなかった。


 ——あれ? どうして、姿が変わっていないんだ? まさか、これって現実か?


 そうありえないことを考えていると、俺の目の前に、人影の様なものが現れた。


 その人影は、禍々しい形をした、黒い『何か』だった。



『この夢は、もう終わる——』


 ——どういうことだ? お前は誰だ?


 海の中じゃ言葉を発せないからか、『何か』は俺の頭の中に語りかけていた。


『思い出せ、アルバ。お前の『■■』を——』


 ——今、なんて言った? 上手く聞き取れなかったぞ。


『それは、心の中に閉じ込めていた、『もう一人』のお前。お前の生に必要不可欠な、絶対的な『(あく)』だ——』


 ——何だと? ……そんなものが、俺にあるって言いたいのか?


『それをもう一度思い出した時、お前は有無を言わずに決断する。そして、『刻印』は再び、お前に嗤いかけるのだ——』


 ——詳しくはよく分からんが……。


 ——だが、そうか。お前は——。


 ——焼き尽くされて黒焦げた、俺の——。



『……話は終わりだ、もう目を覚ませ——』



 ◇



 とある船内


「ん……」


 目覚めの悪い夢から覚めた時、アルバは知らない天井を見上げていた。


「どこ、だ。ここ……」


 ——乗ってた帆船の部屋じゃないな……。


 知らない天井に、豪華な装飾が施された部屋。いつもよりふかふかで、温かい布団。そこはまるで、『貴族』のような格式の高い者に与えられる部屋だった。


 ——? 俺、上に何も着てないのか……まぁいいか。おかげで布団が気持ちいいし……。


 ふかふかな布団に(くる)まりながら、アルバが周囲を見渡そうとすると——


「お、やっと起きたか」


 少し大人びた、威勢のある声が聞こえてきた。

 その声が発せられた方向、ベッドの左横に安置された一脚の椅子には、上半身裸の『男』が座っていた。


 長めの襟足を備えた黒髪と茶色の瞳は、褐色肌の身体によく似合っている。

 そして、首から下の身体には、幾何学的な模様の『刺青(いれずみ)』がびっしりと彫られている。どこか美しさを感じさせる刺青は、下半身にも彫られているのだろうか。その姿は、この豪華な船に似合う『貴族』とは程遠かった。


「お前、海で溺れてたやろ? 何か海荒れてんな……と思って海を眺めてたら、なんか『アルバ』って何度も叫びよる奴がいたもんやから、そこを『(わし)』が泳いでお前を捕まえて、この船まで運んだってわけじゃ」


 アルバは布団から起き上がり、自身を『(わし)』と呼ぶ青年と目を合わせた。


「ああ……。どうも、助かりま……ん? 泳いだ? 俺が海に落ちた場所って、島からだいぶ遠かったですよね?」


「おお。儂は泳ぐのだけは得意での、確かに距離はあったし『重かった』が、楽勝じゃったぞ」


「……その一言、女性に言ったら殴られますよ?」


「冗談じゃ冗談。……あと、そんなかしこまらんでもええぞ、儂ら年近そうじゃし」


「じゃあ、そのようにさせてもらうが……」


「?」


 アルバは青年と言葉を交わしながら、その刺青だらけの身体をまじまじと見つめている。


「その身体の『刺青』って、本物か?」


「おお、これは『趣味』でな、身体中に彫らせてらったんじゃ。どうじゃ、かっこええじゃろ?」


 青年は幾何学模様の刺青が彫られた肉体をアルバにこれみよがしに見せつけ、今考えたであろう拙い決めポーズを取る。


「確かに、色んな形が彫られてるのに、全体で見るとすごい綺麗に映るな……」


「そうじゃろそうじゃろ。特に儂は、この両腕の刺青がお気に入りなんじゃ!」


「! その上腕のやつすごいな。二つとも『円』の形みたいだが……いや。もしやこの二つの形は『太陽』と『月』を表してる?」


「大正解じゃ! よくわかったのぅ! 流石は『勇者様』じゃ!」


 青年はすでに、アルバが『勇者』であることを知っているようだ。


「じゃあ、この腹の刺青はなんじゃと思う⁉」


「人の顔みたいだが……なんか意味あるのか?」


「ふふふ、これはじゃの~」


 半裸の男たちが打ち解け合うには、『刺青』というものは都合が良すぎたようだ。




「あ~あ、お前と話すのは楽しいのぉ」


「俺もだ。知らないことを知るっていうのは、いつだって心が躍る」


 ベッドと椅子にそれぞれ腰かけた半裸の男たちは、十数分も刺青の話で盛り上がっていた。


「このまま刺青の歴史とか喋りたいところじゃが……、お前、儂よりも話さないかん奴が、二人ほどおったのを忘れとらんか?」


「‼」


 二人という単語を聞いたアルバは布団から飛び降り、ベッドの横に置いてあった服を急いで着る。


「2つ先の部屋におるぞ」


「わかった」


 アルバは部屋のドアを開けると、ふと何かを思い出した顔をして、青年の方を向いた。


「そうだ。あんた、名前は?」


 アルバの言葉に対し、青年は椅子に寄りかかりながら、歯を剝き出しにしてニヤリと笑った。




「『オルクレス・テクトーリ』。この船の所有者じゃ」



 ◇



 豪華な船の廊下には、二つ先の部屋から漏れた少年の声が響いている。

 アルバがその部屋のドアをそっと開けると——


「グホァッ!」


 カイヤがテミスの腹部を殴っていた。


「ギャーギャーギャーギャーやかましいのよ‼ こっちはずっと『回復魔法(リライズ)』ぶっ放しまくってたんだから、まだ疲れが取れてな——アルバ⁉」


 アルバは少しポカンとした表情で、その現場を目撃した。


「え~と、邪魔したか?」


「違うからッ!」


「————ッ!」

 

 即座に否定するカイヤの足下には、腹部を押さえて呻き声を上げるテミスが転がっている。


「っていうかアルバ、やっと目覚めたけど大丈夫⁉」


「ああ、おかげさまでこの通りだ」


「……良かったぁ」


 緊張から解き放たれたのか、カイヤは力が抜けたように膝から崩れ落ち、そのまま眠ってしまった。


「zzz……」


「……」


 アルバは眠り姫となったカイヤをそっと持ち上げ、ベッドまで運んで布団をかける。その間、アルバは先程の怒鳴り声を思い出していた。


『こっちはずっと『回復魔法』ぶっ放しまくってたんだから——』


「……そうか、お前は」


「アルバが起きるまでの一日間、カイヤは何度も『回復魔法』をかけていたんだよ」


「……お前、もう痛がらなくていいのか?」


「いやマジで痛い」


 床で転がっていたテミスは起き上がり、腹部を軽く押さえながらアルバと言葉を交わす。


「息はあるから大丈夫だって言ったんだけど、『念のため』だって。流石にマナが枯渇してたし、疲れて寝ちゃったんだね」


「……俺、一日も寝てたのか」


 そう呟くと、二人は静かに眠るカイヤに視線を移した。


「だが……、ありがとうな、カイヤ」


 その言葉をカイヤが聞くことはなかったが、それは確かに、アルバの心の底からの感謝の言葉だった。


「そうだアルバ、ちょっと夜風に当たりにいこうよ」



「綺麗な星空だね」


「ああ、昨日の悪天候が嘘みたいだ」


 二人は船のデッキに足を運び、互いにレールに寄りかかっていた。


「あの『オルクレス』って人、僕らが助けを呼ぶ前に荒波の中を泳いでいって、アルバを島まで運んだんだよ」


「ああ、本人から聞いたよ」


「アルバを抱えながら僕たちの前に現れた時は本当にビックリしたよ。刺青塗れでヤバい奴だと思ったけど、思いの外優しかったし」


「見た目だけじゃ、どういう人かなんて判断できんもんだな」


「そうだね」

 静かに波打つ夜の海と、包み込むように吹く夜風は、人の心を穏やかにすると同時に、心に閉まっていた本音を晒させる。


「……アルバさ。僕が言うのもなんだけど、あんまり無茶しないでよ?」


 それは、いつもの暖かい言葉とは違う、静かで重みのある言葉だった。


「……今回は、流石に無茶をやった」


「主役が一番乗りに死ぬなんて、御伽噺(おとぎばなし)にも書かれないんだから、もうちょい周りのことも考えてね?」


「本当にすまなかった。……今後は気をつける」


「よろしい」


 いつもより萎縮して謙虚に謝るアルバに満足したのか、テミスはため息交じりに微笑んだ。


「お~い、お二人さん~」


 二人の空間に挟まるようにブリッジから聞こえてきたのは、オルクレスの声だった。


「もう夜も遅いし、さっさと寝なさ~い」


「お母さん?」


 ブリッジには母親のような口ぶりのオルクレスと、帆船の船長が共にしていた。


「明日の昼頃にはメストル島に着くからのぅ~」


「「は~い」」


 お母さんノリに乗った二人は、適当な声を出しながら自分たちの部屋に戻っていった。



「オルクレス殿、この度は本当に助かりました」


「ええんですよ。儂がたまたま小島におっただけに過ぎません」


 二人は互いに軽くお辞儀をして、静かな夜の海を見渡した。


「しかし……、あの『センザ・メオス』という名の化け物はもしや、半年前から帰ってこない漁船の……」


「じゃろうな。アレは儂の漁師仲間か、その息子が変身したやつじゃ。海からいつまでも帰ってこないから、事故にでも遭ったと思っとったが、まさか化け物になっとるとはのう……」


 半年前、一隻の漁船が港に帰ってこないという事件があった。

 船には漁師の男とその息子の二人が乗船しており、メストリア王国の戦士たちや漁師たちが彼らの捜索に当たったが、船の残骸すら発見することができなかった。

 おそらく、何らかの原因で二人の内どちらかが『センザ・メオス』に変身し、漁船を食いつくしてしまったのだろう。


「これは、ご親族や国王に知らせなければいけませぬな」


「……そうじゃな」


 センザ・メオスは死亡した際、身体が灰になって消滅する。その特徴故に、漁師の親族の者たちは、二人の遺体を見ることすら叶わないのだ。


「……誰にも看取られずに死ぬのは、やっぱり悲しいことじゃな……」


 月明かりに照らされた夜の海を眺めながら、オルクレスは漁師の男とその息子に思いを馳せた。

 その水面に落ちた雫のような言葉には、どこか不安のような感情が混ざっている気がした。


 そんなオルクレスの傍らで、帆船の船長の脳裏には、一つの疑問を浮かんでいた。



 ——? オルクレス殿は、普段からこのような『話し方』でしたかな?

因みに、全てのセンザ・メオスには名前があります。

今回出てきた個体の名前はシルエットにしますので、是非当ててみてください。何処かで設定も出します。


名前の空欄を埋めてください(ヒント:古代魚の名前)

■■■=■ー■


次回『メストリアに月は揺蕩う』

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