84話 「仲良し」
「ふざけるな!この件は誰にも譲らない…。
天帝が絡んでいるなら尚更だ!」
「ディシさん!気持ちは分かりますが…」
「そんな簡単に気持ちを理解されてたまるか!
俺の…大切な友達なんだよ…、ジェミーは、、」
部屋の中に沈黙が走る。
話し合いを始めて既に20分ほど経った。
ディシは今までにないほどに感情的になっており、既に話し合いなんかではなくディシを説得できるかどうかになっていた。
「大切なご友人の形見というのは理解しています。
それを踏まえた上で納得して欲しいんです!
天帝が絡んでいる以上はディシさんを一人で行かせることは絶対に出来ません。
かと言って例外はありますが守恵者を二人以上ユーランシーから離れさせる訳にも行かないんです!
なので必然的にカルメラにはスタシアさんに行ってもらうしかないんです!」
「俺が天帝に負けるとでも思っているのか?」
「…確かにディシさんは強いです。
私とヨーセルさんが戦った縛毒ならば勝てるかもしれません。
ですがカルメラにいるのが悪我の天帝や空虚の天帝ならばアビス師匠のお話を聞く限りディシさんでは勝てないです」
ディシもミリィノも一歩も引かずに言い合っている。
(ミリィノちゃんがこんなにズバッて言うなんて珍しい…)
「お前…立場を忘れるなよ…。この中じゃお前か一番弱いっていうのを理解…」
ディシが言い切る前にアレルが剣を生成しディシに切りかかる。
ディシもそれにすぐ反応をし、剣を生成してアレルの攻撃を防ぐ。
「ディシ…お前のわがままはまだ黙って聞いておいてやるが仲間を傷つけるような発言は控えろ。
ミリィノはこれでも優しく言っている方だ。
なのにまだ理解していないようだから言ってやる。
お前では天帝には一人では勝てない。
俺も…ミリィノもだ。
この中で天帝に確実に勝てるのはスタシアだけだ。」
「…だったら、、どうして俺に…支操の剣があるということを言ったんだよ…。
どうして、、黙っていつもみたいに任務と言ってスタシアに行かせればよかっただろ…。
なんで…俺にこのことを話したんだよ…」
「この件は…私はしっかり話し合うべきだと思いました。
ディシさんの理解を得た上でスタシアさんに行ってもらいたかった。
そうしないと…あまりにもディシさんもジェミーさんも報われない」
「…もう、勝手に決めてくれ、、俺はもう疲れた」
ディシはそう言うと部屋を出ていく。
「…俺たちで決めるぞ」
「良いのですか?」
「今はこれが一番都合が良い。」
「そうですね…。
スタシアさんに了承は得ていませんでしたがスタシアさんは良いですか?」
「うん、良いよ。また皆と離れるのは寂しいけどね」
「すみません…こんなに苦労をかけてしまうなんて」
「いいの。ミリィノちゃんも頑張っているんだし!」
「ありがとうございます…
メアリー女王、そのような形で問題ないですか?」
「…はい」
「それでしたら会議を終わりましょう。」
会議終了後、スタシアはミリィノを呼び止める。
「お疲れ様」
「お疲れ様です…すみません、少し言い合いになってしまいました」
「気にしないで…二人とも気が立っていたんだろうからね。
ミリィノちゃんがあんな強い言葉吐けるなんて初めて知ったよ!」
「うっ…忘れてください。」
「そんなに恥じることじゃないよ。
ミリィノちゃんは今まで礼儀正しすぎたんだよ!」
「そうですかね?…礼儀正しくないと、叩かれてしまうので。」
「誰に?」
「忘れてください…昔の話です。それより何か御用でもありましたか?」
「大した用ではないんだけどね…この後ディシ君のところ行った後にヨーセルとバーに行くんだけどミリィノちゃんも一緒に行かない?」
「せっかくのお誘いで申し訳ないのですが私は少し休みますね。」
「そっか…しょうがないね!ゆっくりね!」
「スタシアさんも大丈夫ですか?明日にはもうユーランシーを発つと思うのですが」
「うん!大丈夫!またしばらくヨーセルと会えなくなるし少しくらいゆっくり話したいし」
「そうですか…」
「あとさ…ミリィノちゃん…私の事まださん付けで呼んでるよね」
「そうですね…何か問題ありましたか?」
「うん!私の事これから呼び捨てか愛称で呼んでみてよ!」
「呼び捨てか愛称ですか…」
「スタシア でもいいし スタシアちゃん でもいいし!」
「そ、そんな呼び方しても…」
「良いの!ほら!言ってみて?」
「スタシア…ちゃん、、」
「うん!素敵!」
「そ、そうですか…なら、そう呼ばせてもらいますね!」
「うん!」
スタシアはミリィノと別れた後、すぐにディシの屋敷へと向かう。
ディシの側近であるアンレグが出迎えてくれた。
「恐らく自室でお休みになられていると思われます。
最近は色々とディシ様自身も思い詰めているご様子でしたので…信愛の意思者様にならきっとディシ様を立ち直らせてあげることが出来ると思います。
どうかお願いします」
そんなお願いをされながらディシの部屋の中へと入る。
(そんなに…私は万能じゃないのに…)
部屋に入るとディシがベッドの縁に座り両膝にそれぞれ肘を置いて俯いていた。
「ディシくん…」
「スタシアか…どうした?」
「さっきのことで色々とあったじゃん?だから大丈夫かなって」
「…問題ない、、スタシアは明日のために休んでおけ、」
「問題ないって言っても…ディシくん、顔がすごく辛そう…」
「大丈夫だ…少し疲れが溜まっているだけだ。
頼む、一人にしてくれ」
苦しそうな声で言うディシに対してスタシアは言うことを聞かずに早足で近づき、ディシの頭の後ろに両腕を回し自身の方に抱き寄せる。
「…スタシア?何を…」
「ほら…いいよ?」
「何が…」
「早く…」
「だから何が、」
「ディシくんは分かってないなぁ…
私が…どれだけディシくんを…ディシくんと一緒にいたと思ってるの?
貴方が辛い時くらい分かっているよ
ディシくんはすーぐ抱え込もうとするんだから…
ほら…」
「…」
その瞬間ディシはスタシアの腕を振りほどき、手を引っ張ってベッドに押し倒す。
スタシアの両手を頭付近のところに押さえつける。
「…え?ディ、ディシ…くん?」
「男の部屋に軽々しく入るな…
お前は非力なんだ…忘れたか?前にもそんなことがあっただろう。
そうならない為に俺がどれだけ…」
「いいよ」
「、は?」
「いいよ…ディシくんの辛さがそれで和らぐなら…私の体を好きなだけ使って。
ディシくんなら…いいよ」
「そ、そんなこと…好きでもない男に言うな。
もう帰ってくれ…」
「どうして…どうしてそんなこと決め付けるの!
ディシくんは本当にわからず屋だよ!
私の気持ちなんて知らないくせに!」
「何が言いたいんだよ…俺はお前のことを思って、」
「違う違う違う!ずっと…そうだったんだね、、
ディシくんは私の事なんか本当は鬱陶しいと思っていたんでしょ?
やっと合点した。
私の事を気にするだけ気にして…本当は大した実力もないくせに守恵者になった邪魔者としか…思っていなかったんでしょ?」
「そんなわけ…」
「いいの…ごめんね。
それを否定する気なんてないもん。
…今日はもう帰るね」
「ま、待っ!」
ディシの言葉を無視してスタシアは部屋を出ていく。
ディシは暗い部屋の中で一瞬だけ部屋を出ていくスタシアの目から光る何かが落ちるのが見えた。
「…どうしたら、、良いんだよ…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あ!スタシア!」
私の姿を見るやいなやまるで光り輝くような笑顔をこちらに向けるヨーセル。
この子は本当に誰かの心を支えるのに適しているな としみじみと感じる。
「意外と早かったね!」
「うん…」
自分でもわかるほどあからさまに元気がない。
当然だ…さっき、ディシにあんな強い言葉を吐いてしまったのだから。
「スタシア…もしかして元気ない?何かあった?」
「…少しね。」
「そっか。とりあえずお店行こ!お酒飲めばきっと少しは楽になると思うし」
ヨーセルは私に最近行きつけているバーまで案内してくれる。
建物は三階建てだがバー自体は一階にだけしかないようであり、どこか落ち着いた雰囲気のあるバーだった。
確かにヨーセルが好きそうなんて思いながら私たちはバーの中に入る。
中には既に客が数人いる。
テーブル席に二人、カウンター席に一人。
バーなのにテーブル席があるということは昼間はまた別のお店を開いているのだろう。
するとカウンター席に座っている若い男が振り向きこちらに笑顔で手を振る。
誰?と思っているとヨーセルは振り返す。
「やぁ、ヨーセル…と?」
「やっほ、アンバー。この子はスタシア、友達なの!
ここのバー好きだから紹介したかったんだ」
「そういう事か。初めまして、こんばんは。
ランスロット・アンバーと言います。
よろしくね、スタシアさん」
「よしくお願いします…」
「どうかしたのかい?元気が無さそうだけど」
「さっきどうやら色々あったみたいなの。」
「そうか…じゃあ、今日は僕の奢りで好きなだけ飲むといいよ。
辛い時はそれを忘れられるくらいの出来事が必要だからね」
「え!いいの?」
「ヨーセルには言ってないよ」
「えー!ケチ!」
「そもそも毎回一杯は奢っているだろう。」
「うっ…そう言われれば弱いんだよなぁ」
「ありがとう…二人とも。」
「良いんだよ!ほら、スタシア座って!
言いたくなったらでいいから何があったか教えて」
「うん」
ヨーセルに誘導されながら席に座る。
店主には甘めのカクテルを頼む。
「アンバーって冒険者だったよね?いつまでユーランシーにいるつもりなの?」
「ヨーセル…前にも言ったじゃないか。」
「そうだったっけ?何回でも聞くよ!」
「そんな誇らしげに言うことでは無いと思うんだけどなぁ。
僕はあと一ヶ月前後かな…滞在するのは。
その辺りで少し大きな仕事が出来そうだからね」
「へぇ〜凄いね…仕事って何してるの?」
「ちょっとした地表捜査さ。」
「なんか大変そうだね…というか家族とかは居ないの?
奥さんとか子供とか」
「いないいない…妹が昔居たけど、今はもういないんだ。」
「そっか…ごめんね、なんか辛いこと思い出させちゃって」
「気にしないでくれ。
結構昔のことだし今はもう立ち直っているさ。」
二人には少し気まずい空気が走る。
「二人はすごい仲良しだね。」
「そうかな?」
「うん…ずっと前から知り合っていたみたい。
きっと気が合うんだろうね」
「そんなこと…あるのかな?」
「どうだろうね」
「…私ね、さっき好きな人と喧嘩しちゃったんだ。」
「「えっ?」」
「ディシくん…アンジ・ディシと喧嘩しちゃった。」
「!?…ごめん、アンバー。少し席を外してもらってもいいかな?」
「え、あ、もちろん。他の人と喋っているね」
アンバーは席を立ち上がり、テーブル席の方へと歩いていく。
「どういうこと?喧嘩したって、、」
「…ヨーセルはさ、ディシくんのこと好きでしょ?」
「えっ、、」
「分かってるよ。私もそうだから。ディシくんに対してそういう気持ちを抱いている人を見るとすぐに分かる。」
「い、いや、私は…そんなこと、、」
「変に気を使わなくていいよ。
結構前に気づいてたし…」
「そうだったんだ…でも!スタシアもディシさんのこと好きなんだよね!
負けるつもりもないけど応援しないつもりもないからさ!
一緒に頑張ろうよ!あ、でも、ディシさんはすごく鈍か…」
「ディシくんをお願いね…ヨーセル。」
「え?」
「私にはディシくんを支えてあげることも出来ないし辛い状況から立ち直らせてあげることも出来ない。
ヨーセルならきっとその役目が務まる。
だから、ディシくんはヨーセルに譲るよ」
「…っ!!ふざけないで!そんな同情心みたいな感じで好きな人手に入れられたとしても全っ然嬉しくなんかない!
話を少しミリィノさんに聞いたことあるけど…スタシアはディシさんのことずっと好きだったんでしょ?
それなのになんでそんな簡単に諦めがつくのさ!
そんなの…あまりにも自分に嘘つきすぎだよ!」
「諦めなんかつくわけないじゃん!
私だって…本当はディシくんと一緒にいたいよ…
でも、それじゃダメなの。
私はディシくんに必要とされていない。」
「そんなこと、」
「あるの…必要とされているのはずっと私なんかじゃなくて
信愛の意思 だけ…。
ディシくんに限らず皆そう…私から信愛を無くしたらみんな私を必要としない。
でもねヨーセル…あなたは違うの。
守恵者であることを黙ってても私に他の人と平等に接してくれたヨーセルは本当に感謝しているの。
だから、ヨーセルにならディシくんを任せられるの…
お願いね、」
スタシアは立ち上がり、店を走って出ていく。
ヨーセルはスタシアに向かって手を伸ばすが届くことなくスタシアの背中を見つめるだけ。
読んでいただきありがとうございます!




