表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使とサイナス  作者: 七数
4章 【解】
87/91

81話 「最強の男の記憶⑥」

「お母様…見てて、、私が…お母様の意志を、」


涙ながらにそう言うメアリー女王。

目の前には衰弱しきって息を引き取ったアシュリエル・ソフィア。

病に倒れ、みるみる弱っていった母を見たメアリーにはとても辛い経験だった。

だがそれでも強くあろうと王としての勉強や作法と言葉遣い、毎晩母の見舞い。

城の従者達もそんなメアリー女王を見て体調面を心配していたが本人は 自分が頑張らなければ母の意志を継ぐことが出来ない の一点張り。


メアリーの後ろにはアビスが立っていた。

涙は流していない。

ただ絶望と苦痛をその目に纏っているだけ。


その夜、メアリーは次期女王のための話し合いをしにアビスの部屋を訪れた。

部屋をノックしても返事はなく、物音ひとつ無い。

鍵はかかっておらず、部屋を開けるとアビスがベッドに腰をかけて座って俯いていた。

表情は見えないが落ち込むなんて表現では言い表せないほどの雰囲気があった。


「お父様…」


メアリーが呼んでもピクリとも動かない。

メアリーはアビスの前に立ち、座っているアビスを見下ろす。


「明日、次期女王として民たちの前で意思表明をするのですがそれの打ち合わせを…」


「勝手に…してくれ、、」


「ですが、これはアシュリエル家でしっかりと…」


「勝手にしろって言ってるんだ!何度も言わせるな。

自分で考えて行動も出来ない奴に女王など務まるわけないだろ…」


「…すみません」


ここまで荒れているアビスは初めて見るメアリー。

自分が物心着いた頃からアビスは誰にも負けない強い父親であり、勝手に精神的な面も誰よりも強いのだとメアリーは思っていたのだ。

だが、そんなアビスの強さを支えていたのはソフィアという存在であり、そのアビスを構成する土台とも言える存在が崩れ落ちて、アビスは壊れてしまった。


アビスの部屋を出たメアリーは、部屋の前で決心した。

アビスは今、心が壊れてしまっている。

ならば自分が母のように父の支えになれば良い と。

それがどれだけ困難なことかはメアリー自身が一番分かっていた。

メアリーは女王として…ユーランシーの王として今まで以上に自分の体にムチを打って自身の仕事に力を入れた。


だが、そんな忙しい日々でもメアリー女王は自分の食事をアビスの部屋まで持って行ってアビスの部屋で食べていた。

アビスはそんなメアリー女王に一度も目を向けることなく、ただ椅子に座り机に肘を置いて頭を抱えているだけだった。

それでも根気強くメアリー女王は嬉しいことがあった日にはアビスにそれを話したりしていた。

だが当然のようにアビスからの返答はなかった。


そんなある時に…メアリー女王は倒れた。

原因は疲労だった。

メアリー女王はベッドで眠り、それを囲むようにディシとアレルが見守っていた。


「メアリー女王…さすがに身体が限界を…」


「当然だ…ほぼ寝ていないのにずっと仕事だけをして、

それを数ヶ月も続けているんだ。」


するとドタドタと音が聞こえてドアが勢いよく開くと、息を切らしたアビスが入ってくる。


「メアリーッ、、」


アビスはメアリー女王見ると眠っているだけだと思い安心した。


「良かった…」


そう心からの言葉を漏らした。

だが、それが温厚なディシを怒らせた。


「良かった…?ふざけるなよ、、アビス師匠、。

ふざけんなよ!!お前は!メアリー女王のなんなんだよ!

父親だろ?父親なのにお前はメアリー女王のことを何も分かってない!

どうして…この状況で 良かった という言葉が最初に出るんだよ!

まずは謝れよ!メアリー女王に謝れよ!!

メアリー女王がどんな思いで…どんな信念で…ここまで頑張ってると思ってるんだよ…。

全部あんたのためだよ、、。

ソフィア様を亡くして…メアリー女王だって苦しくて、寂しくて、辛いはずなのに…それでも前を向いて俺たちやあんたの為に体に鞭打って働いてっ…

なんで…父であるあんたは娘を支えてあげられないんだよ…。」


「…」


アビスはただ無言でその言葉を聞く。


「メアリー女王は言っておられましたよ。

お母様という支えが居なくなったお父様を支えられるのは私だけだって。

お母様のようにお父様を支えられる存在になるって。

それなのにアビス師匠はソフィア様が亡くなってから何をしていたんですか?

ソフィア様の残したものを何も継いでいこうとは思わないんですか?」


アレルもディシに続いてアビスに問う。


「俺は…ソフィアがただ生きていて欲しかっただけなのに…

確かに…俺は何も知らないな…。

ソフィアが何を望んでいるのかすらも分からない…」


「ソフィア様が望んでいることなどはただ一つです。

アビス師匠とソフィア様にとってかけがえのない存在を守ることなのでは無いのですか?

それが今のあなたの責務ではないのですか?」


(そうだ…約束…したじゃないかっ、、ソフィアと)



『お願い…私が死んでもメアリーをお願いね。

必ず守ってあげてね…アビス…』



「お父…さま?」


ベッドの方から声が聞こえ、目をやるとメアリー女王が目を覚ましていた。


アビスは直ぐにメアリー女王の方へと駆け寄る。


「すまなかったっ、ごめんな、メアリーッ!

お前一人に…全てを任せてしまって…

メアリーだって…辛いはずなのに俺ばかり不幸と思ってしまって。

ごめんっ、、」


アビスはメアリー女王を強く抱き締めながらそう言う。

驚いた表情を浮かべるメアリー女王だが、その顔に笑顔が戻り、アビスを抱きしめ返す。

目からはスーッと涙が流れる。


「んーん、良いの。お父様が…つら、、いのはね、

分かっ…てた、、あ、れ…なんで涙が…止まらな…いの?」


無理やり笑顔を作ろうとするメアリー女王。


「もう強がらなくていいんだ…全部…不満も辛いことも相談したいことも全部俺に言ってくれ。」


「っ!!うあぁあぁああぁぁぁぁああ!!

バカっ!バカっ!お父様のバカっ!

私だって辛かったのに!頑張ってたのに、

どうしてっ…どうして私だけこんなに頑張らないといけないのっ。

私だって沢山泣きたいし悲しみたかったのに!!

女王なんて怖いよっ!嫌だよっ!皆の幸せなんて私、分からないよ!!

お母様ッお母様ッ…お願いだから戻ってきてよ…」


メアリー女王は今までずっと我慢していたことをアビスに全て言う。

アビスはそれをただ静かに聞いていた。


「お父様…すみません。こんな言葉遣いを…」


「良いんだ…もう無理なんてしなくていいんだよ。

女王だからみんなに甘えずらいかもしれない。

なら俺には好きなだけ甘えて良いから。」


「本当…ですか?」


「ああ、好きなだけ甘えてくれ」


「で、でしたら…お願いがあるのですが、、」


「どんなお願いだ?」


「お父さん…とお呼びしても良いですか?」


「別に構わないが…そんなお願いでいいのか?」


「はい!これがいいんですっ!」


「なら、良いんだが」


「ありがとうございます!お父さん!」






「…さんっ!…さんっ!…お父さんっ!」


「メ、アリー…」


「嫌、嫌嫌ッ!!お願いします神様!お願いします!

どうかッ、どうかお父さんを助けてください!!

どうか…どうか…」


「ゲホッ…ゲホッ…ごめんな…メアリー、、

守るって言ったのに…こんな…」


「んーん!お父さんは私をずっと…ずっと守ってくれていたっ…

だから、お願い…治ってよ、、聖者の方はっ!!」


「無駄だ…俺には治癒も何も効かない…。

もう、、ダメみたいだ…」


「そんなこと…言わないでよ…ダメだよ、お父さん…

起きてよっ、、置いて…いかないで。

お父さんが居なくなったら誰を…信じればいいのっ、」


「頼るんだ…アンジやドレイやカウセル、マーレンに…

あいつらは強い…きっとお前を救ってくれる。

それにルシニエ…あいつはきっと…このユーランシーとスクリムシリの現状を変える鍵となる…。」




「はぁ、はぁ、メアリー女王っ!!」


二人の元にミリィノとヨーセルが到着した。

だがその状況を見た瞬間、言葉を失った。

師であるアビスの心臓には風穴が開き、涙を流すメアリー女王…。

瞬時に理解すると同時にその理解を拒む意思があった。


「嘘…嘘、、ですよね?アビス師匠ッ、、」


「そ、んな…そんなこと…」


「…カウセル、ルシニエ。メアリーを…頼ん…だ。

…すまないメアリー。そろそ…ろ」


「ダメっ!嫌だっ!お願いダメ!いかないでっ!

お願いしますっ、神様っ神様ぁ!!

どうしてっ、お父さんを連れていかないでよ!!

なんで私のっ、大切な人を…」


「俺の口から…伝え、たこと無かった…よな。

メアリー…愛して…る、、」


「お父さん?お父さんっ?ね、ねぇ、お父さん?

う、動いてよ…そ、そうだっ!お父さんの大好きなお肉!

食べに行きませんか?

沢山、食べて…良い…ですか…ら、、ね、

だから…起きて一緒…に、、行きましょうよ、、」


「メアリー女王…アビス師匠は既に。」


ミリィノはメアリー女王のすぐ横に片膝を着いてしゃがみ、メアリー女王の肩に手を置く。

その声から涙をこらえているというのがすぐに分かる。


「どう…して、、」


「ミリィノッ!!はぁ、、はぁ、、メアリー女王…は、、?」


ディシはいつの間にかユーランシーに戻ってきていた。


「な、んだよ…これ、、ヨーセル?何があった…?」


ディシはヨーセルの方に顔を向けるが目を背ける。




夜になる。

スタシアを除いた守恵者三人が集まっていた。

あの後、メアリー女王はアビスの死体を離さないままずっと泣いていた。

だが、ディシとミリィノの指示の元、アビス師匠の遺体はホールディングスへ運ばれた。

メアリー女王はショックから精神が不安定になり、歩くことすらままならずに今は自身の部屋で眠っている。


「「…」」


三人の間にはこれ以上ないほどの冷たい空気が流れていた。


「すみませんでした」


最初に口を開いたのはミリィノだった。


「なぜお前が謝る?」


「私がユーランシーに残っていながら天帝の存在に気がつくことが出来ず…それに加えてヨーセルさんと私の二人がかりで戦っていたにも関わらず縛毒の天帝を殺しきることが出来ず、アビス師匠への応援に行くことが出来ませんでした。」


「ミリィノのせいではない。

俺とディシはその現場に居合わせることすら出来なかった。

天帝がユーランシーを襲撃するなど誰も予想が出来なかったことだ、」


「…いや、出来たはずだった。」


「なに?いきなり言葉を発したかと思えば何を言っている?

こうなることに気がつけたとでも言うのか?」


「そうだ…お前はもう少し頭を使え…」


「なんだと?お前…さっきから黙っていたが、自分だけが辛いですみたいな顔しやがって…

ミリィノも俺も辛いんだよ、だけどな俺たちはこの国を守るために悲しむ暇も惜しまなければいけないんだよ!

舐めたこと言うなよ?」


「喧嘩はやめてください。

今はディシさんの話を聞くべきです。」


「チッ…」


三人とも気が立っていた…いや、焦りと不安の方が強かった。

ユーランシーで異質であり最も強いアビスが死んだことによってそれは守恵者である三人を精神的に追い詰める効果があった。


「ディシさん…それで気がつけたというのは?」


「そもそも、天帝はヴェルファドとユーランシーの戦争なんてどうでよかったんだ。

空虚がカエリオン王を唆したのは…スタシアをユーランシーから離れさせるための口実でしかない。」


「つまり…元から天帝はユーランシー自体を狙いにしていた。

けどスタシアさんがいればそれは叶わぬ狙い。

だからスタシアさんをヴェルファドに向かわせるように仕向けたと?」


「そうだ」


「…可能性はありますね、、だとしたは我々の考えを見透かせれていたということですか。」


「仮にそうだとして、地形を理解しているミリィノが天帝…それに縛毒というディシ曰くミリィノが相性の良いという相手に手こずるとは考えにくいが?」


「今考えると…縛毒はユーランシーに対しての土地勘があったように感じます。

ホールディングスの場所も、東国の場所も教会の場所も理解しているようでしたし。


「仮にそうだとしてなぜ分かっている?」


「…少なくとも空虚は天恵で体を構成している純粋なスクリムシリの天帝。

ですがそれ以外の天帝は普通の人間という可能性の方が高いと考えるべきなのかもしれません。

現に災理の意思者と縛毒の意思者は人間でした。」


「ならばその二人がユーランシーに来たことあると?」


「いやその可能性は低いな。

災理の天帝の死体を見たがあんな目立つ図体をしている奴がユーランシーに潜入して俺たちの目に付かないことなどはありえない。

それと縛毒は過去に俺が会ったことがあり、顔が割れている。

そんなリスクを持ってユーランシーに来ることは無いだろう。」


「ならば…」


「はい…別の天帝ですね。

それも気配が消すのが相当上手い。」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「やぁ、ヨーセル」


「アンバー…」


「浮かない顔だね。何かあったのかい?」


ヨーセルは沈みきった心を出来る限り晴らすためにバーに訪れる。

そこには既に先日知り合ったばかりのランスロット・アンバーが座っていた。

読んで頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ