80話 「災理の意思⑦&最強の男の記憶⑤」
読んでいただきありがとうございます!
「あれから10年か…早いもんだな」
ギャラリス・メアという女が俺に接触してから既に10年が経った。
ギャラリスとの取引で俺は 災理の意思者 になる代わりに大切な者達の幸せを条件で提示した。
そして結果的に俺は王族…カルピア王国の国王として10年間務めている。
俺が王になって直ぐにギャラリスは突然姿を消した。
この生活を安定させることが出来たのはギャラリスであり、やり方に問題はあれど俺としては大した問題ではなかったため一応感謝?はしていた。
王は元々面倒でありたるつもりなどではなかったが
大切な者たちが幸せになるのであれば俺の苦労などどうでもよかった。
「こちらのお召し物なんていかがでしょうか?」
「今日は辺境伯の友人の家に行くだけだ。
そんなかしこまる必要は無いさ」
「ジャレン様、いついかなる時も御方は御上品である必要があります。」
「すまないが、今日会いに行く友人とは立場を無くして接するというのを約束しているんだ。
大目に見てくれ」
「かしこまりました。余計な口添えお許しください」
俺は今日、トノックとミクシーに会いにいく。
王になってから話す回数など無に等しく、ほぼ顔すら合わせていない状況だった。
だが、トノックとは手紙でのやり取りを今日まで毎月毎年続けており互いの近況などは理解していた。
トノックとミクシーは五年前に結婚しており、もうすぐで四歳になる子供もいる。
辺境伯の主になるためにトノックは領地管理など色々なことを勉強中であり、それを一生懸命尽くしてくれているのがミクシーだった。
二人は文面だけでも幸せなのが伝わってきて俺の目標が達成出来ていることが嬉しくあった。
「出してくれ」
馬車に乗り、辺境伯へと向かう。
(会ったらまずは謝らないとな…)
10年前に俺は二人を自ら拒絶する言葉を吐きかけてしまった。
二人は気にしていない様子だったが俺にとってそれはとてつもない罪だった。
会ったら直ぐに心からの謝罪をしたかった。
馬車を走らせて数時間ほど。
トノックとミクシーが住む屋敷に着いた。
ドアの前に立ち、ドアをノックする。
返事がなかったため、もう一度ドアを少し強めにノックしてみるがやはり返事がない。
留守か?とも思ったが事前に行くことは伝えており、手紙にも豪華な料理を用意して待っていると記されていた。
「少し時間が噛み合わなかったのかもしれないな。
少し待つとしよう。」
俺は馬車の操縦兼側近の者にそう言って馬車の方へと向かおうとする。
だが何故か、理由は分からないがふとドアを開けてみようという気になりドアを開ける。
「な、んだ?これ、、」
言葉が勝手に出てしまった。
それほどまでに驚いてしまった。
ドアを開けてすぐ…恐らくこの屋敷の召使いであろう者数人が血だらけで倒れていた。
全員に共通して首を深く切られて亡くなっており、苦しみながら死んだ形跡が顔にあった。
俺は一気に冷や汗と焦りが出てくる。
過呼吸になりながら、吐き気が止まらなくなる。
「はぁ、はぁ、と、トノック!ミクシー!」
俺は急いで屋敷内に入り、廊下を走りながら部屋を見て回る。
地面や壁には血が撒きちっており、廊下には死体が転がっている。
そして一つの部屋を開けた瞬間、俺は地面に膝を着く。
「あ、あぁあ…あ゛あ゛ぁ っ!!
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!頼むから嘘って言ってくれっ、」
その部屋は恐らく、子供部屋だろう。
本棚には子供用の本、部屋にはおもちゃ、小さめのベッド、机…そして血だらけの三人の死体。
トノックとミクシー、そしてミクシーに抱えられる四歳程の子供。
その三人がピクリとも動かずに死んでいた、
トノックは壁に寄りかかりながら他の死体と同じように首を深く切り裂かれて死んでおり、ミクシーと子供は四肢の付け根に刺傷があり、いたぶられてから最終的に首を切られ死んだと分かる。
「どうしてっ!どうしてなんだよっ!なんで!!
なんで俺はいつもいつも!!自分の決めたことさえ守ることが出来ない!!
俺はなんで!なんで…だって…まだ謝りも…おめでとうも…直接言えてないのに。
お前たちを…幸せにするって決めたのに。
俺はなんのために、王になったんだ、、、」
涙が床に落ちる。
自分の不甲斐なさが心を締め付ける。
その後に側近が部屋まで来て、この地域の兵にこの現状を全て伝えた。
死体は回収されていき、俺はそれをただ見ることしか出来なかった。
だが一つだけ、俺の中にある感情が溢れるように湧き出てきた。
『復讐』この考えをより強くするほどの憎悪。
俺はその時に何故か力がどんどんと溢れるのを感じた。
ギャラリスに教えられても分からなかった 天恵 という存在だと直ぐにわかった。
(ギャラリス…?)
俺はふと思い出した。
こいつが関係しているのではないか?と。
俺は俺を呼び止める側近を無視してその場を立ち去る。
近くにいる…この状況を必ず見ている…俺はそう確信しており、直感の向くまま歩みを進める。
そして、町外れにある木々に囲まれた場所に来た。
中央には大樹、その周りは草原、そしてそれを大きく囲むように木々があり森になっている。
背後に気配がした。
振り向くとギャラリス…では無かった。
そこに立っていたのは長身で体格の良い男。
恐らく会ったことは無い、ギャラリスと同じような雰囲気がする。
「…誰だ?」
「?…俺目的でここに来た訳では無いのか。
ギャラリスに指定されたのだがな。
ここに来る者を 待て ってな」
「ギャラリス?ギャラリス・メアを知っているのか?」
「だったらなんだ?」
俺は腰に着けていた剣を瞬時に抜き、男の首目掛けて振りつける。
だが、男はどこからか剣を出現させて軽く受け止める。
「ギャラリスはどこだっ!言え!」
「気の荒いやつだな。…!?お前…天恵使えるのか」
「ふっ、、だったらなんだ?」
「面白いやつだ。
俺は天帝慈刑人 災理の意思者 カリュバット・ドズスール。」
「天帝…?」
カリュバット・ドズスール…聞いたことがある。
10年前にギャラリスが俺と初めて接触した際に口にした名前…。
なんならギャラリスが俺に協力をした理由がまさにこの男を…天帝から引き下ろすため。
「やはりな。北で起きていることをギャラリスから教えて貰っていたのか。」
「そうだ、そう言ったら?」
「別にどうもしない。どうでもいいんでな」
「俺からも質問させろ。
お前はなぜ南にいる?なぜここの町にいる?」
「簡単な事だ。邪魔者を殺しに来た。」
「邪魔者…?」
「俺は北のアシュリエル一族に敬意を払っている。
天帝の身だがユーランシーに対して俺は敵対意識など全くない。」
「それと何が関係ある?」
「今から八年後…ある人物を境に北の状況は大きく変わる。
その状況の変化というのはアシュリエル家にとってどのような影響を及ぼすか…俺の サイナス を持ってしても分からない。
それをできるだけ良い方向に持っていくためにある人物を抹殺する必要があった。」
「誰だ?」
俺は予感していた。
そうであって欲しいと思うと同時に殺意が湧いて出てくる。
「アーシェイント家の間に生まれた子供。
だが…」
その瞬間にカリュバットに対しての殺意が溢れ出し、
記憶も正気も無くなった。
次に正気が戻った時、俺の腕がカリュバットの心臓を貫いていた。
「そ…うか。それが狙いだったか、、ギャラリスめ…」
カリュバットは俺の目の前で死んだ。
どうでもよかった…それよりも体が痛い。
疲れた…もう、死にたい。
そんなことを考えながら足をもつれさせながらも町の方へと歩みを進める。
「あら、随分と悲惨ね。清々しい気分になるわね」
「ギャラリス、、か。」
「ええそうよ。良かったわ作戦通り進んで」
「お前…だな。アーシェイント家を皆殺しにしたのは。」
「そうよ。」
ジャレンが去った後、死にかけのカリュバットの目の前にギャラリスが現れた。
「あなたはアーシェイント家を殺すつもりなんて無かった。
いや、無くなった…でしょう?」
「…」
「アシュリエル家のためなら手段を選ばないあなたがアーシェイント家ごときを皆殺しにするなんて容易いこと。
だけどあなたはそうはしなかった…出来なかった。
なぜなら彼らの幸せそうな姿を見て、アシュリエル家に将来求めている姿が重なった。
本当につくづく甘いヤツね」
「…俺が戦いの最中で…災理の意思をあいつに奪われるのも計算済みか?」
「もちろん。
彼には才能があった。あなたと違って、
災理の意思者としての才能が。」
「ならばなぜアーシェイント家を殺した、、?」
「憎悪のためよ。それはあなたがよくわかっているでしょう?」
「…そう、だな。」
「あなたは邪魔だったのよ。
天帝の身でありながらアシュリエル家に味方をする。
アシュリエル家のためという口実で人間を殺すから泳がせておいたけどそろそろ鬱陶しかったのよ。
セルシャもそう感じていたみたいだからせめての情けで私が手を下した。
感謝しなさいよ」
「…」
「もう死んでいたわね、ごめんなさいね、屍さん」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ジャレン」
「来たか…」
「まるでわかっていたかのような口ぶりね」
「分かっていたんだよ。」
「そう、あなたには天帝になってもらうわね」
「そうか…」
「すんなりね」
「もうどうでも良い…何もしたいことも守りたい者もいない。
今の俺はお前が作り出したんだ。
お前が俺を上手く利用して…殺してくれ、」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そうか…お前は約束を守ってくれたのか。
ギャラリス…。
やっと、、やっと死ねるんだな。」
『ジャレン!』
「トノック…ミクシー…」
『おつかれ…待ってたよ、、あれからずっと』
俺はその瞬間にずっと堪えてきていた涙が溢れ出てきた。
今まで溢れて止まらなかったのは憎悪だけだったが、この瞬間に俺は初めて努力が報われた瞬間だと感じた。
「ごめんっ、ごめんっ…俺は約束を何一つ守れなかったっ、、
お前たちにずっと謝りたかったっ、」
『いいんだ…ほら、行こう。聞かせてくれ。
話を沢山。僕らからも話したいことは山ほどあるんだからさ』
「ああ!」
ジャレンは静かに目を閉じた。
心臓をを貫通された状態で清々しいほどの晴れた顔をして…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あら?ジャレンが…」
天帝は動きを止めた。
互いに治癒はしているがダメージは負っている状態。
力は拮抗しており、互いにどちらが押しているとかではないが、ミリィノと私の二人がかりで決定打に欠けるほどの力。
この天帝は今ここで必ず殺し切りたい。
「ヨーセルさん、サイナスを使います。
サイナスで仮に私が奴との一対一で負けた時、サイナスが解除された瞬間に奴の心臓を刺して殺してください。
それを決められなかった負けます。」
「…分かりました」
ミリィノは覚悟を決めているようだった。
恐らく一対一は勝てない…全てを私に託している。
そんな覚悟を感じられた。
私とミリィノの間で緊張が走る中、天帝はそっぽを向きながら何か考え事をしている様子だった。
「…ふふっ、まぁ、いいわ。
どうやらただで死んだ訳では無いようだし。
そろそろ私は引かせてもらうわ」
「…は?」
こいつは何を言っているんだ?
何をしに来た?
もしかしてもう一人の天帝がメアリー女王を?
いや、メアリー女王の気配は微弱ながらもする。
ならなぜ?
「ふざけるな、何をしに来た!逃がすとでも思うか?」
「あら、勘違いしてもらったら困るわ。
あなたたち二人程度、殺すことなんて簡単よ。
でも当初の予定は違えど十分な収穫はあったし、別の守恵者がこの国に戻ってきているのを感じたわ。
さすがに守恵者二人以上を同時に相手取るのは骨が折れる。
だから見逃してあげるわ」
「お前は今ここで殺すっ、」
「あらそう?やってみたら?」
私とミリィノは同時に動き出し、天帝を挟んで攻撃を仕掛ける。
だが、次の瞬間には天帝は既に消えていた。
一度も目を離さなかったのに元から居ないかのように
パッとその場から消えていなくなった。
「ど、どこに…?」
「…逃げられたみたいです。
今はとりあえず奴のことを考えるのは後です!
メアリー女王の元へ急ぎましょう!
恐らくディシさんが戻ってきているのでそこで合流できると思います、」
「分かりました」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アビスは仰向けに地面に倒れ、そんなアビスの頭を
メアリー女王は自身の膝の上に置いていた。
アビスの心臓部にはジャレンの武器が貫通していたが先程突然消えてなくなった。
「お父さんっ!ダメっ、、」
メアリー女王は涙をポツポツと落としながらそう呼びかける。




