79話 「災理の意思⑥」
血は見慣れてしまった。
慣れる気なんて無かったし…この血を見るのは全部俺が王族戦で勝つため。
学園で学んだことは全て実践向けである技術であるがために、その中でも優秀な成績を収めていた俺にとって暗殺などは容易いことであった。
当然、一人ならば素人の俺は暗殺というもので多少の苦労が付く。
だが、俺には臨時的なパートナーがいた。
街が寝静まるほどの真夜中、ある貴族の屋敷。
屋敷の主であるカーキル家支持貴族、その妻と子供達、
召使いが屋敷の至る所で血を流し、無惨な姿で死んでいた。
俺はその光景に吐きそうになった。
子供の腹は引き裂かれ内臓が垂れ出てきて、屋敷の主の妻と思われる綺麗な女性の顔は原型が分からないほどに潰され、屋敷の主である男は首を切断され、その頭が屋敷に入って目の前にある槍を持ったでかい石像の槍の先端に突き刺されていた。
流れる血を踏みつけながら俺の方に女が不気味に笑いながら近づいてくる。
俺はその悲惨な光景に床に膝を着いて、手で口を抑えていると女が私を覗き込むように見る。
「こんなので気持ち悪くなっているの?
まぁ、初めてならばこんなものかしらね」
女の名前はギャラリス・メア…北の大陸の人間。
王族戦で必ず勝たなければいけない俺にこの女は最も確実性のある勝ち方を教えると言って俺を真夜中に連れ出して…そしてこれだ。
元より俺はギャラリスの策に同意した身だ。
文句などは言うつもりはなかった。
だが…だけど、、
「子供や…召使いを殺す必要はあったのか!」
「?何を言っているのよ。
子供も召使いも…生きているじゃない。
仮に子供たちを生かせたところで親が殺されたことで死ぬよりも苦しい思いをするかもしれないじゃない?
私は救ってあげたのよ」
「く、狂ってる…お前は…狂ってる!!」
「ふふっ、ありがと」
こいつは人間なんかじゃない…悪魔だ。
ここで殺さなければいけない…トノックやミクシーに害を及ぼすかもしれない。
だが…そう思うだけで俺は何も出来ずに立ち去るギャラリスの背中を見ることしか出来なかった。
俺なんかがギャラリスに…この化け物に勝てるわけなかった。
こいつの動きは全く見えなかった。
早いなんてものじゃない…。
「早く行くわよ。バレたらめんどくさいのだから」
俺は立ち上がりギャラリスの後を追って歩き始める。
王族戦は半年間行われる。
その期間、俺はこのようなことを繰り返していた。
ノートス家になるに当たって邪魔な存在になる貴族や集団を皆殺しにしていた。
当然、王都内で大問題となったが犯人の足跡すら掴むことの出来ない現状に民はもちろんのこと、騎士団内でも恐れられる事件となっていた。
次は誰が殺されるのか…そんな恐怖が続いていた。
いつものように寮から学園へと向かっていたら後ろから声をかけられる。
「おはよう…ジャレン、」
声的にトノックとミクシーだった。
俺はあれ以来、二人と距離を置いていた。
王族戦の重要人物としてこの二人に迷惑がかかる可能性があったという理由と気まずいという単純な理由があった。
そもそも最近は学園を体調不良という理由で休んでもいた。
「…あぁ」
俺は後ろ向いたまま返事をした。
「ジャレンッ!挨拶をする時はちゃんと目をっ…!?」
ミクシーが俺の右手首を掴む。
その勢いで俺は後ろを振り向いてしまう。
俺の顔を見た二人は相当驚いていた。
「ジャレン…何があったんだ、?」
自分でもわかるほどに顔色は悪く、目の下にクマがあり、体調が悪いを具現化したような状態だった。
「なんにも無い。」
「なんにもないなんてことないでしょ!
ねぇ、本当に大丈夫?ジャレンが心配なの!」
「本当に…大丈夫だから。ほっといてくれ」
俺の手首を掴むミクシーの手を振りほどき、学園の敷地内へと向かって歩き出す。
(二人が幸せに暮らすためには俺が…俺がやらなければいけないんだ。
俺一人の犠牲で二人が幸せになれるんだったら…)
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今思えばこの時に既に選択は間違っていたのかもしれないな。
今ならわかる…俺は人を信頼できなかったんじゃない。
俺という男がどれほど無力で約立たずな男かがバレるのが怖かったんだ。
だから、クラスメイトからもトノックとミクシーからも…ギャラリスにでさえ壁を作った。
ただ…守れる強さだけを追い求めた。
いや違う…俺は守る強さなんて求めていない。
違う違う、分からない、、何を目的に俺は天帝として生きている?
何のために?
意識が朦朧としている中で家の残骸の上で頭から血を流すジャレンが前方を見るとアビス・コーエンがこちらに歩いて向かってきていた。
あの男は化け物だ。
セルシャに対して生きているだけでも規格外のこと。
だが、その予想をさらに上回った。
こいつは人間という中途半端な性能を持った種族の域を超えて”何か”になっている。
俺ではこの男には勝てない。
俺はその中途半端な種族で力をつけた有象無象に過ぎない。
だが、任務は果たす。
理由なんてどうでも良い…ここまで来たのならば必ずアシュリエル・メアリーを殺す。
それが俺の今の生きている価値だ。
「ギャラリス…」
俺の隣でフラフラと立ち上がるギャラリス。
脇腹が抉られ、左腕は消し飛んでいる。
治癒に天恵を回しすぎたことによって天恵は残り少ないようだった。
「何かしら…無駄話なら、、してる暇ないのだけど」
「…この任務で俺は死ぬ。」
「…」
「だが任務はやり遂げたい。
アシュリエル・メアリーを殺す。
お前まで死ぬ必要は無い…だから死なない程度にアシュリエルに付いている守恵者を引き付けてくれ」
「アビス・コーエンはどうするつもりなの」
「1度だけ…残りの天恵でアシュリエルに災理を使うことが出来る。
距離を取りながらアシュリエルのいる方へと向かう。」
「…あなたにどんな策があるかは詳しく聞いてる暇は無いわね。
良いわよ。」
俺たちは立ち上がりアビスに向き合う。
「今だっ!」
俺の掛け声を合図にギャラリスは動き出し、俺も同様にアビス・コーエンに攻撃を仕掛ける。
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災理が声を上げると同時に縛毒は災理とは別方向へと走り出した。
瞬間的に気づいた…縛毒はメアリーの方へと向かっている。
向かってくる災理に対して、膝関節を二回…災理が反応しきれない速度で蹴りつける。
そして直ぐに俺は縛毒を追いかける。
ミリィノは弱っているメアリー女王を抱えながら東国の教会へヨーセルと共に走って向かっていた。
しかし次の瞬間、後ろから気配がしミリィノはヨーセルに向かって叫ぶ。
「ヨーセルさん!」
ヨーセルはすぐさまミリィノの後方に回り、剣を生成する。
剣と剣がぶつかり合う音でメアリー女王が朦朧としていた意識から起き上がる。
「ミリィノ…さん」
メアリー女王がミリィノの背後に目を向けるとヨーセルが縛毒の天帝の攻撃を受け止めていた。
「なんでお前がここに…」
「チッ…鬱陶しい雑魚が。守恵者でもないカスがしゃしゃり出てきてんじゃないわよ」
ギャラリスはヨーセルとミリィノから一旦距離を取る。
「メアリー女王…走れますか?」
「はい、」
「今からここの道を真っ直ぐ行ったところにある教会へ向かってください。
そこにいる聖者の方に災理の術を解術してもらってください。
時間がありません…行ってください!」
「わ、分かりましたっ、…お気をつけて、」
「面倒ね…良いわ。二人とも殺す」
「弱ってる分際で何を言っているんだ。
死ぬのはお前だ」
(こいつ…さっきから防戦一方だな。
何が目的だ?縛毒はカウセルとルシニエがいる…
ならばなぜここまで粘る?)
「やっと範囲内に着いたさ。」
(俺がアシュリエル・メアリーに付けた災理の能力は
意志『万理』…万理は俺の指示関係なく、意思が判断し使い対象を決める扱いずらい代物。
だが、その分強力でもある。
範囲内であれば印を付けた対象にいつでも無制限に飛ぶことが可能、身体の一部を捧げることで対象を数分間瀕死にすることが可能、『サイナス』の発動条件。)
「範囲…?まさかっ!?」
「飛べ」
アビスの目の前にいたはずのジャレンはパッと消えた。
「ちくしょうっ!」
「はぁ、はぁ、はぁっ…早くっ、」
「どこへ急いでいるんだ?」
突然、メアリー女王の目の前の地面が大きな音と共に地割れを起こす。
「嘘…」
目の前にはいるはずのない災理の意思者が現れた。
「い、嫌っ!、」
メアリー女王が抵抗をする甲斐虚しく、ジャレンに右腕を折られる。
メアリー女王は痛みで叫び、地面に転がり倒れる。
「終わりだ…アシュリエル・メアリー」
「はぁ…はぁ…、、ふぅ、死ぬ訳には…いきません、
私はっ!民のためにも!絶対に死ぬわけにはいきません!」
左手で右腕を抑えながらメアリー女王は立ち上がり、
ジャレンを睨みつける。
「そうか、死ねっ!」
拳を上げ、メアリー女王の顔目掛けて振りかざす。
その拳は確実にメアリー女王の命を奪う攻撃だった。
だが、攻撃は当たることなくメアリー女王の顔の前で止まる。
メアリー女王は泣きそうな顔をしながら、か細い声で
言う。
「お父…さんっ、、」
アビスはジャレンの振り上げている方の腕を片手で掴み抑えていた。
「アビス・コーエンッ、、!」
アビスは痛々しい姿のメアリー女王を見たあとにジャレンの方を見る。
その感情にあるのは怒りでも憎しみでもなく…ただ、無 そのもの。
人は一定の感情の量を超えると 無 になると言われているがまさにその通りだった。
無言の中で、先に動いたのはアビスだった。
ジャレンの腹部に拳をめり込ませる。
血を吐きながら後方へと吹き飛ぶ。
「メアリー、下がっていなさい。」
「お父さん…」
アビスはジャレンの方を見る。
既に立ち上がり、治癒を終えていた。
「最終ラウンドだ。」
ジャレンは大斧を作り出す。
(ずっと疑問だったこと…さっき天恵で生成した大斧がアビスの間合いに入った瞬間に強制的に分解された。
それは天恵で出来ているからと理解はできる。
問題はそこではない。
体を天恵で構成しているセルシャはなぜアビスと戦って無事だったのか…
やっと分かった。
分解できないほどの高密度の天恵で構成された物は分解出来ない…または分解するのに時間がかかるということ。
つまりだ…)
ジャレンは生成した大斧に天恵をさらに流し込む。
(武器の天恵密度をあげれば良いというだけの話。)
二人は向かい合い、ジャレンは武器を持っているがアビスは素手。
どちらが有利かは一目瞭然だった。
しかし、余裕が無いのは圧倒的にジャレンであった。
アビスはまだ一度もまともに攻撃を受けておらず外傷も何も無かった。
ジャレンも外傷は無いがそれは治癒をしているからであって、残りの天恵はわずか。
二度目の沈黙が流れる。
動き出しは同時、決着はすぐだった。
アビスはジャレンの大斧がいつもの天恵の武器とは違うということを直感的に感じ取り、ジャレンでは無く大斧に焦点を当て本気で殴る。
その瞬間に大斧の持ち手以外が砕け落ちた。
その光景に何が起きたか理解できないジャレンの顔面目掛けて拳を振る。
ジャレンの下顎はアビスの拳とぶつかると同時に弾け飛ぶ。
アビスはそのまま手刀を作り出し、ジャレンの心臓に目掛けて突き出そうとする。
「これで…相打ちだぜぇ」
ジャレンは破壊された武器の持ち手の先端をメアリー女王が逃げる背中目掛けて投げつける。
「ッ!!」
アビスの右手刀はジャレンの心臓を貫通する。
「ゴフッ…ククッ、、終わりだ」
ジャレンは最後の力で自分の体を貫通するアビスの右手首を離さまいと手で掴む。
しかし、アビスは迷うことなく自分の右腕を左手で切り落としメアリー女王の方へと走り出す。
メアリー女王が後ろを向くと、鋭い物体が自身の顔の目の前まで飛んできた。
死んだ…そう思いながら目を閉じる。
ブシャッ…そんな肉を貫通し、血が飛び散る音がした。
メアリー女王はそっと目を開ける。
目の前にはアビスが立っており、口から血を流していた。
その顔はとても穏やかでメアリー女王を優しい目で見ていた。
メアリー女王は視線を下の方へ移動させる。
アビスの心臓部に飛んできていた鋭い物体が貫通していた。
「え…、、」
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