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天使とサイナス  作者: 七数
4章 【解】
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78話 「災理の意思⑤」

「何か体調面で問題がありましたらお呼びください」


「ああ…」


目を覚ました時、城の医務室のベッドの上にいた。

ベッドの傍には近衛兵が二人立っており、恐らく俺の身の安全を優先してくれたのだろう。

目が覚めた今でも先程の光景が気持ち悪くてしょうがなかった。

俺は別に父をとても尊敬しているとか大切な存在とかでは無い。

なんなら小さい時から自分の後継として利用されていたのに不快感を覚えていたくらいだ。

しかし、いくらそんな感情を抱いていても身内であり父だ。

父の四肢は切断され壁に打ち付けられるという残酷な光景。

苦しみながらも声が出せずに死んだのだろう。

口には布を隙間なく詰め込まれており、声が発せない状態だった。

目からは血が流れた跡があり、肌に染み付いていた。


未だに吐き気がする。

それに問題はそれだけではない。

父は誰に殺されたのか…なぜ城に犯人は侵入することが出来たのか…一体何を目的としていたのか…。

たまたま居合わせなかっただけで母も殺されていたかもしれない。

もしかしたらノートス家の皆殺しかもしれない。

そうなったら俺の命も危うい。


人に対する信頼というものを最近分かり始めていたジャレンにとってこの騒動はその感情を振り出しに戻すものだった。

殺されることに恐怖をしているのか…人を信頼することが出来ないという自分に恐怖しているのか…本人にすら分からない不確定な現実。


(それらも問題ではあるが…一番の問題は、、王が死んだことによって王族戦が行われることだ、)


王族戦の絶対的なルールとして、王が一度でも途切れた場合には即刻王族戦を行うというものがあった。

ノートス王が亡くなったことにより、他貴族達はすぐに動き出すだろう。

ノートス家も悲しんでいる暇がないほどに王族線のために動かなければいけない。

犯人探しを行いながら民達とのコミュニケーションを確立していかなければいけないという現状。

それに加えて、ノートス家での一番20歳に近い者はジャレンであった。

ジャレンが次期国王になる可能性を考えるならばより一層他者からの期待が重くストレスがかかる日々になるだろう。


ジャレンはベッドの上で頭を抱えながら考えていると部屋をノックされる。

入ってきたのは母だった。


「ジャレン…こんな辛い状況なのにほんとうに申し訳ないのだけれど…」


「分かってます、母上。

王族戦は必ず勝ってみせます。」


「ありがとう…強い子ね。」


母上が俺の頭に手を伸ばしてくる。

ただ撫でようとしただけだろう。

だが、俺はその手を反射的に弾き返してしまった。


「ジャ、ジャレン…?」


「も、申し訳ありません…反射的に、、色々と敏感になっている状態でして。」


「そうよね、ごめんなさい。

今は一人になりたいわよね。席を外すわね。」


母上は部屋を出ていった。


(なんだ?今のは…。怖いのか、?人が、、)


本能的に人という生物に対して恐怖を抱いていた。



意外なことに精神的な面で俺はすぐに回復した。

父が死んだというのにあまり悲しい気持ちを抱いていなかった。

翌日には既に学園へ行くくらいの精神状態に持ち直した。

だが、王族戦はもちろんのことその王族戦に勝利した際の国王候補となる俺に危険な状況の中で学園に行かせる訳にはいかないと母上や召使いの者に止められた。

しかしその制止を振り切り…と言うよりも王族戦のために学園の者たちとの交流を深めておくという正論を言い、学園に行くことが許された。

こんなことを言ったが俺は正直、王族なんてどうでも良いし、父よりはマシと言えど母上も同様に俺の事を道具としてしか見ていない。

だからどんな目に会おうが知ったこっちゃない。

小さい頃からの英才教育のおかげで一人で生きていく術は身につけている。

王族戦は一応真面目に取り組むがもし負けたとしてもノートス家から逃げれば良いだけだ。


学園の敷地内に入ると多くの生徒から俺は目を向けられる。

いつものような媚びを売るような目線ではなく、同情心と上から目線のような視線。



教室に入ると中にいる生徒全員が俺を見る。

いつもなら俺が教室に入った瞬間に俺にハエのように群がる連中が今回はその様子すら無く、なんなら俺の存在を無視して会話を続ける。

元より期待なんてしていなかったがここまでとは思ってもいなかった。

こいつらは俺が王族であったから今まで媚びを売っていただけであり、既に俺は王族ではなく王族候補の一家に過ぎない。

そして、次に王族になれるかどうかは支持をする民次第。

この学園の貴族の半分がノートス家の親睦家に当たるため、前のような取り巻き的存在はいることにはいるが以前に比べると相当減ることになるだろう。


席に着き、俺はいつものように読書を始める。


「おはようございます。ジャレン殿下」


「おはよう、トノック。俺はもう殿下ではない。

普通に呼び捨てで構わない」


「そうですね…すみません。」


「気にするな」


「精神面の方は大丈夫なのですか?」


「ああ、自分でもびっくりするくらいなんともない。

ここまで自分が薄情なやつだと思わなかった」


「ジャレンらしいと言えばそうらしいですけどね。

…ミクシーがとても心配しておられました。」


「…今朝ミクシーと学園に来たのか」


「よ、よく分かりましたね、、」


「昨日の時点で国中に話は出回るだろう。

そしてお前たちが話すタイミングは今朝くらいだろ」


「さすがですね、偶然ミクシー嬢と今朝お会いしたので御一緒させてもらいました。」


「仲が良くて微笑ましいさ」


(トノックとは普通に話せている…やはり他者に対しての信頼はまだ完全に失ってはいないのか?

自分でもどうか全くわからん…)




昼になり俺とトノックはいつものように裏庭に向かう。

今となっては裏にはにわざわざ行く必要性は無いが、

ミクシーが色々と気にするようで念の為に行くことにした。


「ジャレン…大丈夫?その、、」


「気なんて使わなくて大丈夫だ。全く問題ない。

意外と冷静でいられている」


「そっか…何かあったら言ってね。

力になれることならなんでもするから!」


ミクシーが笑顔で言いながら俺の肩に手をポンと置こうとした瞬間、俺は反射的にミクシーの手を思いっきり弾き返してしまった。

弾き返した勢いでミクシーは後ろに倒れて尻もちを着いてしまう。

驚いた表情をしながらミクシーは俺を見上げる。

同様に俺も自分の行動を理解出来ずに思考が止まる。


「ジャレン!何しているんだ!」


トノックがすぐにミクシーに駆け寄り、手を差し出す。


「ミクシー…大丈夫か?」


「うん、平気…ジャレン、大丈夫?私なにかしちゃったかな?」


「…すまない、、今日は一人で食べる。」


「待って!何か辛いことがあるなら…」


「頼むから一人にしてくれ!」


突然ジャレンはミクシーに対して怒鳴りつけ、ミクシーはビクッとしながら驚く。

トノックもジャレンのその様子に驚いていた。


ジャレンは二人に背を向けて歩き去っていく。



(信頼が…人に対しての信頼が…治ってなんか無かった、、

ミクシーに…手を上げてしまった、、)


自分に対して恐怖と驚きを纏った目をするミクシーと敵意と警戒の目を向けるトノックの顔が脳裏を過ぎる。

怖かった…無意識に他者が俺に触れようとするのを拒絶していた。

自分では問題ないと感じていたのに…全くそんなこと無かった…。


「どうしたら…どうしたら…いいんだよ」


二人は恐らく俺に対してもういつもみたいに接してくれない。

しっかり謝りもせず、怒鳴りもした。

そんな俺を向こうは友人なんて思ってくれないだろう。

結局…前みたいに戻るだけ。

それなのに…何故か、


(苦しいなぁ…)


頼れる存在を自ら手放してしまった。


「辛いわよねぇ…他者を自ら拒絶していたということを自覚した瞬間。

今まで自分自身が他者を信頼しようとしていなかったのにいつも相手のせい、相手が利用しようとしてくる、下心があるから、とか言って一人でい続けようとする。

あなたは無力で臆病な弱虫よ」


聞き覚えのある声、すぐ目の前から聞こえてくる。

下を向けていた顔を上げるとすぐ目の前に緑がかった瞳をした不気味に笑う女がいた。

その顔の距離に俺は思わず驚いてしまった。

反射的に女の顔に殴りかかる。

しかし、女は手の甲でピタッと俺の拳を止める。


「良いパンチよ!」


「な、何者だ!」


「あら、酷いわぁ、つい昨日会ったばかりじゃない」


「昨日…?まさか昨日の昼時の…」


「そうそう!正解よ!」


「何の用だ…今お前に対して北だか南だかの制裁をする気は無いんだが」


「ええ、結構よ。私は取引に来たのよ」


「取引?」


「そうよ。あなたを王族戦で勝たせてあげるわ。

その代わり、あなたにある役目を与えるわ」


「役目?そもそも王族戦で勝たせると言ってもそんな確証どこにもないだろう」


「ふふっ…そうよね。信頼に欠けるわよね。

証明してあげるわね!」


その次の瞬間に女は姿を消した。

そして10秒ほどしてからまた目の前に姿を現す。

先程と違うのは右手に三大貴族の一家のメーラット家の当主の首を持っていた。


「はい、これでどうかしら?」


女は俺の目の前にメーラット家当主の首を投げ捨てる。


「私はあなたのことを王族戦で勝たせることが出来るわ。

どんな手を使ってでも。

邪魔者は排除すれば良いだけ、そしてバレることもない。」


「…そうか。どうやら本当に勝たせるという確証はあるみたいだな。」


「あら、意外と驚かないのね」


「もう疲れたんだよ。」


「どうかしら?取引に応じてくれるかしら?」


「…悪いが俺は王族になんて興味はない。」


「そうなの?」


「ああ、自由に生きたいんだ。もう疲れた。

父上が死んで仇なんて別に取りたいとも思わない」


「目の前にいるのに?」


「…?」


「あなたのお父さんを殺したのは私よ」


「そうか、ありがとうな」


女は驚いた顔をした…いや、喜んでいると言った方が正しいだろうか。

何がそんなに嬉しいのか理解できない。


「一応聞いておく。俺に求めることは?」


「あなたが欲しいものよ」


「欲しいもの…?」


「自由よ。王族戦で勝たせる必要が無いなら取引内容は別のものになるわ。

あなたには自由を与える。

元より私が望むものは間接的にあなたが自由にならなければいけないことだもの」


「言っている意味がよく理解できないのだが?」


「同意するならば説明するわ。

安心して、あなたの身の安全は保証してあげるしあなたにデメリットは無いわよ」


「…」


(この女の目に嘘偽りは一切ない。事実を述べている。)


「わかった。話せ」


「ふふっ、即断即決はタイプよ。

先に私の紹介からかしらね。

私はギャラリス・メア…北大陸から知り合いを連れ戻しに来たのよ」


それから俺はギャラリスと名乗る女から北大陸で起こっている現状について色々なことを聞いた。

天恵、意思、天帝、スクリムシリ、ユーランシーという国。

どれも信じ難い事ばかりであったが、同様に何故か簡単に受け入れることが出来た。


「私は天帝の一人…縛毒の意思者よ」


「縛毒…」


「そして私が探しているのは

災理の意思者 カリュバット・ドズスールという男。」


昨日いきなり訪ねてきた名前のことか…。


「本来、私たち天帝の中で南の大陸に行くということは不可能なこと。

だけどカリュバットはその不可能を可能にする術を持っていた。」


「可能にする術?」


「ええ、ユーランシーの王の一族であるアシュリエル家に対して敬意を持っていること。」


(さっき聞いた話によれば、アシュリエル家率いるユーランシーという国は天帝という存在と敵対してる。

この大陸の名と同じ名前の一族…。繋がりそうで繋がらない…。)


「そのカリュバットとやらを見つけてどうするんだ?」


「元々は力づくで連れ戻すつもりだったわよ。

けどもうその必要はなくなった」


「なぜ?」


「あなたがいるから」


「俺がいるから?」


「ええ、あなたに要求する自由のためにはあなたに

災理の意思者になってもらうの。」


「災理の意思者?さっきの口ぶり的に意思というのはほぼ運でしかないのでは?」


「少し違うわね。

ある感情を心からの本音で抱き、その感情が意思が求めるものと合致した時に 意思 が宿る」


「ならば災理の意思の求める条件は…?」


「ふふっ、そのうち分かるわよ」


不気味に笑うギャラリスに少し嫌な予感がする。


「俺は結局何をすればいいんだ?」


「そうねぇ、まぁ、1番手っ取り早いのは結局は王族になることかしら?」


「…そうか。」


「乗り気じゃないわね。あなたに守りたい人とかいるかしら?」


(守りたい人…守りたい人…)


俺の頭の中には二人が浮かんでいた。

先程拒絶してしまった二人。

そうだ…俺が向こうから嫌われようと、俺は二人を守ってやりたい。

二人が幸せに暮らせる環境を作ってやりたい。


「…いるさ。絶対に守ってやりたい二人が。」


「ならばその人たちのために王族になれば良い、」


「分かった。なってやる、王族に」


「決まりね」

読んで頂きありがとうございます!

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