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天使とサイナス  作者: 七数
4章 【解】
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76話 「災理の意思③」

寮から学園までの徒歩の時間、学園の敷地内に入ってから教室までの移動の時間、教室について席に座り皆が来るまで読書をする時間…この全てにいつもとは違った視線を感じた。

昨日、友人であるミクシーとトノックと共に商会へと行き、チョコレートやら服やらを様々見て回った。

その際に二人からいつもと違った雰囲気の俺を見てみたいという要望があり、今日はいつもより早めに起きて普段気を使わない身なりに力を入れた。

いつもは出来るだけ目立たないように規律正しく着ているシャツの第一ボタンを外して本来は筋肉質である自分の体を謙虚ながらに強調させる。

髪は常に下ろしており、ネガティブな印象を持たれやすかったりしているがその髪を真ん中で立ち上げながら分けてみた。

やり方は昨日のトノックの手つきで全てを覚えたためそこまで苦労はしなかった。

親からは寮にいる際に使用人に頼れと言われているが俺は基本的に自分のことは自分でやりたい性分な為、頼らない。


恐らく、今朝から今にかけていつも以上に視線を感じるのはいきなりこんな容姿の変化を変えたからだろう。

親はどちらとも顔が良いため最低限の遺伝として俺自身も顔は悪くないと自負している。

普段の俺とは比べ物にならないほど清楚的なのではないだろう。


(ひとつ疑問なのが…いつものようにダルい絡みをされないということだな。

正直、ありがたい)




「おはよう皆…なんの騒ぎだ?」


「トノック…ジャレン殿下がいつもと違った雰囲気でな…

それだけならまだ良いのだが…その変わり様に、

皆がいつもみたいに話しかけにいけないという状態なんだ」


トノックが教室へと入り、皆に挨拶をするがすぐにいつもと違った雰囲気のある教室内を見てクラスメイトに事情を聞く。

クラスメイトが向ける視線の先にはジャレンが座って読書をしていた。

いつもは髪を下ろして目元に少し髪がかかってしまうのだが、今日のジャレンは顔をはっきりと強調するかのように髪を分けていた。


「お、おい、トノック、!」


トノックはジャレンの方へと近寄っていく。


「ジャレン殿下、おはようございます。」


トノックは礼儀を弁えながら丁寧に挨拶する。

ジャレンはクラスメイトに話しかけられても毎回目を合わすことなく適当に返事をするだけだったがトノックの声とわかると顔を上げて目を合わす。


「トノックか…おはよう。」


「本当に印象の違ったお姿で来られたのですね!

とてもお似合いです!」


「そうか?ありがとうな。このように髪をいじるというのはしたことが無いから少々手間取ってしまったがそのような反応ならば素直に喜ぼう。」


「ミクシー嬢にはお見せになられたのですか?」


「いや、まだだ。今日の昼にでも見せるとしよう」


「そうですね、昨日一番楽しみにしてたのにしておられましたからね!

それでは俺はここら辺で失礼します。

読書の邪魔をして申し訳ありません」


読書の邪魔をしてしまったと感じたトノックはもう少し尊敬する人であり友人のジャレンとの会話を続けたかったが自席へと向かおうとする。


「待て」


ジャレンはトノックを呼び止める。


「トノックは前の方に座っていたな。

俺の隣に来てくれないか?いつも開いていて少々暇の時間を感じる時が多いんだ。

トノックならば気楽に話せる。」


トノックは開いた口が塞がらなくなる。

まさかジャレンの方からそのようなことを言ってくるなどと一切として思わなかったからだ。

嬉しさと同時に悩ましさがあった。

自分は辺境伯であり、王都マレントの貴族たちほど王族との関わりを必須としている訳では無い。

そのため、ここでジャレンの横に席を移動した場合のその他の生徒から嫌な目をされてしまうのではないかと危惧していた。


ジャレンは少し悩む素振りを見せるトノックを見て何となく事情を察した。


「気にするな。俺とトノックが仲良くしているところを見せればお前に対しての無礼は俺に対しての無礼に当たる。

そんなに気にすることでは無いさ。」


トノックはその言葉を聞いて少し ふっ と笑みをこぼしながら


「不器用ですね!

感謝いたします、ジャレン殿下」


そう小さな声で言う。


「うるせ…」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(よーし、もう少しで昼食…。

今日こそは美味しいって言ってもらうぞ〜!)


ミクシーは席に座りながら心の中でそう意気込む。


トノックとジャレンという貴族クラスの友人ができた。

友人というのもおこがましいほどに彼らは品格があり、作法も身なりも何から何まで私とは格が違っていた。

それなのに私みたいな平民クラス普通科の生徒と接してくれるのはきっと彼らがとても優しいからだろう。


(クラス内よりも先に別クラス…それに貴族クラスの友達ができるなんて思わなかった…。)


私は実はあまり人と話すのは得意ではなかった。

一対一ならばリラックスして元気に振る舞う”振り”ならできる。

だが、同じ一対一の状況でもその空間に他の人がいたら緊張して話せなくなってしまう。

そのせいで友達なんて出来たこと無かった。


(でも、昨日は二人とちゃんと話せてたなぁ…。)


昨日の二人とのお出かけを昨日の夜、寝る時から今までずっと頭の中に残っていた。

階級も家柄も全く違うのにこんなにも楽しい思い出になるなんて思いもしなかったからだ。

親に無理を言い、良い成績を取ることで学園からの支援金で入学したこの学園…。

自分で言うことでは無いが、成績は恐らく平民階級ならば一番良い。

それだけが私の取り柄でもあり自信でもあった。


「はぁ…」


(普通に話せるようになりたいなぁ)


ミクシーがため息をつきながら椅子の背もたれに寄りかかるとクラスの女子生徒二人が私に話しかけてくる。


「あの…ミクシーさん、」


突然話しかけられたことで驚いてしまい、スっ!と背筋を伸ばす、


「は、はい…」


自分でもわかるくらい一気に顔の筋肉が強ばるのを感じる。


「あ、驚かせてごめんなさい!少しだけ聞きたいことが…」


「ど、ど、どうか…しましたか…」


「実は昨日、ミクシーさんが貴族クラスの方々とマレントの商会で歩いているのをお見かけしまして…」


私は ? が浮かぶ。

もちろん昨日、ジャレンとトノックとお出かけした。

しかし、こんなにも深刻そうな表情で言われたらいけないことでもしたのではないかと思ってしまう。

だが、そんなルールも校則も聞いたことがない。


「えっと、確かに昨日、ジャレン様とトノック様とお出かけしましたが…」


私が二人の名前を言ったことで二人の女子生徒は驚きながら顔を見合わせる。


「何か…い、いけませんでしたか…?」


「いけない という訳では無いのですが…。

ジャレン様…いや、ジャレン殿下なのですが…」


(殿下…?)


「ジャレン殿下はこの国の王族の方でして…次期国王候補のお方なのです。

なのでもしそのように親しい関係性であるのでしたらどのような経緯なのかをお聞きしたいなと」


「王…族、、?」


私は一気に血の気が引いてしまった。

今の王族と言えばノートス家…知らなかった訳では無い。

だが、ジャレン様が次期国王候補のお方だということまでは知らなかった。

ジャレン様はノートスと名乗らなかったため全然気づつかなかったのだ。

その瞬間に私は昨日のことを思い出した。

タメ口、呼び捨て、スキンシップ、安易な願い…それに加えてチョコレートまで…


王族は私のような平民の場合、口を聞くことなども許されることの無い事だった。

それなのに昨日や一昨日のような無礼を働いてしまった。


「ミクシーさん?顔色が悪いようですが…」


「す、すみません…少し、医務室へ行きます、、」


私は昨日の態度がもし、国王様へ伝わった時に家族へ何かしらの罰が与えられるかもしれないという恐怖で正気を保つのも危うくなりそうだった。


廊下に出て医務室に向かうが、罰に対する緊張と恐怖が私の足を思うように動かせなくする。

だんだんぼんやりもしてきてしまった。


(階段を…降りれば、医務室が…)


「きゃっ、」


ゆっくりと階段を降りていたが足を滑らせてしまった。

私の体は階段下へと一気に落ちていく。

そして何かにぶつかる。

不思議と全く痛くはなかった。

ぶつかったというよりも何かに抱きしめられているような…


(抱きしめられてる…?暖かい…)


「ミクシー嬢!大丈夫ですか?」


聞き覚えのある声だった。

出会ったのは昨日…だが、不思議と自然な形で接することの出来る相手。


「トノック…様?」


「そうですよ!いきなり階段の上から降ってくるものですから驚きましたよ。

それよりもご無事で何よりです。」


「す、すみません…少々体調が悪いので医務室へ行ってきます…」


「このような状態で女性を一人で向かわせるのは紳士的ではありません。

なので私が運びます。」


「えっ?そ、そんな必要は…」


「ダメです、失礼しますね」


トノックはミクシーをお姫様抱っこして医務室の方へと向かう。

他の生徒がその状況を見ており、イケメン貴族に抱えられる平民クラスの女子生徒という状況に通りすがる人々が驚いていた。



医務室に着くとトノックはミクシーをベッドへと寝させる。


「先生が来るまでは寝ていてください。

どうしてこんな体調なのに来たのですか…」


「…さっきまでは、問題なかったんです。」


「なら何かあったのですか、?」


「ジャレン様…いえ、ジャレン殿下は…」


「!!」


トノックはジャレンが自分の身分も何も知らないミクシーを好意的に捉えていることを知っていた。

普段、ジャレンの階級に対して甘い蜜を吸おうとしてくる連中を見ていたジャレンからしても、いつもその光景を見ているトノックからしてもミクシーという存在はオアシスのような気楽に接することの出来る存在だった。

だが、それはあくまでもミクシー自身がジャレンの立場を知らないという限定した状況だからだった。

今現在、ミクシーはジャレンが王族という立場であることに気がついてしまい、昨日のような気軽な関係には戻れなくなってしまう可能性が高い。


(それは俺もジャレン殿下も望んでいないこと…

だが、当然ながらミクシーの心境的な面もある。

どうしたら良いものか、、)


「ジャレン殿下が王族の御方だとは気づかずに、あんな無礼な態度を取り続けてしまいました。

トノック様…お願いがあります…」


「お願い?」


「罰は当然お受けいたします。

ですが私の家族だけはどうか…どうか巻き込まないで欲しいです とお伝えしていただけませんか?」


ミクシーはトノックに真剣な眼差しでそう言い放つ。

このような要求をすることすらもおこがましい傲慢であるとミクシーは理解していたが、家族は無理を聞いてまでこの学園に入れるために節約をして支援額では賄えない分を払ってくれた。

だから、これ以上迷惑なんてかけたくなかった。


「ミクシー嬢…落ち着いてください。

ジャレン殿下は貴女に罰なんて与えるおつもりは一切ございませんよ。

それにあのような接し方をお願いしたのはジャレン殿下の方からですし、罪悪感などは感じなくて良いんです」


「でも…」


「それにジャレン殿下は言っておりましたよ。

ミクシー嬢のような自分の立場を気にせずにありのままの俺を見て接してくれる人は今までに会ったことがないから本当の友人ができたみたいで嬉しい と。」


「本当ですか…?」


「はい。俺自身も日は短いですがミクシー嬢の素敵な笑顔に心が明るくなった気もします。」


「そ、そんなこと…//」


「なのでそのままでいてください。

ジャレン殿下が王族であるのを気がついたということをご本人にお伝えするかどうかは任せます。

仮に伝えた際でもきっとジャレン殿下はいつも通り接して欲しいと言うはずです。

あの御方はお優しいですから。」


ミクシーの絶望寄りだった表情が段々と明るさを取り戻し、頬を涙がなぞりながらも笑顔を作る。


「はい!ありがとうございます!」


ミクシーは罰を受けることを怖がって絶望していたのも事実だが、心のどこかでせっかく友人になれた人とまた他人のような関係に戻ってしまうのではないかと思ってしまっていた。

その心配がトノックのおかげで薄くなり、安堵の涙を流す。


「体調が大丈夫そうでしたら教室の方へ戻りますか」


「はい!ありがとうございます!」


「せっかくなのでついて行きますよ。

もしかしたらまだ万全では無いかもしれませんし」


「そ、そんな手間はかけられません!」


「気にしないでください。個人的に心配なんです」


「そうです…か、、」


ミクシーは何故かトノックの顔を直視出来ず、昨日みたいに変に明るく接することも出来なかった。


「行きましょうか」


トノックが医務室のドアの方へと向かう背中を見ながら

胸の部分の服をクシャッと握る。

読んで頂きありがとうございます!

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