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天使とサイナス  作者: 七数
4章 【解】
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75話「災理の意思②」

授業が終わり、昼食の時間になった。

俺はいつものようにめんどくさい連中から逃げる。

だが、いつもと違うこともあった。

昨日の授業の後に裏庭で一人剣を振っていたトノックと裏庭で合流する約束をしていた。

ミクシーと昨日昼食をとった裏庭だ。

昨日だけで気軽に話せる相手が二人もできた。

今後、関わることが多くなりそうなため今のうちに二人には仲良くして欲しいという浮かれた気持ちがあった。


「殿下!お待たせして申し訳ありません」


「気にしなくて良い。

それよりも悪かったな、突然昼食を誘ってしまって」


「いえいえ、光栄です。やはり人目を避けるために裏庭で食べるようにしているんですね」


「いや、裏庭で食べ始めたのは昨日なんだ。

そろそろ着くが、中々に穏やかな場所だからきっと気にいると思うぞ」


「殿下がそう仰るなら期待しますね」


ジャレンはトノックと共にベンチのある所まで話しながら向かう。

昨日よりも少し風が強く、木々がザワザワと音を立てている。

ジャレンはその光景に今日も気持ちの良い天気と風だ なんて思いながらトノックとの会話に華を広げる。


目的の場所に着くと昨日見たばかりの綺麗な薄ピンク髪の女性かベンチに座っていた。

膝の上に昼食を置いたまま鼻歌を歌いながら誰かを待っている様子だった。


「先客がいたみたいですね…別の場所に致しますか」


「いや、俺の知り合いだ」


「え?」


「ミクシー、待たせて悪いな」


「あ!ジャレン!全然待っていませんよ!

えつと…そちらの御方は、?」


「俺と同じ貴族階級のクラスメイトのトノックだ。

昨日、ちょっとしたきっかけで少し話すようになってな。

良ければトノックも相席をしても良いか?」


「トノック様…はい!もちろんです!

私は平民階級一般科のヴァイオレット・ミクシーと申します!

よろしくお願いしますね!トノック様!」


「ご丁寧に感謝します。

改めて、アーシェイント・トノックと申します。

ミクシー嬢、この度は相席の許可感謝します。」


「そ、そんな堅苦しいお話し方はやめてください!

私は平民階級でトノック様は貴族階級…立場の差は歴然なのですから敬語なんてやめてください!」


「それならば提案があるのですが皆の目のつかない場の時はお互い敬語を外すというのはいかがですか?」


「よろしいのですか?」


「もちろんです」


「なら、トノックさん!よろしくね!」


「ああ、よろしく、ミクシー」


「二人とも仲良くなれそうで何よりだ。

ところで…」


ジャレンが挨拶を済ませた二人の顔を交互に見つめてから静かに口を開く。


「二人とも俺には敬語を外してくれないのか?」


「いや、さすがにジャレンでん…」


「え!いいの!?ならそうするね!」


「おい、ミクシー!流石に…」


「いや、良いんだ。

このような気を抜ける場と関係は大切だろう?

俺のせいで二人がかしこまるのは好ましくないからな」


「ほら!トノックは気にしすぎなんだよ〜」


「あのなぁ…わかっていると思うがこの御方は…」


ジャレンはそっとトノックの肩を掴んで首を振る。

トノックはその様子に何かを察したのか黙り込む。


「この御方は…?何?」


「いや、気にしないでくれ。少々複雑な関係でな」


「そうなんだ…あ!ジャレン、私今日も昼食作ってきましたよ!」


「お、そうか。ならどれか一つだけ頂こうか」


「ジャレン様…ミクシーとそのようなご関係だったのかっ、」


「勘違いするなよ…というか 様 はいらないと言っているだろう」


「うっ、ごめん、あまり抜けなくて。」


「トノックも食べる?今日は〜、パンにこのシチューを付けて食べるの!」


「お、美味そうだね。」


「トノックもぜひ食べて!自信作!」


「トノック…少しばかり覚悟がいるぞ。」


「覚悟…?」


「少し…クセがあるからな」


ジャレンとトノックはミクシーから貰ったパンをちぎってからシチューに付けて口に運ぶ。

ジャレンは昨日と同じように心の中で 美味しくない と思いながらもなぜだかそのクセのある味に手が止まらなくなっていた。

ジャレンがスっと隣を見ると、世界に絶望したかのような…世界の終末が見えたかのような顔をしたトノックが噛みきって少し残ったパンを手に持ちながら静止していた。


「どう!どう!」


ウキウキワクワクと味を聞いてくるミクシーにトノックはハッとなって動き出す。


「す、すまない…なぜか昔の記憶が。」


「ん?いきなりだね!そんなに美味しかったのかな?

なんちゃって…それで、どう?」


「「美味しくないな…」」


ジャレンとトノックは同時に同じ感想を言う。


(こんなものは初めて食べた…何だこの何にも言い表せないような死をチラつかせながらも求めている刺激を与えてくる料理は…。

いや、これは料理と呼ぶのか?

ヴァイオレット・ミクシー…甘く見ていたっ、

それよりもミクシーはジャレン殿下に 今日も と言っていたな…。

つまり昨日もこういうものをジャレン殿下は食べたということ。

それなのに躊躇わずに口に運んだ…。)


「トノック、どうした?顔が引き攣っているぞ」


「ジャレン…君は毒物を好むんだね…」


「え゛っ!」


「何言っているんだ」


ミクシーは毒物と言われたことにショックを受けたようだった。


「私の料理ってそんなにまずいですか?」


俺はトノックと顔を見合せながら言う。


「不味い…とは違うな。

二人は足ツボのマッサージはやったことあるか?」


「無いけど…」


「俺もない…かな」


「足つぼマッサージは疲れや老廃物の蓄積を足の土踏まずだったりを押すことによって取り除く、言わば痛覚マッサージなんだがな…

痛い時は本当に痛いのだが、なぜか辞めたくはないんだ。

ミクシーの料理はそれと同じだな。

不味いのだが、その中にある刺激だったりが妙に癖になるんだ。」


「分かる…」


「トノックは うんうん と深く頷く」


「何だ〜それならまだいっか…え、私の料理の味って痛みってこと?」


「…ほら、時間が無くなる。食べよう」


「あ!誤魔化した!!ジャレンったら!」


「あははっ!」


ミクシーはジャレンの背中を ポコポコ と叩き、ジャレンとトノックはそれを見て笑っていた。

生まれて初めて心から笑ったジャレンは幸せを宿していた。




学校が終わり、ジャレンは街に来ていた。

王都マレントはアシュリエル大陸内でも最も上品な街と呼ばれており、ゴミは愚か道は新品のように綺麗になっている。

店は基本的に高級店ばかりであり、貴族のための街と言っても過言ではなかった。


「本当に良かったの?私なんかと来ちゃって」


「気にするな。パッと見だと貴族と平民の違いなどわからん。

それに俺は念の為に変装している」


ジャレンはメガネを掛け、ハイネックの上着を羽織ってできるだけ顔が見えないようにしていた。


「俺は辺境伯だから変装はする必要ないけど王都貴族は一応必要だからね。」


「というか、私…初めて街を回るんだけど…凄いね」


「初めてなのか。

ミクシーの実家はどこなんだ?」


「私は田舎の村だよ!

マレントから東の方にある小さな山岳地帯の麓にある村なの。」


「東の方…それなら魔物とかは結構出たりするんじゃないか?」


「そうだね…でも私の村の近くには騎士団の東第四支部があるから結構安全ではあるかも!」


「それなら良かったよ。俺の実家の屋敷も東南東側だから結構近いのかもね」


「え!そうなんだ!今度遊び行っちゃおっかな!

なんて冗だ…」


「いいよ!歓迎するさ。」


「えっ、」


「ミクシーみたいな明るい子が来てくれたら両親も喜ぶよ」


「ほ、ほんと…?貴族と平民だよ?」


「そんなのは関係ないよ。

そもそも俺の両親も辺境伯家の父と平民の母が結婚したわけだし、俺が誰と仲良くしようが気にしないんだ。」


「えっ」


ミクシーの顔がどんどん赤くなっていく。

恥ずかしそうに顔を俯かせながらも満更でもないような表情をする。


(トノックよ…気づいていないのか。

ほぼプロポーズだぞ、それ)


「とりあえずどこかの店に入るか。

目的もなく歩いているだけでも埒はあかないだろう」


「そうだね。ここら辺に美味しいチョコレートの店があるんだ。

行ってみようよ」


「ああ、あそこの店か。あそこのチョコレートは美味しいからな。

行こうか。」


「ちょこれーと?」


「知らないのか?」


「うん…美味しいってことは食べ物?」


「そうだよ。あそこの店だ」


三人は建物に入り三階へと登る。

そこにはチョコレートを使った様々な食べ物が並んでいた。


「す、凄い…こんな食べ物見た事ないよ。」


「すごいよね。俺もまだ一、二回くらいしか来たことないから未だに驚いちゃうよ。」


「俺も店自体は初めてだな。いつも取り寄せているからな」


「にしては結構余裕ある感じだね…ですね」


(公共の場だから言葉遣い直したのか…偉いやつだ)


ジャレンはメガネと上着を脱ぐ。

店員はジャレンを見るとすぐさま寄って来て地面に膝を着いて頭を下げる。


「ようこそお越しいただきました、ジャレン様!

どうぞこちらのお部屋へとご案内します」


「ああ、助かる。友人二人もいいかな?」


「もちろんです」


「と…トノック、シャレンって何者…?」


「ミクシーが思ってるよりすごい人だよ」


「そ、そうだったんだ…」


「でも、君は君らしくジャレンに接してあげな。

その方がジャレンもきっと嬉しいだろうから」


「分かった…」


「あ、でも、今からは敬語を使ってね。

公共の場だから」


「分かりました」


三人は高級な部屋へと案内されて、ソファに腰を下ろす。

しばらくしてからこの建物のブランドの代表がやってくる。


「ジャレン様、いつもご贔屓にありがとうございます。

本日はどう言ったご要件でしょうか?

ご希望のものがあればすぐに取寄せます」


「この二人に全種類のチョコレートを試食させてあげてくれ。

それと別で二人が気に入ったチョコレートを二人の実家と宿に一つずつ送ってくれ。」


「かしこまりました!すぐご用意致します」


そして三人に様々な種類のチョコレートが一口サイズで出される。

ミクシーは一口食べるごとに色々なものを噛み締めるように幸せそうな顔をし、トノックすらも食べたことがない種類のチョコレートに驚きを隠せないようだった。


全ての試食が終わり、ジャレンは先にミクシーとトノックを移動させた後に代表に代金を支払う。


「き、金貨二十枚ですかっ!?

今日の分全て合わせても五枚がせいぜいですよ!?」


「釣りはいらない。いきなり押しかけてしまった詫びとでも思ってくれ。

それに友人は楽しんでくれたみたいだからな。

感謝するよ」


「っ!!ジャレン殿下!」


「それと、このことは父上には言わないでくれ。」


「かしこまりました。お約束いたします」


「もう少し服を軽く見て回るよ。失礼する」


「はいっ!またのお越しをお待ちしております!」


ジャレンは下の階へと先に行かせた二人に合流する。

何となく二人の様子がおかしいことに気づいたジャレンが少し警戒しているとミクシーがジャレンに言う。


「ジャレン様って素材かとても良いのに身なりにご関心がないせいで勿体なくなっていますよね。」


「そうか?」


「はい!そうです!なので、私とトノック様でジャレン様を変えちゃおうかなと」


「俺を?」


「ジャレン様は痩せていると言っても着痩せで誇張されているだけで実際はとても筋肉質なので髪型、姿勢、歩き方さえ変えてしまえば見違えると思うんです」


「トノックまでそんなことを言うのか。

まぁ、二人が言うならば任せてみるのもありか。」


「失礼なの承知で申し訳ないのですが少しだけ手を加えさせていただきますね!」


髪のセットやら二人の選んだ服を試着するなどして10数分が経った。

その間、俺はなるべく自分の姿を見ないようにしていた。

二人はそれなりに満足のいく物が作れたと誇らしそうにしている。


「それじゃあ、ジャレン様…見てみてください!」


ミクシーがそう言うため、試着室の姿見を見るとそこにはなんとも言えない…いや、明らかにダサい人間がいた。


「ダ…サッ、」


「「え゛っ」」


「すまない、口が滑った」


「だ、ダサいですかぁ!」


「それなりに…頑張ったのですが、、」


ミクシーは昼食の時と同じようなショックの受け方で見慣れてはいるがトノックは俺に剣の手合わせで負けた時とはまた別の悔しさを感じているような顔だった。


「きっと服を選んだのはミクシーだろう?」


「どうしてわかったのですか?」


「こんな事言うのは申し訳ないのだが…服が田舎臭いと言うか…身なりがあまり美しくはないな…」


「そ、そんなぁ…!」


「髪だったり細かいところはトノックだろうな。

これに関しては完全にセンスなんだが、服と髪が全く合っていないというか…

服が綺麗系では無いのにこの髪型は少し微妙だな…」


「くっ!」


今どきではあるが服や靴、髪が絶妙なバランスで全く合っていなかった。

ガイルヘアというのだろうか?

その髪型にダボダボ系のズボンと体が大きく見える上着…。


「そ…そ…」


「ミクシー?」


「そんなこと仰るならジャレン様もやってみて下さい!!」


「俺もか…?」


「そ、そうです!」


「確かに、ジャレン様のセンスは気になりますね」


「分かった分かった。

ならば明日、いつもよりも違った雰囲気で学園に来よう。」


俺は服を着替えながら自分の友人のセンスが微妙なことにため息を漏らした。

読んで頂きありがとうございます!

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