74話 「災理の意思①」
俺は…どうしてこんなことになっちまったんだろうか。
俺は元々自他ともに認めるほどに気弱で、喧嘩なんて人生でしたこともなかった。
この大陸の南の地…いや、この呼び方も正式ではない。
北の地では この大陸 と呼ばれているが南だと正式な名称が付いている。
その大陸の名は『アシュリエル大陸』
そう…ユーランシーの王の一族であるアシュリエル家と同様の名前。
俺はこれになんの繋がりがあるのとかは知らない。
そもそも俺はそういうのに興味は無い。
現に俺はアシュリエル・メアリーを殺そうとしている。
南アシュリエル大陸の住民は北側の住民を必要以上に嫌っている。
俺が生まれた頃にはそうなっていた。
親も老人も、王すらもその理由は知らなかった。
ただ、そういうものだと…嫌わなければいけないと小さい頃から植え付けられた固定観念があった。
40年も前だ、
俺が南アシュリエル大陸でも限りなく北側に近い、
カルピア王国に産まれたのは…。
カルピア王国ではノートス家、メーラット家、カーキル家の
三大貴族が基盤となっており、その三貴族が数十年に一度だけの国王戦を行う。
国王戦に勝利したら王族としてカルピア王国の王としてその貴族内の20の歳に1番近い者が王となることができる。
国王戦の最中は三貴族が民のために動き、支持を得ることによってより有利になるというもの。
民からより支持を受けた貴族が勝利する。
俺は三大貴族の一つのノートス家で産まれた。
俺が産まれた時の王族はノートス家であり、俺はそれなりに裕福な育ちをした。
産まれた頃から他よりも体重が重く、成長につれ背もどんどんと伸びていった。
13になる頃には既に170センチ後半はあった。
だが身長の割に自分に自信がなく、体は細身で気色の悪いやつだったと思う。
皆はそんな俺を可愛がってくれた。
学園の友人は俺が歩いていれば着いてきてくれるし、
街の人々は俺を見かけたら何かしらをプレゼントしてくれた。
俺は好かれていると…しかし臆病な性格である俺はそれを信じなかった。
人を信じることが怖くて怖くて仕方がなかったのだ。
きっかけがあった訳では無い、物心ついた時から周りの人間の本質的な思考が何となく頭の中に入ってくるような気がした。
俺の周りにいる人々は全員、俺なんかではなく俺の立場にしか興味がなかったのだ。
同級生や学園の者達は ノートス家の子供だから沢山話しかけて仲良くなりなさい と親から言われたのが丸見えだった。
街のみんなも王族の機嫌を取っておけば酷い扱い…
むしろ見返りがあるだろうなどと言う腹の中が聞こえてくるようにわかった。
けど俺はそれに怒りもしなかった。
仕方ないこと として割り切っていた。
そこで俺が不必要に怒ったところで次の国王戦に影響が出るだけだ。
でも何となく自分でも分かっていた…親すら俺を利用価値のある物としか見ない現状で俺を心から必要としてくれる人が現れて欲しいということを。
ただ寂しかっただけなのだと、俺は気がついていたさ。
「ジャレン・ノートス殿下、素晴らしいです!
今回も学園で最優秀成績です!」
「ありがとうございます。」
王都マレントのランガイシス学園は剣術、武術、座学、魔法の四つの観点を複合的にバランスよく育むことを目的としているカルピア王国内で最も環境の整った学園である。
ランガイシス学園を優秀な成績で卒業した者は、
カルピア騎士団への推薦状が与えられる。
カルピア騎士団に入団をすれば孫の代まで安泰と言われるほどの職であり、そのため誰もが望むこともあり入団するのもそれなりに難しいものだった。
そんな中で俺は後ろになるにつれ高くなっていく講義室の1番前で教師に褒められていた。
15歳の俺は周りと比べて精神年齢が高い方だったと思う。
貴族が多いこの学園で精神年齢どうこう言うのはお門違いかもしれないが、王族という立場なこともあり周りよりも厳しい環境で作法やらを叩き込まれていた。
「ジャレン殿下、流石です!」
「今回もの優秀な成績を抑えられてお見事です!」
「あぁ、ありがとう…」
男子生徒も女子生徒も俺に群がるように褒め称えてくる。
そんな連中に俺は一線…いや、数線ほど距離を置いている。
学園内には仲の良い友人などはおらず、軽く挨拶を交わす程度の関係の者しかいない。
「はぁ…」
(毎日毎日、媚び売りから逃げてばかり。嫌になる)
俺に対して下心があるかないかなんて目を見れば簡単にわかる。
奥が笑っていない目、定型文でもあるかのような褒め方、
気色が悪い。
だが、お世辞でも気分が少し良くなっている俺もその気色悪い部類に入るのだろう。
いつものように連中らから逃げ切って学園の裏庭で昼食をとっていた。
ここの裏庭は変に彩りがある訳でもなく、綺麗な緑色の葉が靡いていてとても心地の良い空間だ。
(最近見つけたが…良い場所だな。
ここにベンチを置いた者とは仲良くなれそうだ。)
そんなことを考えながら王族とは思えない質素な物を食べていた。
そんな時だった。
「あー!もう場所取られちゃってたぁ…」
突然、大きな声がして体がビクッとしてしまった。
声の方に目を向けると、薄ピンク色の髪と目が特徴的な小柄の女子生徒がいた。
「あ、すみません、いきなり大声上げちゃって」
「いや、構わない…」
「良かったです!」
「ここで食べたいのなら俺は退こう。
場所をとってすまなかったな。」
「え、でもあなたは?」
(あなたは?か…。あなた とか言われたことないな。)
「俺は別の場所で食べる。気にせずここを使ってくれ。」
「う〜ん…なんか嫌です!」
「嫌?」
「はい!せっかくお食事という幸せな時間を私が邪魔した挙句、場所まで取るなんて自分を許せません!」
「そう言われてもな…」
(変なやつだな)
「ですので、良ければ御一緒しませんか?」
「…」
(ああ、一瞬期待したがこいつもやはり周りのヤツと同じか…。
立場に言い寄る虫か…)
「私はヴァイオレット・ミクシーと申します!
あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「え?」
「え?」
「俺の名前を知らないのか?」
名前なんて初めて聞かれた。
自分で言うのも何だが、学園内で俺の名前を知らない者なんていないものだと思っていた。
もしミクサーが本当に俺の事を本当に知らないのだとしたら…
「えっと…すみません、、有名な御方でしたか?」
「いや、失礼した。
俺はジャレン・ノートス…貴族階級のクラスの者だ。」
「あ!やっぱり貴族クラスの御方だったのですね!
通りで品がある御方だと感じました!」
「そう言って頂けると嬉しいよ。」
「私は平民階級の普通科なのでジャレン様とは立場が違いますね。
すみません、お食事を誘うような真似をしてしまって」
「ジャレンで良い…。それに俺は食事に誘われて嬉しかったからそんなことで謝らないでくれ。
良ければ御一緒させてもらおうかな。」
「ありがとうございます!」
「と言っても、俺はもう食べ終わるがな」
「え、昼食はそれだけですか?」
「ああ、あまり食欲がないからな」
「それは良くないですよ!
あ、そうだ、私のを少しお分けします!
なんとなんと!寮の部屋で早起きして手作りしているんですよ!」
「気遣いなんていらないさ」
「これは気遣いではありません!自己満です!
ジャレンに私の手作り食べて貰えなかったら私、悲しくて死んじゃうかもしれませんよ?」
「ふっ…それは困るな。それなら少し頂こう」
「はい!どれ食べます〜?おすすめは卵焼きか明太子を和えたお野菜ですけど!
あ、でもジャレンは少し体が細いからお肉の方が〜」
これまた初めての感覚だった。
物心ついた頃から他者に対して警戒しかしてこなかったのにミクシーと話していると心が楽になる。
俺の立場も家柄も関係なく接してくれる人なんて現れたことがなかったから。
だからミクシーには立場も家柄のことも教えたくは無い。
他の人と同じように下心を…いや、ミクシーの場合は距離を置かれることになるだろうな。
平民である時点で媚びを売る必要などない…そのため他の貴族階級からの嫌がらせを避けるためにも俺のような立場の者は避けられがちだ。
俺はミクシーの手作りの卵焼きを一口食べる。
「どうですか!どうですか!」
「うん…不味いな」
「えぇええっ!?そ、そこは美味しいと言ってくれるところじゃないんですかぁ…」
「あ、すまない、つい本音が。」
「もっと傷つきますぅ!!」
(酷い味という訳では無いが…シンプルに美味しくなかったな。)
「結構頑張って作ったんですけどね〜」
「でも、俺は嫌いな味ではない。良ければ今度なにかまた貰っても良いか?」
「!!はい!!もちろんです!」
「感謝する。それでは、俺はこれで。」
「はい!また明日!」
(明日また会うことになっているのか…)
表情を抑えてはいるが内心では何となく気分が上がっているのが分かる。
初めて俺に対してなんの下心なしで接してくれる人が現れたことも、その人と友達のような会話をできたことも嬉しかった。
(そういえば…ミクシーはなぜあそこで食べていたんだ?
あんな性格ならば友人は多そうだが…。
今度聞いてみるか、)
「始めっ!」
剣を互いに構えながら相手の出方を伺う。
この静かでありながらもなにかざわついているような緊張感がなんとも心地よい。
俺の対面にいる生徒はクラス内で二番目に剣術の成績が良い者だ。
瞬発力と反射神経が良く、間違いなく優秀な部類の生徒。
先に動いたのは相手の方だった。
力強い一歩と共に的確に俺の隙がある部分を狙ってくる。
(観察力もあり、さすがの実力だ。
だが、この隙がわざと作ったものということまでは分かっていないみたいだが。)
あえていちばん対処のしやすい箇所に隙を作ることで相手の攻撃を誘い、反撃で戦闘不能にする。
これは俺の特技だった。
戦いの中で 隙 が見えるほどの強者ならば確実に初見では引っかかる技であり、あまり紳士的でも騎士的でもないがそんなプライドなんて俺には無い。
隙 が見えない程度の実力者ならばそもそも負けることがないため中々に良い戦法だとは思っている。
脇腹へ向けられた剣を自身の剣で受けながら、剣身を滑らせて距離を詰める。
だが流石といった所だろう。
すぐに反応して、剣を持ち直し体制を立て直そうとする相手。
向かっていく俺に対して剣を振り下ろすが、手で剣の側面を受け流しながら軌道を変える。
ガラ空きになった首元めがけて剣を振るう。
ギリギリのところで寸止めをし、そこで終了の合図を教師が言う。
「勝者!ジャレン・ノートス殿下!」
周りで見ていたクラスメイト達は盛り上がりながら流石です!と俺の周りに集まってくる。
鬱陶しくも相手をしていると、ふと相手が目に入る。
悔しそうに片膝をつきながら息を切らしていた。
いつもなら全く気にならないというのに何故か今日はとてもその光景から目が離せなかった。
授業が終わり、講堂へ飲み物を買いに行っていると俺が昼食を食べていた裏庭とはまた別の裏庭で先程の相手を見かけた。
何をしているのか気になり、見に行くと制服を脱いで汗を流しながら剣の素振りをしていた。
一振一振を丁寧に集中しており、その目には強くなろうという決心を感じられた。
「いつもしているのか?」
俺が突然話しかけたが向こうは驚きもせずに、素振りを一旦やめてこちらを向き直す。
「殿下でしたか。
…はい、いつもやっていますね。」
「何故そこまで頑張るんだ?
お前はもう充分強いだろう?」
「何だが殿下に言われると嫌味に聞こえますね」
「すまない、そういうつもりで言った訳ではなかったんだ」
「お気になさらないでください。
お答えしますと、悔しいからです」
「悔しい?」
「はい、殿下とお手合せをする時に僕はいつも本気で殿下と御相手しておりますが、殿下は全く本気なんかではない。
それがどうしても悔しくて悔しくてたまらないんです。」
「…」
「あ、殿下が悪いと言っている訳では無いのですよ。
殿下に本気を出させてあげられない自分が不甲斐なくてしょうがなくて…それが悔しくて。」
確かに本気ではない…それに対しての不満などはなかった。
負けた という明確な経験があまりない為、悔しいという感情に共感があまり出来ないが、一つ分かることは俺の目の前にいる男は真っ直ぐな人ということ。
「そういえばクラス内でもお前は俺に媚びを売ったりはしていなかったな」
「自分は辺境伯なので王族の方とは直接的な接点は無いんです。
なので無理に関わる必要は無いんですよ。
日頃から色々な方に囲まれている殿下に話しかけても迷惑だと思ったというのも理由なのですけどね」
「…ふっ、名前を聞いてもいいか?」
「えっ、覚えてくれていないんですか?
一応毎回の剣術授業で御相手させてもらっているんですけど…」
「すまない、名前を覚えるのは苦手でな」
「色々な方と関わっているとそうなりますよね。
僕はアーシェイント・トノックと申します。」
「そうか、トノックか、よろしく頼む。」
読んでいただきありがとうございます!




