7話 「初任務」
メルバル総戦…、聖者がスクリムシリの普段の任務以上の強い天恵の集まりを感知して残りどのくらいの日数でユーランシーにスクリムシリの大群が攻めてくるかを予測し、最大の準備を以てして向かい打つ。
厄介さはスクリムシリの強さではなくその量。
今までのメルバル総戦の1番高い物で 解 ほど…。
騎士団員死亡者は多いときで2桁の中盤。
スクリムシリと人間では根本的な力も身体能力も違う。
普通に戦えば人間の方が不利なんて当然の事。
ユーランシーの壁から1キロ地点…私を囲うスクリムシリの死体50ほど。
意思 が無いと何も出来ない役立たずなのは自覚している。
けど、少しでもユーランシーに住んでいる人達や騎士団員の人達に安心な状況を作ってあげたい。
任務が終わりユーランシー内に戻ると毎回、街のみんなは笑顔で「お疲れ様でした」や「ありがとうございます」などと声をかけてくれる。
食べ物などの贈り物もくれる。それがとても助けになって頑張ってよかったと思えている。
10年ほど前に私の住んでいた村は、1人の女性によって壊された。
残酷な性格で村のみんなを殺すときに優越を満たしているかのような思い出しただけでも気色の悪い笑顔。
なんの恨みがあって、なんの目的があって私の村を襲撃してきたのか分からなかった。
私も殺されるんだ…そう思ったけどディシが私を守ってくれた。
ディシは私を守りながら女と戦って、女に傷を負わせた。
舌打ちをし、女は瞬きする間にその場から消えており、ディシは私に直ぐに駆け寄って心配をしてくれた。
優しく丁寧な話し方で私の緊張は解けて、当時7歳だった私はディシに泣きながら抱きついた記憶がある。
その後、ディシにユーランシーに連れてこられて今日からここで住むということを伝えられた時は悲しさと安心感で気持ち悪くなってしまった。
今はもう無くなったがユーランシーで住むようになってからもその気持ち悪さは定期的に訪れていた。
そんな時にディシは毎回私に寄り添ってくれて心が救われて気がついたら子供ながらにディシを本気で好きになっていた。
騎士団のことやスクリムシリのことを聞き、私はディシと一緒に戦いたい、共にスクリムシリに苦しむ人たちを救いたいと思い14歳になって騎士団の試験を受けた…、
私にはセンスがなかった。真剣は両手でも全く持てず、体力はすぐ切れてしまう。天恵の技術も特別に優秀ではなかった。
私が試験に落ちて落ち込んでいるとその年に騎士団試験で騎士団で初となる女性が合格したと知った。
私は自分の愚かさを知った…私が合格しなかったのは性別のせいだと思っていたから。けど、カウセル・ミリィノという女性は正々堂々と試験に合格したのだ。
悔しかった…単純に私に才能が無いだけなのを認めようとしなかった私自身を心底嫌いになった。
そんな時だった、私がユーランシーの西国にある木々に囲まれた公園で悲しさを紛らわすために一人で歩いていた時。
私は1人の男性に襲われそうになった。
口を抑えられて、木々の目立たないところまで連れられて抵抗しようにも力では全く敵わなかった
心の中で「やめてっ!」と強く願った時だった…。
そこの公園にある木全てが突然折れて、折れた部分が地面に潰されて跡形もなくなった。
今考えると私を襲った男性に当たっていなかったのは奇跡だったのかもしれない。いや、正確には当たっていたのだが指が2本潰れただけなのだから良い方だ。
私は呆然と立ち尽くし、すぐそばには痛がり手を抑えながらうずくまる男、騒ぎを聞き付けた騎士団や野次馬が集まってくる。
私の目の前に騎士団長のナルバンという男性が立ち、質問をしてくる。
「これを君が?」
「…分からないです」
「そうか。なぜこうなったかも?」
「…分かりません」
「その男は?」
「襲われそうに…なりました」
質問に答えているとディシが走ってきた。
「スタシア!大丈夫か?…何があったんだ?」
「ディシ…この子をホールディングスに連れて行け。」
「ナルバン…聞いてくれ、スタシアは、人を傷つけるような子じゃないんだ」
「良いから言うことを聞け。騎士団長として命令する」
ディシは唇を噛む。そして私に 大丈夫 と声をかけてホールディングスに連れられる。
私は当時は男性を傷つけてしまったことや木々を壊してしまったことよりディシに迷惑がかかることをとても申し訳なく思っていた。
しかし、思っていた結末とは違っていた。
信愛の意思 というものが私に宿っていた。
その場にいた、メアリー女王、守恵者のディシとアレル、高階級騎士団員が全員言葉が出ない程に驚いていた。
信愛の意思 というのは 意思 の中でもかなりレアな物なのだと教えてもらった。
「スタシア・マーレン…守恵者になってもらう」
ナルバンは私に選択肢を与えるのではなく決定事項のように言った。
私は何が何だか分からなかったがとても嬉しかった。守恵者はディシと同じ立場でならば共に戦えるし一緒にいる機会も増える…と。
騎士団に入ってからディシの任務を1度見学したことがあったが圧倒された。身近にいる想い人はここまですごい人なのかと痛感した。
私はディシにできる限り追いつけるように天恵の技術のみを磨くようにしていた。
自分の短所を伸ばすのではなく長所を磨く。
信愛の意思 を使いこなしてみせると。
使いこなせるようになるには丸1年かかった。任務で大怪我することもあったし騎士団員に迷惑をかけることもあった。
だが、毎回ディシが「お疲れ様、頑張ったな」と言ってくれることが私を諦めさせなかった。
「スタシアはニコニコしてる方が可愛いな」
守恵者の集まりの時に唐突に言われた。
私はいきなりすぎて言葉が詰まってしまったが、何とか言葉を出す。
「あ、ありがと…」
「スタシアが明るく元気に笑っているところを見ると俺が目指している環境が近づいている気がしてな。」
そこからだったかもしれない。当時は今ほど明るくもニコニコもしていなかった。けど、ディシに言われて日頃から明るくいることを意識し始めたら、騎士団といういつ身近な人が死んでもおかしくない環境でも気持ちを保つことが出来たし、明るく振る舞う方がしっくりしきて、私自身も楽しかった。
だんだん私はこの明るい姿が自分の素なのだと気づいた。
少ししてからミリィノも守恵者となり、今の状態が完成した。
「どうしたんだ、ニコニコして」
「気にしないで!ディシ君の作業している姿を見てるのが楽しいだけだから!」
任務が終わり、ホールディングスから真っ直ぐディシの屋敷に行き、ディシの机上作業部屋という私の屋敷では絶対作らないであろう部屋のソファでコーヒーを飲みながらディシの作業してる姿を邪魔しないように見ていた。
最初は迷惑かなと思っていたがディシが
「居たいなら別に居てくれてもいい」
と言ってくれたため任務終わりによく訪れる。
「メルバル総戦の配置とかしてるの?」
「そうだな、ナルバンだけだと間に合わないから俺が少し引き受けたんだ。犠牲を出したくないから慎重に決めないとな。」
自分も疲れているはずなのに他人のために働く姿に私は惚れてしまったのだろう。もちろんそれだけでは無いが。
「そーいえば!ヨーセルと2人きりで街を周ったでしょ!」
「誰から聞いたんだ、まったく…」
「街の人達から!私には誘ってくれないくせに。それにミリィノちゃんにはプレゼントあげたって。」
「そんなにプンプンカッカするなって。スタシアにもあるから」
「え!ほんと!?」
ディシは机の引き出しを開けると包装された箱を出して、私にくれる。
「開けていい?」
「いいよ」
箱を開けると、入っていたのはとても綺麗な 黄 色の石が付いたネックレス。明かりを通しながら見ると石の中の模様が輝いて見える。
私は浮かれながら早速首に付けてみる。
「どう?似合う?」
「あぁ、すごく似合ってるよ」
「えへへ、ありがとう!ディシ君!」
「あぁ。」
「私、そろそろ帰るね!お邪魔しました!」
部屋を出るとドアの前で首にかけているネックレスに付いている黄色い石を両手ですくうように持つ。
ディシは何気ないプレゼントなのかもしれないが私にとっては一生大切にしたいと思えるくらい嬉しいプレゼント。
その石を見て自然とにやけてしまう。
(やった!)
最高の気分で自分の屋敷へと帰る。
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私はミリィノの屋敷のある一室にいる。
部屋の真ん中には長机がありそれを囲むように椅子が置いてある。私の隣にはミリィノが座っておりコーヒーを飲んでいる。
騎士団内で立場の高い者達で定例会議を開いているらしく、直近の報告や月の死者数、ユーランシーへの避難民数などを報告する会議らしい。
ホールディングスでやれば良いのでは と思ったのだがホールディングスはメアリー女王が他国との貿易、貿易ルートの確認、避難民のための土地の管理などの色々な仕事をしているらしく邪魔したくないらしい。
メアリー女王を気遣っているからなのだとか。
ミリィノ曰く本当は、メアリー女王は少しでも騎士団に関わることだと関与しようとするため無駄な仕事を増やしてしまい、疲れが取れなくなってしまうのではないかということを懸念した結果、メアリー女王に見つからない場所で会議をしているとの事。
メアリー女王を気遣ってのことなのは結局変わらないのだが。
「ですが、今回はメルバル総戦のことについてなんですよね?メアリー女王はいた方がよろしいのでは?」
「それは私かディシさんが個人的にお伝えしておきます。メルバル総戦の後に国王会議が控えているのでそれの準備などをしなければならなくてメアリー女王は忙しいのですよ。」
前にスタシアが言っていた国王会議…。ユーランシーは大国であり、国同士の会議は参加しなければならないというのが暗黙の了解という物と言っていた気がする。
ミリィノとそんな話をしていたらドアが開き、男性が入ってくる。
背が高く、短髪の黒い髪の男性。
見たことがない人だった。
「ゼレヌスさん、お久しぶりですね」
「ミリィノ様、ご無沙汰しております。えっと…そちらの方は、ルシニエ・ヨーセルさんですよね?」
私は立ち上がり、自己紹介をする。
「お初にお目にかかります、ルシニエ・ヨーセルです。ご存知なんですね…」
「有名ですからね。ゼレヌス・マーライトです。聖者内の総指揮をさせてもらっています。よろしくお願いしますね」
私は少し驚く。聖者の方には会ったことがなかったがどうしてこんなに丁寧に接してくれるのだろうかと。
ましてはゼレヌスは聖者の総指揮に当たるならば舐められないように威厳のある強めの態度をとる方が良いのでは無いかと。
などと考えているとドアが開きナルバン団長、ディシとスタシアが入ってくる。
ナルバン団長はすぐに席につき、ディシとスタシアは
ゼレヌスに話しかけに行く。
するとミリィノが私に近寄ってきて私にしか聞こえないくらいの声量で言う。
「ゼレヌスさんの性格驚きました?」
「はい…とても謙虚な方なのですね」
「そうなんですよね。本当ならゼレヌスさんほど謙虚だと聖者の総指揮に選ばれることは無いのですが、聖者内で圧倒的な実力を持つために選ばれたんですよ」
実力のみで選ばれた実力派ということか。
変に気の強いだけの人や人気があるからという理由なんかよりはよっぽど良い選び方だと思う。
気がつけば席が全て埋まっていた。
アビス師匠はいつの間にか席に座っており、もう1人知らない男性の方が座っていた。
スタシアに笑顔で話しかけられ続けているが素っ気ない返事で返している。
「あの方はアレル・ドレイと言って守恵者ですね」
ディシともう1人の男性の守恵者はこの人なんだとアレルの事を見ていると目が合ってしまい、咄嗟に目をそらす。
目付き鋭い…
「これから定例会議を始める。メルバル総戦の守恵者の配置、聖者の配置、騎士団員のグループと配置を確認する。」
ユーランシーは半径10キロの円形の国であり、そこを大量のスクリムシリの襲撃から耐えるとなると無計画な状態では至難だ。
そのため、騎士団員をグループで分けて各方角に配置するようだ。
北、北北東、北東、東北東、東、東南東、南東、南南東、南、南南西、南西、西南西、西、西北西、北西、
北北西。
この16の方角にそれぞれ配置するようだ。
守恵者の4人は東西南北で配置され、聖者内でも実力の高い4人を北東、南東、南西、北西と配置される。
スタシアが北、ディシが東、アレルが南、スタシアが西
私は、ミリィノの隣の北北西ですぐにミリィノが応援に来られるようになっている。
気がついたのだが、アビス師匠はどこに配置されるのだろうか…。
と疑問に思った時ちょうどディシが答えてくれる。
「アビス師匠は東から西にかけて南側を、
ナルバン団長は東から西にかけて北側にを頼みます」
なるほど…何か異常事態が起こった時にすぐに対応できるようにアビス師匠とナルバン団長は決まった配置をするのではなく常に動くような立ち回りをするのか。
2人の負担がでかい分、何か問題が起こった分すぐに対応が出来るため利点がある。
こちらの方が死傷者を最大限無くせるのだろう。
「ひとまず、一通り話したが疑問点などあるものはいますか?」
「1ついいか」
アレルが手を挙げる
「以前にスタシアとディシが遭遇したスクリムシリについての詳細を話しておいた方が良いと思う。お前たちが遭遇したスクリムシリは事例が無く、まだ何か変異的なものがあるかもしれない。出来るだけ知っている情報を伝えておく方が良いだろう」
「確かにそうだな。俺たちが以前あったスクリムシリは 破 の力を持った人型だった。そいつは俺たちの言葉を喋り考える能力があった。普通の 破 は考える力は無いがそいつはあったから普通のやつよりも手強いと思う。俺とスタシアが対峙した時は大した強さではなかったがあいつはまだ成長途中のような事をそのスクリムシリを連れ去って行った男が言っていたな。俺たちが遭遇したスクリムシリの特徴は人型だったが顔の造形が人間っぽくなかった。寄せてはあったが顔色といい一目見た瞬間にこいつは人間では無いなと判断できる。毛は生えていない、手足は細長く、服も着ておらず人間のような生殖器も付いていない。灰色のような肌色で表情の変化も無かったと記憶しているな。やつは自身の身体を伸ばしたり広げたりして、俺とスタシアを指の壁でドーム状に囲い、その中で天恵の攻撃を無数に浴びせてきました。あの量の攻撃を騎士団員が防ぎ切る事のは難しいかと」
最後まで聞いてみて思ったのはなぜスタシアとディシは無傷なのだろうかということだった。
そんな化け物と戦い傷1つ無く返り討ちにするのは流石と言うしかないだろうか。
私はまだディシ達が実際に戦っているところを見た訳では無いが話を聞いているだけで凄さが伝わってくる。
「その変異種が出た場合はすぐに全体に伝えるようにと各方角の者に伝えておけ。俺とアビスが常に動いているとはいえ完璧に異常事態に対応できる訳では無い。いいな?」
「了解した。他に疑問点があるものは?」
ディシが聞いても特に声を上げるものもいないためいないようだ。
「それじゃあ、定例会議を終わる。ご苦労様」
ディシがそう言うとナルバン団長は席を立ちゼレヌスと共に部屋を出ていく。
その後にアビスがコーヒーの入ったカップを一気に飲み、部屋を出る。
「ディシ君お疲れ様」
「ありがとう。相変わらずあの人たちの雰囲気は怖いな」
「ゼレヌスさんは怖くないと思うけど?」
「あの方は外見は少し怖いので喋らないと迫力ありますよね」
「そうなんだよな…。俺もそろそろ帰るか。ミリィノ、メアリー女王に今話した内容を伝えておいて貰えるか?」
「分かりました。任せてください。」
「よし!みんなで飲みに行こう!」
「いや、もうメルバル総戦近いんだからさ」
「そんなに気を張ってても逆に危ないから、ね!」
「俺は行かないぞ。」
「えー、アレルも行こうよ!」
「そうですね、アレルも来てくれませんか?」
ミリィノがアレルも来るように誘うのを見てめっちゃ可愛いなと思った。ミリィノのこんなに可愛らしい顔は初めて見た。
というか、この4人の会話はなんだか子供の会話のようだ。
「…今日だけだぞ」
「さっすがアレル!」
「お前、照れてるんじゃねーよ」
「殺すぞ」
私はどうすればいいのかと迷っているとスタシアがこちらを向く。
「ヨーセルも!今日こそお酒にチャレンジしてみよ!」
「無理して飲ませるなよ。」
「飲めた方が楽しいじゃん?」
「ヨーセル、無理はしなくていいからな」
「はい…」
こういう掛け合いを見ているとこの人たちが守恵者で
あることをたまに忘れてしまう。
「はい!また私の勝ちですね!」
「ミリィノちゃん強い!やっぱり勝てないなぁ」
初めてこのメンバーで飲みに来たが、なにかの拷問なのだろうか?
私は一滴も飲んではいないのだが、ディシ達4人はお酒の飲み勝負をしてスタシアとミリィノの2人が圧勝、ディシとアレルは酔いつぶれていた。
勝って喜んでいる2人を横目に私はディシとアレルに水を渡す。
「悪い…ヨーセル。ちょっと外の空気…」
ディシはまだ話せてはいたがアレルは机に突っ伏してピクリとも動かなかった。
え?死んでる?と思うくらい動かなかった。
「ディシさんに少し外の空気吸わせて来ますね」
私はミリィノ達にそう言ってディシに、肩を貸して外まで連れ出し、店の前に置いある椅子に座らせてあげる。
もう一度店の中に入り、水の入ったコップを持ってきてディシに渡す。
「ごめん…ヨーセル。」
「大丈夫です。それより無理しないでください」
「あぁ…。やっぱりこうなるんだよな。」
やっぱりということは守恵者の4人で飲みに行くと毎回こうなるということか…。一応、国を支える騎士団のトップの人達だよな?と疑問に思ってしまう。
ディシは酔っ払って眠そうになっている。
その横顔を見つめてしまう。なんというか普段見ない一面でとても可愛く感じてしまう。
このまま膝枕…なんて思ったりしたがさすがにそこまでディシは無防備ではなかった。
「あー、だいぶ酔いが引けてきた。天恵の治癒でアルコールを少し分解できた…」
天恵でそんなことも出来るのだなと思った。身体の治癒はできることを知っていたがアルコールの分解もできるのは初めて知った。アルコールというより毒の分解だろうか。
「ごめんな、ヨーセル。スタシアは天恵で速攻でアルコール分解して勝負に勝とうとしてくるし、ミリィノはシンプルにお酒に強すぎるんだよな。」
ミリィノは凄いがスタシアのそれはお酒を楽しめていると言えるのだろうか。
ある意味楽しめているか…。…いるのか?
いや、勝負の時だけか…。前に二日酔いになってたし。
「ヨーセルって、どうして騎士団に入りたいと思ったんだ?」
「…村のみんなの仇を討ちたいからです。スクリムシリをできる限り殺すことが私にできる仇討ちなので」
「そっか…。ヨーセルならきっと家族や村のみんなの無念を晴らせるよ」
「ディシさんはどうして騎士団に入ったんですか?」
「…長くなるよ。大切な人がいたんだよね。その人とずっと幸せに暮らせると思ってた。けど、そんな事は無かったよ。俺が出かけ先から帰ったら俺の大切な人がスクリムシリに食われているところだった。壁や床には血が飛び散って、俺の足元には切断された腕が落ちてた。俺はその時はスクリムシリと戦ったことなんてなかったけど、その時は不思議とこいつを絶対殺せると思った。その時の感情はあまり覚えてないな。多分、言い表せないくらいだったと思う。
あとから気づいたけどそいつを殺すとき、俺は既に結命の意思が宿っていて、意思 を使って殺したんだってね。俺はスクリムシリの原型が分からないくらい殴ったり切ったり潰したりした。家の前で疲れ果てて座って2日経ってからユーランシーからの刺客に保護されたって感じ。だいぶ簡単に説明しちゃったけど」
言葉が出なかった…、大切な人を目の前で食い殺されてしまった辛さ。
やはり、騎士団にいる人はスクリムシリに強い憎しみを持っているのだと再確認した。
「そろそろ中に戻ろうか。」
「…はい」
中に戻るとスタシアとミリィノが飲みの対決をしていて周りにはその2人を応援するお客さんの姿があった。
この楽しそうな光景、これがあるべき光景なのだろう。
こういう状態がいつまでも続くようにしなければならない。
「あ!ディシ君戻ってきた!酔い冷めたならもっかい勝負しよ!」
「よし、次はボコしてやる」
「望むところです!」
「それじゃあ、2人ともよーい始め!」
ミリィノの合図とともにディシとミリィノがお酒のジョッキを一気に飲む。
(楽しいな…)
次の日、ミリィノ邸の簡易訓練場でアビス師匠と1対1をしていた。
アビス師匠にはまだまだ手も足も出ないが成長はしていると実感する。
「本当に凄い成長ですね」
任務が無いためミリィノにも見てもらっていた。
「本当ですか?」
「そうだな、ルシニエは要領が良いから言われたことをすぐに出来るようになる。良い事だな」
アビス師匠は不器用なのだろう。きっと今のはアビス師匠なりの褒め言葉なのだろう。最近、ずっと関わっていて気づいたのだがアビス師匠は褒めるのが下手だ。
「今日はここまでにしよう。メルバルまで時間もない。体をしっかり休めておけ。」
「はい!ありがとうございました」
「お疲れ様です、ヨーセルさん」
「ありがとうございます、今日も見てもらっちゃって。」
「良いんですよ!人の成長を見るのがとても好きなんです!」
私はミリィノといつものように他愛のない会話をしながら屋敷の中へと戻る。
「ヨーセルさん、もうお風呂に入りますか?」
「そうですね、入らせてもらいます」
「でしたら私もご一緒に入ってもよろしいですか?」
「もちろんです!」
週に2回程のペースで私はミリィノと一緒にお風呂に入る。
色々な話が出来てとても楽しいから一緒にお風呂に入るのが結構好きだったりする。
人の前では肌の露出をするのがあまり好きではないのだがミリィノ相手はもう慣れてしまったのであまり気にならない。
「ヨーセルさんの村はどちらの方角にあったのですか?」
「えーっと、恐らくですけど東南東の方ですね。」
「東南東なら木の実や薬草が豊かな森があるところですよね」
「そうなんですよ!ご存知なんですね」
「何度か任務で森の近くを通ったことがあった時に豊富な種類の薬草や木の実があるのが見えたので、良い森だなと思っていたんです」
もしかしたら会えていたのかもしれないとかと思うとどのような関係になっていたのかが気になってしまう。
それと、私は疑問に思っていたことが1つある
「前々から疑問だったのですが、私みたいなユーランシー外の村出身の人いるじゃないですか?私が村で過ごしている時にメルバル総戦のようなスクリムシリの群れとの戦いがあったならスクリムシリに村が襲われていなかったのはどうしてなのかなと…」
メルバル総戦に限らず、今までスクリムシリを見たことがあの村の襲撃一度のみだった。
日頃からの騎士団の任務やミリィノ達の忙しさを見るにスクリムシリの数は決して少なくないはず。
それなのになぜ、メルバル総戦やスクリムシリの存在に今まで気づかなかったのかが疑問に思ってしまう。
「メルバル総戦は基本的に均一のように規則正しく配置されるのですがその区間やユーランシーから一定の距離に村がある場合は配置をずらして村をスクリムシリから守れる位置に騎士団が配置されるからですね。ヨーセルさんの村はユーランシーの壁のすぐそばにある森の中の村でしたからメルバル総戦の時はヨーセルさんの村があった森の1番ユーランシーから離れた所に騎士団を配置していましたね。」
なるほど…私が今までスクリムシリの事を知らなかったのはスクリムシリが森に入って来れないようにと騎士団を配置していたからなのか…。
あの日までスクリムシリの存在を知らずに過ごせていたのは騎士団のおかげということだった。
「メルバル総戦以外の時は恐らく単純にユーランシーに近かったか木々に囲まれてスクリムシリに見つかりづらかったのかもしれないです。森自体は騎士団としても意外と守りやすいので」
なんだかだいぶ腑に落ちた気がする。騎士団の人達のおかげであそこまで平和に暮らせていたとなると感謝でしか無かった。
「恐らくですが…明日から配置についてスクリムシリを迎え撃つ準備を整えなければいけません。もしかしたらもうヨーセルさんとこうしてお風呂に入ることが出来ないかもしれない。私はヨーセルさんとお話するのがとても好きなのでメルバル総戦の前にヨーセルさんとゆっくり話しておきたかったんです」
私は予想外の言葉に驚いてしまう。
だが、確かにその通り。私たちが立つのはいつ死んでもおかしくない戦場。決して明日があるとは思ってはいけない。
「私もミリィノさんとお話できるのがとても嬉しいです。必ず生き残りましょう」
「そうですね!」
翌日の早朝から既に支給された騎士団の服装を纏う。
聖者が高度な天恵の技術を使って作られており鉄の鎧よりも頑丈だが動きやすいという最高の服。
今朝、着替えた時にミリィノの服を見たら両脇には黄色と黒の縦線が入っていたが私の服には黒のみだった。恐らく守恵者とで区別しているのだろう。
私は、ユーランシーに来て初めて壁外に出た。
既に緊張感があり、同じ配置の人達とは会話がない。
大体、1方角に80人程だろうか。
服の両脇に黄色のみがあるものを着ているのが恐らく聖者だろうか。
しばらくは歩いて、予定通りの配置に着く。
周りには木が数本生えてるだけで見渡しは中々に良いが北西方向には小さな山があるため死角になりうるかもしれない。
他の騎士団員達はその場に座ったりして、スクリムシリの襲撃まで体を休めるみたいだ。
私は警戒を解かずに当たりを警戒しておく。
北北西の方を真っ直ぐ見ると森のようなものが見える。あの距離ならさほど問題は無いだろうがスクリムシリの接近に気づくのが遅れたら無駄な犠牲を出すことになるかもしれないためしっかり見張っておく。
「ルシニエ…と言ったか?そんなに警戒せずに体を休めておいた方がいいぞ」
「あぁ、聖者の方々がスクリムシリの接近に気づいてくれるはずだ。」
「お気遣いありがとうございます、でもなんだか落ち着かないのでもう少しこうしていますね」
「そうか、休みたかったら飲み物とかの資源はここにあるからな」
「ありがとうございます」
意外と親切にして貰えて驚いた。アンレグの話を聞いて少し他の騎士団員の人達を警戒していたがその必要はあまり無さそうだ。
「俺も、一緒に見張ろうかな」
私が見張っていると1人の若い男性が私の横に立つ。
「よろしくね、ルシニエ」
「は、はい、よろしくお願いします。」
「よそよそしくしなくて大丈夫だよ!俺もルシニエと同じ代で入ったからね。同期!」
爽やかに明るく笑う。
「えっと…」
「あ、ごめん、名前分からないよな。ホルトーって呼んで」
「分かったホルトー。よろしくね」
「ルシニエの噂は結構聞いてるよ。守恵者と戦う特別試験で合格して入団なんて凄いよな」
「偶然だよ…。正直、全くついていけなかった。」
「それでもすごいよ。俺はさ、弟達のためにお金稼がないといけなくてさ。父が騎士団で命落として、母にずっと大変な思いをさせてきちゃったから、絶対に生きてやるってね。」
話した感じから伝わってきていたがホルトーはとても良い人だった。真っ直ぐで自分よりも弟達を優先する優しさ。私は、ホルトーという青年に少し心打たれてしまった。
「きっと、弟さん達はホルトーがいてくれるだけで嬉しいと思うよ。」
「そうだと嬉しいよな。」
ホルトーとは妙に気が合いそのまま喋りながら見張りをしていた。
そして、時が来た。
聖者の人からスクリムシリの群れを確認したと報告が入る。
先程まで座って休息をしていた騎士団員はすぐに立ち上がり、戦闘態勢に入る。
「新入団員は今回が初めての任務だ!優先することはただ一つ!必ず生き延びること!スクリムシリは順番に攻めて来るような優しい奴らでは無い!必ず乱闘になり、1人では手に負えない事がある!その時はすぐに助けを呼ぶこと!いいな!」
このグループのリーダーが大声で全体に喝を入れる。
私たちはそれに答えるように「はいっ!」と返事をする。
既に見えてきた、スクリムシリの群れが。
この距離からでも巨大だと分かる獣型のスクリムシリがいる。
(恐らく、あれが 解 ほどのレベル。)
右手にはミリィノから貰った剣を持ち、スクリムシリの群れを睨む。
「かかってこい」
いよいよヨーセルの初任務、どうなるのか…。
次回は戦闘描写が多くなると思うのですが、分かりずらい表現などをできる限り内容にして書くように努力します!




