73話 「勝ち筋」
ヨーセルと共にギャラリスと戦闘をしながら毒を少しずつ解毒している時だった。
ホールディングスの壁が勢いよく壊れたと思ったら背の高い男が空から降ってきた。
落ちた衝撃で男の周りの地面に軽いクレーターができる。
私達とギャラリスの間に落ちてきた男に対してギャラリスは不快そうな顔をしながら話しかけ始める。
「何やってるのよ。随分とボロボロね。
アシュリエル・メアリーはもしかして化け物かなにかかしら?」
「うるせえ、、化け物はそいつの護衛だよ。
あいつは人間の尺度で測ったらダメな生物だ。
クソがっ、」
「ああ、アビス・コーエンね。…は?あんたこっち飛んできたってことは」
ギャラリスはホールディングスの壊れた壁へと目を向ける。
そこには一人の異様な存在感を放つ男が立っていた。
ギャラリスはその男と目が合った瞬間、得体の知れない寒気に襲われた。
「ふふっ、こんな体の内側から何までゾクッとする感じ…
久しぶりだわぁ!」
ジャレンは体の治癒を終わらせてすぐに立ち上がり、ギャラリスの隣へと立つ。
「言っとくが俺ら二人でもあいつに勝てる確率はほぼ無いぞ」
「ええ、分かっているわよ。
でも、帰ってセルシャに殺されるくらいならこっちの方がマシでしょ?」
「どっちも胸糞悪い。」
「それに勝てる可能性だってあるわよ?
アビス・コーエンはアシュリエル・メアリーにやたらと過保護と聞くわ。
いるじゃない、隙を作れる駒が」
「性格の悪いお前らしい回答だ。」
「頭の良い の間違いかしらね。」
アビスは飛び降りて、二人の前方へと立つ。
それに合わせてミリィノとヨーセルもアビスの傍へと寄る。
「アビス師匠!」
ヨーセルとミリィノはただアビスが来ただけなのにとてつもない安心感を感じていた。
三対二ならば確実に勝てる。
そう確信していた…が、アビスから出た言葉は予想外のものだった。
「こいつら二匹は俺が片付ける。
お前たちはメアリー女王の元へ行ってくれ。」
「えっ…三人の方が確実に…」
「黙れ…話している時間はない。
俺は今正気を失いかけてる。
戦闘の中でお前たちに気を配っているほどの余裕はない。
早く行け」
「…はい、」
ミリィノは内心では驚きと悔しさが入り交じっていた。
騎士団に入団してからアビスはずっと丁寧で優しく、どんな時も心を乱さずに接してくれる父のような存在だったから。
こんな強く言葉をかけられたのは当然初めてであり、
それに加えて自ら冷静じゃないと分かっているほどの怒り。
メアリー女王に何かあったのかもしれないと考えると確かに怒りが湧いてくるがミリィノ自身、アビスと自分の力の差は理解している。
自分が怒り、悔しい感情を覚えたところで何も変わらないことなどは分かっている。
だからこそ、それすらも悔しくなる。
もっと強ければ…アビス師匠と共に戦えるほどの強さを持っていればとしみじみ思う。
「ミリィノさん…行きましょうっ」
「はい、…どうかお気をつけて、」
ヨーセルとミリィノはホールディングスへと向かっていく。
その二人の様子を見たジャレンとギャラリスは拍子抜けな顔をした。
「あら?てっきり三人でかかってくると思ったのだけれど…
これは舐められているってことで良いのかしら?」
「お前らごとき、舐める価値もない。
天帝…お前らは空虚と繋がりがあるんだろ?」
「?ええ、あるわよ。それが何かしら?」
「あいつは死にかけていたのか?」
「なんだその質問は?意図がわからんな」
「セルシャなら確かに今まで見た事ないほどに疲れてはいたわね。
死にかけ…ではなかったと思うわ!」
「てめぇは何普通に答えてんだか。」
「いいじゃない、別にセルシャのこと教えてどうこうなることじゃないし。
どうかしら?お眼鏡にかなう回答できたかしら?」
「ああ、十分だ。」
「それは良かったわ。それじゃ死んでもらいましょうか」
ギャラリスは両手に短剣を生成し、アビスへと右回りに向かっていく。
ジャレンも同様に大斧を生成し、ギャラリスに合わせながら左回りに回り込む。
ギャラリスはアビスの首を、ジャレンはアビスの腰めがけて攻撃をする。
しかし、アビスに触れる直前で二人の生成した武器は溶けるように消えていく。
「はっ?」
隙を見逃すことなく、アビスはギャラリスの顔面を三度殴りつけた後に腹部を蹴り飛ばす。
その後すぐにジャレンの髪を鷲掴みにし、顔面に膝蹴りを入れる。
「?」
だがあまり手応えが無いと感じたアビスがジャレンを見ると、ジャレンはギリギリのところで両手をアビスの膝と自身の額の間に入れており、頭蓋骨にヒビが入るだけで済んでいた。
ジャレンはそのままアビスの膝を掴みながら地面へと叩きつける。
そして上に飛びアビス目掛けて落下するが、アビスは回避すると同時に反撃でジャレンの脇腹を手刀によって抉りとる。
手刀を振った勢いのまま顔目掛けて回し蹴りをし、ギャラリスと同様にジャレンも吹き飛んでいく。
この一連の動きの中でもアビスは一切として息を切らさず、だが一瞬の隙も作らないように警戒をしていた。
天帝がこの程度でくたばるような存在ではないのもまた事実。
この世界の理として頭のネジがより多く抜けてるやつが強さに比例しているというのがアビスの今までの経験上で導き出した答えだ。
ディシやアレルはもちろん何本かネジがぶっ飛んでいるが、一番ぶっ飛んでいるのはスタシアただ一人だった。
(あいつは俺よりもぶっ飛んでいるからな…。
あの歳であそこまでの心臓を持てていたか聞かれたら絶対に持っていないと答える。
それくらいにはマーレンは年齢に似合わず精神年齢が高い。
我慢などという次元なんてとうに越しているだろうに…。)
戦闘中で教え子を思い出す…よくアビスが任務の時などで起こる現象。
(逆にカウセルは真面目すぎるからな…
だが、アンジやドレイと同じくらいネジが吹っ飛んだ時にはその二人も凌駕するくらいに強くなる…
そんな予感もする。
ならば、その起こりうる未来のためにカウセルやルシニエをここで下手に削られる訳には行かない。)
アビスは教え子のさらに今より強くなった将来を想像し、
口角が上がる。
「なぁ〜に、笑ってんのよぉ、、!」
瓦礫の中からギャラリスがフラフラと出てくる。
顔の半分がグシャグシャに潰れており、ほぼ削れて無くなっていた。
「ここまでのぉ!屈辱は初めてよぉ!!アビス!!
コーエン!!」
ギャラリスは顔を治癒し、アビスに向けて大声で怒り叫ぶ。
そして、ジャレンも瓦礫から出てくる。
脇腹は既に治癒し終えているが、顔面を蹴り飛ばしたことで顎が無くなっていた。
喋ることができない様子だったがその表情から既に怒りが伝わってくる。
顎を治癒し、素手で構える。
「こんなにイラついたのは久々だ。
殺してやる、アビスよ」
「気安く名前で呼ぶな、ゴミが。
かかってこい。次はその腐りきった脳みそ潰してやる。」
「ジャレンッ!こいつの前ではプライドも何もかも捨てなさいっ!」
(お前が言うのかよ…。
それにしてもさっきの武器の分解…。
恐らく原因は天恵で生成した武器だからだろうな。
だがその場合はおかしい事がある。
天恵で生成した物が分解されるのであればなぜ天恵で体を構成しているセルシャは殴り合いをしても分解されずに生きてた?
それにセルシャは剣も生成した物を使い、普通に戦闘を行っていた…。
どういう原理だ?)
アビスの天恵を分解する体質についてよく考えても未知数すぎてまるで分からなかった。
よく考えて対策を練ろうとするジャレンとは反対でギャラリスは何も考えずにただ本能の行くままにアビスへと襲いかかろうとする。
「待て、ギャラリス!」
「ああ!?何よ!!」
「あいつの体質についてあと少しで分かりそうだ。
少し待て」
「あなたが考えとけば良いのよ!
私は早くあいつを殺さないと気が済まないわ」
「お前はもう少し頭を使ったらどうだ!!
だからランスロットに相手して貰えないんだろう!!」
「ジャレンッ!!貴様、あまり調子に乗るんじゃないわよぉ!!
先に貴様を殺してやっても良いのよ!!」
「お前ごときが俺に勝てるとでも思っているのか!」
「ええ!その無駄にでかい図体切り裂いて内蔵を綺麗に並べてやるわ!」
「仲間割れか…。負けそうになったらすぐに誰かのせいにする。
お前らも普通の人間と変わらないな。
なぜ…人はすぐに人を裏切る?
なぜ…他者のために命をかけて動く者を人は裏切る?
なぜ…あの子が悲しむことを人はする?
最初からこうするべきだった…人は信用出来ない。
あの子には俺がいれば良い…守恵者も聖者も騎士団員も貴族も民も…何もかもいらない。
あの子が傷つく要因になるもの全てを俺が…壊してやる」
「あら?何を勘違いしているのかしら?
あなたたちと違って私は天帝の奴らと仲良しこよししているんじゃないのよ。
仲間割れ?仲間では無いのになぜ仲間割れだと思うのかしらぁ?」
「その点はこの腹黒女に同意だな。
俺たちは個々の目的があり、一時的な協力関係にあるだけだ。
勘違いするな。」
「お前たちが俺の敵であることは変わらない。
話は終わりだ。」
「ええ、そろそろあなたと戦うのに飽きていたところよ」
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「はぁ、はぁ、はぁ、うっ…ゲホッゲホッ!」
「ミリィノさん!」
「だ、いじょうぶ…です、。解毒はもう終わります。
そんなことよりもメアリー女王の元へ、、」
「あまり、ご無理はなさらないでください、、」
ヨーセルの目には無理をしているミリィノしか映らなかった。
確かに解毒は進んでいるかもしれないが、それ以上に先程の戦闘の後に休むことなく動きっぱなしで天恵による治癒を常時発動している。
いくらミリィノといえど命に関わる事のはずだった。
(なのに…どうして、どうして、自分の命が懸かっている時でも人の心配を、、)
この国の人は全員そう。
ディシもスタシアもアレルも、メアリー女王も全員が人の心配を第一にする。
損する性格ばかりの人ばかりだ。
ミリィノとヨーセルはホールディングスの女王の間に辿り着いていた。
ドアを勢いよく開けると中は壁やら地面やらが色々と壊れており、床には頭を潰された死体もころがっていた。
そして間の一番端に目をやるとメアリー女王が壁を支えにしながらフラフラと歩いていた。
「メアリー女王っ!!」
すぐに二人はメアリー女王へと駆け寄り、身を按じる。
「ミリィノさん…ヨーセルさん、」
「ご無事で良かった。
現在、アビス師匠が天帝二体と交戦中。
アビス師匠の指示の基、私たちがメアリー女王を避難させます。」
「そう、ですか、ゲホッ、、ありが、とう…ございます」
メアリー女王は見るからに体調が悪そうだった。
顔色は悪く、呂律も上手く回っていない。
ミリィノは嫌な予感がした。
「メアリー女王、一刻を争うかもしれません。
ご無礼をお許しください」
ミリィノはメアリー女王抱えて床に寝っ転がらせる。
「や、やめてっ、ください、」
「すみません、メアリー女王。
あなたのお命に関わることですっ!
ヨーセルさん!抑えていてください!!」
ミリィノの必死さになにか意図を察したヨーセルはメアリー女王の抵抗する腕を抑える。
そして、ミリィノは短剣を生成し、メアリー女王の服の中心を上からへその部分まで切る。
「ミリィノさん!何を!!」
「今は説明をしている暇はないです!!」
ミリィノはメアリー女王の胸を隠しながらみぞおちの部分の服をどかして見ると、そこには真っ黒に染ったアザのようなものが出来ていた。
「な、何これ…」
「天恵…それも高度な技術で作られたもの、、
これをつけたのは恐らく男の天帝。
これがやつの 意思 の能力の目印なのであれば何か条件が満たされた時にメアリー女王は…」
「嘘…その条件は、、」
「分かりません。ですが、奴らの狙いはメアリー女王の抹殺。
それなのに今こうした目印をつけておきながら 意思 を発動させないのはその条件に満たしていないから。
推測すぎませんが一定の距離を離れたら 意思 が使えないとかだと思います。
とにかく今はメアリー女王をできるだけ遠くに!」
「メアリー女王、歩けますか?」
「すみません…そろそろ、痛みで意識が…」
「気をしっかり!もう少しの辛抱です。
ヨーセルさん、メアリー女王を抱えてあげてください。
今から東国の教会へ向かいます。
聖者さんならスタシアさんほどではなくても傷を癒すことは出来ると思います」
「分かりました」
ヨーセルは自身の騎士団制服の上着をメアリー女王にかけ、お姫様抱っこをする。
(息が荒い、震えてもいる。相当辛かったんだ、、)
「行きましょう」
読んで頂きありがとうございます!




