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天使とサイナス  作者: 七数
4章 【解】
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71話 「可能性」

「あなた…強いわね。

ランスロットから聞いた話だと人型スクリムシリ 破 に随分と手こずっていたみたいだったけれど。

やはり成長というのは止まらないものよね」


「私のことを聞いたのですね。

そのランスロットさんとやらに。

私もあなたのことはお聞きしておりますよ。

ザブレーサでしっぽ巻いて逃げた腰抜けという風に」


「アッハッハッ!…殺す」


ミリィノとギャラリスの実力は拮抗していた。

お互いまだ本気を出しておらず相手の出方を探るような状態。

ギャラリスは短剣の使い手であり戦い方はディシとは異なるものの、ディシと手合わせしていたことで短剣を使う相手の対策はできていた。

そのため剣の実力ではミリィノが優勢に立っている。

動きの速度もミリィノが優勢。

だがギャラリスは細身な体の割に異次元な力と繊細な天恵の技術を持っており、それぞれの得意が実力の差を打ち消しあっていた。


ギャラリスは器用に秒単位で身体強化をしたり解除したりを繰り返しながらミリィノに一瞬で距離を詰める。


(速い…それに加えてこの左右上下の動き。

厄介…だけど対応できないほどではない。)


ギャラリスが建物を飛び移りながらミリィノの周りを移動し、背後を取った瞬間に短剣をミリィノの首へと振りつける。

しかしミリィノは後ろを向いたままギャラリスの攻撃を開脚しながら下に避け、身体を回しギャラリスの足を蹴り飛ばしてバランスを崩させる。

バランスを崩し倒れそうになるが足をなんとか出して踏ん張るギャラリスにミリィノが両手を地面に押し当て腕をのばし、両足をギャラリスの腹部へと伸ばして蹴りつける。

下から蹴られたことで踏ん張ることが出来ずに上空へと吹き飛ぶ。


(本当に強いわね…予想以上。

アシュリエル・メアリーはジャレンに任せようかしら。

多分こいつを今日中に殺すことは出来ない。)


ぶっ飛ばされながらそんなことを考えているといつの間にかミリィノが真上まで飛んでおり、ギャラリスの背中に勢いよく剣を振り下ろす。

瞬時に体をひねり、ミリィノの方に向き直すと短剣で即座に防御する。

攻撃を受け止めた勢いでギャラリスは地面へものすごい速さで衝突する。


(今の一連の攻撃でも手応えがあまり無い…。

即座に反応することで打撃を受ける箇所に身体強化してダメージを最小限に抑えてるということですか。

そんな芸当できるのはスタシアさんとディシさんくらいだと思っていたのですが…厄介ですね、)


ギャラリスは衝突した際に地割れを起こした地面から立ち上がり服の汚れを払う。

口から流れる血を舌で舐めた後にニヤリと笑う。


「あなた、凄い良いわね。気に入ったわ」


「…あなたに気に入れられて嬉しいわけないでしょう。」


「そんな固いこと言わないでちょうだいよ。

いいこと教えてあげるわね。

どうやら戦闘に夢中で全く気づいていないみたいだけどユーランシーに来たの私だけじゃないのよ?

それと…目的は私と一緒」


「っ!!メアリー女王っ、」


「あら、ダメよ!」


ホールディングへと向かおうとしたがギャラリスが至近距離まで詰めてきて短剣を突き立てる。


(しまっ、)


ギャラリスの短剣がミリィノの脇腹に突き刺さる。

それだけならば直ぐに治癒を開始すれば良いだけだったが、何故か治癒することが出来ずにその部位に天恵を集中させようとしても分解されていく。


「何がっ、」


「あら?まさか気づいていなかったの?それか忘れていたのかしら?

私の剣は毒があるのよ。

今回の毒は傷を負った箇所に集まる天恵を毒によって侵食して私に還元されるというものよ。

あなたが傷を治そうと天恵を集中させれば私の天恵へとなる。

あなたほどの実力ならば時間をかければ治せないことも無いでしょうね。

そんな時間なんてあげないのだけれどね」


「はぁはぁ…ふぅ、、」


ミリィノは脇腹から溢れ出てくる血を手で抑えながら息を整えようとする。


(痛い…縛毒の意思、想定していた以上に厄介。

恐らく剣に纏わせる毒の効果はギャラリスが指定することが出来るのでしょう、

次の毒は一度でも受けたら死ぬ毒の可能性が高い…

私の動きを鈍らせることによってジワジワと殺す戦い方…性格の悪い方ですね、、)


ミリィノはギャラリスに対して鋭い視線を向ける。

その目には殺意と憎悪があった。


「ふふっ、あなた…普段から真面目なのでしょうね。

顔から分かるわぁ!強い信念と覚悟を持っている…強者の目よ。

私の知り合いにもそんな目をする人は沢山いるわ。

一見すると何に対しても興味がなく感情の振れ幅もない者 も 見た目も性格も穏やかだけれど心の奥では人間を憎んでいる者 も。

強い者には共通して目の奥に何かしらの覚悟と信念を持っている。

私はねぇ!そんな目を持った人達を殺すのが…大好きなのよ!

ただ殺すだけではないのよぉ、ジワジワと私の毒でゆっくりと苦しめながら殺すの。

強者が悶えながら死ぬ様…想像しただけで興奮するわぁ!」


ミリィノの感情には不快感のみが渦巻いていた。

ただただ目の前の女が気色悪くて不愉快でしか無かった。


「…人は人を思いやることで初めて対話が成功します。

でも、稀にあなたのような自分のことしか考えないような不愉快極まりない人間もいる。

それをなんと言うか知っていますか?

クズと言うのですよ。

そんなクズで自分のことしか考えられないあなたに教えてあげます。

ジワジワと殺されていく時の感覚を。」


「ふふっ!良いわね、やってみてちょうだい。

と、言ってもあなたのその傷では思うように動けないでしょうけど。

普通の人間ならば致命傷で死ぬもの。

なんとか止血したみたいだけれどそれも時間の問題かしらね。」


事実、ミリィノは相当まずい状況にあった。

拮抗していた力がこの傷のせいで崩れてしまった。

手負いの状態でギャラリスに勝てるかどうかなど、考える必要もない。

それほどまでに追い込まれていた。


「じゃあ、死んでちょうだいっ!」


ギャラリスは動きが鈍くなったミリィノの背後へと回り込み、短剣から普通の剣へと形を変えて振りつける。


だがその剣はミリィノに届くことは無かった。

だが、何かにはぶつかった。

それは切れることはなく、ただ自分の剣が止められただけ。


「あなた…マリオロにいた子よね」


「くっ…」


「よ、ヨーセルさんっ!」


ミリィノとギャラリスの間にはヨーセルが立っており、自身が生成した剣によってギャラリスの攻撃を防いでいた。


「このまま力で二人とも押し潰してあげるわ!」


ギャラリスが剣を押す力を強める…が全くビクともしなかった。


(なに…?どうなっているの。私が本気で押し込んでいるのよ。

この女っ、私に力でタメを張っているというのね!)


すぐさまミリィノが立ち上がり、ギャラリスへと剣を振るう。

ギャラリスは後方へと下がり、距離をとる。


「遅くなってすみません…。

任務終わりにホールディングへ行った際に強い気配が感じたので急いで向かってきました。」


「はぁ、はぁ、い、いえ、ありがとうございます、

正直助かりました。

あれは縛毒の意思者…天帝です。

今までの敵とは比較にならないほど強いです。

マリオロで出会った人型よりも、」


ヨーセルはその言葉を聞き、緊張が高まる。

目の前に立っているだけで震えが止まらなくなりそうなほど自分とは圧倒的な差を感じる。


(私が来て役に立てるのか?

でも、ミリィノさんは脇腹を負傷している。

毒?の影響なのか分からないけど天恵による治癒ができていない。

アビス師匠もメアリー女王の護衛のために女王の間にいる。

今万全に動けるのは私のみ…。)


「スゥー、ハァー…」


ヨーセルは深く深呼吸をした後に剣を構え直す。

ミュレイの時とは訳が違う。


相手は 意思者 であり、身体能力も天恵の技術も足元にも及ばない。

だったら、ミリィノができる限り戦いやすいようにサポートする。

それが今私に出来る最大限の事。


「ミリィノさん…お怪我は…?」


「大丈夫です。

この程度ならば戦いながらでも毒を分解出来ます。

ヨーセルさん…私に動きを合わせていただけますか?」


「分かりました。必ず倒しましょう。」


ヨーセルとミリィノは改めてギャラリスへと向き直し、剣を構える。


「あらあらあらぁ!面白くなってきたわねぇ!!

ここからが。本番というわけよね!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

スタシアが手のひらをラットルに向けると、ラットルの右下半身と右腕が同時に消し飛ぶ。


「愛憎」


ラットルがそう唱えると失った腕と右半身が即座に再生される。

そして 次は僕の番だ と言わんばかりに距離を詰め、

スタシアの懐に入り込み、腹部を本気で殴りつける。

スタシアのみぞおちに拳が食い込む。

だがスタシアは痛がりもせず、ただ攻撃するラットルを見つめるのみ。


続けてラットルは膝横を本気で蹴りつけ、顔面を殴り、心臓部を殴る。

ラットル自身は手応えがあった…はずだったが、

スタシアは相も変わらずに痛がりもしなければラットルをずっと見つめるだけ。

その様子に不気味さを感じたラットルは即座に距離を置く。


「…どうしたの?その程度?」


「くっ…化け物が、」


「言い得て妙だね。如何せんあなたが言えることでは無いけどね。」


「そうかな?僕は限りなく人間に近いと思っているけどね」


「…スクリムシリの分際で…人間を語るな。

もういいよ…あなたから聞き出せそうなことはこれ以上無いし。

主にお別れは言ったかな?」


「僕の主が僕に向けて放つ言葉は命令のみなんだ。」


「あっそ。かわいそ」


「そうだろう?だから気晴らしに君を殺すよ」


ラットルは両手に短剣を生成する。

命令以外で主であるギャラリスと関わることがあるとするならば手合わせのみだった。

前までは普通の剣だったがギャラリスと戦ううちに短剣の腕が磨かれていき今では短剣が1番の得意武器にまでなった。


ラットルが地面を勢いよく踏み込むと同時に、地面が割れながら浮き上がり、スタシアの視界を遮る。

その隙にラットルは瓦礫の間を小さな体を駆使しながら通り抜ける。

そしてスタシアの姿が見えた瞬間に真上と飛び上がり、スタシアの脳天を引き裂こうと短剣を振りかざす。


「…はっ?」


完全に取ったと思ったラットルの両腕と両膝から下が跡形もなく吹き飛んでおり、スタシアに向かって体が落下していく。


(まずいっ、早く…愛憎で再生をっ、)


「ゴフッ、」


ラットルは突然、体内からの激痛と共に血を吐き出す。


スタシアの方を見ると、後ろを向いたままの状態で右肘から先を上に向けた状態で手を握っている。

スタシアは体をひねり出しながら振り向き、落ちてくるラットルの顔面を身体強化した足によって回し蹴りをする。

ラットルは蹴られたことで吹き飛び、その衝撃でいくつもの建物が壊れて崩れ落ちる。


「ゲホッ、ゲホッ…く、そっ、内蔵が…潰れてる、、

あの女ァ!!」


信愛は基本的に対象に手を向けることで狙いが定めやすくなり、歴代の信愛の意思者もそのようにして戦っていた。

だがスタシアの天恵の技術は一種の神の領域であり、手を向けることなく狙いを正確に定めることはもちろんのこと、天恵によって対象の気配を察知さえできてしまえば見ずとも対象を狙うことが出来る。

そして今回、ラットルを見ずに信愛を行使するだけでなく外傷をつけるよりも何倍も困難である体内への攻撃をして見せた。

まさに神業だった。


(胃と肺を潰されたっ、信愛で治癒しようにも痛みで集中力が…、クソっ)


「へぇ、内臓潰したのに腕と足だけは先に再生させたんだ。

器用だねぇ」


スタシアが気持ちが籠っていないと丸わかりの話し方でラットルを褒める。


「私が一番長く…一番深く、信愛を使い、理解している。

そんな私だから言えるけど…あなた程度の天恵の技術だと持ってあと数回程度しか信愛は使えないだろうね。

あ、そっか。”まだ”内臓の再生終わってないんだ。

なら再生し終えた頃はあと三回くらいしか使えないかもね!

その前に殺しちゃうけどね」


「僕は…僕は…ギャラリス様の命令のためにっ!!

ここで死んでたまるかぁぁ!!!」


ラットルはまだ完全に再生し終わる前に勢いよく立ち上がる。


「『無邪気な愛と信念の憎しみ』意志『愛憎』っ!!」


意志詠唱によって半径142メートルの範囲円が現れる。


「ハッハッハッハッハッ!殺してやる、スタシア!!」


「…ダメだよ。そんな感情で、信愛の能力を使ったら。

そんなんだから…意思が宿らないんだよ。

それがあなたと私の『差』だよ。」


スタシアはラットルのすぐ目の前にまで瞬きの間に移動し、人差し指をラットルの額に押し当てる。


「破恵」


次の瞬間にラットルの上半身は跡形もなく消し飛び、ラットルの後方の建物は瓦礫ひとつ残さず消え失せ、

地面までも抉り削っていた。

下半身のみのラットルが地面に倒れ落ちる。

そして、少しずつボロボロと崩れていく。


「…」


スタシアは喜ぶことも勝利を噛み締めることもなくただ黙ってユーランシーのある北側を静かに眺める。

読んで頂きありがとうございます!

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