70話 「新国家」
「把握しました。この場にて、スタシア様の要求を全て取り入れた上でチューンバッハ・ヴェルファド王国改め、新国家を建国する方針を宣言します。」
ヴェルファド騎士団長であるノアがカエリオン非支持派閥の貴族達がいる場で新たな国を建国することを宣言した。
「そんなアッサリ?ここにいる方々には確認は取ったの?」
「元々、我々非支持派閥は支持派閥と実質的な冷戦状況にありいつ内戦が起こってもおかしくない状態だったんです。
なので支持派閥が負けてカエリオン王が王を降りるか、我々が負けて完全なカエリオン王の思いのままの独裁国家になるかは時間の問題でした。」
確かに…
奴隷の売買が行われているとはいえ、非支持派閥の連中がその売買が行われている会場などを把握していないのはおかしいと思っていた。
冷戦状況…すなわち情報戦が行われていたということ。
だから、非支持派閥は支持派閥の連中の動向を追うことが出来なかったのか。
そして、あらかた予想通りではあったが奴隷売買の黙認者筆頭が…
「カエリオン王が奴隷売買を黙認していた…でいいんだよね?」
「そういうことになります。
ですがカエリオン王を普段から身近で接する機会の多い私には警戒を解いていました。
なので色々本人から聞くことが出来てもいました。
マリオロのアウグス王、ユーランシーのメアリー女王は勘が鋭いため普段から奴隷を近くに置いていたらバレる可能性があるとカエリオン王は危惧しておりました。
なので表面上では何も関与していない、知らない、といった態度を取っておりました。」
カエリオン王自体は奴隷売買に関しては無関係…意外だ。
自分が他者より優位に立つのが好きそうな性格に見えたが自分の地位が危うくなるのは阻止したかったということか。
「えっとそれで話戻すけど…と言ってもあまり話すことは無いかな。
強いて言うならば国のトップはどうするの?ってくらいだけど」
「正直我々では決めかねます。
平民は基本的に非支持派閥しかおりません。
ですが支持派閥の貴族共が街で突然跡形もなく潰れ、民は不安がっております。
そんな時にカエリオン王が亡くなったということを民に伝えた際にそれは信頼を勝ち取ることが出来るのかという話になってしまうます。
我々が求めるのは民の声を聞き、豊かを目指す国のあり方です。
恐怖や権力によって民を縛りたくない…カエリオン王の二の舞にはなりたくはありません。」
ノアという人間がどういう人物か分かり始めてきた。
どことなくミリィノに似ている気がする、
自分の信念を持っていながらもその範疇を超えて人の助けになる動きをする。
とても好感が持てる。
「王は決める必要は無いんじゃないかな?
君ら貴族がその意識である限り、この新しくできるであろう国はきっと問題ない。
下手にトップを作るのではなく、まずは皆で協力し合いながら場の経験を踏めば良いと思う!」
ノアは フッ と笑みをこぼす。
「スタシア様は本当にお優しい方です。
そのような形を取ろうと思います。
そして、この国の象徴としてスタシア様を掲げたくもあります。
よろしいですか?」
「うんうん!私を象徴とね…、え?」
「納得していただけたみたいでよかったです!
早速、このことを民達に…」
「ちょっと待って!私を国の象徴にするの!?
どうして!?」
「実質的にこれからできるこの国はスタシア様が作ったようなものです。
ですが、スタシア様はきっとユーランシーにお戻りになられると思いますからこの国を統治することはされない。
でしたら象徴という形で敬意をと思ったのですが…」
「えー、と、うーん…私じゃなくてメアリー女王の方がなぁ、
私って国の象徴にしてはインパクト足りないじゃん?」
「いえ!そんなことはありません!
我々一同は納得してもおります!」
真剣な目で私を見つめるノアと貴族連中。
私としては国の象徴を置くならメアリー女王の方が良いのだけども…。
「う〜ん…」
「ダメでしょうか?」
「…わ、分かったよ…言っておくけど名前だけね?
私を象徴とするのは良いけど何も干渉しないし、
信仰はメアリー女王にしてよ?」
「心得ております。
必ずスタシア様が納得のいくような国へと変えてと騎士団長ノア・サーキスの名において約束致します」
「うん!よろしくね!
あ、それとこの城に牢屋的なのはあるのかな?
ラットルという幼い男の子が昨日連れ去られたんだけど」
「拘束牢でしたら地下にございます」
「おっけー、それじゃあとは皆さんで話し合ってください。
私は出来るだけ早くユーランシーに戻りたいので」
(あとやることといえばラットルを救出して、元いた場所に返してあげて、馬車捕まえてって感じかな…。
このままいければ予定よりも早く着くかも。)
「えっ、と…スタシア様、我々の方針などはお聞きには?」
「え?聞かないとダメ?」
「ダメ…と言いますか我々を信用できるのですか?」
「うん…だって国を変えてみせるって言ったじゃん。
その言葉に嘘偽りはない。
皆さんならきっとやり遂げてくれると信じてるよ!」
口に出すのは簡単だしそれだけで信じろというのは正直難しいとは思う。
けど、信じなければ何も解決などしない。
方針や法、国のあり方の話し合いに私が参加したり口を出したりしてはその国本来のあり方ではない。
だから私はこの連中を信じてみることから始める。
ノアはスタシアのその発言に目に涙をうかべ、感極まった様子で目を擦る。
「本当に…感謝します。スタシア様」
「うん!それじゃあね」
私は部屋を出る。
きっとあの人達なら問題ない。
メアリー女王のお眼鏡にかなう国になってくれると思う。
螺旋状にできた石階段を降りていくと少し古臭い空間がある。
その空間にある正面のボロボロの木のドアを開けると
牢屋が奥へと並んでいる。
手前から二番目、私から見て右側の牢屋の前で足を止める。
「ラットル!お待たせ」
「スタシアさん!」
「少し助けるの遅くなっちゃったね〜!ごめんごめん」
「んーん!助けに来てくれてありがとうございます」
私は牢屋のドアを破壊してラットルを中から連れ出す。
その際に服がめくれて方が見えた。
紋章が濃く大きくなっている…。
「ねぇ、その紋章、大きくなってるけどどうしたの?」
「こ、これは気にしないでください!
大したものではありませんから!」
「いや、気にするよ…痛そうにも見えるし。治そうか?」
「治せるの?」
「うん!出来ると思うけど?」
「でしたらお願いします」
スタシアは頷きながらラットルの肩に手を置き 愛憎 と唱えると肩の紋章はみるみると薄くなり消えそうになる。
(紋章というか刻み込まれたもの…痛かっただろうに。)
愛憎 で治していると突然 グシャッ という音がした。
「えっ?」
スタシアは下を見ると心臓部にラットルの指が刺さっていた。
口からスーッと血が流れる。
スタシアはすぐさま距離を取り、心臓部を 愛憎 によって治癒する。
「あっれぇ…おかしいなぁ。
絶対心臓を破壊できたと思ったんだけど…心臓に指すらが届かなかった。
スタシア…君天恵で心臓を守ってるんだね。
そんな器用なことできるなんて相当な技術力だ」
「…っ、何者?」
「こんな見た目だから警戒もあまりされなくて良かったよ。
というかここまでしてまだ気づかないなんて、鈍いね?」
いや、分かっている…何者かなんて。
でも認めたくない…ラットルが、ラットルが、
スクリムシリの訳が…
「普通は天恵で体を構成する僕らスクリムシリはスタシアのような実力者であればその正体を隠すことは困難。
だけど、それはスクリムシリに知力が無い場合による。
どういう意味か分かるかな?」
(前に会った奴やアレルさんとヨーセルがマリオロで倒した奴と同じということか…。)
「天帝の…側近っ!」
「せーかい!それに加えていい事教えてあげる!
今、ユーランシーではね、天帝二人がメアリー女王を襲撃している頃だよ」
「は?」
「おぉ、怖い怖い!」
(いや、ユーランシーにはアレルさん、ディシくん、ミリィノちゃん、アビス師匠がいる…。
きっと大丈夫なはず)
「今、守恵者が三人いるから大丈夫とか思ったでしょ?
言ったでしょ…知性があるのは厄介なんだよ」
嫌な予感が確定なものへとなった。
もし、守恵者二人が任務でユーランシーを空けていたならば…。
「そもそもスタシアは今からユーランシー戻っても全て事後だろうけどね。
まぁ、帰さないけど」
「ふぅ…」
(落ち着け…誰がユーランシーに残ってても問題ない。
皆強いからきっと大丈夫だしアビス師匠もいる。
私はこいつを倒すことに集中しないと。)
スタシアはラットルを睨みつける。
「いいね、そうじゃないと!
ギャラリス様に褒めてもらうために頑張ろうかな」
「ギャラリス…?」
「そうだよ〜。僕の主。
会ったことあるんだっけ?面白いひ…」
ラットルが言い終わる前にスタシアは身体強化によって瞬時に距離を詰めてラットルの顔面を本気で殴りつける。
その威力にラットルの顔面の下半分が消し飛ぶ。
追撃でスタシアは上にラットルを蹴りあげる。
地下から一階へと吹き飛ぶラットルにさらに距離を詰めてトドメまで刺そうとする…が、気がつけばスタシアの腹部にラットルの腕が貫通していた、
「ゲホッ、ゲホッ…そ、それはっ!」
「気が付いた?」
ラットルの傷は既に完治をしており、スタシアは気が付いていた。
(この一瞬で…治癒できるのなんて、愛憎しか…)
「君がさっき僕に愛憎を使った時に模倣したんだよ。
ザブレーサで会ったでしょ?
模倣をする人型スクリムシリ 破 に。
あれは僕を基に作られた複製体みたいなものだよ。
つまりザブレーサでのスクリムシリの完成体が僕ってこと。」
「…」
(頭や下半身を信愛で潰そうとしても出来ない…
つまりそれほど…私と同等の力を有しているということ、)
信愛は、信愛を含めた所有者と実力が近ければ近いほど能力に対して耐性がつく。
天帝レベルなどになるとそれが明確に分かる。
普通のスクリムシリ 破 ならばすぐに頭を潰せるが天帝だと腕までしか潰すことが出来なかったりする。
そして今目の前にいるスクリムシリは頭どころか半身も削ることが出来ない。
ザブレーサで会ったギャラリスという天帝は両足くらいならば潰すのは容易だった。
つまりこいつは天帝に限りなく近い実力ということ。
(元の力でここまでならば恐ろしいけど…多分、私の愛憎を模倣したことによって私の実力に大きく近づいた。
でも、模倣という能力は強力だが欠点も多いはず。
模倣した能力によっては一つまでしか使えないし、愛憎の場合は高い天恵技術を有する。
私に近づいたといってもまだまだっ!)
スタシアはラットルとの距離を詰めた後に、信愛によってラットルの両足を捻り潰す。
宙に一瞬だが浮いたラットルの髪を鷲掴み、顔面を目に見えぬ程の速さで三回殴る。
だがその三回全てラットルに防がれ、その間に再生した足で脇腹を蹴り飛ばされる。
「察してるんでしょ?僕の模倣のこと」
「…」
「愛憎 だけで模倣が使えなくなるなんて…さすがは信愛といった所かな?
でも、愛憎は天恵での治癒に比べて十分の一未満の天恵で治癒することが出来る。
こんなに強力な能力は初めてだよ。
知ってるかな?愛憎 は天命の意思の中で最も強力な能力なんだよ。
万物の治癒…詠唱することで一度に治癒できる制限も無くなる。
最高だね…一生手離したくないね」
「話は終わり?」
「ああ!終わったよっ!」
ラットルは先程のスタシアよりも早い速度で距離を詰め、本気の殴りを入れる。
咄嗟に腕で防御体勢を取ったため後方へと吹き飛ぶのみ。
壁にめり込みながらもすぐに立ち上がると驚いた顔をしたノアや貴族達がいた。
(三階だったのか…。そういえば国の中だった。
民が多い中でやつを相手するのは危険が多すぎる。
きっとそれが狙いなのだろうけど、何とか国外に出したいけど、)
「スタシア様!何が!
「ノア!これは命令!今すぐに聞いて!この国の民をできる限り壁際に避難させること!
私からなるべく距離を取って!
今すぐっ!」
「りょ、了解しましたっ」
ノアや貴族達は壊れて風通りの良くなった部屋から出ていく。
ラットルがニヤニヤと笑いながらこちらに歩いてくる。
小さい容姿とは裏腹に相当な実力者。
身体強化した際の力もスピードもあっちが上。
天恵技術は私が圧倒的…
口ぶり的にも詠唱意志は使える。
ならば信愛の能力で圧倒するしかない。
「スタシア…君を殺す。それが僕に与えられた使命だから」
「ふっ…それができるならとっくにユーランシー攻めてるでしょ」
私とラットルは互いに向き合う。
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