69話 「覚悟」
昔から人一倍感情の振れ幅が大きいのに、感情を隠すのが当たり前だった。
泣きたくても泣かない…ムカついても怒らない…
ただ、グッと感情を体の中に押しこめるようにしていた。
我慢もよくしていたと思う。
村で育ち、決して裕福な暮らしとは言えず、母や父のお手伝いをしたり、姉との扱いに多少なりとも差が出てしまっても文句なんて滅多に言わずに我慢していた。
それが私の性格なのだと割り切っていた。
だが、ある出来事を境にそんな性格も変わってしまった。
悪魔のように笑う女が村を襲い、目の前で父と姉が殺された。
私だけ助かってしまい、ディシに連れられてユーランシーへと住むようになった。
その時は全く笑わなくなっており、ただスクリムシリという生物に殺意ばかりが渦巻いていた。
私も早く戦えるようになってスクリムシリを一体でも多く殺さなければいけない…
だが現実は残酷だった。
私には剣の才能もなければ力もない。
けど、信愛 を宿ってから何もかもが変わった。
そこから何もかもが上手くいった。
天恵を極めるために自分を本当に死ぬのではないかというところまで追い込んだ。
その時でさえ苦しいなんて思わなかった。
だって、あの時声が聞こえたから…信愛 の声が。
ずっと励ましてくれて…どうすればもっとみんなの期待に応えられるかを教えてくれて。
その時、私は自分で考えることはせずにただ信愛の声を聞いて動いていた…ダメだ…良くない…そんな考えも頭の中にはあったが私自身が信愛を求める感情が大きくなってしまい、どうしようもなかった。
そんな時に私はディシにある事を言われた。
『スタシアは笑っている方が可愛いな』
きっとディシからしたら何気ない一言だったのだろう…
けど信愛に頼ってばかりの私の全てを変えるようなそんな一言だった。
ディシに対して抱いていた好きという気持ちが、本格的な恋心に変わった瞬間だった。
その時から私は感情を我慢することをやめて、
泣きたい時に泣き、笑いたい時に笑うようになっていった。
皆が好きでいてくれるような明るい人であろうとした。
けど…明るく振る舞い、みんなを笑顔にさせる…。
そして自分も笑顔になる…それで満足出来ているはずだった…。
だけど無理していないはずなのに…これが素のはずなのに
心の中心に真っ黒い何かがずっと蔓延っている…そんな感覚がいつまでたっても消えなかった。
感情を抑えなくなってからよく笑うようにもなったけど、
その逆ですぐに怒るようにもなった。
心を許した人以外にはすぐに苛立ってしまい、殺意が湧く。
こんな自分は嫌いなのに、怒っている時の私は笑っている時よりも心の中心にいる黒い何かが収まっている…そんな感覚があった。
思ったんだ…その時に。
なんやかんやで私は人に気を使っていたんだな と。
私の気持ちが楽になるより周りが楽しくいてくれる方が良いから笑おうとしていたんだな と。
やっぱり私は我慢しちゃう性格なんだ…。
カエリオン王を助け出そうと部屋に入ってきた騎士団員達 約30名の死体がこの広い空間の一箇所に積み上がっていた。
その死体の全てに頭は無く、胴体のみの死体だった。
(もう…我慢なんていらない。怒りを抑える必要も無い…。
あなたのやりたいようにやって…スタシア)
「お、おまえはぁ!!な、何者なのだ!!」
「何者…に見える?」
「か、怪物!殺人鬼が!」
「怪物か…なんでだろ、嫌な気はしないね。」
「く、クソが!あのお方からお譲りしていただいたものをっ!
見せてやる!!」
カエリオン王は自身のポケットから小さなガラスケースを五つ取り出し、地面に投げつけて割る。
割れたケースの中からは人型スクリムシリ 破 が出てきた。
(!!…空虚と接触していたとは聞いていたけど…。
奴らはスクリムシリを作り出しているということか。
それもこのレベルのスクリムシリを作り出せるとしたら相当な…)
スタシアはカエリオン王を囲む五体の人型スクリムシリ 破 から瞬時に距離を取る。
(こいつら全員相手にするとしてもこの国の民たちも巻き込まれる可能性がある…。
民までは殺すつもりはなかったんだけど。
できる限り力抑えないと)
「お前ら!俺の言うことを聞くのだろう!
あいつを殺せ!」
スタシアは一体に向かって信愛を発動し、両腕を捻り潰す。
それが合図と言わんばかりに四体が一斉に動きだし、
同時にスタシアに攻撃を仕掛ける。
全方向からの攻撃でもスタシアは避けようとはせずに、
右人差し指をクイッと曲げる。
すると地面から鋭く太い物体が伸び二体のスクリムシリの上半身を突き刺す。
だが残りの二体はそれを壊して、一体は天恵の攻撃を、
もう一体は腕を二本に加えて四本生やして殴りかかる。
天恵の攻撃をするスクリムシリの腕を掴み、信愛によって身体を変形させて人型の上半身の原型がない程の肉壁を作り出す。
そして六本の打撃による攻撃をその肉壁で防ぐ。
そして反撃しようとしたらその肉壁から鋭い攻撃がスタシアの腹部を貫通する。
「…」
「おぉ!そのままそいつを殺せ!!」
カエリオン王はスタシアを追い込んだと思っていた。
だが、スタシアの顔に浮かぶ不気味な笑みを見て何かがおかしいと感じた。
しかし既に遅かった。
スタシアの腹部を貫通する攻撃をがっしりと片手で掴むと肉壁に変形させられたスクリムシリがそのまま破裂し肉片が飛び散る。
そして腕が六本生えたスクリムシリの一本の腕を掴んで引っ張り、引き寄せた勢いのまま身体強化した拳で頭を殴り潰す。
「あははっ!」
楽しそうに笑いながらもその目は狂気じみており、
二体のスクリムシリを殺して直ぐに上半身に攻撃が貫通していたスクリムシリの方までいく。
そして二体の間に立ち両手をそれぞれの胸に添える。
「バイバイっ!」
次の瞬間には二体のスクリムシリの上半身が跡形もなく弾け飛ぶ。
残り一体は腕の再生を既に終わらせており、スタシアに対して剣に変形させた腕を振りかざしているところだった。
スタシアは腕を振りかざしているスクリムシリにほんの一瞬だけ天恵による圧をかけたことによってスクリムシリは振り上げた体勢のまま動けなくなる。
その隙に懐まで潜り込み、スクリムシリの腹部に両手を押し当てる。
「破恵」
スタシアの声とともにスクリムシリは骨すら残らないほどに跡形もなく消し飛び、その威力はスクリムシリを貫通し部屋の壁にでかい風穴をあける。
幸いにも街と城には高低差があり、ヴェルファドの上空にて威力が分散される。
しかし衝撃波がヴェルファドの街を襲い建物にヒビが入り、地面は地割れを起こす。
「私が誰か教えてあげる。私は 信愛の意思 。」
普段の明るさや笑顔などは一切として無く、その瞳は何にも興味を示さないと感じるほどに冷たかった。
感情の籠っていないまま 信愛の意思 は言葉を続ける。
「あなたはやりすぎたの。
この子の怒りを買った…私はこの子が大好きだから辛い思いをして欲しくない。
だからせめて私が手を下してあげる。」
「や、やめろっ…やめてくれっ…!頼むからっ、、
そ、そうだ!ユーランシーに敵対しなければ良いのだろう!
撤回しよう!ユーランシーに戦争は仕掛けない!
だから命だけはたす…」
その瞬間カエリオン王は頭から地面へと跡形もなく押し潰され、その場には飛び散った血のみが残る。
「やっぱり空虚と契約していたんだ。
体内から空虚が干渉した気配もしていたからね。
私たち 意思 との契約を破ったらそうなるよね」
スタシアはスっと目を閉じてからまたゆっくりと目を開ける。
瞳にはいつものような表面上の優しい光が宿っていた。
「もう、過保護なんだから!でもありがとっ!」
スタシアは自分の胸に手を置いて広い部屋でただ一人感謝を伝える。
「?」
スタシアは部屋の外からこちら側にすごいスピードで向かってくる気配を感じ取った。
警戒するほどの敵でもないと思い、ただボーッとドアを眺めていると勢いよく開く。
「はぁ、はぁ、はぁ、カエリオン王は!」
入ってきたのは騎士団の制服とマントを身につけた長身の男が入ってきた。
「な、なんだ…この、、光景は、」
男は部屋の中に飛び散る血やデカデカと開いた風穴を見て頭の整理がついていない様子だった。
そんな男にスタシアは黙ったまま近づく。
スタシアに対して剣を抜き構える。
隙がなく、きっと血の滲むような鍛錬をしたのだろう。
「敬意を持って殺すね!」
男はスタシアに対して剣を振りかざすが男の膝から下を 信愛 によって捻り潰す。
地面に倒れそうになる男の髪を鷲掴みにして自分の顔の高さまで持ち上げる。
「グアァッ、…く、クソっ!や、殺るなら一思いに殺れっ、王が生きるためなら…」
「カエリオン王なら死んだよ。私が殺した」
「それは…事実か?」
「うん!あそこの円形の血飛沫がカエリオン王!
あなたが忠誠を誓う人はもう居ないの!
だからあなたもお勤めご苦労様でもう死んじゃって問題ないよ!」
「待てっ!話を…聞いてくれっ」
男は痛がりながらも必死にスタシアがトドメを刺そうとするのを止める。
「命乞い?今更じゃないかな?さっき一思いにって言ってたよね」
「き、聞いてくれっ、頼む。」
「…」
普段は敵に対して情など持たないスタシアだがこの必死さは過去の役立たずだった自分が強くなるために必死だった姿と酷く重なり、男を離す。
「愛憎」
スタシアは男の体を治した後、地面で汗だくになり息を切らす男の前にしゃがむ。
「それで、話っていうのは?」
「…俺は、ヴェルファド騎士団 騎士団長のノア・サーキス。
カエリオン王の非支持派閥の者だ。」
「それを信じろって言うの〜?」
「信じられないかもしれない。
だから、カエリオン王非支持派閥の貴族達を集める。
一時間後に会議室に集まるというのは良いか?」
「…十分で集めて」
「…分かった。」
「逃げたとしても私はあなたを見つけられるからね」
「安心してくれ…絶対に逃げない」
(騎士団長が非支持派閥…。
それに加えてさっき 王が生きるためなら とか言ってた気がしたけど…)
疑問は残るがまずは対話をしようと思う。
メアリー女王からの指示では私次第でこの国をどうするかを決めて良いと言っていた。
ならば見極めさせてもらおう。
十分が経ち、私は指定された会議室に入ると長方形のでかい机を囲むようにいかついおじさん達とノアが座っている。
おじさん達はノアの言っていた非支持派閥の貴族連中。
当然だが相当急いできたのだろう…汗をかいているのがチラチラといる。
正直十分は冗談で言ったのだが本当に集まるとは…
既に現段階で支持派閥の貴族共とは意識が違うのがわかる。
ノアから私のことを聞いたのだろう。
ただでさえ厳つい顔が強ばって緊張している様子。
「来たか…いや、来られましたか。
改めて私はヴェルファド騎士団騎士団長兼カエリオン
非支持派閥のノア・サーキスといいます。
そしてこの方々がカエリオン非支持派閥の貴族の皆様です。」
貴族達はスタシアに対して深く頭を下げる。
「ユーランシー騎士団西国総指揮兼管理のスタシア・マーレン!
よろしくね!」
スタシアはいつものように明るく自己紹介をする。
ノアから聞いていた私のイメージと実際の私がだいぶ違ったのだろう。
貴族連中は驚いた顔をしながらも少し肩の力が抜ける。
「…スタシア様がヴェルファドに来られたのは凡その想像はつきます。
カエリオン王はユーランシーに対して宣戦布告をしようとしていました。
そのことでよろしい…ですか?」
「うん!そだよ〜!
メアリー女王の指示で私はこの国に来た。
その指示の内容は私たちの要求を告げてその答えを聞くことだよ!
その要求というのは 敵対を解消すること と メアリー女王にこれ以上過度な接触はしないこと。
そしてその要求を拒否された場合の指示も出されてるんだ!」
「そ、それは…どういった、」
「ヴェルファドを滅ぼす」
「っ!、…今、滅ぼされていないのは許された…ということですか?」
「んーん!全然そんなことないよ!
メアリー女王は ヴェルファドにカエリオン王の非支持派閥と支持派閥がいることを見抜いていた。
だから支持派閥を皆殺しした後に非支持派閥を私に見極めるように頼んだの。
だから…君たちが死ぬか生きるかは私次第ってこと!」
また部屋の中に緊張が走る。
スタシアは明るさとは裏腹にとてつもなく理解がしがたいことを言っていた。
だがそれを実現させることができると感じさせるほどの力があるとその場にいる者達に分からせるほどの純粋と残酷さを持った目。
「どう…すれば我々を…救っていただけるのですか?」
「国を丸々請け負ったことなんて私には経験ないし、
的確なことは言えないけど三つ、私から要求がある。」
「なんでしょうか、」
「一…奴隷制廃止、二…ユーランシーの形上の属国になる、
三…メアリー女王に敬意を払う。
この三つは絶対ね!」
「この三つ…だけですか?」
「うん!多くは望まないよ!私は!」
読んでいただきありがとうございます!




