68話 「価値が無い」
「おら、来い!」
私の手首と首に繋がった鎖を目付きの鋭い男が引っ張り、私を檻から引っ張り出す。
(やっぱり最初の方だったか。
既に二人が連れていかれていたけど戻ってきてないってことは買った奴の家に既に送られているのかな…
それなら少しめんどくさいけど…)
私はそのまま男に連れられて舞台の方へと引っ張られていく。
大人しく歩いてついていってるが必要以上に鎖を引っ張られて首元が少し切れる。
(我慢我慢。)
ゴットンに我慢しろと言われていなかったら殺していたかもしれない。
私自身、この短気さを治したいと思っているがすぐにイライラしてしまう。
親しい人に対しては全くイライラしないのに接点のない人などには短気になってしまうのは正直よろしくはない。
カエリオン王と話す時はちゃんと我慢しなければいけない。
会場の方から司会の声が聞こえてくる。
「さてさて!次は先程緊急で仕入れられた人間の女の子!」
私はそのまま舞台へと引っ張り出される。
そして顔を上げると会場内の全員が私をポカーンとした目で見つめてくる。
(なんだ…??)
「皆さん見てお分かりいただける通り!!
こちらの商品は純白の髪!
美しい顔を持った最高の商品!!」
「これは凄いわね!願ってもない収穫よ!」
「絶対俺が手に入れてみせるぜ」
「今日の持ち金全部出してでも俺が手に入れてやる」
貴族たちが大興奮している。
エルフや獣人を扱っているのだから私のような商品は大して珍しくないだろうに。
「それではこちらの商品は一万イナからスタート!!」
「二万イナ!!」
「三万五千!」
「五万!!」
「十万ッッ!!」
会場内に十万という声が響く。
会場内は静まり返り、その値段に対抗するものはいない。
(十万イナ…ユーランシーなら五年は働かなくても贅沢に過ごせるくらい…そんなお金どこから、、)
「十万以上はおりませんか?…それでは落札っっ!!
十万イナで落札したのはコンベックス伯爵!!」
コンベックス伯爵という男…太っており、服がキツそうなくらい。
頭は禿げており汗が止まる様子はなくギトギト。
見ているだけでも不快になる人物。
もっと不快なのはコンベックスという男は私の全身を気持ち悪い視線で舐めますように見ていること。
「コンベックス様、そのような大金…彼女で何をするおつもりですか?」
「ぐふっふっふ、最近俺の持ってる奴隷じゃ満足出来無くなってきたからな。
新しい夜のおもちゃ欲しかったところなんだ」
(キモ…)
身体強化によって奴とその従者の小声の会話を盗み聞いたが普通に気色悪かった。
(それはそうと…私の値段は知れたし会場内にゴットンの姿は見えないし…そろそろかな)
恐らくゴットンは既に動き出しているだろう。
先程から牢屋の方から音がする。
ゴットンの声も。
まだ全員が開放された訳では無いだろうからもう少し粘りたかったが仕方無い。
私は両手首を固定している鉄の手錠を、腕を広げて引き千切り、首に付いた鉄の首輪も引っ張って千切り取る。
「なっ!!おいあやつ!!何しているんだ!!拘束を解いているでは無いか!!
俺の奴隷だぞ!早く拘束しろ!!」
護衛のために呼ばれたであろう制服を着ていない騎士団兵や冒険者達が私を取り抑えようとしてくる。
既に私は心に決めていた。
処罰を受けさせようと名前と顔を特定しようとしたがその必要など無く…ここにいる者全員皆殺しにすると。
スタシアが右腕をスっと振り上げるとスタシアを取り抑えようとしていた騎士団兵と冒険者の顔が弾け飛び、血が吹き出す。
その光景に会場内は悲鳴が上がり、出口の方へと逃げようとする。
しかし、スタシアは出口を信愛の力によって壁を変形させて塞ぎ逃げ場を無くす。
(ゴットン達の方はおそらく問題はなさそうかな。)
既に奴隷達は地上でワロックの方に引き渡されているだろう。
連絡網は既に絶ってある。
私は舞台を降りて悲鳴をあげ逃げようとする貴族共に近づく。
(ごめんね、お願いしてもいいかな)
“貴女の望みならいくらでも”
「ワロック!あとどのくらいで着く?」
「数分もしないうちに着くだろう。
奴隷の数は?」
「三十五くらいはいる、馬車三台持ってきておいて正解だったぜ」
「スタシア様は?」
「制裁中だ…無事だといいが。
送り届けたら俺は一度姉貴を連れに戻る。
こいつらを頼んだぞ」
ゴットンは怯える奴隷達を見ながらワロックにそう言う。
檻に入っている奴隷は全員救出したがスタシアより前にオークションに懸けられていた二人の奴隷のいばしょがわからなかった。
「着いたぞ!早く降ろせ!誰かに見られたら厄介だ」
ゴットンとワロックとその仲間達が奴隷達を誘導しながら馬車から降ろし、北地域の二階建物の中へと入れていく。
ここの北の地域は一番人目につきずらく、ワロックが知っている中でなら一番安全な場所だった。
「良いか…俺はお前たちを助けたい。だから静かにしておいてくれ。
必ず元いたところに返してやるから」
ゴットンは奴隷達にそう言って馬車に乗り、会場へとまた走り出す。
ゴットンはやけに静かな地下の道を通り会場内に入ると言葉を失った。
壁にも床にも天井にすら血が飛び散り、人の原型を保っていない死体ばかりが転がっていた。
その血の多さに歩く度にピチャピチャと音が鳴る。
会場内の中心にはスタシアが立っており、返り血によって美しい純白の髪に赤色が付いていた。
服などにも血が付着していたがそれを気にする素振りもないまま俯いた顔を上げてゴットンの方を向く。
目が合ったゴットンはまるで人間の目とは思えないほど冷たい目を見て体が止まる。
そしてスタシアはゴットンの方へと歩み始める。
「無事に運べた?」
「…え、あ、ああ。問題無く運べた。
だが、姉貴の前にオークションに懸けられた奴隷達の居場所が分からねぇからひとまず牢屋にいたやつらだけを運んだ。
すまねぇ」
「んーん、ご苦労様。残り二人の奴隷の居場所の検討はついてるから安心して」
「そ、そうか…奴隷達を元いた場所に返すのはいいがどうやってやるんだ?」
「考えはあったけど、それも必要ない。
この国は根本から腐りきってるから…私が新しい国に変えてあげる」
スタシアは静かに出口の方へと歩き始める。
ゴットンが振り返るといつの間にかスタシアの服は、
初めて出会った時の服に変わっており、髪や体に付着していた血も綺麗さっぱり無くなっていた。
「お、おい、姉貴…新しい国にってどういう…。
まさか、、」
「そのまさかだよ。国の中心部には明日近寄らないでね。」
(ごめんなさいメアリー女王。
一応我々の条件を伝えはしますがどんな答えが返ってきても私の取る行動はも変わりません。
カエリオン王含む…カエリオン王を支持する貴族と騎士団兵全員を殺します)
スタシアの手には紙束があった。
殺した貴族の一人が所有していたやつだった。
その紙にはカエリオン王を支持する騎士団兵と貴族の名前全てが載っており、既に全てを暗記していた。
その紙束の一番最後の紙にはユーランシー ✖︎ と書かれていた。
翌日の早朝にスタシアは既に中央城の前にいた。
見張りをする騎士団兵に止められたため、メアリー女王からの命でカエリオン王に伝言を伝えに来たと言う。
すると騎士団兵一人が確認を取りに城の中へと入っていく。
数分した後に戻ってきて 入れ 一言言われて城の中へと入っていく。
騎士団兵に案内されたまま私は階段を上り、三階のある一室の前で止まる。
騎士団兵が両開きドアの右側をノックした後に
「カエリオン王、お連れいたしました。」
と礼儀正しく言う。
部屋の中から聞くだけでも不愉快な声で 入れ と返ってくる。
騎士団兵はドアを開けて私に中に入るように言う。
中に入ると正面にはカエリオン王がソファで足を組みふんずりかえりながら座っている。
部屋の壁際には騎士団兵がびっしりと並んでおり、それなりに警戒されているようだった。
「ほーう、貴様見た事があるな。国王会議の際にメアリー女王の護衛をしていた奴だな」
「はい」
「あの時は随分なお礼をしてくれたなぁ。」
「その件につきましては謝罪致します。
申し訳ございませんでした。」
「まぁ、座れ」
カエリオン王は私に自分の机を挟んだ正面のソファに座るように促す。
それに従いながら私はカエリオン王の正面に座る。
「で?何の用だ?わざわざ使者を送ってくるということはそれなりの要件なのだろうな?」
「そうですね。
メアリー女王からの伝言…要求と言うべきでしょうか」
「要求だと?」
「はい。メアリー女王がヴェルファドに望むのは二つ。
一つは敵対関係する意向を撤回し戦争を抑止すること。
もう一つはアシュリエル・メアリーに必要以上に干渉しないこと です。
それを呑むにあたってのメリットとしてユーランシーとヴェルファドの50年の貿易関税の減税と不可侵条約の締結をします。との事です。」
私はひとまずメアリー女王からの要求をカエリオン王に伝える。
このメリットはヴェルファドからしたら願っても無いような事だろう。
これを断るとなるならば相当頭が弱くないとおかしい。
「メアリー女王は全てをお見通すお方です。
ヴェルファド…カエリオン王がユーランシーに対して敵対しようとしていることを既に見透かしております。
そしてそれはユーランシーのみだけでなくオロビアヌスのバルタ王の耳にも入っております。
メアリー女王は 無駄な争いはしたくない。
今後とも良い関係を築いていきたい。
と仰っています。」
さて、どう出るか。
カエリオン王のような傲慢な人がこのような好条件を突きつけられて飲まないのは考えずらい。
カエリオン王は喋らず黙ったままだ。
考えているのだろうか…もし悩んでいるならばその時点でもう頭が相当悪いのだが。
「クックック…ハッハッハッハッハ!!
面白いではないかメアリー女王!
よく我々がユーランシーに対して敵対していると見破ったものだな!
確かにメリットは中々に良い条件だな」
「でしたら…」
「勘違いするな。
たかがユーランシーごときが俺に対してそんな要求出来るほど偉いと思っているのか?」
「…」
「メアリー女王は顔が良く胸もデカイ…その上頭も良い。
俺にピッタリな女だ。
だからずっと親愛国にしてやろうと言ってやってるのに肝心なとこで馬鹿な女になるのだ。
せっかく俺が良くしてやってるというのにそれをまるで活かそうとしない、結局はしょうもない女だ!」
壁際の騎士団兵達がクスクスと笑い出す。
スタシアはそれを黙って聞いているだけだった。
「つまり…要求は飲まないということでよろしいのですか?」
「飲むわけないだろう!バカにも甚だしい!
お前たちユーランシーごときが俺に要求するなど千年早いのだ!!」
「そう…ですか。それは良かったです」
スタシアは笑みを浮かべていた。
「何を笑っている?この状況がどういう状況か分からないのか?
王が馬鹿なら民も馬鹿なんだな!
敵対している国にたった一人で…それも既に逃げ場のない空間でこの数。
わざわざ人質を送り付けてくれたメアリー女王には感謝せねばな!
ハッハッハッハッハ!!」
騎士団兵達がドアの前へと立ち塞がり剣を抜く。
「良かった…嬉しい!
カエリオン王…期待通りのクズでいてくれて感謝いたします!」
スタシアはいつものような明るい笑顔でそう言い放つ。
その次の瞬間に部屋の中にいる騎士団兵の全員の頭が潰れる。
首から血を吹き出し、天井まで汚す。
「な、なんだ!!う、うわぁぁああ!!な、何をした!!
き、貴様!!こんなことして許されると!!」
「思っておりますよ。あなたはゆっくりと…ジワジワと…御相手してもらいますよ!」
スタシアはカエリオン王の髪を掴みドアの方へと投げ飛ばす。
投げ飛ばされた勢いでドアを破壊して廊下の壁に激突する。
壁にヒビが入るほどの威力で背中をぶつけたため痛がり立ち上がらないカエリオン王にスタシアは笑顔で近づく。
「どうしたのですか?カエリオン王。
もっと楽しみましょう」
「ひっ、」
カエリオン王は焦りながらも立ち上がり、廊下を走り出し
スタシアから逃げる。
スタシアの前には騎士団兵が立ち塞がるが一瞬で頭が潰される。
カエリオン王は広い部屋へと逃げ込むが、すぐにスタシアが追いついてくる。
腰が抜け、尻を引きずりながら後退りしていくカエリオン王だが壁にぶつかりこれ以上下がれ無くなる。
そんなカエリオン王の前に笑顔でしゃがむスタシア。
「カエリオン王はこんなお話知っていますか?
欲がある者は一度に何個もの欲しいものを望み最終的に何も手に入らない。
欲がない者は何も望まず他者の平穏を祈る…そしたら自分の本当に欲しい物がいつの間にか巡り巡って手に入る。
ですがこの話は変なんですよね!欲がない者には欲しい物なんて無いはずなのに。」
「な、何が…言いたいんだ!」
「結局は欲がある人でもない人でも欲しい物が手に入るか入らないかは環境と自分次第なんですよね!
だってメアリー女王は欲しているものが沢山ありますもん。
あなたと同じようにね。
だったら美しいメアリー女王とゴミのあなたの違いは何なんでしょうかね。」
スタシアはニッコリと笑い、言い放つ。
「信念があるかないかですね!」
スタシアが指を パチン と鳴らす。
その瞬間、国内にいるカエリオン支持派の貴族連中の頭が弾け飛ぶという現象が起こった。
国内には混乱が起こる。
「な、何をした…?な、何もなってない…?」
「あははっ!そう焦らないでください!カエリオン王。
次は…今こちらに向かってるあなたを慕う騎士団兵達の番なんですから!」
読んで頂きありがとうございます!




