67話 「嫌な汗」
ボロボロの黄ばんだ服…靴は脱ぎ、ズボンも脱ぎ、膝上くらいの高さの茶色いシンプルな布で出来た服。
オークション当日…私はゴットンと共に馬車に揺られながら会場へと向かっていた。
ここまででは無いがこんな感じの服を着たのは村に住んでいた時以来だ。
当時は下着すら着れなかったが今回はさすがに着ている。
「奴隷にしては少し綺麗すぎるな…」
ゴットンが突然そんなことを言い始める。
「そうかな?結構汚い服だと思うけど…」
「いや、服の方は完璧だ。
綺麗すぎるのは姉貴の方だな。
奴隷は飯もまともに食えねぇからガリガリに痩せほせているし風呂にもまともに入れねぇから身体中が汚れてるんだ。
姉貴は足から何まで綺麗だからよ…」
スタシアは自分の手で身体を隠しながらゴットンを見る。
「えっち」
「ちげぇーよ!バレるかもしれねぇから危惧してんだよ。
こういう取引してる場だぜぇ?当然、警戒心が高い」
確かにゴットンの言っていることは確かだ。
ちょっとしたミスで無駄な犠牲を出してしまうこともある。
それはユーランシーで何回も経験したことだ。
「確かにそうだね…身体少し汚せば問題ないかな?」
「ん?ああ、まぁな。何すんだ?泥でも被るのか?」
「違うよ、わざわざそんなことはしないよ。
ちょっと後ろ向いてて…こっち向いたら首折るからね」
「怖ぇな」
ゴットンが後ろを向くと私は信愛の能力を使って身体に汚れやかすり傷を作り出す。
(こういう時信愛って便利だよねぇ〜)
「いいよ」
ゴットンが向き直すと少し驚いた表情を浮かべた。
先程までは服だけ汚いただの美少女だったが今や立派な奴隷としての身なりになっていたからだ。
「すげぇな、一瞬で…どうやったんだ?」
「なーいしょ!女の子には秘密が多いの!」
イタズラに笑うスタシアにゴットンは少し呆れながら笑うと頭を撫でる。
「ちょ、ちょっと、何するの!」
「なんだかよぉ、姉貴見てると娘を思い出すんだ…。」
「娘?いるの?」
「もう、いねぇけどな…」
「そ、そっか…」
二人の間に沈黙が流れる。
スタシアはワロックとゴットンの会話を聞いた時から何となく感じてはいたし、前から分かっていた事だが
人は大切なものを守るため、または今日を生きるために必死なんだと再確認した。
手を汚そうとも…汚い金を稼ごうとも…それは全て生きるため。
楽にお金が稼げたら好き好んでこんな仕事を自分からやる人なんてほぼ居ないだろう と。
「そ、それはそうと!女の子の髪の毛クシャクシャにするのはだーめ!」
「これから奴隷として振る舞うのに髪の毛気にしてどーすんだよって」
「これを機に私の価値を可視化してみようかなってね!」
「はぁ、まぁ、確かに姉貴ならそれなりに高い取引されるだろうがなぁ。」
そして馬車が止まる。窓の外をカーテンをめくってチラッと見ると馬車が何台か止まっている。
そしてそこからは綺麗な格好をした人や冒険者の格好をした人達が出てきて小さな建物へと入っていく。
「着いたな…姉貴、悪いがここからは商品として振る舞う。
これを付けてくれ」
ゴットンは鉄の手錠と鉄の太い首輪を取り出し私に取り付ける。
そのどちらともが鎖で繋がれており、それをゴットンが持つ。
「鍵は姉貴に渡しておく…外し方はわかるか?」
「鍵要らないよ。大丈夫、鍵なくても外せるから」
「流石にそれは出来ねぇだろ…一応持っておけ。
ここからは俺と姉貴の会話は極力無しだ。
できる限り下を向いて、生きる気力のない感じにするんだ。
いいな?」
「うん、分かった」
(生きる気力ない感じ…難しいな、半分だけ頼んじゃおっかな)
「出る…ぞ、、」
ゴットンはスタシアを連れて馬車から出ようとした時にスタシアを見てその変わりように驚愕して声が出なかった。
目に生きる気力は無く、全身から 死 を望んでいるのが分かる。
数々の奴隷を見てきたゴットンですらここまで生きる希望を感じられないのは初めてだった。
(これじゃあまるで、感情の無い生物じゃねぇか…)
スタシアとゴットンは馬車から降りると駆け足で建物の中に入っていく。
倉庫は薄暗く、小さな灯りを目印に進んでいく。
そして、倉庫の奥へと着き一人の見張りのごつい男がゴットンに話しかける。
「よぉ、ゴットンさん。こりゃまた土壇場で新しい奴隷仕入れてきたなぁ、おいおい」
「まぁな、俺ぁ年中奴隷のことしか考えてねぇからな!」
「ハッハッハ!相変わらずおもしれぇ!
と、言うかよぉ」
男はスタシアを舐めまわすように見る。
その気持ち悪さにスタシアはビクッとしてしまった。
「こりゃまたとんでもねぇ上玉だぜぇ!
顔も良い…まだ幼女か?成長はまだまだだな。
汚ぇ癖に肌の質とかは悪くねぇ!」
男はスタシアに触ろうとする…が、ゴットンがそれを制止する。
「おいおい、俺の大事な商品だぜぇ?触んなよ」
「チッ、なんだよケチくせぇな。ま、いい、早く行きな」
男はゴットンとスタシアをなんも問題ないと見てドアを開けて通す。
ドアの先には階段があり、その先は真っ暗だった。
ゴットンは灯りを灯しながら階段を降りていく。
その際にスタシアにしか聞こえない小さな声で言う。
「いきなり問題起こそうとすんなよ…」
「よく気付いたね…」
「あいつが姉貴に触れた瞬間殺そうとしてただろ。
それくらい我慢してくれよ」
「触られるくらいなら別にいいよ。
ムカついたのはその前、あの男…私にまだ成長はまだまだとか言った。
もう成長終わってるのに…」
「もっとくだらねぇよ…いいか?バレたらおしまいなんだ。
耐えてくれよ」
「善処するよ」
階段を降りた先には細い暗い道が伸びておりその先には光が見えた。
そして歩き続けてたどり着いたのはあの小さな倉庫の地下とは思えないほど広い空間だった。
四人が囲めんで食事できるくらいの大きさの丸机がいくつも並んでおり、その丸机の上には豪華な料理とワインも並んでいた。
そして、その空間で最も目が行くのは舞台だった。
丸机などが並べられている所から1メートルくらい高く作られており会場全体が見渡せそうなくらいだった。
(恐らく…あそこに奴隷を連れてきて値段とかを競るのかな。
無駄に豪華なのは貴族絡んでるってだけはある。
既に席には何人か座っている。)
スタシアがゴットンに引っ張られながらも軽く周りを見渡すと二階席もあり、そこはオークションの鑑賞席らしき所だった。
現に、冒険者や騎士団らしき人達が座っている。
会場には武装した兵が何人もいる。
(流石に警戒態勢は高いね…)
ゴットンとスタシアは舞台の際のドアを開けてさらに奥へと進んでいくとそこには大量の牢屋があった。
その牢屋の中には血を流している子供や大人が沢山いた。
それに加えて…
(あれが…獣人)
普通の人間よりも毛の量が多く頭からは獣の耳のようなものが生えている。
(あっちは…耳がとんがっていて白い肌。エルフ…)
スタシアは見たことがない生物に本当に現実かと疑ってしまうほどだった。
ゴットンは誰かと話をし終えてスタシアをそのまま牢屋へと投げ入れる。
去り際にスタシアへと目で合図を出す。
耐えろ と。
スタシアの牢屋の中には既に人間の子供やエルフ、獣人の子供が怯えながら膝を抱えていた。
(恐怖…支配…権力…全てを振りかざしてなお満足出来ないなんて。
この国の人は傲慢…。)
「うっ、うぅうわぁぁぁああん!!怖いよぉぉ!!
お母さぁぁあん!」
恐怖に耐えきれなくなった一人の男の子が泣き出す。
スタシアはその子に近づく。
「見て…」
優しい声で男の子に話しかけると両手を包み込むように合わせる。
そして、その両手の中が光り始める。
スタシアがそっと両手を開くと小さな明かりがキラキラと宙に舞ったあとに消えていく。
「き、綺麗…」
男の子はその綺麗さに泣き止んでいた。
そんな男の子の頭を優しくスタシアは撫でながら言う。
「大丈夫!お姉ちゃんが必ず君も…皆も助け出してあげるから!
ね!」
ニコッと笑うスタシアに男の子は先程までの弱気とは
違い うんっ とハッキリとした返事をする。
「良い子だね!さてと…そろそろ始まる頃かな。」
(会場の方に人の気配が沢山する。恐らくもう始まる。
私は事前に契約を結んでいない奴隷であり、緊急参加のようなもの。
だから、恐らく私は最初の方にオークションに懸けられる。
いち早く…この子達を解放してあげたいっ。
覚悟しろ…腐りきった性根叩き治してやる。)
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「んっ!ん〜!!ふぅ〜…」
「お疲れ様です、メアリー女王。紅茶です」
「ありがとうございます、ミリィノさん。」
「メアリー女王…このようなことを言うのは余計なお世話かもしれませんが、休まれる時はしっかりと休まれた方がよろしいかと思います…。
つい先程、アビス師匠に言われてメアリー女王の様子をお伺いに来ましたが…相当お疲れの様子ですし。」
「ありがとうございます。ですがご心配には及びませんよ。
皆さんは身体を張ってこの国を守ってくれているのに安全なところで安心して過ごすことなんて出来ません。
少しでもお役に立ちたいんです。
限界が来たらその時に少し休みます!
出来る時にするのが私の性分なんで!」
優しく笑う目の前の女性…いつもこう言って聞いてくれない。
民は貴女様のためにこの国を守っていこうと思えている。
貴方様が疲れる姿なんて誰も見たくないのに…。
「それにしても今朝は良い天気ですね、
少しだけ気晴らしにお散歩でもしてみようと思うのですが御一緒しますか?」
「…せっかくですので御一緒させていただきます」
「ディシさんとアレルさんは本日は任務で朝早くからユーランシーを離れてしまいました。
と言ってもすごい遠いって訳では無いですけど。」
長期任務の際は守恵者一人以下、聖者は五人以下のみの派遣とされている。
だが普通の任務ならば守恵者が一人でもユーランシーに残っていれば良い。
そして現在はスタシアが長期任務、ディシとアレルが任務に行っておりユーランシーには守恵者は私一人。
アビス師匠もいるため和らいではいるが何となく緊張感がある。
スタシアがヴェルファドへ向かって既に五日…。
大体ヴェルファドには馬車で十時間走ったとして四日ほどで着く。
スタシアはヴェルファドで朝を迎えている頃だろう。
「お二人共、今日はお帰りが遅くなりそうと仰っていましたね。」
「そうですね、少し大変な任務ですので…。
ミリィノさんにはユーランシーを一日守っていただくような形になってしまって申し訳ないです」
「お気になさらないでください!私はやるべき事をやっているだけですし、メアリー女王のお力になれるなら本望です!」
「ふふっ、ありがとうございます!」
私とメアリー女王は快晴の中でホールディングスの北国側周辺を談笑しながら歩く。
「いつ見ても…綺麗な川ですね。心が癒されます」
「スタシアさんがよく綺麗にしておられますからね。
スタシアさんは本当に心が綺麗です」
「ミリィノさんもお綺麗ですよ?」
「…いえ、私は汚れていますよ。
どうしようもないくらいに、」
「ミリィノさんが汚れているなら私も汚れていますね!」
「メアリー女王の心が汚れているなんて絶対有り得ません!」
「ミリィノさんが自分の心が汚れていると言った時の私はそう思いましたよ。
自分と他者からでは感じ方や見え方は違います。
面白いですよね!全員が主観的になったり客観的になったらまた別の運命が生まれる。
ただ、一つ分かったのはそのどちらになっても私とミリィノさんはお揃いって事です!ふふっ!」
風に靡く綺麗な金髪…美しい。
やっぱり貴女は心のお綺麗な御方ですよ…。
「肌寒いですね、そろそろ戻りましょうか」
「そうですね。こちらをおかけください」
私は自分の着ている騎士団服をメアリー女王の肩にかける。
「ミリィノさんが…」
「大丈夫です!お気になさら…」
「ミリィノさん…?」
「嘘だ…嘘だ…そんな…有り得ない…こんな…今の…」
ミリィノは一瞬だが感じた。
有り得ないほど莫大な天恵の力を。
それだけならばスタシアやディシ、アレルから感じることはある。
問題は…その莫大な天恵を一瞬で見失ったこと。
それに加えてその三人とも今はユーランシーに不在。
だとしたらその天恵の正体は…。
「あらあらあらぁ!運がいいわぁ!わざわざホールディングス?だったかしら?そこに潜入する手間が省けたのもの」
私は直ぐに 剣韻の意思 による剣を生成し声の主の方に向ける。
汗が止まらない…普通の汗じゃない…嫌な汗。
(落ち着け落ち着けっ!まずはメアリー女王の安全確保を)
「さすがは守恵者ね。すぐに正体に気がつくなんて」
「み、ミリィノさん…?あの方は?」
「メアリー女王…説明している暇はありません!
すぐにホールディングスに戻り、アビス師匠を呼んでください!
その後、民達を最南端地に避難させてください。
私は他の方を気にかけるほどの余裕が無くなります!」
「ふふっ、アシュリエル・メアリー女王。
あなたさえ殺せればそれで良いのよ!
天帝慈刑人 縛毒の意思 ギャラリス・メア
良い日にしましょう!」
読んで頂きありがとうございます!




