65話 「奴隷」
ヴェルファド国…正式名称は チューンバッハ・ヴェルファド王国。
マリオロ同様大陸の中心部に位置しており、北側大陸と南側大陸の境目に位置している国。
南側では北側ではほぼ見られないような生物が存在しており、火を吹く硬い皮膚を持った空飛ぶ怪物や肉や皮膚が無い骨だけで動く人間などが存在している。
そいつらが北側へやってこない理由はただ一つ。
スクリムシリが北側を支配しているからだ。
少し前まではユーランシーのみがスクリムシリの被害を受けており、ユーランシー以外の国の周辺でも南側にいるような生物は少数だが存在していた。
だが、ここ最近でスクリムシリはまるで誰かの指示を受けているかのように他国への襲撃もするようになった。
その被害は既にユーランシーの今までスクリムシリに殺された人数と同等以上。
南側大陸から来た冒険者が北側大陸に生息するスクリムシリという化け物の噂を聞きつけ、北側大陸まで訪れ殺される。
そしてまたスクリムシリの噂が広がり冒険者が北側へ来て殺される。
それの繰り返しだった。
そのためマリオロやヴェルファドは大陸の境目ということもあり、北側へ行く際の規制を厳しくするように北側大陸の国王会議で決議された。
それに沿ってマリオロは規制を厳しくしスクリムシリによる冒険者の被害は少しずつ減っていったが、ヴェルファドは規制を厳しくするというのは表面上だけで同意し冒険者を北側へと通していた。
それをユーランシーはもちろんのことオロビアヌスやザブレーサが危惧しておりヴェルファドに対して警戒を高めていた。
そして今回のヴェルファドのユーランシーに対する実質的な宣戦布告。
カエリオン王のメアリー女王に対する異様なまでの執着。
当然、メアリー女王の指示に基づいてヴェルファドでは行動するが私個人としてもヴェルファドの内情を明かそうと思っていた。
(ごめんね、ディシくん達…すぐには帰れないと思う。
でも、なるべくすぐに終わらせるからね。)
目的は二つ…ヴェルファド内で噂になっている奴隷の売買について。
もう一つは、メアリー女王の指示に基づいた行動をすること。
出来れば一週間以内…少なくとも二週間以内には終わらせる覚悟を持っていく。
そして目の前の検問を通過し、ヴェルファド国内へと入っていく。
既にこの時点でヴェルファドが規制を厳しくしていないと確信した。
検問をしたヴェルファド騎士団員の態度は雑草をむしるかのようにダルっけを見せており、ユーランシーでそのような態度を取ったらアレルが半殺しにしているだろう。
私はフードの付いたスカーフを被り顔を隠す。
カエリオン王とは国王会議の際に出会ったことがあるため顔が割れている可能性があるためヴェルファドの内部の内情を知るまでは怪しまれないように極力顔を隠すようにする。
私は馬車を降りて操縦してくれた方にお礼を言った後にヴェルファドの街並みを改めて良く観察し始める。
(娯楽国家と呼ばれているだけあって人々の幸福度は高そう…でも貧相な服の者も目立つ。
ここは北側の地域だったはず。
だからか、あまり冒険者っぽい格好をした人達は見えない。
ひとまず全部の方角の地域を調べてみようかな…)
歩き始めると同時に私は子供にぶつかられる。
その子供は指や腕が細くボロボロに黄ばんだ服を身につけていた。
小さく すみません と言いながら早足で去っていこうとするその子供の手を私は掴む。
「返して。」
「な、何がですか、、」
「私のお金」
「し、知りませんけど、」
「そう…」
私は手を離すと子供はまた去ろうとする。
だが、私は走り始めようとするその子に対して
少しだけ…ほんの一瞬だけ殺気を向けた。
その瞬間、その子は体を動かすことなく硬直し汗をダラダラと流し始める。
私はそんなのをお構い無しに近づいてその子の顎を指で持ち上げて私に目を合わせる。
男の子の目には恐怖と焦りが入り交じっており涙も浮かんでいた。
「ご…ごめ…な、、っ、さ…」
「どうして謝るのにやろうとしたの?思ってないよね」
普通なら別にここまでは怒らない。
なんなら注意して、少しお金を恵んで帰してあげただろう。
だけどこの子の持っている私のお財布の中にはディシが ヴェルファドで何か自分に買うといい と言って私にくれたお金が入っていた。
ディシから貰ったものだ…それが例え使い回すお金であろうと他者に盗まれることだけは絶対に許さない。
「ゆる…して、、」
「…もう二度と、こんな事しないって約束できる?」
少年は首を縦にゆっくりと動かす
私は少年のスボンのポケットにある私のお財布を取り出し、自分の懐に戻す。
そして、両手を パン と叩くと少年は解かれたようにその場に膝を着いて汗を大量に流し、口で一生懸命呼吸をする。
「人のものを盗んだらダメだからね。
お腹すいてるなら何か買ってあげるから他の人に迷惑はかけたらダメだよ」
「はぁ…はぁ…ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!
殺さないでください、、」
「殺しなんかしないよ。ほら、お腹すいてるなら何か買ってあげるから屋台かなんかに行こ」
私はそう言いながら歩き始める。
そして少年も私の後を追って歩き始める。
目の前のラットルという少年は遠慮なく料理を口の中へとかき込んでいく。
小さい体からは予想もつかないほどの食事量に少し驚きもした。
だが、一口一口がとても幸せそうで見ているこっちは不快感などはなかった。
そしてすべてを食べ終わったあと、ラットルは ハッ として私の方に申し訳なさそうな目を向ける。
「ごめんなさい…こんなに食べてしまって。」
「いいよ、美味しかった?」
「はい!すごく美味しかったです!」
「良かった。ラットルはこの国のことどれくらい知ってるの?」
「どれくらいと言われましても…」
「そうだよね、質問していくから知っていることだけ答えて。」
「分かりました、」
「この国の冒険者と住民の比率はどれくらいかわかるかな?」
「えっと…大体、、4:6で住民の方が多いと思います」
「そう、この国の貧富はどう?」
「…僕を見てくれれば分かると思いますが貧相な人はとことん貧相です。
逆に裕福な者はとことん裕福です…。
貴族たちは僕達みたいな貧困層に目を向けることなく、毎日お金を使いまくっては遊んでばかりです、」
「よく知っているね」
「実は…日金を稼ぐために裏稼業をしていて、そういった内情をよく見たり聞いたりしていたんです」
パッと見だと10歳前後といったところだろうか。
それにしては随分と大人っぽい話し方だ。
これも裏稼業の影響なのだろうか。
「裏稼業って具体的に?」
「…売買に使われる奴隷の世話や契約等です」
「奴隷?」
私は自分でもわかるくらいに雰囲気が変わった。
当然知りたい内情をいきなり知れるチャンスなのだからこのような反応になるに決まっている。
「す、すみませんっ!」
私の雰囲気が変わったことに気がついたラットルはすぐに頭を下げる。
「一々謝らないでさっさとどういうことか話して」
「はい…。この国では密かに奴隷の売買…オークションが行われています。
当然そのようなことは大陸内で禁止とされていますがこの国はカエリオン王のような放任主義者がいるためそのような取り締まりに緩いんです。
だから、悪徳貴族…またの名をカエリオン王派閥の貴族達が好き放題しているのです。」
「…奴隷は主にどんな者たち?」
「エルフや獣人はご存知ですか?」
「えるふ?じゅうじん?」
「やはり、貴女様は北側大陸からの方でしたか。
南側大陸にはエルフという長寿種や獣人といった獣と人間のハーフのような存在がいます。
そのような種は南側大陸でも希少であり、滅多に見られるようなものではありません。
そのような希少の種を捕らえて奴隷にするなどといった事がこの国では一部の貴族の間で流行っているのです」
(エルフと獣人…人間と獣のハーフなんておとぎ話でしか聞いたことがないし、)
「奴隷は大人のエルフや獣人から子供までいます。
僕はそれらの世話をしたりしていました。」
「契約というのは?」
「オークションというのは建前で実は事前に既に奴隷の売買が済まされた状態で皆を楽しませるためにオークションをしているのです。
その際の事前の売買の契約などを僕が担当したりもしていました。」
「なるほどね。何となく見えてきた。
で、そんな裏稼業にいたならこういうことを私みたいな部外者に話すのは御法度なんじゃないの?」
「…逃げてきたんです。」
「逃げてきた?」
「日金のためとはいえ、限界でした。
親が売り飛ばされて泣く子の姿や商品にならないくらいボロボロにされて死んでしまった人たちを見るのが…辛かったんです。」
(…嘘は見えない。逃げてきたのは本当。
でも何かまだ隠している…。それにさっき少し見えた方のあざのような紋章。)
「じゃあ最後…その肩の紋章は何?」
「っ!!…い、言いたく…ありませんっ」
ラットルは言うことを強く拒絶する。
まるでその紋章に恐怖を持っているかのように酷く脅えていた。
「そう…なら聞かない。
聞きたいことはこれくらい…ありがとうね」
「い、いえ。」
私は立ち上がりお金を支払った後、ラットルを連れたまま国内を周って見る。
街並みは意外にも綺麗で本当に冒険者のための店や建物が多かった。
酒場や夜のお店…安い宿だったりが多い。
少し歩いているとでかい城が見えた。
おそらく中心部にやってきたのだろう。
灰色主体のその城はユーランシーのホールディングスとは違い綺麗さがあまり無かった。
「この城はカエリオン王がいる城?」
「はい、そうだと思います」
(今はまだここには用はないけどもう少ししたらやっと目的のカエリオン王に会える。)
城を見上げながらそんなことを考えているといつの間にか複数のガタイの良い男十数人に囲まれていた。
ラットルは男の一人に捕まっていた。
(他国だからって気が緩んでた…気配を読み取るのを忘れてた。)
「旦那、目的のガキはこいつで間違いないっすね」
「そーか。ならそいつ袋に詰めてさっさと連れて行け。
いいか?数人で連れて行け、くれぐれも逃がすんじゃねぇぞ?」
「分かりました」
「た、助けっ!」
ラットルは男数人に連れて行かれる。
旦那 と呼ばれているこのハゲで髭を生やした男。
この中だと一番背が高くてガタイの良い男。
おそらくアビス師匠と同じくらいの身長だ。
ラットルは袋に詰められて男数人がどこかへ連れ去っていく。
私はその光景を眺めながら考え事をしていると 旦那 と呼ばれている男が私に近づいてくる。
「おい嬢ちゃん、見ねぇ顔だな。他国の奴か?」
「そうだよ」
「ハッ!こりゃ運がいいなぁ!こんなに顔の整った奴は見たことがねぇ!
胸がねぇのは少し残念だかこいつは売れるぜ!」
(…口ぶり的にこいつらは貴族に売るための奴隷を仕入れたり捕まえたりする役目。
エルフや獣人だけでなく人間も奴隷にさせられるんだ。
何となく見えてきた。)
おそらく関係図で言うならば
奴隷を捕らえる者
(国内で言うならばこいつら。国外でエルフや獣人を捕まえるのは別の組織)
↓
貴族連中へと売るオークション主催者に捕まえた奴隷を売りつける。
↓
貴族連中に買われる。
こういった流れだろう。
(思った以上に奴隷制が定着している…。
ここまで大きな組織があるのに国が何も動かないとするならばもしかして…。
いや、さすがにそんなことは無いのかな。
まぁ調査すればわかることだよね、
それはそうとこいつ…今胸無いって言ったか?)
「おい嬢ちゃん…大人しく俺たちに股開いてから売り飛ばされるか…痛い目合わされた後に股開いて、売り飛ばされるか。
選びな」
18人の男が私にナイフを向けながら囲む。
その目は欲に忠実であり、人間の生存本能そのものとも言える。
私は安心して頬が緩んでしまう。
「あ?何笑ってんだお前」
「ふふっ、良かった!私前からやってみたいことあったんだ!」
いつもみたいに私は明るく元気なスタシア・マーレンで話す。
10分もしないうちに道には血しぶきが飛び散り、ガタイの良い男十六人が気絶する。
私は一人の男の胸ぐらを掴みながら血だらけになった拳で顔面を殴りつける。
服に返り血などが飛び散るがどうせ後で私の能力で綺麗にできるから今は気にせず楽しむ。
そして、旦那 と呼ばれる男一人が残った。
下顎をガクガクと震わせながら尻もちを着いて両手で後退りをする。
私に対して先程向けられていた欲とは別の生存本能が働いているようだった。
私のやりたかったこと…人間相手に身体強化だけでやり合ってみたかった。
一対一だと私が圧倒的になるのはわかっていたから多対一で。
結果的に私が圧倒的だった。
ビビりながら私から離れようとする男の股間のすぐ真上ギリギリにしゃがんで私はその男の額に指を付ける。
「ヒッ、ヒィィ!!」
「ふふっ、さっきまでの威勢はどうしたの〜?」
「た、助けっ、許してっ」
「うーん。でも、私の知り合い連れ去っちゃったしなぁ。
あの子いないとこの国のこと分からないしなぁ」
「お、教えるっ!あのガキの居場所も!この国のことも教えるから!あんたに協力するから!命だけは助けてくれっ!」
「おっ!ありがとう。私はスタシア・マーレン」
「ゴットン・バジャンガだ!役に立ってみせるから!頼む!」
「いいよ。でも、もし裏切ったら…」
スタシアはゴットンを鋭く睨みつける。
「分かるよね?」
「わ、分かった!分かったから、!」
「良かった。分かってくれたなら良いの。
それと、あんまり欲望に忠実すぎたらダメだよ?
私みたいな女の子いるんだから下半身に従ったら痛い目見るからね!」
スタシアはユーランシーで見せる明るさとはまた別の明るさでゴットンから離れる。
「それじゃ、あなたにお願いしたいことを言うね!」
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